先日、久しぶりに森の散歩に出かけたら鹿の親子に遭遇しました。

鹿を見たその日の午後、本の整理していたら「鹿のくる庭」という文庫本が目にとまったので再読することにしました。

京都の山奥に住む画家が描いた鹿の絵をたまたまギャラリーで見かけ、衝動買いしてしまう人妻の心の襞を描いている短編です。
賭博で負債を抱えた夫が鹿の絵を売ってしまうことを恐れたこの女性は画家の元に絵を返しに行きます。
鹿や狐などの小動物がよく訪れるこの画家の庭が短編の題になっているのです。
思わず微笑んだのはこの画家がペットの犬を連れて付近の林を散歩していた時、鹿に遭遇したのですが、
犬が吠えたため鹿がすぐ逃げてしまったという箇所です。
私たちが森で鹿の親子を見かけたとき、奥にはシェパード犬がいたのですが、何故か全然吠えずにおとなしくしていたのです。
鹿の親子は左を向けば私たち夫婦がいるし、右を向けばシェパード犬がいるので、道を渡るべきかどうか暫く考えていた様子でしたが、
結局ゆっくり元来た道を戻っていきました。
芝木さんは芸術に造詣が深く、舞、画ややきものを題材にした著作が多くなっています。

「青磁砧」も好きな本ですし、「日本の伝統美を訪ねて」はいつも一時帰国する前に手にとって眺めています。
今年は能登半島にまた行きたいと考えているので「伝統美」の中の「輪島塗」をもう一度読んでみました。
この本の中でも特に「志野焼の里」の項が好きなのは、芝木さんが惹かれるという青磁や赤絵や志野が私も好きだからです。
青磁を「冷たく澄んだ珠のようなきらめきのあるやきもの」、
そして志野を「白くふんわりとやわらかで、ほのかに薄紅色のにじみ出てくるやさしい感じ」
などとても味わい深い筆致で綴られています。