風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

電車ごっこ

2010年05月20日 | 「特選詩集」
Densya


ちいさな電車だった
いくつも風景をやり過ごした


乗客はいつも決まっている
新聞のにおいがする父と
たまねぎのにおいがする母
シャンプーくさい妹と
無臭のぼく


電車ごっこの紐は
祖母の着物の腰紐だった
停車する駅も決まっている
五丁目と市民病院前


ある夜
祖母をとおい駅まで運んだ
妹はお風呂のような匂いの中でねむり
父と母は長い話をしていた
ぼくはずっと耳を澄ましていたが
だんだん話が遠くなって
知らないところへ運ばれていった


あれから
ぼく達のちいさな電車は
走っていない


(2007)


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