風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ときには空を飛んでみたい

2014年11月27日 | 「詩集2014」



ふたりっきりになったからって
告白なんかしないでね

おじさんの足
もう2センチほど浮きあがってるよ
ゆらゆら ゆらゆら
空の扉って知ってるみたいね
やっぱり本当なのかしら
ぐるぐる回ってるだけで宇宙まで行ってしまえるなんて
さよなら地球
のような軽い衝撃

ビルも道路も車も電車も
ごちそうみたいな地上絵だから
トレーごとひっくり返してやりましょか
きっとゴビ砂漠の端っこで
ざざざってアスファルトの雨みたいな音がするよ

おじさんは知ってるかな
ざざざってそんなやさしい音じゃないよね
津波とか鉄砲水とか水漏れとか
海と空がひとつになるって

ほらあそこ
水びたしの空へ投げ出されている
あの鳥はわたし
もっともっと
空気の層が薄くなるあたり
わたしたちの祈りが集まってるところまで

風よりも軽くなりたいから
わたし
地球とさよならする
みんなとさよならする
パパもママも
わたし もう帰らないから
わたし もう帰れないから

だから
おじさんのだいじなことは
告白しないでね
ただ祈っていてね



でんわばんごう

2014年11月15日 | 「詩集2014」



もしもし
もしもし

住むところを
いくども変わったので
電話番号も
いくども変わった

とつぜん電話番号をたずねられると
一瞬とまどってしまう
0でもなかったし9でもなかった
古い番号と新しい番号

いくども変わった
そのように生きてきた自分を
そのように探している自分がいる
どこかでベルがなっている

もういちど
おかけなおしください


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ノックする秋

2014年11月05日 | 「詩集2014」



手は
あなたの耳にふれる
あなたの耳は
木にふれる
木は
誰かがノックするのを聞いている

風が
旅立ちの音階を駆けていく
終わりの始まり
すこしずつ羽をひろげて
葉っぱもついに
飛び立っていった

手は
あなたの手にふれる
空へと伸びる
木のおもいにふれる
木は
あなたの背中をノックしている



透きとおってゆく秋だから

2014年11月03日 | 「詩集2014」



山があかく燃えて
灰とけむりが漂うさきへ
追われた鳥のように
ただ風の軌跡を追いつづけていた
すきまだらけの秋だから
言葉は透きとおってゆくばかりです

書いてはすて
書いてはすてる
かたちにならないものを
かたちにならないままで
書き損じの紙くずのなかで
じっと息をひそめてしまうのです

ふるい言葉は忘れましたが
吃音に近いふるさとの訛りで
シャーペンの細い芯を折りながら
花びらいちまいの想いを
花いちもんめと伝えてみる

ようやく熟した風だけが
空の道を駆けぬける
山のこだまも遠く
透きとおってゆく秋だから
わたしの言葉も迷子になりそうです
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秋の山

2014年11月01日 | 「詩集2014」



赤土をこねて
祖父は小さな山をつくった
がりりと土壁を引っかく
鎌の刃先の
あの放物線が消せない


秋へ秋へと
ゆらゆらと山をのぼる
黄蝶のような麦のシャッポ(帽子)
蔓に蔓を接ぎ木して
みどりの空をかさねてゆく
あかい実がしたたる秋
それが
祖父の山だった


親指と人さし指をコンパスにして
いっきに放物線の山を越えた
その日も
がりりと果汁のいたみが
赤くて消せない