風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

雨がひどく降っている

2020年07月04日 | 「新エッセイ集2020」

 

この雨はもう止まないのかもしれない
街も道路も車も人も水浸しになっている
ほんとに誰かがバケツの水をぶちまけたのだろうか
梅雨の終わりには雨の神さまが
バケツの水を空っぽにして騒ぐのや
そう言ってた祖母は
とっくに雨よりも高いところに行ってしまったが
バケツの水で溺れかかった父も
いつのまにか雨の向こうへ隠れてしまった

裏には山があり前には川がある
年老いた母がひとりぼっちで泣いている
家財道具を2度も川にさらわれた
タンスが流れてゆくのを呆然と見ていた父が
海釣りの竿が浮いているのを見つけて
慌ててどろ水のなかに飛び込んだ
がらんどうの家のなかに残ったのは
壊れた冷蔵庫と釣竿だけだった
あれから父は黒鯛をなんびき釣っただろうか

生き残った人間だけが水浸しになっている
母が川の音を聞いている
山の音を聞いている
誰も帰ってこないと嘆いているだろう
雨が降らなくても嘆いているだろう
黒い電話器が鳴っている
母はベッドからゆっくりと体を起こすだろう
急に起きたので貧血でぼうっとしているだろう
痛い痛いと腰をさすっているだろう

黒電話まであと数歩
それともすでに
水に流されてしまったか
電話の呼び出し音は続いている
雨も降り続いている

 

 

 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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2020-07-05 17:58:53
こういう思いの方は沢山いると思いますが、私も含め、風の記憶さんのように、うまく言葉にできない人は多いと思います。
雨降りすぎないでほしいですね。

風が吹きすぎる場所で育ちました。
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豪雨ですね (yo88yo)
2020-07-05 19:27:14
風さん
いつも読んでいただき、ありがとうございます。

川のそばで育ったので川は好きですが、氾濫すると怖いですね。
かつて親が水害を受けたので、この時期になると、その悲惨さを思い出します。

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