風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

サバイバルゲーム

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Kino


ドングリを3個
ぼくの手のひらの上にのせて
3円ですと娘が言った
ぼくはナンキンハゼの葉っぱを3枚
娘の手のひらの上にのせる


ひとりといっぴきと
ひと粒のために
これを食べて生きようと言った


娘は再びドングリを拾いはじめ
ぼくはナンキンハゼの葉っぱを拾う
あしたも生きるために


そうやって
ぼくたちは日が暮れるまで
たっぷりと生きのびた


(2006)



スペース

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Benchi


公園にロケットがあったから
娘と乗った


ぼくの足は地面についたままだが
娘はすでに
宇宙遊泳を始めている
知らないおじさんの帽子をかすめて
ビッグバンに星が見えたという


トキガタツノハ ハヤイモノダ
トキガタツノハ ハヤイモノダ


じっとしたままで
星に手が届いてしまったら
ぼくたちは
まっすぐ老人になってしまうんだろうね


きょうの星
きのうの星
おとといの星
バイバイ バイバイ


つぎつぎと光るものが落ちてゆく
そのさきに地球がある


(2006)



木の川

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Shima


ぼくは木の中に入っている
木の川を探すためだ


ときどき木の外から
娘がこんこんとノックする


お父さん、
川は見つかったの。
と声がする


う~ん、
水が流れる音はするんだけどね。
行けども行けども
川にたどり着かないんだよ。


夜になったので
ぼくはキツツキの穴から外へ出た


それから朝になるまで
ぼくたちは木の幹に耳を押しあてて
川の音を聞いた


(2006)



絵本

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Mizutori


雨が降ったあとに
小さな水たまりができました


大きなナマズが2ひきと
小さなナマズが2ひき
ナマズの家族が泳いでいました


泳いでも泳いでも
同じ場所をぐるぐる回るばかりです


こんなところは初めてだね
ここは一体どこかしら


川のなかの川
池のなかの池
お風呂のなかのお風呂
ああ 目がまわる
僕たち生きる場所をまちがったようだ


お父さんは慌てて
絵本のページをめくった


(2006)



神話

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Haniwa1


浮き輪をもって海へいく約束だったのに
この夏もお父さんは
白い雲になったままです


空は海よりも広くて青いと言いながら
雲のままでいることは幸せですか


海賊だった
お父さんのお祖母ちゃんのお祖父ちゃんは
備前の山奥で死んだそうです
お父さんのお祖母ちゃんのお祖父ちゃんのしゃれこうべを
古い墓地で見たことをお父さんは自慢します
夏は死んだひとの話ばかり
ぽんぽん草の服を着たひとたちが
戦争をした話ばかり


山奥のさらに山奥で
海賊になれないお父さんは
白い雲になったままです


八雲立つ出雲の海でぴょんと飛び降りる
お祖父ちゃんが飛び降りる
お祖母ちゃんが飛び降りる
白い兎になる


ああ お父さん


(2006)