風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

その流れる一瞬のときを

2014年12月30日 | 「詩集2014」

これまではこれまで、これからはこれから、
ふと立ちどまり、ふと思う、
年の瀬――。

*

なにごともない長閑な午後
つと空をよぎる
鳥が
その日の栞になった

とりとめもない眠りの果て
闇の中にひとつ
星が
その夜の栞になった

行くでもなく戻るでもない
ふたしかな彷徨い
花が
その道の栞になった

お~い雲よ人よ
どこから来てどこへ行くのか
その流れる一瞬のときが
きょうの記憶の
新しいページをひらくだろう


――では、よい年をお迎えください。



あなたの青空が好きだ

2014年12月25日 | 「詩集2014」

よく晴れた朝に
せんたく物を干す
ベランダのあなたが好きだ
青空に向かって2本の腕がのびる
ぴっとひろげた白いハンカチ
旗のように並んで
あなたは空を独り占めする

だんだん空がうまっていく
大きなシャツに小さなシャツ
長いくつした短いくつした
キティちゃんやアンパンマン
みんな両手をいっぱいにひろげて
あなたの家族が勢ぞろいする

空がだんだん小さくなる
あなたの空がだんだん小さくなって
朝はじゅうぶんに満たされたのか
いつのまにか
あなたはいない

ミントの風が吹いて
長いシャツの袖がひらひらと
あなたの空をさがしている



サーカス

2014年12月18日 | 「詩集2014」

そこに
風の道はなかったけれど
風を運ぶものはあった
見えない軌跡を引きながら
きみの空中ブランコが接近してくる
渦まく風のすべり台では
空のクリオネたちが目をまわしていた
宙を満たしているのは闇で
伸びてくるきみの手だけに光がある
きみの指にぼくの指がからむ
その一瞬に風景がかわる
空にかかる水の橋を
あわてて渡るクリオネたちがみえる
生きることのバランスを
ひとは危うい遊戯とみるだろう
近づいたり離れたり
手と手が触れ合うのは一瞬だけど
その一瞬にかけて
ふたりは遠心力を生きる
ひとりで愛を語るというクリオネたちの
言葉の距離から解き放たれて
目から目へ
唇から唇へと
ひとつになろうとする重量がある
終わりは始まり
大きく風景は反転して
空のざわめきが近づいてくる
闇を押しひらいて産卵する
クリオネたちの風景が傾いていく
その緩やかな速度で
ふたりは風になる


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ぼく生まれたい

2014年12月17日 | 「詩集2014」

ぼく生まれたい
ぼくの中の小さなぼく
はやく生まれたい

さがしても
どこにいるのか
たずねても
だれも知らない

きのうのぼくではない
きょうのぼくでもない
たぶん
あしたのぼく

風のように
水のように
いっぱい生まれたい
そのときぼくは
ぼくを捨てる


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耳をすませば水の物語があった

2014年12月14日 | 「詩集2014」

アドレス帳を整理する。
いくつかのアドレスをデリートする。
消しがたいものもデリートしなければならない。
疎遠になったものも消すことになる。
いくつかは新しく書き込む。
新しいものはよそよそしい。
書き加えたものよりも消したもののほうが多くなる。
いつのまにか隙間だらけのアドレス帳になった。
その後お変わりありませんか!
などと隙間に呼びかけても返事はない。
隙間のひとつひとつは、
来し方の自分自身の隙間でもあろうか。
その隙間をコピーしてみる。
そしてペーストする。
ペーストしてペーストしてペーストする。
隙間のページにペーストする。

*

ひとの
夢の中にしのびこみ
乾いたコップをうるほすとき
滴って
ひとは
真夜中の水になった

水は落ちてゆく
ひとの
肩から腕をみちびかれて
それから
温められた手になって

めくるめく
歓びも哀しみも
ひとの
耳から耳へ声をあつくする
水が語る
とおい物語があった


まばゆさの方へ
滴って
ひとは
ふたたび新しい水になる


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