風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

シャボン玉

2015年06月29日 | 「詩集2015」

わたしの息に
無数の虹がかかる
シャボン玉の中にうまれた
小さな空と海

浮遊し回転し
風の形になり雲の色になり
つかのま
空を飛んでるわたし
海に溺れてしまうわたし

つぎつぎと
霧となって空はこわれ
飛沫となって海もこわれて
きらりと一滴のしずく

そうしてまた
わたしも生まれかわる









麦わらのストロー

2015年06月21日 | 「詩集2015」

その季節はそこにしかない
ぼくはまっすぐなストローになる
麦わらで篭を編んで
野イチゴをさがしにいく
紫陽花いろの雨のジュース
ときには
シャボン玉のたくらみ
なかなか飲み干すことができない

形のないものは
まっすぐな味で満たされている
ストローの風になって
ストローの笛になって
かすかに見えるものを追う
小さな光の先
どこまでも入口はつづいていた

すぼめた唇から
麦の記憶が滴っている
コップの中に小さな海がある
きょうは終日
この海を飲み干さなければならない







竹トンボ

2015年06月15日 | 「詩集2015」

すいーっと水平に
赤いトンボが
ぼくの記憶の空をよぎった

ウノハナの花の上を
シロツメクサの草の上を
丸い渦をまいて竹のトンボが
その日
ぼくの掌をはなれ
もうひとつの風の意志になって
舞い上がっていった

赤いトンボを追う
そこは
大きな空の始まりだった










紙ヒコーキ

2015年06月09日 | 「詩集2015」

空に放つ
思いをこめた言葉のように

いちまいの紙は
風に浮くことしかできないけれど
鋭角に折られた紙は
ひとつの意志となって飛ぶことができる
山をこえ海をわたる
鳥のようにはなれないけれど
紙の翼はひととき
美しい空の希いとなる







糸でんわ

2015年06月03日 | 「詩集2015」

この細い糸のさきに
あなたの耳は触れているでしょうか
いまはまだ
言葉にならない言葉が
かすかに震えながら
さまよっています

小さな花が搖れています
テントウ虫が翅を開こうとしています
風にゆれる葉っぱの先から
飛び立とうとする虫の
かすかな息遣いが伝わってきます
この始まりの心音が
あなたの胸に届くでしょうか

たどたどと文字を打つように
薄い紙をノックしています
背中に星をのせたテントウ虫は
いつか宇宙の光になれるかもしれません
それもひとつのサインです
いまは微かな言葉のふるえを
細い糸が伝えています







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