風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

2010年05月15日 | 詩集「風のそとへ」



本のページをめくる
あなたの指が
風のようだと思った


あなたの背中で
長い物語がはじまり
長い物語がおわる


本を閉じると
あなたはすっかり年老いて
白いドアから出てゆく


ぼくは裏庭で
ただ風に吹かれているのが
好きでした


(2008)


マンモス

2010年05月05日 | 詩集「風のそとへ」
Asahi


いつものように
バスを待っていたら
象がきた
大きな耳のようなドアから乗る


いつもの道を
いつもどおり走っている
だが停留所がいつもとちがう


バスの中は広い
広すぎて座席が見つからない
私は立ちつくしている
バスの中は疲れる


バスは走りつづける
草がはしり
灰がふり雪がふり
星がふった


陽がのぼり陽がしずんだ
遠くの運転席では
白い象が眠りつづけている


(2008)


2010年05月05日 | 詩集「風のそとへ」
Harusion


きょう
たんぽぽとはるじおんを食べた
すこしだけ耳が伸びて
神様の声をきいた


あしたは
すみれとばらの花を食べる
すこしまた耳が伸びたら
まだ聞いたことのない
あなたの声が聞けるかもしれない


(2008)


2010年05月05日 | 詩集「風のそとへ」
Shika


山国で育った


目をとじると
どこまでも青いものが広がる
海だった


そうやって彼は
ときどき山を越えた


どど~んと鯨になる
風のように
しなやかに両腕を伸ばし
海のかたちをなぞる
きらきらとしんしんと
星が流れた


まぶたの裏に
だいじにしまい
しまい忘れる


いつしか
目をあけても
海がある
もういちど目をとじると
とおく鯨のような
山があった


(2008)


地球人

2010年05月05日 | 詩集「風のそとへ」
Chikyu


西瓜のような
まるい地球をぶらさげて
その人はやってきた


裸で生きるには
夏はあまりにも暑すぎた
冬はあまりにも悲しすぎた


ぽんぽんと叩いて
いまは食べごろではない
と言った


(2008)