風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

忘れてしまった星のことば

2022年02月13日 | 「詩エッセイ2022」

 

しんどい夢をみていた どんな夢だったかは思い出せない ただ寝苦しかっただけなのか 時間は夜中の3時をすこし過ぎて 夢の疲れが残ったまま寝付けない 体を冷やそうとベランダに出てみた 夜空の真ん中あたりに そこだけ星がかたまっている 星を見たのは久しぶりだった 最近は星のない夜空しか知らない 街灯や家の明かりに負けて 星はすっかり光を失くして ひとが寝静まった夜更けに こっそり顔を出していたのか 忘れていたことを ふと思い出した かのように懐かしく 静かな心になった いくつかの星は 記号のように繋がっていて それぞれの塊まりには それぞれに名前もついていたが 忘れてしまって呼び声も なくなった静寂の中では その輝きは音を発して いるのかいないのか 宇宙の深い声もどこかで 耳をすませば星の 言葉が聞こえてきそうだが 遠く闇夜をさまよった頃 夜空には星ばかりあり 星しかなかった そんな星空を見上げて 壁のようだと言った仲間の 言葉が意外だった 彼とのあいだに 心の乖離を感じて そのことを書いた文章が 高校の文芸誌に載った タイトルは『星空』だった 他人や自分の 心を見つめることと そのことを文章にすること そんなことが楽しいことだと はじめて知った 楽しいことは苦しいことでもある という道の始まりでもあった その途上 満天の星空に遭遇したことがある その時ぼくは 九州でいちばん高い山の 頂上に立っていて 凍った風が吹いていた 足元でいっぱい鈴のような音がする 草だか笹だかの葉が氷をまとい 風に吹かれて擦れ合って その音は虫の声のようでもあり 闇の視界は無限に ただ星に埋めつくされて その響きは星と星が 触れ合ってるようでもあり はじめて聞く音楽か 囀る言葉のようでもあった あのとき聞いた言葉を ぼくはいまだに 自分の言葉にできない 襲いかかってくる光を浴びて いまも鮮明に記憶の壁に 張り付いたままの あのときの星空をおもうと この夜の星くずは 夢の名残りのようにみえる 

 

ガラスの星

きらきらひかる
ガラスの星を
いっぱい拾って
いっぱい失くした
空が暗い夜があれば
部屋に小さな灯がともる
だいじなことは書いて残した
いくども書き直したので朝になる
星のことは書かなかった
星のことは書けなかった
ガラスの星は
手の上で小さく光った