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風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

火山は噴火するものだ

2025年07月28日 | 「2025 風のファミリー」



だいぶ前に、久しぶりに阿蘇山に登った時は噴火警戒が出ていた。
草原の道路をカーブするたび、白い噴煙がしだいに近くなった。草千里の売店のおじさんが、きょうは風向きが悪くてガスが出ているので、火口までは行けないだろうと言う。残念だが引き返すわけにはいかない。こちらは積年の思いが噴火寸前になっているのだった。
火口間近の阿蘇山公園道路の料金所でも、きょうは火口は覗けないと念を押される。さらに、心臓病や喘息の持病はないかとまで確認された。なんだかとても危険な場所に入ろうとしている気分だった。あとはもう行けるところまで行くだけだ。すこしでも火口に近づきたい。そんな思いでアクセルを踏み、火山岩の荒涼たる道を進んだ。

そのときは幸運にも、30分だけ火口を覗くことができた。たまたま風向きが変わって、噴煙やガスが吹き払われたのだった。
深い火口の底を覗くと、噴煙が薄くなったところに、赤く燃えているマグマらしいものがかいま見えた。いまに噴火してやるぞといった、怒りの目をしているような火の色だった。体が熱くなって震えた。ときどき、ぼくの背中をドーンドーンと叩いていたのはお前だったのか。

火山は噴火するから火山なのだ。
いつのまにか阿蘇山は遠くの山になってしまったけれど、かつては近くの山だった。小学生の時に初めて登った山も阿蘇山だった。
真夜中にドーンドーンと噴火する音を、夢の合間にいくども聞いた。朝起きてみると、あたり一面が灰色の火山灰で覆われている。夕方は下校の途中、遠くに阿蘇の白い噴煙を眺めながら、その山の方角に向かって自転車をこいだ。

ずっと以前に、親しくさせてもらっていた言語学者の先生がいた。そのときは90歳を過ぎた老人だったが、京都から大阪までいつも電車と徒歩で出てきていた。大きな声でよく喋り体中に力がみなぎっていた。
先生は長崎の雲仙の近くで育ったので、ときどき自分は噴火するのだと言っていた。そして実際に、いくども噴火をして大きな業績も残した。きみも阿蘇のそばで育ったんなら噴火しろ、と言って励まされたものだった。
そのことを思い出した。ドーンドーンという阿蘇の地鳴りが、再び私の体に響いてくる。




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