風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

おだやかな明かりが欲しい

2021年10月29日 | 「新エッセイ集2021」

 

洗濯機の故障が直ったと思ったら こんどは部屋の照明がおかしくなった LEDシーリングライトのリモコンが壊れて どのボタンを押しても反応しない 点きっぱなしで勝手に点滅をくり返す 明るくなったり暗くなったり 黄色くなったり青くなったり 眠くもないのに常夜灯 落ち着きたいのにピッカピカ 明かりが独りで大はしゃぎ はやハロウィンの賑わいか ひと足早いメリークリスマスか 外は選挙で賑やかだけど 穏やかな光りの国は いったい何処にあるのだろうか おまえも迷ったかLEDよ 省エネ照明どころか 無駄な電気を撒き散らし 4万時間の長寿命のはずが 10年間は交換不要なはずが なのにまだ半分も働いていない このまま懲戒解雇か廃棄処分か いやいやサボったのはリモコンで そいつが職場放棄したせいで 制御不能になったんだと 光の課長は自己弁護 内輪もめは遺憾千万 迷惑千万やるかたなしだが どうか穏やかに職務執行しておくれ まずは実直なリモコン人材を探すため アイリスオーヤマに電話するも 通話中ばかりでラチあかず 困ったときのネット頼みで あちこちサーフィンするはめに 無いものは無いというAmazonにも なんでもありの楽天にも やはり無いものは無く ふだんは疎遠なメルカリで なんとびっくり 中古のリモコンがどっさり ほっとしたのもつかの間で すべてセールアウトでがっかり ほとほと疲れきったところで 天の助けかネットの救いか もはや期待もしてなかった ヤフーショッピングで偶然ヒット さらに幸運なりラッキーなり ただいま半額セール中 すわ注文確定を即タッチ 一件落着もやもや靄も晴れて 気分もぱっと昼光色になった深夜 やっと穏やかに眠れる常夜灯 暖色も寒色もおやすみタイマー 古いリモコンはとっくに消灯 LED THE END・・・







最後は小さくなってグッバイ

2021年10月24日 | 「新エッセイ集2021」

 

寒くなって戸惑う もう秋を忘れて冬なのかも知れない だんだん少なくなって とうとう小さくなって 朝顔の最後の花が咲いた ひとつだけ咲いた これでおしまい 冬のことは知らない タネになって静かに眠る この夏には70輪ほどが いくどもいくども咲いた 最後は1輪だけでさよならする 花の記憶を辿りながら 夢のヒツジを70ぴきまで数える そうして暖かくなったら ふたたび花の季節がくる 変わらないのは花だけかもしれない 花は変わらずとも季節は変わる 温かい毛布を出して ストーブも出した 扇風機はまだ出したまま 風の気まぐれで 寒かったり暑かったりするから 服を重ねたり脱いだりするが 花ではないから ぱっと咲くこともできないし 枯れることもできない 雲の流れを見ながら迷走する どこへ行けばいいのか やりたいけどやれない 行きたいけど行けない 飛びたいけど飛べない 咲きたいけど咲けない 花ではないから







洗濯機がウイルスにやられたか

2021年10月15日 | 「新エッセイ集2021」

 

洗濯機がウイルスにやられたか 風呂の水は飲むけれど 水道水は受けつけなくて ギブアップジャブアップ なんだか朝からアップアップ シャツもパンツもアララアララ 物干し竿もアッケラカンで 空はアオゾラ日本晴れ 風もアッサリ爽やか乾燥 なのにああそれなのに 洗濯機の君はアカンタレ おじいさんは山へ柴刈りに おばあさんは川へ洗濯に そんな昔でもないけれど 東京練馬のアパートで ひとり暮らしをしてた頃 たまたま母が上京してきて 押し入れにこっそり溜めていた 汚れたままのパンツや靴下 シャツやらハンカチやら引っぱり出したが 洗濯機などあるはずなくて 母はどこかで洗濯板を買ってきて 一日中洗濯女になってたっけ あの洗濯板がまだ有ったはず 今どきゴシゴシやるのも新鮮かも 体力強化になるかもとか そこまでちらっと考えてはみたれど いまさら日向の海岸の 鬼の洗濯板ならず 諦めきれずに洗濯機とにらめっこ スマホにパソコンにキーボード 阿呆ほど鍛えたこの指で いろいろボタンを押してはみたが コースもよし 風呂水もよし 乾燥もよし どうして給水だけがアウトなのか ネットであれこれ検索してみたが 答えが有りすぎてちんぷんかんぷん 犬も食わない夏の餅を食いながら 思いついたは餅は餅屋 洗濯機は洗濯機屋だと パナソニックに修理を頼むため フリーダイヤルで電話するが もしもしと言っても返事はなくて ナニナニの方は1のボタンを 2のボタンを3のボタンをと ここでもまたまたボタンボタン まどろっこしいやらややこしいやら やっと人らしいひとの声にほっと 状況説明やら見積りやら 出張費が3千いくらで 大体1万5千円くらいかかるとか お支払いはクレジットカードでとか 洗濯機も最後はカネで動くんか でも洗濯板には戻りたくないし 8年も頑張ってくれたんやさかい しゃあないやんか腹きめな 清潔好きなおまはんのため ドンブラコッコのおばあさんのため 水掛け不動さん蝶子はん もうひと踏んばり頼んます 脱水機能ばかり精出して ときには給水もせえへんかったら めまいや嘔吐や意識障害 ほんま脱水症に罹りまっせ






 


きぼうという名の星をみた

2021年10月10日 | 「新エッセイ集2021」

 

夜空はなんと静かなんだろう と まもなく現れるはずの星を待っていると その光の星は 星よりも明るく 飛行機よりも早く 点滅することもなく 南西の方角から 最初はぼんやりと 次第に近づいてくるにつれて輝きを増し 大きな星の明るさとなって 頭上を流れるように通過していくのを 急いで追って 南側のベランダに回って待つと すぐに続きのままの光で現われ そのまままっすぐ 南東の方角に線を引くように あっというまに その光は弱くなって消えてしまった あとに残るものは何もなかったが その星は「きぼう」という名を残していった 遠く星のように輝いてみえるものは たしかに希望そのものかもしれない その希望の本体は国際宇宙ステーションというらしい 夜空の目視では 大きめの星にしか見えなかったが 実物はサッカー場くらいの大きさがあるという 地球をぐるっと サッカー場を周回させてみる その星では誰かがボールを蹴っていたり そのボールを追いかけていたり 遊んでいるような闘っているような そんな賑やかな星ではなくて 光のボールになった小さな星は 音もなく静かに消え去ったので あとに残されたものは もはや光の星の残像であって 定かでない暗い宇宙に なお浮遊する光の断片を探そうと 星の海に舟を漕ぎ出してみたいが そんな舟で地球を何周できるか 暗い夜もあろうし 明るい夜もあろう あの日や あのあとや あれからや あのときの あの言葉や あの仕草や あれらは何の暗示だったか やらなかったことや やれなかったこと ありそうでなかったことや なさそうであったこと などなどの星くずの数々 空の舟が目指したのはいつも 希望という名の星だった かもしれず こんや無言で去った光の星を追って 小さな希望の舟がふたたび 無窮なる星の海を漂い続けようとしている


 

 


どこへ行き どこへ帰るのか

2021年10月02日 | 「新エッセイ集2021」

 

カラスの鳴き声で目を覚ましたが まだすこし暗めの朝なので しばらく寝てようか起きようかと 半分目覚め半分寝ぼけて レム睡眠の夢の浅瀬で 枕につかまり溺れていたが 夢には時制も脈絡もなくて きちんと辿るのは難しく 反芻して納得することもできず 曖昧に筋書きを残したまま 夜具ともども打ち払い 取り敢えずベランダに出てみると まだ薄暗い空の下を 三つ四つ 二つ三つなど 夢の残滓のような黒いもの ひたすら南へ南へと飛び急ぐさま 夢の霞から抜け出してみれば まだ醒めきらない空を 急かしているのはカラスの群れで 南の方角の空の彼方 どこに目的の場所があるのやら いつもの決まった行動の先に 彼らにとって生きやすく おいしい食べ物が豊富にある カラスの楽園でもあるのだろうか アホーアホーと風を煽り アホーアホーといっしょに飛べたら その楽園を確かめてみたいが たぶん深くて大きな 黒い森があり池があり その先をさらに進めば 海があり島もあるはず そこの其処まで行ったなら 此処にはなくて北にもない そんな何かがあるのだろうか あるいは何もなくても 南を目指していくことが カラスの一日を始めるということ なのか われら地上での始まり方は 駅まで歩いて電車に乗って いつもの決まった場所へ行き 昨日までの続きをつづけ そのような生活もあるにはあるが 早朝の遥かな空を飛翔しながら ハタハタと風に乗って あるいは風を切り 下界に淀む朝霧を払いながら ゆうゆう羽ばたいてゆけば ゆっくり退いてゆく大地の果てに やがていつもの場所があり そこには何かがあり そこで何かをして 彼らだけが知る一日があり そうしてそれから 夕焼け小焼けで日が暮れて いつもの空を北へ向かって カラスの寝どころへ行くとて 夜明けと夕暮れのひと時だけの まるで時の流れに流れているような 人の手が届かないところに大きな 流れのサイクルがありそうだが それには乗らないカラスもいて それはまた別の種族のカラスなのか 民家のゴミ箱を漁ったり 野良ネコの餌をかすめたり 人にも慣れて近づいても動じず それでも逃げようかどうしようかと 羽をもじもじさせながら こちらの出方をうかがったりするので なめられたらあかんと ぎりぎり近くまで迫ってやると しゃあないなとばかり飛びたつが カラスと闘ってどないすんねん どっちがアホーかわからないが 鳴き声はガアガアと耳ざわり 羽は地味だし色気もなくて 嘴ばかりがやたら大きく ときには威嚇もしてきたり 奴は人の顔を覚えるというから 痛い目に遭わすと仕返しが怖いし そんな賢いような狡いような鳥は 人間に近すぎて厄介しごく ただ見てるだけなら 空ゆくカラスの方がずっと 優雅でむしろ羨ましいくらいで 羽を持たない地べたの身では アホーアホーの空の気軽さ 身軽にさっと南へ行きたい 身軽にさっと北へも行きたい 山のカラスはなぜ鳴くの 南も北もカラスはカラス ようよう白くなりゆく山ぎわ ようやっと目覚めて自問自答するも それはカラスの勝手でしょ カァ