北朝鮮問題(1)―「ヒフミン・アイ」で観てみよう―
将棋の世界で、加藤一二三(ヒフミ)九段は、対局中に席を立って、相手の背後に回り込み、相手の目線で盤上を眺めて、
自分と相手の弱点や攻撃の突破口をみつける方法を実践しました。
加藤氏はこれを、「ヒフミン・アイ」(一二三の視点)と名付けています。
加藤氏は、これまで「ヒフミン・アイ」によって、何度か難局を乗り切って勝ちを収めたと言います。現在、これを採用
しているのは、おなじみの天才少年棋士の藤井聡太君です。
かつて私が留学していた時、オーストラリアを中心とした地図を見ると、日本は世界地図の最上部に、強大なシベリア大
陸の縁にへばりついているヒモのように描かれていて、ショックを受けたことを思いだします。
私は、「ヒフミン・アイ」は、将棋だけでなく、冷静で客観的に自分と相手を見る、という点で、対決や対立という状況
では常に、有効であると思います。
たとえば、現在の北朝鮮問題に、「ヒフミン・アイ」を適用してみましょう。
つまり、北朝鮮の立場に立って、問題を見つめ評価をし直すのです。
最近は、テレビを始め、メディアは連日、これでもか、というほど北朝鮮のミサイルと核開発の報道を流しています。
そして、軍事。政治評論家と称する人たちが、主に、北朝鮮のミサイル、核兵器の開発を、日本にとって脅威であり、国連
決議に反するという観点から、コメントしています。
私自身も、現在の北朝鮮の軍事拡張、軍事優先政策には反対であり、特に核開発などは、唯一の被爆国として、絶対に許し
てはならないことだと思っています。
しかし、現状では、どこに出口があり、そこにどのようにしたらたどり着けるのか、道は見えていません。
ただし、私たちが目にし、耳にするのは、アメリカ発の情報がほとんどで、北朝鮮からの直接的な情報としてはせいぜい、
北朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」の記事や、国営放送の一部の映像だけです。
このため、メディアもコメンテーター(評論家)も推測や仮定の話をするばかりです。
こうして、たとえばアメリカ発の北朝鮮関連のニュースでは、金正恩労働党委員長は、とんでもない「ならず者」で何をし
でかすか分からない危険人物、ということになってしまいます。
日本のメディアにも、アメリカという巨大な国を相手に、ワシントンを火の海にしてやる、とか地球上から消してやる、と
か、金正恩の言っていることは常軌を逸している、彼はまともな人間じゃない、などの論調が底流にあるような気がします。
確かに彼の言っていることは、とても現実的とは思えないし、なぜ、このようなことを敢えて言うのか私にも分かりません。
それでは、国際社会の反発を知りながら、そして、恐らく国民の経済的な負担と犠牲を押し付けてまで、なぜ、ミサイルや
核兵器の開発を続けるのでしょうか?
彼は、無知で幼稚で、馬鹿で、妄想に取りつかれているだけの愚か者なのでしょうか?
翻って、私たちは、本当のところ、金正恩委員長と北朝鮮の実態について何をどこまで知っているのでしょうか?
もっと言えば、これまで、私たちは、金委員長および北朝鮮について、客観的に知ろうとしてきたでしょうか?
私たちは、金委員長についても北朝鮮の政治・経済・社会、とりわけ国民の生活実態、かれらの本音などについては、ほとん
ど正確な知識をもっていません。
現在の、北朝鮮をめぐる危機がどのように進展してゆくのかは、分かりません。というのも、この問題は非常に複雑なジクソ
ーパズル構造となっていて、幾つかのピースがどのようになるのか不透明だからです。
そこで、このような時には、推測に推測を重ね、思惑と思い込みに塗り込められた分析をするよりも、一度、日本やアメリカ
の目線ではなく、一旦目線を逆転させて、北朝鮮の指導者たちは、現在の世界と、自分たちの置かれた状況がどのように見て
いるのかを北朝鮮の立場から、つまり、「ヒフミン・アイ」を適用して考えることが有効だと思います。
受けました。視点をどこに置くかによって、世界観が変わるのです。
まず、北朝鮮からみると敵対する勢力が幾重にも並んでいます。
直ぐ南には戦後まもなく戦争をし、現在も「休戦」状態にある韓国と、そこに駐留する、世界最強のアメリカ軍の基地が展開し
ており、その、少し南には、かつて朝鮮半島を植民地化した日本の自衛隊と、同じくアメリカ軍の基地が日本全国に展開してい
ます。
これらに加えて、移動基地ともいえる大小さまざまな戦艦が西太平洋を巡回しており、さらにグアム、サイパン、ハワイの米軍
基地は遠くから朝鮮半島を睨んでいます。
しかも、これらの軍は最新鋭の兵器を装備しています。
これら陸・海・空の軍事的能力を北朝鮮からみると、その比率は北朝鮮1に対して「敵」勢力は100かそれ以上に感じられる
でしょう。
昨年より、通称「斬首作戦」と呼ばれる米韓合同軍事演習が北朝鮮の目の前で行われています。
北朝鮮の指導部(とりわけ金委員長)は、自分たちの殺人を目的とする軍事演習を年に2度も行っている現状に、かなりいらだち
を見せています。
もし日本の周辺で、他国が日本の要人を殺すための「斬首作戦」を展開したら、要人や一般の日本人はどう思うでしょうか?
それでは、北朝鮮の背後の政治地理的配置はどうなっていうのでしょうか?
北朝鮮は背後(北側)で、中国とロシアという大国と国境を接しています。
中国との関係は、8月29日の第六回核実験(水爆と推測されている)に、にわかに悪化していますが、本質的に中国は北朝鮮にと
って、日・米・韓連合のような「敵」勢力ではありません。
北朝鮮は、これらの大国をむしろ、いざという時の支持勢力とも考えていることでしょう。
とりわけ、中国とは1961年に「中朝友好協力相互援助条約」が結ばれており、20年ごとに更新されることになっています。
もっとも最近の更新は2001年ですから、2021年までは有効です。そこには、
第二条 両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。
いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたとき
は他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。(参戦条項)
という、いわゆる「参戦条項」が付いています(「Wikipedia 「中朝友好協力相互援助条約」)。
ただし、中国は核戦争が勃発した時には、参戦しない方向を望んでいるようです。
北朝鮮としては、実際に戦争が起こった時、どこまで中国が助けてくれるかは必ずしも確信を持っているわけではないでしょう
が少なくとも、一つの「保険」としては見なしているでしょう。
それよりも北朝鮮には、アメリカにしても日本にしても、北朝鮮に軍事的な攻撃を仕掛ける時には、北朝鮮だけでなく、中国か
らの反撃も考慮せざるを得ないだろう、そう簡単に手出しはできないだろう、という「読み」はあると思います。
中国は、軍事以外にも、北朝鮮への石油供給を行う他、北朝鮮から石炭や鉄の輸入、北朝鮮人労働者の受け入れなど、経済的な
交流や援助を通じて、実質的に助けています。
さらに、平壌と北京とは鉄道が州4便(月、水、木、土)も往き来しており、北京からは中央アジア→モスクワを経由してヨー
ロッパまで鉄道輸送が可能です(注1)
次に、ロシアとの関係ですが、1960年に中国と同様の「朝ソ友好協力相互援助条約」が締結されましたが、1980年代に、これは
解約されました。
しかし、現在のプーチン大統領が率いるロシアは、陰に陽に北朝鮮を援助しているので、北朝鮮にとっては頼りになる隣国とみ
なしているでしょう。
恐らく、中国からの石油の供給が断たれても、ロシアからの石油が入ってくることを想定し期待しているかも知れません。
私は、北朝鮮問題を解くカギは、中国とならんで、あるいはそれ以上にロシアだと思っています。
北朝鮮は世界で孤立している、と決め込んでいる人もいますが、現在、166カ国もの国が北朝鮮と国交を結んでいるのです。
とりわけ東南アジアには、北朝鮮と近い関係を維持している国があります。
北朝鮮は世界で孤立し、経済は極度の荒廃し、人心は現状に心底うんざりしており、アメリカの軍事的圧力に耐えがたい状態で、
パニックに陥っている、などなどの見方には注意が必要です。
将棋や囲碁では、相手の応手を無視して、自分に都合の良い展開だけを考えることを「勝手読み」と言います。
それは、読みが外れたとき、痛いしっぺ返しを受けます。
(注1)http://www.2427junction.com/dprkreportpb.html(2017年9月9日閲覧)
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畑の一角に蒔いた豆類(大豆、枝豆、小豆、大納言小豆、黒豆)は順調に育っています。 畑の端に植えたサトイモと隣のサツマイモは雑草と闘いながら元気に成長しています。
将棋の世界で、加藤一二三(ヒフミ)九段は、対局中に席を立って、相手の背後に回り込み、相手の目線で盤上を眺めて、
自分と相手の弱点や攻撃の突破口をみつける方法を実践しました。
加藤氏はこれを、「ヒフミン・アイ」(一二三の視点)と名付けています。
加藤氏は、これまで「ヒフミン・アイ」によって、何度か難局を乗り切って勝ちを収めたと言います。現在、これを採用
しているのは、おなじみの天才少年棋士の藤井聡太君です。
かつて私が留学していた時、オーストラリアを中心とした地図を見ると、日本は世界地図の最上部に、強大なシベリア大
陸の縁にへばりついているヒモのように描かれていて、ショックを受けたことを思いだします。
私は、「ヒフミン・アイ」は、将棋だけでなく、冷静で客観的に自分と相手を見る、という点で、対決や対立という状況
では常に、有効であると思います。
たとえば、現在の北朝鮮問題に、「ヒフミン・アイ」を適用してみましょう。
つまり、北朝鮮の立場に立って、問題を見つめ評価をし直すのです。
最近は、テレビを始め、メディアは連日、これでもか、というほど北朝鮮のミサイルと核開発の報道を流しています。
そして、軍事。政治評論家と称する人たちが、主に、北朝鮮のミサイル、核兵器の開発を、日本にとって脅威であり、国連
決議に反するという観点から、コメントしています。
私自身も、現在の北朝鮮の軍事拡張、軍事優先政策には反対であり、特に核開発などは、唯一の被爆国として、絶対に許し
てはならないことだと思っています。
しかし、現状では、どこに出口があり、そこにどのようにしたらたどり着けるのか、道は見えていません。
ただし、私たちが目にし、耳にするのは、アメリカ発の情報がほとんどで、北朝鮮からの直接的な情報としてはせいぜい、
北朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」の記事や、国営放送の一部の映像だけです。
このため、メディアもコメンテーター(評論家)も推測や仮定の話をするばかりです。
こうして、たとえばアメリカ発の北朝鮮関連のニュースでは、金正恩労働党委員長は、とんでもない「ならず者」で何をし
でかすか分からない危険人物、ということになってしまいます。
日本のメディアにも、アメリカという巨大な国を相手に、ワシントンを火の海にしてやる、とか地球上から消してやる、と
か、金正恩の言っていることは常軌を逸している、彼はまともな人間じゃない、などの論調が底流にあるような気がします。
確かに彼の言っていることは、とても現実的とは思えないし、なぜ、このようなことを敢えて言うのか私にも分かりません。
それでは、国際社会の反発を知りながら、そして、恐らく国民の経済的な負担と犠牲を押し付けてまで、なぜ、ミサイルや
核兵器の開発を続けるのでしょうか?
彼は、無知で幼稚で、馬鹿で、妄想に取りつかれているだけの愚か者なのでしょうか?
翻って、私たちは、本当のところ、金正恩委員長と北朝鮮の実態について何をどこまで知っているのでしょうか?
もっと言えば、これまで、私たちは、金委員長および北朝鮮について、客観的に知ろうとしてきたでしょうか?
私たちは、金委員長についても北朝鮮の政治・経済・社会、とりわけ国民の生活実態、かれらの本音などについては、ほとん
ど正確な知識をもっていません。
現在の、北朝鮮をめぐる危機がどのように進展してゆくのかは、分かりません。というのも、この問題は非常に複雑なジクソ
ーパズル構造となっていて、幾つかのピースがどのようになるのか不透明だからです。
そこで、このような時には、推測に推測を重ね、思惑と思い込みに塗り込められた分析をするよりも、一度、日本やアメリカ
の目線ではなく、一旦目線を逆転させて、北朝鮮の指導者たちは、現在の世界と、自分たちの置かれた状況がどのように見て
いるのかを北朝鮮の立場から、つまり、「ヒフミン・アイ」を適用して考えることが有効だと思います。
受けました。視点をどこに置くかによって、世界観が変わるのです。
まず、北朝鮮からみると敵対する勢力が幾重にも並んでいます。
直ぐ南には戦後まもなく戦争をし、現在も「休戦」状態にある韓国と、そこに駐留する、世界最強のアメリカ軍の基地が展開し
ており、その、少し南には、かつて朝鮮半島を植民地化した日本の自衛隊と、同じくアメリカ軍の基地が日本全国に展開してい
ます。
これらに加えて、移動基地ともいえる大小さまざまな戦艦が西太平洋を巡回しており、さらにグアム、サイパン、ハワイの米軍
基地は遠くから朝鮮半島を睨んでいます。
しかも、これらの軍は最新鋭の兵器を装備しています。
これら陸・海・空の軍事的能力を北朝鮮からみると、その比率は北朝鮮1に対して「敵」勢力は100かそれ以上に感じられる
でしょう。
昨年より、通称「斬首作戦」と呼ばれる米韓合同軍事演習が北朝鮮の目の前で行われています。
北朝鮮の指導部(とりわけ金委員長)は、自分たちの殺人を目的とする軍事演習を年に2度も行っている現状に、かなりいらだち
を見せています。
もし日本の周辺で、他国が日本の要人を殺すための「斬首作戦」を展開したら、要人や一般の日本人はどう思うでしょうか?
それでは、北朝鮮の背後の政治地理的配置はどうなっていうのでしょうか?
北朝鮮は背後(北側)で、中国とロシアという大国と国境を接しています。
中国との関係は、8月29日の第六回核実験(水爆と推測されている)に、にわかに悪化していますが、本質的に中国は北朝鮮にと
って、日・米・韓連合のような「敵」勢力ではありません。
北朝鮮は、これらの大国をむしろ、いざという時の支持勢力とも考えていることでしょう。
とりわけ、中国とは1961年に「中朝友好協力相互援助条約」が結ばれており、20年ごとに更新されることになっています。
もっとも最近の更新は2001年ですから、2021年までは有効です。そこには、
第二条 両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。
いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたとき
は他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。(参戦条項)
という、いわゆる「参戦条項」が付いています(「Wikipedia 「中朝友好協力相互援助条約」)。
ただし、中国は核戦争が勃発した時には、参戦しない方向を望んでいるようです。
北朝鮮としては、実際に戦争が起こった時、どこまで中国が助けてくれるかは必ずしも確信を持っているわけではないでしょう
が少なくとも、一つの「保険」としては見なしているでしょう。
それよりも北朝鮮には、アメリカにしても日本にしても、北朝鮮に軍事的な攻撃を仕掛ける時には、北朝鮮だけでなく、中国か
らの反撃も考慮せざるを得ないだろう、そう簡単に手出しはできないだろう、という「読み」はあると思います。
中国は、軍事以外にも、北朝鮮への石油供給を行う他、北朝鮮から石炭や鉄の輸入、北朝鮮人労働者の受け入れなど、経済的な
交流や援助を通じて、実質的に助けています。
さらに、平壌と北京とは鉄道が州4便(月、水、木、土)も往き来しており、北京からは中央アジア→モスクワを経由してヨー
ロッパまで鉄道輸送が可能です(注1)
次に、ロシアとの関係ですが、1960年に中国と同様の「朝ソ友好協力相互援助条約」が締結されましたが、1980年代に、これは
解約されました。
しかし、現在のプーチン大統領が率いるロシアは、陰に陽に北朝鮮を援助しているので、北朝鮮にとっては頼りになる隣国とみ
なしているでしょう。
恐らく、中国からの石油の供給が断たれても、ロシアからの石油が入ってくることを想定し期待しているかも知れません。
私は、北朝鮮問題を解くカギは、中国とならんで、あるいはそれ以上にロシアだと思っています。
北朝鮮は世界で孤立している、と決め込んでいる人もいますが、現在、166カ国もの国が北朝鮮と国交を結んでいるのです。
とりわけ東南アジアには、北朝鮮と近い関係を維持している国があります。
北朝鮮は世界で孤立し、経済は極度の荒廃し、人心は現状に心底うんざりしており、アメリカの軍事的圧力に耐えがたい状態で、
パニックに陥っている、などなどの見方には注意が必要です。
将棋や囲碁では、相手の応手を無視して、自分に都合の良い展開だけを考えることを「勝手読み」と言います。
それは、読みが外れたとき、痛いしっぺ返しを受けます。
(注1)http://www.2427junction.com/dprkreportpb.html(2017年9月9日閲覧)
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畑の一角に蒔いた豆類(大豆、枝豆、小豆、大納言小豆、黒豆)は順調に育っています。 畑の端に植えたサトイモと隣のサツマイモは雑草と闘いながら元気に成長しています。