大木昌の雑記帳

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危機に瀕した環境(1)―グレタさんの鬼気迫る真迫の訴え―

2019-10-02 22:07:12 | 自然・環境
危機に瀕した環境(1)―グレタさんの鬼気迫る真迫の訴え―

2019年9月23日、ニューヨークで行われた国連の「気候行動サミット」で、スウェーデン
の16才の少女、グレタ・トゥンベリさんが演説をしました。

グレタさんは、昨年8月、たった一人で毎週金曜日に学校を休み、国会議事堂の前で環境破壊
(温暖化)阻止のための抗議運動を始めました。彼女委はこれを「学校ストライキ」と呼んで
います。

そして、昨年12月にポーランドで開かれた国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)
や、今年1月の世界経済フォーラム年次総会(WEF、ダボス会議)で演説を行なうなど精力的に
活動してきました。

そこで、グレタさんは「パニックになってほしい。私が毎日感じるような恐怖を感じてほしい」
と訴えました。

気候変動の危機を警告する「メッセンジャー」として、独特の表現で大人たちの不作為を糾弾し
てきた。温室効果ガスを減らすため、遠距離移動でも飛行機には乗らず、電気自動車や電車を利
用することでも知られています(注1)

続いてイギリスで今年の1月15日から一週間の予定で始まった、「絶滅への反逆(Extinction
Rebellion)」と名付けられた抗議運動は、21日に7日目を迎え、ロンドン中心部のマーブルアー
チで行なわれた「集会には何千もの人が集り、グレタさんがステージに登壇すると、群集からは
「あなたが大好き」とのコールが上がったという。

気候変動を食い止めるための国際的な活動を啓発してきたことで高く評価されているグレタさん
は、群集に対し「人類は分かれ道に立っています」と訴えました。

そして、自分は「地球のために戦い続けます」と戦いを宣言し、「政治家や権力者は長い間、気候
や生物学的な危機に立ち向かうようなことを何ひとつせず逃げてきました。しかし私たちが、これ
以上彼らが逃げ続けないようにしていくのです」と強い言葉で気候変動を食い止めるための戦いを
宣言しました。

この日に7日目を迎えた抗議運動では、活動家たちが道路を占拠して交通が麻痺するなど、公共の場
で秩序を乱したなどとして21日19時の時点で963人の逮捕者まで出ています(注2)。

そして3月15日の行動では、グレタさんの呼びかけに応じて、フランス、イタリア、ドイツ、カナ
ダ、オーストラリア、アメリカ、チリなどで400万人がデモに参加しました[注1と同じ] 。

この流れその後も途絶えることなく、9月23日にニューヨークで行われた国連のサミットに合わせ
て、「グローバル気候ストライキ」と称するデモが20日から27日の8日間で実施され、185カ
国で760万人以上が参加したと、主催した国際環境NGO「350.org」が発表しました。

中でも、イタリアの150万人が最も多く、ドイツの140万人、カナダの80万人と続きました。
グレタさんは27日、50万人が参加したカナダのモントリオールのデモに参加しました(注3)。
日本からも各都道府県で合計5000人が参加したと報道されています。

さて、国連でのスピーチですが冒頭でグレタさんは、「私たちはあなたたちを注意深く見ている。そ
れが、私のメッセージだ」(原文は、"My message is that we'll be watching you.)という言葉か
スピーチを始めました。この場合の「注意深く見ている」は、むしろ「監視している」という気持ち
なのでしょう(注4)。

以下に、グレタさんのスピーチから、いくつかの言葉を取り上げてみます。
    
    人々は苦しみ、死にかけ、生態系全体が崩壊しかけている。私たちは崩壊しかかっているの
    に、あなたたちが話すのは金のこと、永遠の経済成長というおとぎ話だけ。なんということ
    だ(よく言えたものだ)。

私は、個人的にこの部分に、ハッとさせられました。「永遠のおとぎ話」というのは、ひょっとした
ら、私も含めて環境保護に関心があることを自称している人たちが発する耳障りがいい常套句、「環境
に優しい、持続可能な成長」という言葉ではないのか、と思えたからです。

つまり、いかに「環境に優しい」とはいっても、「成長」という目的があるとしたら、それは確実に環
境破壊をもたらすのに、の「嘘っぽさ」と欺瞞性が、根本的に批判されているように感じました。

グレタさんが本当に言いたかったことを、私なりに拡大解釈すると、「環境に優しい、持続可能な成長」
という言葉こそ、大人たちが、環境破壊に目をつぶって、こっそりと豊かさを追求するための便利な口実、
フィクションでではないか、と言いたかったのではないだろうか?

グレタさんは、決して感情にまかせて、激しい言葉で大人を攻撃しているのでは会いません。彼女は常に、
「科学が示すことを直視して」といいつづけてきました。

    過去30年以上、科学は極めて明瞭であり続けた。必要な政策も解決策もまだ見当たらないのに、
    目を背け、ここに来て「十分やっている」なんてよくも言えたものだ。

その「科学」とは、気象学者たちが厳密に調査・研究した結果なのです。
    十年間で(温室効果ガスの)排出量を半減するというよくある考え方では、(気温上昇を)1.5度
    に抑える可能性は50%しかなく、人類が制御できない不可逆的な連鎖反応を引き起こす恐れが
    ある。

つまり、科学は、たとえ現在の目標である、1.5度以内に抑えられたとしても、それでは、温暖による悪影
響が連鎖的に引き起こされてしまい、そうなると、もう後戻りできない変化が起こる転換点に達してしまう
ことを示しているのです。

たとえば、この程度では永久凍土が溶けてしまい、それまで氷に閉じ込められていた温室効果ガス(メタン
や二酸化炭素=炭酸ガス)が空中に放出され、これがさらに温暖化を進めるという悪循環が始まってしまい
ます。とりわけメタンは二酸化炭素の25倍もの温室効果があります。

また、近年、北極圏の氷が溶け始めていますが、これがさらに進行すると、気象を狂わせ海水温を上昇させ
てしまい、生態系の破壊や海水面の上昇をもたらす悪循環が始まります。

    だから、50%の危険性は私たちには全く受け入れられない。私たちはその結果と共に生きてゆか
    なければならない。
    地球の気温上昇を1.5度に抑える確率を67%にするには、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
    の最善の見立てでは、2018年時点で世界に残された炭酸ガス排出許容量は4200億トンだっ
    た。現在では3500億トンを下回った。・・現状の排出レベルでは、残された炭酸ガス排出許容
    量に8年半ももたずに達してしまう。

この数字は科学的に計算されたもので、ここにグレタさんの危機感の根拠があります。ところが、これらの
数字に沿って作られた解決策や計画は全くない、という現実にグレタさんは怒っているのです。なぜなら、
これらの数字は都合が悪すぎるからです。

こうして、現在の大人世代は、自分たちの豊かさを快適さだけを追求しているけれど、その結果として生ず
る生態系の破壊や温暖化の悪影響を受けるのは、今の若者やさらにはこれから生まれてくる子どもたちなの
です。

今までは、グレタさんの世代は、自分たちの未来を壊してしまう気候変動や環境破壊にたいして抗議する動
きはありませんでしたが、グレタさんの主張に、世界の若者が、そして多くの大人も共感しました。

これから生まれてくる子どもたちは、抗議する機会も手段ももたず、将来、悪化した、あるいは破壊された
環境の中に放り出されてしまうのです。

そして最後に、強い口調でつぎのように語ります。

    あなたたちには失望した。しかし若者はあなたたちの裏切り行為に気付き始めている。全ての未来
    世代の目はあなたたちに注がれている。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない。あな
    たたちを逃がさない。私たちは今ここに一線を引く。世界は目を覚ましつつある。変化が訪れよう
    としている。あなたたちが好むと好まざるとにかかわらず。

引用文中「私たちは、今ここに一線を引く」という部分の正確な意味が分かりにくい。おそらく、この気候
変動に真剣に取り組む人と、これを無視して自分たちの豊かさだけを追求しようとしている人(大人の世代)
との間に、というほどの意味であると考えられます。

今回のサミットで77カ国が「50年の排出ゼロ」を約束したのは大きな成果だった。半面、米中やインド
など主要排出国の反応は鈍く、温度差が鮮明になったのは気になります[『朝日新聞』2019年9月25日]。

とりわけ、アメリカは来年には、排出ガス規制を定めた「パリ協定」からの離脱を決めており、そもそもト
ランプ大統領も彼が所属する共和党の多くの議員は、温暖化そのものを認めていません。

それにしても、16才(当時は15才)の少女がたった一人で始めた気候変動を阻止する運動が全世界の人
々やリ-ダーを動かし、そのために各国が具体的に前進させる上で、少なからず影響を与えたことができた
のはなぜでしょうか? 

恐らく、彼女の言葉と行動が、本当に本質を突いていたからに他ならないからでしょう。

グレタさんの活動やスピーチに対して高級ブランド「ルイ・ヴィトン」を擁するLVMHグループのベルナール・
アルノー氏は「彼女はダイナミックな少女だが、天変地異説にすっかり傾倒してしまっている」と批判しま
した(注5)

日本でも、さまざまな批判が寄せられてきましたが、それらはおしなべて、根拠のないものです(注6)

今回のサミットでは、日本は具体的な行動指針(目標)を示していないので、発言の機会が与えられませんで
した。日本の環境政策については、次回、小泉進次郎新環境相に焦点を当てて考えてみたいと思います。


(注1)『毎日新聞』デジタル (2019年5月19日 20時51:20日02:02更新)https://mainichi.jp/articles/20190519/k00/00m/040/156000c
(注2)BBCNews(2019年04月22日) https://www.bbc.com/japanese/48008960
(注3)『朝日新聞』デジタル(2019年10月1日06時45分
    https://www.asahi.com/articles/ASM9Y51B9M9YUHBI00S.html?ref=hiru_mail_topix2_6。
(注4)このスピーチの全文邦訳は幾つかあるが、ここでは『東京新聞』(2019年9月25日)のものを参照した。なお、英文の全文は、
    https://www.npr.org/2019/09/23/763452863/transcript-greta-thunbergs-speech-at-the-u-n-climate-action-summit で見ることができる。
(注5)Huffington Post (2019年09月27日 13時09分 JST)https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d8d853be4b0019647a61d4f
(注6)これらについては、Yahoo News (2019年9月27日 6:44)に具体的に書かれている。
    https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190927-00144349/



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