goo blog サービス終了のお知らせ 

大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

「ぼったくり男爵」トーマス・バッハIOC会長の野心と傲慢

2021-05-09 09:54:39 | 社会
「ぼったくり男爵」トーマス・バッハIOC会長の野心と傲慢

この夏に行われている東京オリンピック・パラリンピックに対しては、内外から逆風がふいています。

その発端の一つは国際オリンピック委員会(IOC)会長のトーマス・バッハ氏の、無神経で傲慢な発
言です。

たとえば「緊急事態宣言は五輪と無関係」というバッハ氏の発言は日本では多くの反感を呼びました。

というのも、日本および東京で緊急事態宣言が出されるほどと事態が深刻になり、重症者や死者が出
るようになっても、オリンピックは決行する、という本音がつい出てしまったことを多くの日本人が
感じ取ってしまったからです。

バッハ氏にとっては、とにかくオリンピックを実際に開催されることが彼の地位と業績を積み上げる
ために絶対に必要だからです。

この数日後、橋本聖子オリ・パラ組織委員会会長、小池東京都知事、丸川オリ・パラ担当大臣、バッ
ハIOC会長、パーソンズ国際パラリンピック委員会(IPC)会長の五者会談(リモート)では、さす
がに、不用意に“本音”を漏らすことはありませんでした。

その代わり、
    われわれは日本国政府の決定、都が要請された緊急事態宣言を尊重している。日本の国を守
    ろうという勤勉な精神を非常に称賛している。五輪コミュニティーは日本とともに歩んでい
    る。日本国民とともに歩み、思いを寄せている。
    日本の社会は連帯感をもってしなやかに対応している。大きな称賛をもっている。精神的な
    粘り強さ。へこたれない精神をもっている。それは歴史が証明している。逆境を乗り越えて
    きている。五輪も乗り越えることが可能だ。献身的な努力で未曽有のチャレンジをしている。
    ・・・・リスクを最小化し、日本国民に安心してもらえる五輪になる。
と、日本人の「勤勉な精神」、「精神的な粘り強さ」、「へこたれない精神」と、今度は短いスピー
チの中で3回も日本人の「精神」を持ち上げました。(注1)

コロナのまん延による緊急事態は、精神論で克服することはできません。ここまで露骨に日本人の精
神性を褒めたたえるのは、コロナ禍から話題をそらせて、ただただオリンピックを開催したいからで
しょう。

ここに、バッハ氏の節操のなさが余すところなく表れています。

もし今回、オリ・パラを中止すれば、IOCとIPC収入の大半を占める放映権料をはじめ、多くの協賛
金をもらえなくなる。バッハ氏にとっては、金こそが全てで、自らの死活にかかわることなのです。

何がなんでもオリ・パラを開催することにこだわっている、という点では日本の菅首相も同様ですが、
菅首相は、オリ・パラの開催を政権浮揚に利用しようとしています。

ところで、日本ではバッハ氏の影響力はかなり強いように思われていますが、海外では彼の金にたい
する執着と野心にたいする悪評は折り紙付きなのです。

しかも、バッハ氏はノーベル平和賞の受賞という野心をもっている、との噂が絶えません(注2)

また、最近では日本のテレビなどでも紹介された『ワシントン・ポスト紙』(2021年5月5日)の
「日本は損失をカットし、どこかほかにオリンピックの略奪場所を見つけるようIOCと話し合うべき
だ」というタイトのサリー・ジェンキンス氏の入りコラムを掲載しました(注3)。

このコラムでジェンキンス氏は、バッハ氏を「ぼったくり男爵」と呼んで、痛烈に批判しています。
「ぼったくり男爵」の原語は Baron Von Ripper-off で、Baron は男爵、Von はドイツの貴族の家柄
を示すタイトル、Ripp-off は「搾取」「詐取」の意味で、Ripp-erは、「そのような人」となります。
日本のメディアでは「ぼったくり」と訳しています。

このコラムは次のように書いています(以下は私の仮訳です)。
    「ぼったくり男爵」とその取り巻き偽善者たちは、国際オリンピック委員会において日本を
    彼らの踏み台とすることを決定した。・・・・・・
    もし、夏の東京大会が日本の脅威となったなら、日本のリーダーたちは、略奪するどこか他
    の領地(duchy)を探すようIOCに伝えるべきだ。
    このパンデミック(世界的大流行)の中で国際的メガイベントを開催するのは非合理的。    
    中止は大変かもしれないが、救い(cure)にもなる。

ここで「略奪するどこか他の領地」の原文は another duchy to plunder となっており、plunder と
いう、戦争あるいは豪雨等の襲撃などで暴力的に他人の領土や家に押し入って奪い取る(略奪する)
という、かなりきつい言葉です。これを「食い物にする」と訳している新聞もありますが、原文の表
現は、もっと強烈な意味を伝えています。

批判はさらに続きます。「ぼったくり男爵」とその取り巻きは、「旅行中に小麦を食べ尽くすどこか
の王族のように、ホスト(オリンピック主催地や主催国)を「麻痺させるような借金で」「破滅させ
てしまう悪癖がある」「五輪開催は常に不合理な金額の出費がかかり、そのため不合理な決定をする」、
さらにオックスフォード大学が9月に出した報告を引用して、「IOCは一貫してホスト国が負うリ
スクとコストに関して“欺いて”きた」というも批判しています。

IOCは収益を得るための施設建設やイベント開催を義務付け「収益のほとんどを自分たちのものにし、
費用は全て開催国に押し付けている」と強調した。

ここで「麻痺させるような」の原文は crippling で、もともとは手足など身体の自由が利かなくなる」
というほどの意味で、この文脈では日本経済が破綻するような、というニュアンスを伝えています。

日本はすでに巨額の資金をオリンピックに投ずることになっており(注4)、新型コロナウイルス感
染拡大下のバブル開催で1万5000人以上の訪問者を受け入れ、防疫や大規模な物流と運用コスト
提供にさらにコストがかかることなどを指摘したうえで、今すぐ損失をカットすべく開始を中止すべ
きだと言及しています。 

コロナとの関連で言えば、日本ではまだ国民の2%以下のワクチン接種率であること、政府やオリン
ピック組織委員化は開催中に1万人の医療スタッフを動員しようとしており、それに対する医療側か
らの猛反発が巻き起こっていることを指摘している。

こうした状況の中で、次のように問いかけています。

    このパンデミックの最中に、15000人もの外国人選手と関係役員を持てなすことに国民
    の72%が反対ないしは消極的であるというのに、はっきり言って、IOCは一体どのような
    立場で、オリンピックを開催に向けてすすめなければならないと、威圧的に主張するのか?

『ワシントン・ポスト』というアメリカのメジャーな新聞が、国際オリンピック委員会の会長をここ
まで、こき下ろすのは、よほどバッハ氏に強い嫌悪感を持っているからでしょう。

五輪に否定的な報道は米国で相次いでおり、ニューヨーク・タイムズ紙は4月、コロナ禍の五輪開催
は最悪のタイミングで「一大感染イベント」になる可能性があると指摘。サンフランシスコ・クロニ
クル紙は5月3日、世界で新型コロナの影響が長期化する中、東京五輪は「開催されるべきではない」
との記事を掲載しました(注5)。

また、イギリスの高級紙『ガーディアン』(2021年4月12日)は、このコロナ・パンデミックの中
で看護師協会に500人のボランディアを派遣するよう要請したことに対する森田会長の「私は、患
者と看護師の健康と命を危険にさらしてまでオリンピックを開催しようとしていることに激怒してい
る」、また、名護市の看護師の「怒りを感じるだけでなく(要求)の鈍感さに驚いた。それは人間の
生命がいかに軽視されているかを示している」という言葉を引用しています。

そして尾崎東京都医師会会長の、オリンピック開催は「極めて難しい」とのコメントも付け加えてい
ます(注6)。

ここでは直接に中止を呼び掛けているわけではありませんが、間接的にはやはり開催に否定的です。
その後、同紙(2021年5月3日)は「このショー(オリンピック)は進めなければならないのか?」
というタイトルの社説を掲げて、オリンピックの開催に疑問を投げかけています(注7)

ところで、政府は5月8日、東京など大都市への緊急事態宣言を5月末まで延長することを決定しま
した。バッハ会長は17日に来日の予定でしたから、当然、緊急事態宣言下の訪日ということになり
ます。

橋本オリ・パラ組織委員会会長は、もし受け入れれば国民からの非難は必至で、来て欲しくないとい
うのが本音でしょう。このため、8日の会見では、バッハ会長の訪日は難しくなった、との見解を示
してしめしています。

「緊急事態宣言と五輪は無関係」と言った手前、バッハ会長はどうするのでしょうか?

(注1)『デイリー』(2021年4月28日) Yahoo ニュース経由   https://news.yahoo.co.jp/articles/549c40bc4f5b2c650906ed3db6ca7b79d36ac670
(注2)『J-cast』 (2021年4月30日)
  https://www.j-cast.com/kaisha/2021/04/30410757.html?p=all
(注3)Wasihngton Post (May 5,2021)
https://www.washingtonpost.com/sports/2021/05/05/japan-ioc-olympic- contract/
(注4)日本側の投資についていて言えば、本来“コンパクト五輪”のはずだった東京五輪の予算があっというまに膨れ上がり、さらにコロナ禍が追い打ちをかけて、当初の6倍に上る1兆7000億円が見積もられている。
(注5)『産経新聞』デジタル(2021年5月6日)
https://www.sankei.com/tokyo2020/news/210506/tko2105060002-n1.html
(注6)The Guardian (3April 2021.08/07)
   https://www.theguardian.com/sport/2021/may/03/japan-nurses-voice-anger-at-call-to-volunteer-for-tokyo-olympics-amid-covid-crisis
『東京スポーツWeb』(2021年5月3日)
https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/3112722/
(注7)The Guardian (3May 2021 08 07) https://www.theguardian.com/commentisfree/2021/apr/12/the-guardian-view-on-the-tokyo-olympics-must-the-show-go-on

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« オンライン授業について―個人... | トップ | 何か変だぞペットブーム―コロ... »
最新の画像もっと見る

社会」カテゴリの最新記事