そんな小屋みたいな家から出発して、細々とと言うか気に入った仕事しかしないから、家造りやら庭仕事というかそんなことからはじめて、20年も経ってみればそこはもう木村アートの世界になっている。家のなかはもちろん家の周りもみんな彼の手がかかっており、えーっというぐらいの空間になっている。杉林というのはほとんどが放ったらかしである。そこもそうだったんだ。つまり大きな枝や葉っぱが2、30㌢は堆積している。彼云く、最初はこんだけだよと手を広げてそう1メートルぐらいを徹底的にきれいにする。地面を、肌を出してやったんだ。するとそこに苔が生えてきて、それが今では3000坪あると言う辺りの大半を苔で占めているから、おおう、なのだ。そこのあちこちに彼の造ったオブジェ(たいがい不要になった機械や道具またはおもしろい形をした木に色を塗って)がさりげなく置いてある。
77歳になった今でも、ヘビーロックを聴いている。煙草は両切りのショートピース、ヘビースモーカー。いつもあまりにそのピースをうまそうにくわえている。しかもその香りがいいものだからつい1、2本失敬して吸う。うまいのだ。けれど、もう煙草を吸わなくなってだいぶになるから途端にクラクラ来ておまけに翌晩にはもう煙草に手を出そうとはしない。それほど強い煙草だ。3日泊まった。最初から今度行く時は、チェンソーを持って行って、木を切るのを手伝うつもりでいた。だからどこかへ呑みに行こうぜや、温泉に行こうも断ってひたすら木を切ったから、だいぶ切れた。適当に細かく切ったから、彼云く一冬分たき火することできると言うていた。
毎晩のようにお酒を呑む。一晩で2人で一本呑んでいたらしい。もっぱらこちらは聞き役で、奥さんのはるみさん(この人がまたできた人、明るい、テキパキ手際がいい。彼女もデザイナーで、彼のマネジメントも)に言わせるともう最近人に会うのがおっくうらしく、ほとんど仙人状態らしい。そんななかでもニューヨークで音楽をやっているアメリカ人がやってきて、はしゃぐらしいが。そんな彼が先日どうしてもとせがまれて、高校の同窓会に顔を出したらしい。おれね、そこに行ってからひと月なんにもすることができなくなって、落ち込んでいたんだと。50何年ぶりで会う面々、誰が誰だかよく解らなかった。ともかくみんな77歳で、病気の話、老後の話で、おれも自分では粋がっているけれど、端から見ればあーなんかなとおもったら、なんかやりきれなくなったんだ。と。いやはや、木村さんあなたを見て外の連中がびっくりしたんとちがうんかな。と言ってはいたけれど。彼の気持ちもよくわかるよ。
なんだかね、ぼくより13も上なんだけど、呑んで語っていると彼は少年でいつでも熱いんだ。ぼくなんぞ中学の時からおっさん顔だから、いまだにじまっとしているばかり、けんどなんかね何をしゃっべったかというのなんにも残っていないんだ。だけどこちらのこころがふるえている、あたらしくなっているようなそんなエネルギーがいつのまにか入っているんだな。人っておもしろいね。 木村アートスタジオ