ここは赤松がよく生える。松は元来やせた土地に生える。ここの土地は赤土だからだろう、ここの山に入る時山の地肌を削って平にしてから入ったからで、その赤土に一番先に出て来たのは赤松だったのだ。松は古来からこの国では常緑のせいだろうか、それとも松林がこの国の景観を造って来た(松林図がよく描かれて来た)せいか、とても大事にされている。でその一本が枯れていて、遠くからでも枯れて茶色に変色したままで立ち木になっている。もちろんふつうの雑木でもそうだけれど、虫食いなどで枯れてしまうと、葉っぱは落ちないでそのまま付いているのだ。
あの落ち葉というのは、生きている証でもあるのだ。だからだろう、緑濃い山々のなかで、茶色になっている木を見るとなんとも惨い姿に見えるのだ。わたしというものも、この自分というものだけに執着して欲を、我がままを捨てられないでいると、やはりそうとうに醜い姿であろうことは、想像するのだが。