鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

三ツ巴透唐草文図鐔 Tsuba

2011-08-15 | 鍔の歴史
三ツ巴透唐草文図鐔 (鐔の歴史)


三ツ巴透唐草文図鐔 平安城象嵌

 透かしによる巴という構造が引き締まった空間を創出している。この意匠は古金工鐔にもあり、好まれていたことが推測される。真鍮象嵌と毛彫りによる文様表現だが、ちょっと風合いが異なっていることに気付く。平象嵌の技法を採っているのであるが、与四郎鐔とも風合いが違うのである。耳際に巴に沿った鋤き込みを加えて巴を強調しているのだが、これも心地良い。

野兎図鐔 Tsuba

2011-08-14 | 鍔の歴史
野兎図鐔


野兎図鐔 平安城象嵌

 以前紹介したことのある鐔だが、平安城象嵌鐔の歴史を眺める上で大きなかなり重要な位置付けにあると推測される鐔の一つである。装飾性が高まり、手法は古趣を充分に残してはいるものの、総体的な文様の組み合わせに新味が窺い取れるのである。様々な金属を用いている点も新しい。象嵌の表面に加えた点刻や毛彫なども変化に富んでいる。図柄が、野の様子を再現しようとしている点。それまでの単なる文様の配置を超えて絵画的である。文様の各要素に鎌倉鐔と呼ばれる鋤彫鐔の意匠に似たものがある。鉄地の表面は鍛え強く健全で色合い黒く光沢がある。88.2ミリ。

花唐草文図鐔 Tsuba

2011-08-13 | 鍔の歴史
花唐草文図鐔


花唐草文図鐔 平安城象嵌鐔

 こうして眺めてみると、真鍮象嵌鐔の面白さは一様ではないことが判る。象嵌という処理を行うために、刀匠鐔や甲冑師鐔の質とは異なる鉄質を求めている。一般的に鉄味に強みが感じられないのはここに理由がある。後の数奇者が鉄鐔を撫でたり拭き込んだりと、手を加える作業も、象嵌があるためにできない。それが故に鉄味にもう一歩というところがあるも、装飾の面白さは同時代の他の鉄鐔の比ではない。何も真鍮象嵌鐔を本質以上に高く評価しようとしているのではない、真鍮象嵌鐔が低く見られているところを嘆いているのである。この鐔などは、甲冑師鐔に象嵌を加えたものと捉えて良い作である。

平安城象嵌鐔 Tsuba

2011-08-13 | 鍔の歴史
平安城象嵌鐔 (鐔の歴史)



平安城象嵌鐔

 モノクロ写真しか残されていないが、造形や構成は分かるので参考にされたい。透かしの様子、真鍮象嵌の表面処理なども興味深い。


 この鐔は文様表現に工夫のうかがえる作。表裏の文様を違え、一部に雷文とも呼ばれる渦巻き状の構図を採っている。

唐草文花文透図鐔 Tsuba

2011-08-09 | 鍔の歴史
唐草文花文透図鐔 (鐔の歴史)


唐草文花文透図鐔

 先に紹介した鐔と同じ趣の鐔で、鉄地六ツ木瓜形の造り込み。鉄地に唐草文と家紋を真鍮象嵌する風趣は大いに流行したものとみられ、間々見かけることがある。在銘の作者から与四郎鐔、あるいは透かしの手法が別彫りの文様を嵌め込む手法から欄間の装飾に擬えて欄間透などと呼んでいる。この鐔の唐草文は、唐草というより水草を想わせよう。同時代の新趣であったと推測される。84ミリ。

唐草文家紋透図鍔 Tsuba

2011-08-08 | 鍔の歴史
唐草文家紋透図鍔 (鍔の歴史)


唐草文家紋透図鐔 銘 和泉守直正小池与四郎

 木瓜形の鉄地全面に唐草文を廻らし、所々に透かしの手法で家紋を配する表現を得意としたのが直正。一般に与四郎象嵌鐔と呼ばれている作風。この鐔はその在銘作。これが流行したと見え、同趣で無銘の上手下手がたくさん残されている。家紋の部分は真鍮になる別造りの透かし文で、丸形に透かし抜いた鐔の地に象嵌している。真鍮の表面には毛彫を加えている。73ミリ。

 下の写真は、その無銘のもので、時代は幾分下がると思われる。文の形も様々で、表面の毛彫も変化が付けられている。
75ミリ。

車透唐草文図鐔 Tsuba

2011-08-06 | 鍔の歴史
車透唐草文図鐔 (鍔の歴史)


車透唐草文図鐔 平安城象嵌

 十二方に突起のある輪宝に似て、花文とも言い得る車透の図。耳は土手耳仕立ての厚手。言わば甲冑師鐔に真鍮象嵌を施した作と見れば理解し易い。唐草の表面に毛彫を切りこんでいる点は応仁極めの作とは風合いを異にする。象嵌の落ちた部分があり、意外に浅い彫り込みであるその内部の様子など鑑賞の要素は多い。後の桃山時代末から江戸初期の京都において、唐草文と家紋、小透組み合わせた作風を特徴とする鐔を製作した、一般に与四郎象嵌鐔と呼ばれている小池和泉守直正に繋がる、あるいはその近辺の作風である。96ミリ。

兜鉢文図鐔 Tsuba

2011-08-05 | 鍔の歴史
兜鉢文図鐔 (鍔の歴史)


兜鉢文図鐔 平安城象嵌

 傷みが少ない健全体であることから時代が下がると鑑られているのであろうか、室町末期から桃山頃の平安城象嵌鐔で、風合いは兜の鉢を意匠しているようにも見え、点象嵌と線象嵌の技法は応仁。ただし線象嵌は菊花状と縄目を用いている。頗る力強い作風である。79.3ミリ。

文散図鐔 Tsuba

2011-08-04 | 鍔の歴史
文散図鐔 (鐔の歴史)


文散図鐔 応仁

 縦横がほぼ同寸の真丸形。鍛えの強い鉄地に真鍮で円を描き、特徴的な枝花文と三引両の家紋、源氏香のような櫛状の文、これらの間に点象嵌を散らしている。文様が密に施されず、ゆったりとした中に、厳しさが窺える。比較的時代が上がるのであろうか、おおらかな印象がある。切羽台辺りの地面に鎚目を打ち込んでおり、鐔あるいは切羽と刀身の緩衝としている。実用を考えた鐔である。93ミリ。

花文猪目透図鐔 Tsuba

2011-08-03 | 鍔の歴史
花文猪目透図鐔 (鍔の歴史)


花文猪目透図鐔 応仁

 応仁極めの中では様子の異なる鐔。花文としたが、大胆な透かしは輪宝を想わせる八方の構成。線象嵌と櫃穴周囲の菊花状線象嵌、花文は応仁の要素を充分に備えているも、他の応仁鐔に比較すると、菊花状線象嵌や花文表面の鋤き込みに鏨の痕跡が強く残されており、点象嵌の処方も強い鏨の打ち込みで二方向から挟み込むような据え方である。線象嵌の周囲にも象嵌を抑え込むような鏨の痕跡がある。頗る興味深い作の一つである。85ミリ。

文散図鐔 Tsuba

2011-08-02 | 鍔の歴史
文散図鐔 (鐔の歴史)


文散図鐔

 平安城象嵌鐔として紹介したこともあるが、このように比較してみると、どうやら応仁鐔に近い作として捉えたほうが良さそうだ。時代も古そうで、決して桃山時代までは下がっていないと思われる。主題は龍で、海老や、応仁にままみられる基本的な菊花など。文様を散らし配している様子も他の応仁に似ている。広く眺めれば新たな文様表現が追求されていると考えられる。かなり面白い、興味深い資料である。菊花の表現はそのままだが、海老には三角鏨が打ち込まれている。一部だが鋤彫も加えられている。応仁鐔と平安城象嵌鐔の線引きは難しい。86.3ミリ。□