鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

浜松千鳥図鐔 奈良利治 Toshiharu‐Nara Tsuba

2011-08-27 | 鍔の歴史
浜松千鳥図鐔 奈良利治 (鐔の歴史)

 金家の銘が刻された作で、明らかに後代の作であるという例は多々見かける。残念ながら、それらの資料写真は残してない。銘の切り方も違えば、造り込み、高彫の様子、象嵌の過多も気になり、明らかに金家ではないとみる。だが先に述べたように、これらの後代の作が遡って真作に近づいてゆくと、どこで真偽の線引きをすべきかわからなくなるポイントがでてくるのが現実である。
 以下紹介するのは、金家の作風を手本とし、独創を加えていったであろう金工や鐔工の作例である。


浜松千鳥図鐔 奈良利治作

 金家の風合いを正しく継いでいるというわけではない。山水図を基礎にし、高彫色絵象嵌によって江戸好みの風景図を専らとしたのが奈良派である。鏨の使い方による違いであろう、奈良派独特の風情を感じとってほしい。
 鉄地を素材とし、耳際には打返しなどの手を加えずに平坦な処理。鎚の痕跡を残して空間を演出しているが、金家のような、鎚目の抑揚は強くない。松樹の表情が素敵だ。この手は古金工にも、金家にも見当たらない。千鳥の舞い踊る様子も高彫だが、さて、その周囲にみられる微妙な線は何だろうか気になる。可能性として、金家の採った共鉄象嵌が挙げられよう。
 作者の利治は、奈良派でも有名な利寿、乗意、安親の先輩に当たる金工。江戸金工の祖の一人と捉えれば判り易い。79ミリ。

鐔の歴史

2011-08-27 | 鍔の歴史
鐔の歴史

 現在、手許に三枚の金家と銘された鐔がある。一点は月刊『銀座情報』の11月号で紹介する予定である。少々お時間をいただきたい。もう二点は、古代中国の伝説を題に得た同図。これについては現在精査している最中であり、解説するまでに至っていない。いずれ紹介する機会があると思う。義経と弁慶の図のように、同図が存在するということは、1.複数製作した。2.前作を手本とした後の金家がある。3.全くの偽物である。4.この図が様式として存在する。以上のいずれかと考えられる。良く知られている例では、歌川広重の浮世絵版画連作『東海道五十三次』には規範となる様式化された図があったことと同様、あるいは我が国の古典、『源氏物語』の挿絵が次第に定型化されたように、古くから語り継がれてきた古典には、その挿絵とされるような典型的図が存在したのではないだろうか。金家の得た主題も、そのような例であったとも考えられる。中国の古典が、かつては教育に利用されていたことも事実。現代、我々が画題というように、画題は、画題を聞いただけで内容が判明してしまうように、かつては誰もが画題とその意味を知っていたのではないだろうか。