須川のおいやんと岩魚
和歌山串本に住んでいた子どもの頃、近所に須川さんという人がいた。
時計店を営まれ、ぼくは「須川のおいやん」と呼んで、よく家にも遊びに行った。
おいやんは和歌山県古座川奥の松根の出身と聞いている。
(松根の里)
おいやんが子どもの頃、学校まで何キロもの道のりを歩いた話。
冬の朝、みんなで登校中、見つけた氷に穴をあけて縄を通し、引っぱりながら学校に向かったという話。
おいやんから聞いたそんな話を今も思い出す。
(学校跡)
鮎とりが大好きで、しかも上手。子どもの頃、ぼくもよく連れて行ってもらった。
ある夏の日、古座川へ鮎とりに行ったときのこと。おいやんが岩の上で指差し、「あれは岩魚じゃあのう」と言った。
「どこどい?」
「いや、もうおらん。あれは人の影エ見たらジッキに隠れるよ」
当時、ぼくは岩魚の名前も姿も知らなかった。
(古座川上流)
岩魚 ふたたび
このことを思い出したのはそれから何十年も後。ぼくが京都でアマゴ釣りを始めたときのことだ。
串本へ帰省するたび、ぼくは古座川へも釣りに行った。しかし、古座川の奥へ行っても岩魚には出会えなかった。
あるとき、おいやんが老人福祉施設に入っていることを聞き、会いに行った。
おいやんはもう起き上がれなかったが話はできた。そのおり、ぼくは改めて古座川の岩魚の話を聞いてみた。
おいやんは「岩魚?おるよ。コサメも岩魚も何でもひととおり、みいんなおるよ」と答えてくれた。
しかし、資料にあたっても、古座川に岩魚がいるということは書かれていない。ヤマト岩魚の地域型変種「キリクチ」は十津川水系の上流に生息し、これが岩魚の南限である、とのことだけだ。
(松根の川)
まぼろしか? 古座川の岩魚
ならば、岩魚は元々いなかったのか。
いや、古座奥で育ち、無類の川好きで何でも知っていたおいやんが言う岩魚、これは確実にいたとぼくは信じる。
では絶滅したのか?
おいやんが古座奧で過ごした幼少期は100年近く昔のことだ。
しかし、絶滅はそう簡単ではないはず。
なぜ釣れないのか?
10年ほど前の話。ぼくが滋賀県安曇川の上流でアマゴを釣っていたとき、急峻な谷から釣り人が降りてきた。その人はぼくに「ミミズで釣った」のだと岩魚を見せてくれた。その谷はとてもルアーなどは投げられない、狭く急な谷だった。いわゆる「ちょうちん釣り」しかできないような。
古座川に今も岩魚がいるとしたら、そんな隠れた谷かもしれない。
(松根地域に流れ込む支流)
おいやんには、いっしょに古座奧に出かけ、昔の話を聞いてみたかった。
「岩魚は絶対生き残ったあるで、のう」
すでに串本の墓に眠るおいやん。
ぼくはそう語りかけたい。
和歌山串本に住んでいた子どもの頃、近所に須川さんという人がいた。
時計店を営まれ、ぼくは「須川のおいやん」と呼んで、よく家にも遊びに行った。
おいやんは和歌山県古座川奥の松根の出身と聞いている。
(松根の里)
おいやんが子どもの頃、学校まで何キロもの道のりを歩いた話。
冬の朝、みんなで登校中、見つけた氷に穴をあけて縄を通し、引っぱりながら学校に向かったという話。
おいやんから聞いたそんな話を今も思い出す。
(学校跡)
鮎とりが大好きで、しかも上手。子どもの頃、ぼくもよく連れて行ってもらった。
ある夏の日、古座川へ鮎とりに行ったときのこと。おいやんが岩の上で指差し、「あれは岩魚じゃあのう」と言った。
「どこどい?」
「いや、もうおらん。あれは人の影エ見たらジッキに隠れるよ」
当時、ぼくは岩魚の名前も姿も知らなかった。
(古座川上流)
岩魚 ふたたび
このことを思い出したのはそれから何十年も後。ぼくが京都でアマゴ釣りを始めたときのことだ。
串本へ帰省するたび、ぼくは古座川へも釣りに行った。しかし、古座川の奥へ行っても岩魚には出会えなかった。
あるとき、おいやんが老人福祉施設に入っていることを聞き、会いに行った。
おいやんはもう起き上がれなかったが話はできた。そのおり、ぼくは改めて古座川の岩魚の話を聞いてみた。
おいやんは「岩魚?おるよ。コサメも岩魚も何でもひととおり、みいんなおるよ」と答えてくれた。
しかし、資料にあたっても、古座川に岩魚がいるということは書かれていない。ヤマト岩魚の地域型変種「キリクチ」は十津川水系の上流に生息し、これが岩魚の南限である、とのことだけだ。
(松根の川)
まぼろしか? 古座川の岩魚
ならば、岩魚は元々いなかったのか。
いや、古座奥で育ち、無類の川好きで何でも知っていたおいやんが言う岩魚、これは確実にいたとぼくは信じる。
では絶滅したのか?
おいやんが古座奧で過ごした幼少期は100年近く昔のことだ。
しかし、絶滅はそう簡単ではないはず。
なぜ釣れないのか?
10年ほど前の話。ぼくが滋賀県安曇川の上流でアマゴを釣っていたとき、急峻な谷から釣り人が降りてきた。その人はぼくに「ミミズで釣った」のだと岩魚を見せてくれた。その谷はとてもルアーなどは投げられない、狭く急な谷だった。いわゆる「ちょうちん釣り」しかできないような。
古座川に今も岩魚がいるとしたら、そんな隠れた谷かもしれない。
(松根地域に流れ込む支流)
おいやんには、いっしょに古座奧に出かけ、昔の話を聞いてみたかった。
「岩魚は絶対生き残ったあるで、のう」
すでに串本の墓に眠るおいやん。
ぼくはそう語りかけたい。
中流域に流れ込む支流周辺に住んでる人も
釣れるって言ってるんですよね。
まぁ釣りしない友人の地元の親族が言ってるようなので?ですが。
その支流は去年何度か行きましたが岩魚はさっぱりです。
釣れるのだったら楽しみがひとつ増えるのですが。
こればかりは手にしてみないとどうも?というところです。
でも、温暖化の急速な進行は容赦ないかも知れません。
岩波新書「イワナの謎を追う」?でしたか、北海道を舞台に種の異なるイワナが長い自然史的時間の経過の中で、ゆっくりと分布を変えていることには驚きます。
イワナの南限を是非確かめたてみたいとは思うのですが。
雨はどうですか、十津川、熊野方面に重ねて災害が起こらねば良いのですが。
こちら京都も夜になって雨脚が強まってきました。では。
今、釣れるイワナは放流モノですけど・・・
明治22年だったかな?今回と同じ様に大水害で、多分土石流?で全滅してしまったと聞きました。
古座川でもその可能性は有ると思います。
古座川のイワナは夢のまた夢です。
絶滅と思いつつも、ぼくは夢の中で見続けたいと思っています。
100年前、あるいはそれ以上前、ダムもなく、鮎が海から奥地まで遡上していた時代。渓谷がどんな姿で、どんな魚が棲んでいたのか。かなわぬことながらタイムスリップしてみたい、などと夢想してしまいます。