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とりがら時事放談『コラム新喜劇』



いつの間に眠ってしまっていたのか、気がつくと列車はスピードを落とし、トロトロと走っていた。
「○○△△××○○△○○!........」
なにやら外から叫ぶような大きな声が聞える。
この声で目覚めたようだ。
眠い目をこすりながら起き上がり、真っ暗な窓に顔を近づけると、ガラスの向こう側に人の顔があってビックリした。
距離にして3センチ。
思わず声を上げそうなくらいビックリしたのだ。
なんせ、ガラス板1枚挟んで、向こう側に顔が浮かび上がっているのだからビックリするのも当然だ。
だいたい走っている列車の窓の向こう側に人の顔があるなどということを誰が想像できるだろうか。
いや想像できまい。
私は一瞬ミャンマーの「ナッ」が本当に現れたのかと思った。
ちなみに「ナッ」とはハナ肇の挨拶ではない(古い)。
「ナッ」とは土着の精霊信仰の神様のことで、タイやベトナムでは「ピー」と呼ばれ、日本では極めて形式化して神道における八百万の神様と呼ばれているが、つまり仏教国に欠かせない土着信仰のことだ。

「なにか飲み物は要りませんか?って言っているんですよ」
Tさんが眠そうな目をこすりながら、上段のベットから降りてきて私の向かいに腰かけながら説明してくれた。
そうか、彼らは物売りなのか。
ということは、列車がトロトロ走っているのは駅に近づいたからであり、間もなく最初の停車駅タウングーの駅へ到着するということだ。
腕時計を見ると午後9時40分。
ダイヤ通りの到着だ。
旅行社が私に送ってくれた電子メールに記されていた「ダゴンマン列車は比較的時間通りに走ります」という情報は、ここでも正確なものであることが実証された。
なかなかやるじゃないか。ミャンマー国鉄。JRならぬMR。
外にはポツポツと明かりも見えてきた。
ふと隣の座席を見ると、暗がりの窓にピッタリ顔を貼り付けてにこやかに呼びかける売り子の顔を目撃した石山さんが「キャッ」と引きつっていた。

列車が停車すると売り子の群れがやって来た。
ある者は「飲み物はいかがッスか」と叫び、またある者は頭にマンゴスチンの束を乗っけて窓に近づいてきた。
窓を開けると、プラットホームからワイワイ騒いで首を突っ込んでくる。
「何か飲み物でも要りますか」
とTさんが言ったので、喉が渇いていた私はコーラを飲みたいと言った。
Tさんはミャンマー語で中学生ぐらいの年端の男の子になにやら伝えた。すると彼は一目散に駅舎に向かって走り出したのだった。
「あ、コーラがいくらか訊くの忘れちゃいました」
と私が言うと、Tさんも「あっ」という表情をした。
まあここはミャンマー。そんなに高いことは云わないだろうと思ていると、またまた駆け足で戻ってきた男の子が手渡してくれたコカコーラ350mlは1缶2000チャットであった。
2000チャットというと日本円で200円である。
ボッタクリであった。

だいたいミャンマーにはコカコーラの工場はない。
かつて数年前。ペプシコーラがミャンマーに工場を作ったことがあったそうだが、アホなアメ公の市民団体が「人権を無視。市民を弾圧し続ける軍事政権のミャンマーに工場を作り、乏しい民から利益を貪るというのは許せない!」などと宣い、そのあまりの下品さ、否、正義の主張にペプシは恐れをなして撤退してしまったということだ。
アメリカ企業もご苦労様なことである。
この市民団体の皆さんはきっとミャンマーに来たことがないまま反対運動をしたのだろう。
ミャンマーが「民主的でない」と言うのであれば、中国にも「人権弾圧をするな!」となぜ抗議しないのかわからない。
きっと強きを助け、弱きを挫く、弱い者イジメの好きな市民団体なのだろう。さすがアメリカの市民団体だと思った。

そういうことで、ミャンマーで売られているコカコーラはお隣のタイからの輸入品である。
赤いお馴染のパッケージにはタイ語で「コーラ」と書かれている(と思う)。
タイ文字で書かれているので読めないのだが、明らかにローマ字の「ター」に似た文字(ホントはコークワーイとかコーカイとかいったタイのアルファベットが英文字のアルファベットのTARに似ているのだ-解説)が表記されており、但し書きも全てタイ文字であった。
バンコクのファミマやセブンイレブン、ジャスコで買うと、1缶わずか10バーツ(約28円)ほどしかしないコカコーラが200円なので、怒らないほうがおかしい。
ミャンマーの公務員の基本給は月給6USドル相当だというこだから、このガキはコーラ1缶で公務員の1週間以上の収益を稼いだというわけだ。

つづく

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