辺りが明るくなりはじめた頃、やっとのこと眠気が兆してきた。
「ドンドンドンドン!」
一瞬うつらうつらしたところを誰かが窓を強く叩いた。
どうせ物売りかなんかだろう。
タウングーの駅の物売りたちを思い出して無視することにした。こっちとしてはやっとこさ眠気が兆してきたところなのだ。
「ドンドンドンドン!」
また叩く。
しかも何か叫んでいる。
眠い目をして身体を起こし外を見ると車掌のオッサンが何か叫びながら窓を叩いているのだ。
私は窓を開けた。
オッサンは私向かって大声で話しはじめた。しかもかなり深刻な表情をしてまくし立てているのだ。
しかし車掌のオッサン。申し訳ないがいくら真剣に語りかけてくれても私にはあなたの言っていることがまったくわからない。
できれば日本語か英語で話していただきたい。100歩ゆずってタイ語で話していただきたい。
こっちは不勉強な旅行者なのでミャンマー語はまったく理解できないのだ。
「TさんTさん、車掌さんが何か言ってますよ」
と私はTさんを揺り起こし、車掌のオッサンが私たちに何を言わんとしようとしているのか訊いてもらおうと思った。
Tさんが話しかけるとオッサンも言葉の通じる人が現れて安心したのかTさんになにやら盛んに話している。
Tさんも何やらオッサンに話をしているがさっぱり分らない。
ボンヤリと2人の会話を聞いているうちに、隣のベットで眠っていた石山さんとシャンの男性が起きてきた。
「どうしたんですか?」
と石山さん。
「車掌さんが何か言ってるんですけど.........」
そこまで言いかけると、車掌との話を終えたTさんが、私たちの方を振り返り恐るべきことを告げたのだった。
しかも顔色一つ変えずに。
「この先の鉄橋が雨で流されたみたいですね」
列車はすれ違いのために待機しているのではなかった。
もちろんマンダレーに近づいて時間調整のために停車しているのでもなかった。
理由はただ一つ「前方の鉄橋が洪水で流された」からだった。
雨期末期のミャンマーは度々洪水に見舞わられる。
雨期は6月に始まり10月に終るが今は9月下旬。雨期末期といってもまったく問題ない季節であろう。
問題があるのは予想外のトラブルが発生したということであった。
「うそ~!」
と石山さんは驚愕の声を上げたがウソではなかった、これは現実であった。
「どうなるんでうかね」
とTさんに訊いた。
「さあ、どうなるんでしょう」
とTさんも途方に暮れている様子だった。
「ちょっと駅まで行ってきます」
と言ってTさんは列車から降りて駅舎に向かって歩いて行ったのだった。
車内に目を戻すと石山さんが呆然としている。
シャンの男性と目が合ったが、彼はニッコリ笑って往年の人気アイドルピンクレディーのUFO(古る)の出だしの振付のような格好に手を合わせ、手の先どおしをグット下にVの字に折って私たちに鉄橋流失の現状を復唱してくれた。
つまり「ここで鉄橋が折れッちゃっているよ」ということを陽気に笑顔で教えてくれたのだった。
それにして私たちはこれからどうなるのだろうか。
私はまだいい。
なんせガイドのTさんがいるから。
しかし石山さんは一応一人旅だ。マンダレーへ着くと彼女のガイドが待ってくれているそうだが、列車の中にはガイドがいない。
とても心配そうだ。
いつ動き出すのかわからない列車の中。私は波乱のミャンマー滞在三日目の朝を迎えていたのだった。
つづく
「ドンドンドンドン!」
一瞬うつらうつらしたところを誰かが窓を強く叩いた。
どうせ物売りかなんかだろう。
タウングーの駅の物売りたちを思い出して無視することにした。こっちとしてはやっとこさ眠気が兆してきたところなのだ。
「ドンドンドンドン!」
また叩く。
しかも何か叫んでいる。
眠い目をして身体を起こし外を見ると車掌のオッサンが何か叫びながら窓を叩いているのだ。
私は窓を開けた。
オッサンは私向かって大声で話しはじめた。しかもかなり深刻な表情をしてまくし立てているのだ。
しかし車掌のオッサン。申し訳ないがいくら真剣に語りかけてくれても私にはあなたの言っていることがまったくわからない。
できれば日本語か英語で話していただきたい。100歩ゆずってタイ語で話していただきたい。
こっちは不勉強な旅行者なのでミャンマー語はまったく理解できないのだ。
「TさんTさん、車掌さんが何か言ってますよ」
と私はTさんを揺り起こし、車掌のオッサンが私たちに何を言わんとしようとしているのか訊いてもらおうと思った。
Tさんが話しかけるとオッサンも言葉の通じる人が現れて安心したのかTさんになにやら盛んに話している。
Tさんも何やらオッサンに話をしているがさっぱり分らない。
ボンヤリと2人の会話を聞いているうちに、隣のベットで眠っていた石山さんとシャンの男性が起きてきた。
「どうしたんですか?」
と石山さん。
「車掌さんが何か言ってるんですけど.........」
そこまで言いかけると、車掌との話を終えたTさんが、私たちの方を振り返り恐るべきことを告げたのだった。
しかも顔色一つ変えずに。
「この先の鉄橋が雨で流されたみたいですね」
列車はすれ違いのために待機しているのではなかった。
もちろんマンダレーに近づいて時間調整のために停車しているのでもなかった。
理由はただ一つ「前方の鉄橋が洪水で流された」からだった。
雨期末期のミャンマーは度々洪水に見舞わられる。
雨期は6月に始まり10月に終るが今は9月下旬。雨期末期といってもまったく問題ない季節であろう。
問題があるのは予想外のトラブルが発生したということであった。
「うそ~!」
と石山さんは驚愕の声を上げたがウソではなかった、これは現実であった。
「どうなるんでうかね」
とTさんに訊いた。
「さあ、どうなるんでしょう」
とTさんも途方に暮れている様子だった。
「ちょっと駅まで行ってきます」
と言ってTさんは列車から降りて駅舎に向かって歩いて行ったのだった。
車内に目を戻すと石山さんが呆然としている。
シャンの男性と目が合ったが、彼はニッコリ笑って往年の人気アイドルピンクレディーのUFO(古る)の出だしの振付のような格好に手を合わせ、手の先どおしをグット下にVの字に折って私たちに鉄橋流失の現状を復唱してくれた。
つまり「ここで鉄橋が折れッちゃっているよ」ということを陽気に笑顔で教えてくれたのだった。
それにして私たちはこれからどうなるのだろうか。
私はまだいい。
なんせガイドのTさんがいるから。
しかし石山さんは一応一人旅だ。マンダレーへ着くと彼女のガイドが待ってくれているそうだが、列車の中にはガイドがいない。
とても心配そうだ。
いつ動き出すのかわからない列車の中。私は波乱のミャンマー滞在三日目の朝を迎えていたのだった。
つづく