人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

萩原麻未+フィルハーモニア台湾でグリーグ「ピアノ協奏曲イ短調」を聴く

2012年11月10日 06時58分39秒 | 日記

10日(土).昨夕,東京オペラシティコンサートホールでフィルハーモニア台湾のコンサートを聴きました プログラムは①チャイコフスキー「幻想序曲”ロミオとジュリエット”」,②グリーグ「ピアノ協奏曲イ短調」(ピアノ:萩原麻未),③ドヴォルザーク「交響曲第9番”新世界より”」の3曲.指揮は台湾出身でブザンソン,ペドロッティ,コンドラシンの三大国際指揮者コンクールの優勝者リュウ・シャオチャです

フィルハーモニア台湾は1986年創設の若いオーケストラですが,これまでマゼール,バルシャイ,スラトキン,ホグウッドなどの著名な指揮者がタクトを振ったとのことです

萩原麻未は,言うまでもなく広島市出身,2010年第65回ジュネーブ国際コンクールで日本人として初めて優勝した若手のホープです パリ国立高等音楽院を首席で卒業後,パリを拠点に演奏活動を行い,今年の秋からザルツブルクのモーツアルテウム音楽院で研鑽を重ねています.日本では,今年2月17日にサントリーホールで開かれた南西ドイツ放送響とのラヴェルの「ピアノ協奏曲」と,8月11日にすみだトりフォニーホールで開かれた新日本フィルとのラヴェルの同曲の演奏が記憶に新しいところです 今回は,初めて彼女の弾くグリーグの協奏曲が聴けるので楽しみにしていました この日も,風邪薬の眠気をコーヒーで打ち消してコンサートに臨みます

 

          

 

自席は1階8列1番,かなり前の左サイドです.会場は7~8割程度の入りでしょうか オーケストラの面々が登場します.通常コンマスは後から拍手に迎えられて登場しますが,このオケは他のメンバーと一緒に登場します オケの編成はオーソドックスで,左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,後ろにコントラバスという配置です

1曲目のチャイコフスキー「幻想序曲”ロメオとジュリエット”」はシェイクスピアの作品にインスピレーションを得て書かれた作品です.単一楽章から成りますが序曲とはいえ20分程を要する堂々たる曲です

リュウ・シャオチャのタクトで冒頭の暗くて重い序奏が奏でられ,物語の悲劇性を暗示します 次第に劇的な展開を見せて悲劇の結末を迎えます 左サイド席で上に天井(2階の床)がある席の位置のせいか,音がこもって変に偏っていて音楽の響きを正確に把握することができません.熱演であることは判るのですが,それがストレートに伝わってきません

さて,ピアノが中央に設置されていよいよ萩原麻未の登場です.鮮やかな赤のドレスを金色の幅広のベルトで締めた衣装で登場します いつもながらあどけない顔つきです.

グリーグの「ピアノ協奏曲イ短調」は1868年に作曲者が25歳の時に作曲されました.自席からはピアニストの背中を見ながら演奏に耳を傾けることになります 冒頭,ティンパ二の連打に導かれてピアノが強打され,曲の幕開けを告げます.萩原麻未は最初から全開です.第1楽章終盤のピアノ・ソロによるカデンツァのような部分を表情豊かに奏でます 会場は物音ひとつ立てず,萩原のピアノを一音でも聴き逃すまいと耳を澄ませています

第2楽章「アダージョ」のピアノの繊細な美しさは格別です 萩原のピアニッシモには底力があります.どんなに小さな音でも美しく存在感を示します.そして切れ目なしに第3楽章に突入します.萩原は快調に飛ばし,オケは必死についていく,というパターンで音楽が続き,フィナーレのクライマックスを迎えます 萩原は,ピアニッシモからフォルテッシモまで明確な音で音楽を表現します

盛大な拍手に何度も舞台に呼び戻されますが,その都度,あどけない顔に笑みを浮かべて深々と一礼します この人の特徴は,どんなに困難な曲も楽々と(見える)弾き切って,あっけらかんとしていることです.この日も,やっぱり萩原麻未は凄いと思いました.彼女の演奏が聴けたので,もう帰っても良いかなと思ったのですが,せっかくなので後半も聴くことにしました

久我山在住のAさんとその幼馴染のTさんもこのコンサートに来ているはずなので,休憩時間に探しました.やっと,1階後方席にAさんの姿を発見したので,話しかけました Tさんは風邪で来れなかったとのことで,この日は別の友人とご一緒でした.Tさんお大事に ホワイエに出ると日本語と中国語が入り乱れていました

ドヴォルザーク「第9交響曲」はあまりにも有名ですが,第2楽章「ラルゴ」でイングリッシュ・ホルンによる”家路”のメロディーは郷愁を誘います 残念ながら第4楽章で管楽器が乱れ,演奏に傷がついてしまいましたが,まだ若いオーケストラですから,早く立ち直ってほしいと思います

アンコールに①ドヴォルザーク「スラブ舞曲 作品46-8」が勇ましく,そしてハイゼン・シャオという多分台湾の作曲家の「フォルモアからのエンジェル」がメロディアスに演奏されました.アンコールの方が絶好調だったような気がしますが,言い過ぎでしょうか

フィルハーモニア台湾は初めて聴きましたが,まだ若いオーケストラということもあって,在京オーケストラのレベルには達していないと思いました.これからレベルアップしていくことを期待したいと思います

 

          

 

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ダン・タイ・ソンのベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番、5番」を聴く 

2012年11月09日 06時56分51秒 | 日記

9日(金).田中真紀子文部科学相が3大学の新設を不認可とした問題は、「現行制度にのっとり適切に対応する」ということで決着をみたようです ご本人は「役所の壁は固くて高い」とのたまわっているようですが、この1週間、翻弄された3つの大学はじめ関係者は、混乱し田中、騒動に真紀子まれて迷惑千番・笑止千万・カステラ一番でしたね・・・・・なんのこっちゃ

 

  閑話休題  

 

一昨日に次いで、昨夕すみだトリフォニーホールで、ダン・タイ・ソンのピアノ、クラウディオ・クルス指揮新日本フィルの演奏によりベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会の第2夜「第4番」と「第5番”皇帝”」を聴きました 第1夜に続いて元の職場のA君の計らいでチケットが手に入ったものです A君ありがとう

 

          

 

この日の自席は1階1列28番,最前列のヴィオラの前の席です.最前列はほぼ10年前に東京オペラシティコンサートホールでストラディヴァリウス・コンサートを聴いたとき以来です.この時も招待席でした.自ら最前列のチケットを買うことはまずあり得ません あまりにも前過ぎて,ほとんどの演奏者の顔が見えません ピアノがなければ西江コンマスはじめヴァイオリン奏者が見られるのでしょうが

1曲目の第4ピアノ協奏曲は1805年から翌年にかけて作曲されました.冒頭ピアノの独奏から入るなど革新的な手法をとっています 初演は1808年12月22日,アン・デア・ウィーン劇場で,交響曲第5番”運命”や第6番”田園”の初演とともに,ベートーヴェン自身のピアノによって挙行されました

ダン・タイ・ソンのピアノのソロで第1楽章が始まります.ピアノの近くにいるせいか,一音一音が明確に分かれて聴こえます いつも会場の中央より後方で聴いていると,反響音のせいかひとつの流れとして聴こえるのですが.これは新鮮な驚きでした

ヴィオラがすぐ目の前で演奏しているので,自然と演奏者のスタイルに目がいきます 女性は一律に上下黒の衣装を着ているので,誰もが同じかと思ったら,一人一人が微妙に違う衣装を身に着けていることが分かりました また,ヴァイオリンの顎当ての部分も男女問わず,一人一人が違います.これも新鮮なでした.

休憩時間に2階のホワイエに行くと,すでにワイングラスを手にしたA君が待っていました 私は風邪薬を飲んでいる関係でアルコールは酒,もとい避け,コーヒーを飲みました 近くにいた女性の二人ずれが前半の演奏について語っているのが耳に入りました

「まじめなベートーヴェンだったね」

「うん,正しいベートーヴェンだよね(笑)」

案外この二人の感想はダン・タイ・ソンの演奏の核心を突いているのではないかと思います

後半の第5ピアノ協奏曲は1809年~10年に作曲されました.ベートーヴェンが名づけた訳ではありませんが,”皇帝”という愛称に相応しいスケールの大きく勇壮な曲です

クルスの指揮でオーケストラの和音が鳴り響き,続いてピアノ独奏が勇壮なパッセージを奏でます ダン・タイ・ソンはこの曲の方がノリがいいようです.オーケストラの弦楽器が総奏する場面では,床面を通して振動が客席まで伝わってきます.これは最前列ならではの醍醐味でしょう

2夜連続でベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を聴いた感想は”楷書体の演奏”とでも表現したら良いようなキッチリした,遊びのない,まじめな演奏でした

 

          

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ダン・タイ・ソンのベートーヴェン「ピアノ協奏曲第1番~第3番」を聴く

2012年11月08日 06時59分48秒 | 日記

8日(木)。昨夕、すみだトリフォニーホールでダン・タイ・ソンのピアノ、ブラジル生まれのクラウディオ・クルス指揮新日本フィルによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会の第1夜「第1番、第2番、第3番」を聴きました 職場以外にも知人・友人の多い,元の職場のA君の格別の取り計らいでチケットが手に入りました この日も風邪で体調が万全とは言い難い状況でしたが,薬を飲んで眠くなるのをコーヒーを目覚まし代わりにして臨みました これじゃあ風邪,治らないか・・・・・・

ダン・タイ・ソンはベトナム・ハノイ生まれ,モスクワ音楽院に学び,1980年のショパン国際コンクールでアジア出身のピアニストとして初めて優勝し,世界的な注目を集めました 2010年の第16回ショパン国際コンクールでは審査員を務めました

 

          

 

自席は1階29列25番で,1階席の一番後ろのやや右サイドの席です.会場は残念ながら5~6割の入りです

バックを務める新日本フィルは西江氏がコンマスを務めます.ダン・タイ・ソンが指揮者クルスと共に登場しますが,クルスが大柄なのでダン・タイ・ソンが小さく見えます

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番ハ長調は,実質的には2番目に作曲された曲です 出版の関係で順番が入れ替わったのです.この日のプログラムは第1番から順番に第2番,第3番という順に演奏しましたが,考えようによっては第2番,第1番,第3番の順に演奏してもいいのではないかと思います

第1番と第2番を聴いて,休憩時間になったので,A君とコーヒーを飲みながら話をしました.「高音がきれいだったね」と言うと,A君は「上質なウィスキーをいただいているような感じでした」と言います.う~ん,私にはこういう表現はできないな~ いずれにしても,二人の共通点は”目立った個性はないが堅実なピアニスト”という評価です

演奏後のステージマナーを見ると,まじめでオーケストラの人たちの受けも良いのではないかと見受けられます ただ,人が良いだけでは通用しないのが芸術の世界ですから,他のピアニストと差別化できる強い個性が欲しいところです

ピアノ協奏曲第3番ハ短調は,前の2曲と比べて一層スケールが大きくなって,ベートーヴェンらしさが発揮された曲です ダン・タイ・ソンは堅実に演奏を進めますが,第2楽章「ラルゴ」では,ピアノが控えめすぎてオケに音を消されてしまっていました もっと前に出てもいいのではないかと思います

この日のコンサートを聴いて思ったのは,かつてショパン・コンクールで優勝した経歴を持っていたとしても,その後をプロのピアニストとして生き残っていくのがいかに大変か,ということです この日も会場を聴衆で埋め尽くすまでにはほど遠い状況でした 彼には同じアジア人として世界的に活躍してほしいと思います A君,昨夕はありがとう 

今夕も同じコンビによりベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番と第5番を聴きます

 

          

 

 

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パク・ジウン,須藤千晴,小川里美~「ミューズたちの饗宴」を聴く~ヤマハホール

2012年11月07日 06時58分15秒 | 日記

7日(水).昨日の日経朝刊コラム「文化往来」に「債務超過の日フィル、公益法人認定を申請」の見出しの記事が載っていました 記事を要約すると、

「日本フィルは11月1日、公益財団法人の認可申請を行った。新公益法人になれば引き続き税制上の優遇措置が受けられるが、債務超過の解消など財務改善が求められる 日本フィルは2011年度末で約1億4,000万円の債務超過があるが、今年度末には4,200万円にまで圧縮する計画である 債務を無くした上で300万円の基本財産がなければ申請できないのが原則だが、昨年後半以降収益が改善しつつあるため、当初来年7月に申請する予定だったのを繰り上げて申請することとした

認定されれば、日本オーケストラ連盟に加入する正会員25団体のうち、新公益法人を目指しながらもまだ申請に至っていないのは、神奈川フィルなど5団体を残すだけになるとのことですが、「債務超過」と「安定した収益の確保」の両面で苦戦を強いられているのではないか、と懸念します また、すでに新公益財団法人に移行したオーケストラであっても、毎年、安定した財務経営が継続しなければ認可の取り消しもありうるので油断できません 日本は残念ながら、欧米のように”寄付文化”が根付いている訳ではないので、普段の”営業努力”が求められます。しかし、著名な演奏家を招いて魅力的なプログラムを組んで”定期会員”を増やすにはそれなりの経費がかかります ”在京のオーケストラはどれを聴いてもほとんど変わらない”と言われないためにも、各オーケストラが独自性を発揮して、それぞれのカラ―を打ち出して欲しいと思いますが、”言うは易く行うは難し”でしょう しかし、それをやらなければ、これからの生き残りは難しいのも事実だと思います

 

  閑話休題  

 

昨夕,銀座ヤマハホールでミューズたちの饗宴を聴きました ミューズたちは,フルート=パク・ジウン,ピアノ=須藤千晴,ソプラノ=小川里美の3人です 自席は1階K列14番,中央右通路側です.会場はほぼ9割方埋まっている感じです

プログラムの最初はフルート&ピアノによる演奏で①シューマン(パク・ジウン編曲)「献呈」,②ショパン「ノクターン第20番」,③ショッカー「後悔と決心」,④ルフェーブル「バルカローレ」,⑤クラーク「サンデー・モーニング」,⑥ラヴランド/フェッケ「ユー・レイズ・ミー・アップ」,⑦韓国民謡&ショッカー「アリラン」,そしてフルートのソロで①クラーク「グレート・トレイン・レース」です

パク・ジウンがピンクのドレス,須藤千晴がグリーンとブラックを基調とするドレスで登場します 最初にシューマンの「献呈」をストレートに,かつロマンティックに演奏します 次いでショパンのピアノ曲をフルート用に編曲した「ノクターン第20番」を穏やかに演奏します

ここで,ナビゲーターの坂田康太郎が登場して,パク・ジウンの略歴を紹介しインタビューします

「パクさんはソウル・フィルの首席フルート奏者ですが,室内楽などでも活躍されています.日本は初めてですか?」

「20回くらい来ています」(笑)

「パクさんのお持ちのフルートはヤマハの”パク・ジウン・モデル”だそうですが,どうですか?」

「細かいところまで特別に注文を付けて作ってもらったので,素晴らしいです!」

「そのフルートは18金の純金製で,相当重いと聞いていますが,重い方が良い音が出るけれど,演奏がしにくいそうですね」

「その通りです」

そうですか,純金製ですか・・・・・・・・いざとなったら溶かして売れば・・・・・・

次のショッカー「後悔と決心」,ルフェーブル「バルカローレ」,クラーク「サンデーモーニング」,ラヴランド「ユー・レイズ・ミー・アップ」は,ライト・ミュージックあるいはジャズっぽい曲です.「サンデーモーニング」ではフルートの音が輝いていました

次いで,パクが再登場して「プログラムにはありませんが,アリランを歌う前に韓国の古い民謡(母が子を思う歌)を演奏して,続けてアリランを演奏します.この民謡は韓国でも滅多に演奏しませんし,日本ではこれが初めてです」とアナウンスして演奏に入りました.聴いていると,メロディーが日本の子守唄に近い曲想で,親近感を感じました 盛大な拍手です

次にフルートのソロでクラーク「グレート・トレイン・レース」を演奏しました この曲は”トレイン”とあるように汽車が走る模様を表現した曲で,タンギングが難しそうな超絶技巧曲ですが,パクは難なく鮮やかに演奏しました

休憩後の前半は須藤千晴のピアノ・ソロで①ドビュッシー「月の光」,②同・前奏曲集第2巻より「花火」,③同「喜びの島」が演奏されました 彼女の弾くピアノはオーストリア製の”ベーゼンドルファー・インペリアル”です.通常のピアノは88鍵ありますが,このピアノは97鍵あるそうで,低音部が充実しているとのことです ヤマハホールでなぜヤマハを弾かないのか・・・・・と考えてみたら,確かヤマハがベーゼンドルファーを買収したというニュースをいつか聞いたことがあるあるな,と思い出しました

ベーゼンドルファ―で聴くドビュッシーは,確かに響きが豊かで,とくに低音部がよく響いています

次いでソプラノとピアノによる①サティ「あなたがほしい」,②フォーレ「月の光」,③ショパン「別れの曲」,④プッチーニ「つばめ」より”ドレッタの夢”です

ソプラノの小川里美が黒のドレスで登場,”おとなの女”という雰囲気を出しています 最初の「あなたがほしい」を聴いた時,ああ,この曲はサティが作ったのか,と思いました 一度聴けば,ああ,あの曲ね!という誰でも知っている曲で,いかにも”フランス”,”パリ”という雰囲気の曲です 小川里美は表情豊かに”大人の女”の歌を歌い上げました 次いで,フォーレ「月の光」,ショパン「別れの曲」,プッチー二「つばめ」から”ドレッタの夢”を曲想に合わせて歌い分けました 小ホールということもありボリューム感のある彼女の声に圧倒されます

ここで小川里美の紹介があり,東京音大・同大学院を卒業して,奨学金を得てザルツブルクやミラノに留学,そして,1999年度ミス・ユニバース日本のチャンピオンだったことが紹介されると,会場のあちこちで”おーっ”という驚嘆と賞賛の声が上がりました

最後にフルートとピアノの伴奏によりソプラノのソロで,カッチー二の「アヴェ・マリア」が美しい声で歌われ,そしてピアニッシモからフォルティシモまですべての音域を駆使して歌う超難関アリア,ベッリーニ「ノルマ」から”清らかな女神よ”を歌いあげ会場を震わせました まずピアノの序奏があり,次いでフルートがメロディーを奏で,いよいよソプラノが歌われるわけですが,私はこの冒頭部分が大好きです

会場一杯のブラ―バの声と拍手に応えて,アンコールにヘンデルの「リナルド」から”私を泣かせてください”を歌いました

 

          

 

終演後,”勝手知ったる何とか”で,いつものようにピアノ運搬用の大型エレベーターで降りようと,もう一人の中年男性(知らない人)とともに廊下の奥の方に移動しました 誰も後からついてきません.エレベーター前で待っていると,エレベーターの扉が開き,何と,いま歌い終わったばかりのミューズたちが揃って出てきました どうやら,そのエレベーターは歌手の移動に使うため一時占有していたようです.いずれにしても,ミューズたちを身近に拝顔することができて,とてもア・ミューズでした

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素足のピアニスト~アリス沙良オットのピアノ・リサイタルを聴く

2012年11月06日 06時57分07秒 | 日記

6日(火).昨夕,初台の東京オペラシティコンサートホールで,アリス沙良オットのピアノ・リサイタルを聴きました 彼女の演奏を聴くのは今年6月6日にサントリーホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送交響楽団と共演したリストのピアノ協奏曲第1番を聴いて以来です.プログラムは①モーツアルト「デュポールのメヌエットによる変奏曲ヘ長調K.573」,②シューベルト「ピアノ・ソナタ第17番ニ長調」,③ムソルグスキー「展覧会の絵」の3曲です

アリス=沙良・オットは1988年ドイツ人の父と日本人の母のもとミュンヘンに生まれました 4歳から本格的にピアノを学び,5歳で最初のコンクールで入賞したのを皮切りに世界各地のコンクールに入賞してきた実力者です

 

          

 

自席は1階17列11番,センターブロックの左通路側です.会場は9割方埋まっている感じです 会場の照明が落とされ,アリス=沙良・オットがパープルの袖なしドレスで登場します 足に注目しました・・・・・・やはり素足です 世界中に何人ピアニストがいるか分かりませんが,リサイタルで素足でピアノを弾くピアニストはアリスしかいないでしょう プログラムに音楽評論家の萩谷由喜子さんが「聴衆と密なコミュニケーションをとり,ともにホールの空気をつくりあげていくのが好き,と語る彼女は,床の振動を素足で感じることで聴衆と一体になろうとしているのだろう」と書いています.そうかも知れませんが,彼女に訊いてみないと分かりません

1曲目のモーツアルト「デュポールのメヌエットによる変奏曲K.573」が軽快なテンポで始まります この曲は1789年,プロイセン宮廷での即興演奏の際に作曲されたと言われており,チェリストで宮廷楽長だったデュポールの関心を引こうと,彼のチェロ・ソナタから主題を取っています.アリスは9つの変奏ごとに音の表情を変えて演奏します

2曲目のシューベルト「ピアノ・ソナタ第17番ニ長調D.850」は交響曲”グレイト”と同じ時期に書かれた長大な作品です シューベルトのピアノ・ソナタは滅多に聴く機会がなく,馴染みが薄いので,すんなりと頭に入ってきません 第1楽章を聴きながら,そういえばこの曲は村上春樹の「海辺のカフカ」の中に出てきたよな・・・・・・どこの部分だったかな・・・・などと考えていました.集中力がない証拠ですというのは,昨日から風邪気味で,内科で眠くなる風邪薬をもらってきて夕食後に飲んだのが原因だと思います

休憩時間は15分でしたが,ホワイエのCD売り場は,この日演奏するムソルグスキーを収録した最新盤CDを求める人たちが蟻塚を作っていました.相当売れたでしょうね

 

          

 

最後の組曲「展覧会の絵」はロシア五人組の一人,ムソルグスキーが作曲し,1922年にラヴェルが編曲して人気が出た曲です ムソルグスキーの親友の一人だった画家のヴィクトル・ハルトマンの遺作展で絵を観た時の印象をもとに作曲しました.第1曲「グノームス」から第10曲「キエフの大門」まで10曲から成る組曲です

アリスが登場,一礼して,座ると同時に右手で最初の”プロムナード”を弾きはじめました アリスの弾くのを観ていると,切れ味の鋭い日本刀を想起します 歯切れの良いピア二ズム 気迫で押していく推進力 ピアニッシモからフォルテッシモまで,崩れることなく明快に鳴らし切ります 素足で踏むペダルの音がドン・ドーンと床に響くのが17列の自席まではっきり聴こえます.彼女はこの感覚を得るために素足で弾くのか,と感じました 最後の「キエフの大門」を聴いた時は,そのスケールの大きさに圧倒され「やっぱり,このピアニストは凄い」と感嘆しました.

満場の拍手に応えて,アンコールを演奏しました.リストの「パガニーニの主題による超絶技巧練習曲第5番”狩”」です あれだけの熱演の後にもかかわらず,平然と超絶技巧曲を演奏すのですから大物です さらに,鳴り止まない拍手 に応えて,穏やかなシューマンの「ロマンス第2番」を演奏してくれました

この日のリサイタルは,あらためてアリス=沙良・オットという弱冠24歳のピアニストの非凡な才能と技巧とを再確認する機会になりました

 

          

 

当日配られたチラシの中に,来年9月30日にアリス=沙良・オットのピアノ,チョン・ミュンフン指揮フランス国立放送フィルによるラヴェル「ピアノ協奏曲ト長調」他のコンサート・チラシが入っていました.これは是非ものです.今から予定に入れておくことにします

 

          

 

          

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絶好調のアンナ・ネトレプコ~METライブビューイング,ドニゼッティ「愛の妙薬」を観る

2012年11月05日 06時57分04秒 | 日記

5日(月).昨日,新宿ピカデリーで,METライブビューイング,ドニゼッティ「愛の妙薬」を見ました これはMETライブビューイング2012-13のオープニングを飾る公演で,ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で今年10月13日(私の誕生日!)に挙行された公演のライブ録画です

キャストは,女農場主アディーナにアンナ・ネトレプコ,アディーナに憧れる農夫の青年ネモリーノにマシュー・ポレンザー二,軍曹ベルコーレにマリウシュ・クヴィエチェン,インチキ薬売りドゥルカマーラにアンプロー・マエストリほか,演奏はマウリツィオ・ベニーニ指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団,演出はMETの前のシーズンで「セビリアの理髪師」「オリー伯爵」を演出したバートレット・シャーです あらすじは,

「農夫の青年ネモリーノは農場主の女性アディーナを愛しています しかし,彼女は相手にしません.そこへ,軍曹ベルコーレが登場,彼女に求婚します.焦ったネモリーノも求婚しますが振られます そこにインチキ薬売りのドゥルカマーラが登場し,惚れ薬と称してワインを売りつけます.それを飲んだネモリーノは自信満々になってアディーナをあしらいます.逆上したアディーナは軍曹ベルコーレとの結婚を宣言します

いよいよ結婚式になり,アディーナはネモリーノの鼻を明かしてやりたいと思って待ちますが,ネモリーノはなかなか現れません 惚れ薬の効果が現われないので焦った彼は,もう1本惚れ薬を買おうとしますがお金がないので,ベルコーレの軍隊に入る決意をして前金を手に入れ,惚れ薬を買います すべてはアディーナと結婚したいがためです.アディーナは,ドゥルカマーラから,ネモリーノが惚れ薬のために軍隊に入った顛末を聞き,自分に対する彼の愛がいかに深いかを理解し,彼に愛を告白してハッピー・エンドを迎えます

 

          

 

この公演は何と言ってもアンナ・ネトレプコの歌と演技が断然光っています 現在のソプラノ界で喜劇と悲劇の両方を自然に歌い分けることが出来る歌手はルネ・フレミング,ナタリー・デセイ,そしてこのアンナ・ネトレプコくらいでしょう 彼女は決して美人というのではありませんが,人を引き付けて止まない魅力に溢れています ひとつひとつのアリアが素晴らしく,ひとつひとつのちょっとした仕草や演技が他の歌手には真似のできないレベルの高さを保っています 昨年のMETの引っ越し公演で来日する予定でしたが,東日本大震災に伴う福島原発事故の影響で急きょ来られなくなったのが返す返すも残念です

ネモリーノを歌ったテノールのボレンザー二は歌も演技も素晴らしく,とくに第2幕で歌った「人知れぬ涙」は役に成りきって歌い上げ,しばらく拍手が鳴りやみませんでした

私としては,まじめなネモリーノよりも,”ちょい悪”役のベルコーレを歌ったバリトンのクヴィエチェンの方が感情移入しやすかったです この人はMETの前年のシーズンでドン・ジョバンニを歌いましたが,精力的に歌い動き回る彼のスタミナには驚きます.とにかくセクシーです 新国立劇場でもドン・ジョバンニを歌い,話題を呼びました

そしてもう一人,キャラが際立っていたのがインチキ薬売りドゥルカマーラを歌ったバスのマエストリです太った安定感のある身体つきで,いかにもイカサマ師のような雰囲気を醸し出していて,それでいて歌が抜群にうまいのです

休憩時間に歌手のデボラ・ボイトが演出のシャーにインタビューして,今回の演出の意図を訊いていましたが,彼は「”愛の妙薬”というと,これまでは喜劇仕立てで,人を笑わせることに主眼を置いた演出が多かったように思いますが,私は不自然さを感じました むしろ,アディーナとネモリーノの恋愛物語として描いた方が自然だと思い,そのような演出にしました」と答えていました.

昨年だったか,新国立劇場でこの「愛の妙薬」を観ましたが,あの演出は物語を現代に置き換えて,図書館のようなところが舞台になった演出でした.今になって振り返ってみると,まったくストーリーが思い出せません.役割同士の関係もよく分かりません

その点,今回の舞台はむしろオーソドックスでシンプルなもので,演出も観ていて自然に感じました そこで思うのは,”まずは音楽ありき”であるべきで,決して”まずは演出ありき”であってはならない,ということです.これはオペラではすごく大切なことだと思います

上演時間は休憩・インタビュー映像等を含めて2時間50分です.「愛の妙薬」は9日(金)まで,新宿ピカデリー,東銀座・東劇ほかで上映されています

映画の帰りに2階のショップによって「MET日本版シーズンブック」(写真・上 1,400円.高っ!)と,雑誌「MOSTLY・CLASSIC」2011年6月号(写真・下 DVD付1,000円.ふつー)を買い求めました これからのライブビューイング鑑賞の予習・復習に役立てたいと思います

 

           

          

 

ところで,アディーナとベルコーレの結婚式シーンで,インチキ薬売りのドゥルカマーラが大きなボールから手づかみでスパゲッティを食べるシーンがあるのですが,その時間帯がちょうど昼食時だったので,無性にスパゲッティが食べたくなり,終演後,新宿駅近くのスパゲッティ屋さんに入ってカルボナーラを食べました 演出家バートレット・シャーは,自分の手がけたオペラの演出が日本の聴衆にスパゲッティを食べるよう促したことなど知る由もないでしょう

 

 

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小菅優+カメラ―タ・ザルツブルクによるモーツアルト「ピアノ協奏曲第20番,第25番」を聴く

2012年11月04日 06時58分08秒 | 日記

4日(日).昨日,新宿ピカデリーで今日のMETライブビューイング,ドニゼッティ「愛の妙薬」の指定席を予約し,丸の内線で四谷に出て,総武線に乗り換えて錦糸町に向かいました 駅に着いたので降り口を探してキョロキョロしていると,目の前に元の職場のA君が現われ,同じすみだトりフォニーホールに向かうところでした 前日に続いて小菅優のピアノ,ハンスイェルク・シェレンベルガ―指揮カメラ―タ・ザルツブルクによるモーツアルト演奏会を聴くためです

会場でコーヒーを飲みながら,アンコールは何を演奏するかの予想をしました A君は歌劇「劇場支配人」序曲ではないかという意見,私は歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」序曲ではないかという意見でした二人とも外れることは後で分かります

この日のプログラムは①歌劇「ドン・ジョバンニK.527」序曲,②ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466,③ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503,④交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」の4曲です

小菅優は1983年東京生まれ,9歳からリサイタルを開きオーケストラと共演,2004年モーツアルテウム音楽大学卒業,2005年にカーネギーホールでデビュー・リサイタルを開き,高い評価を得ました 指揮のシェレンベルガ―はカラヤン時代のベルリン・フィルで首席オーボエを務めていた名手です

 

          

 

自席は1階17列10番.会場は7~8割埋まっている感じです 拍手に迎えられオケのメンバーが入場します.コンマスは昨日と同じピアニスト,エレーヌ・グリモーによく似た女性です.シェレンベルガ―が登場し,「ドン・ジョバンニ」序曲のタクトを振り下ろします.人はこの序曲の冒頭を”デモーニッシュ”(悪魔的)と言いますが,恐ろしいほど運命的な音楽です.オケは高い集中力でモーツアルトに対峙します

小菅が黒と赤を基調としたドレスで登場します 2曲目のピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466も”デモーニッシュ”と言われる音楽です 第1楽章冒頭の人の心を抉るようなドラマチックな音楽は誰にも真似が出来ないでしょう 第2楽章「ロマンツェ」は映画「アマデウス」のフィナーレで使われました.「男はつらいよ」で大原麗子が出た時にも使われていました.穏やかでロマンチックな曲です

さて,小菅は第2楽章の終了から間を置かず第3楽章「ロンド」に入ります.ピアノとオーケストラ,とくに管楽器との掛け合いが見事です シェレンベルガ―はプログラムに寄せたインタビューの中で「今年2月にピアノ協奏曲第20番を小菅優さんと録音した時,指揮者としての私のコンセプトは”ピアノとオーケストラの戦い”でした」と述べています.そういう意味では,第2楽章までの”協奏曲”は第3楽章に”競奏曲”に入ったと言えるでしょう

第3楽章で小菅は見事なカデンツァを弾きました.前日第23番の協奏曲を聴いた時も思ったのですが,初めて聴くメロディーだったので,誰の作曲したカデンツァなのだろうか,ということです

休憩後のピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503は,前半の第20番ニ短調とは対極にある作品で,明るく希望に満ちた音楽です 第1楽章は序奏が長く,モーツアルトのピアノ協奏曲の中で最も長いのではないかと思うくらい長いので,ピアニストは出番をひたすら待つことになります この間,小菅は管楽器の方を見て身体でリズムを取ります.オケとのコミュニケーションを取ろうとする姿勢が見られます

長い序奏に続いてピアノが軽やかに入ってきます.これを聴くと”ピアノは女王だな”と思います 主役はなかなか出てこないのです.この曲も,カデンツァが初めて聴くメロディーです.ベートーヴェンの”運命の動機”のメロディーが出てきてハッとしました.第2楽章,第3楽章を通じてオーボエとフルートが雄弁に語ります

小菅の演奏を観ていると,身体全体で自分自身を表現していて,モーツアルトを演奏するのが楽しくて仕方がない,といったオーラを感じます 彼女には”天性のモーツアルト弾き”を感じます.モーツアルトの演奏者はこうでなければいけません 第3楽章はまさにピアノとオケとの”競奏曲”で,軽快なテンポで疾走します

会場は拍手とブラボーの嵐です.

 

          

 

ピアノが舞台の袖に引き上げられて,オケがスタンバイします.シェレンベルガ―がタクトを持たず登場します.しかし,オケの方に振り向くと,いつの間にか右手にタクトを持って構えています 多分,左袖にタクトを隠しておいて,振り向きざまに右手で引き抜くのだと思います.コシャクなことをやってのけます.あなたは手練ベルガ―か

交響曲第38番ニ長調K.504は,ピアノ協奏曲第25番の完成の2日後に完成しました.つまり,モーツアルトはこの2曲を同時並行的に作曲していたことになります 通常,交響曲は4つの楽章から成りますが,この”プラハ”は3楽章から構成されています

第1楽章冒頭は,まるで「ドン・ジョバンニ」と同じ世界です.冒頭からのアダージョ部分では「ドン・ジョバンニ」が聴こえ,さらに「魔笛」も聴こえます

シェレンベルガ―は,メリハリをつけながら軽快なテンポで音楽を進めます.弦楽器も,管楽器もノリノリの演奏を展開します.さらに日本人のティンパ二奏者による乾いた連打が快いアクセントを付けます

会場を満たした拍手とブラボーに応えてアンコールの演奏があるようです.なんと,シェレンベルガ―がオーボエを持って再登場しました コンマスに合図して開始されたのは,モーツアルトのオーボエ協奏曲K.314の第3楽章「アレグロ」でした あのベルリン・フィルの名オーボエ奏者,シェレンベルガ―の”弾き振り”ならぬ”吹き振り”でオーボエ協奏曲が聴けるとは夢にも思いませんでした 彼はまったく衰えを見せていません.今なお全盛期の高いテクニックと音楽性を維持しているのは流石だと思います

小菅優のピアノに加え,シェレンベルガーのオーボエが聴けて,この日のコンサートはいつになく思い出深いものになることでしょう

 

          

        

 

 

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小菅優+カメラ―タ・ザルツブルクでモーツアルト「ピアノ協奏曲第21番,第23番」を聴く

2012年11月03日 06時58分25秒 | 日記

3日(土・文化の日).昨夕,すみだトりフォニーホールで小菅優のピアノ,ハンスイェルク・シェレンベルガ―指揮カメラ―タ・ザルツブルクによるモーツアルトの演奏会を聴きました プログラムは①歌劇「イドメネオ」序曲,②ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467,③ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488,④交響曲第41番ハ長調K.551"ジュピター”の4曲です.

小菅優は1983年生まれ,2004年モーツアルテウム音楽大学を卒業,2005年にニューヨークのカーネギーホールでデビューリサイタルを開き高い評価を得ました 一方,シェレンベルガ―は1948年ミュンヘン生まれ,1980年1月から2001年夏までベルリン・フィルのソロ・オーボエを務めました.帝王カラヤンのもとで長くベルリン・フィルの中核を担っていた人です

 

          

 

会場は8~9割の入りでしょうか.自席は1階17列10番でした.が,隣席の青年が友達と隣り合わせにしたいので替わって欲しいというので11番になりました.通路側に一つ近づきました

拍手の中,カメラ―タ・ザルツブルクの面々が登場します.日本人女性も弦楽器を中心に4~5人含まれています コンマスは女性です.オケは向かって左から第1ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリン,管楽器の中央後方にコントラバスがスタンバイする”対向配置”を取ります 通常はコンマスが立ち上がってチューニングの指示を出しますが,このオケは楽屋で済ませてきているようで,音を出しません.ティンパ二は日本人女性です.プログラムの名簿を見るとローマ字で杉下リズムという名前がありました.きっと音楽一家に育ったのでしょう

シェレンベルガ―の指揮で1曲目の歌劇「イドメネオ」K.366序曲が始まります.オーボエの中年女性が素晴らしい音を出しています.まずは小手調べです

2曲目のピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467を演奏するため,小菅優がダークブルーのドレスに身を包まれて,シェレンベルガ―とともに登場します 軽快なオーケストラの序奏に導かれて小菅の軽やかなピアノが入ってきます.小菅は時に管楽器,とくにオーボエの方を見ながら演奏します.オーケストラと会話しながら演奏しているのがよくわかります オケの中央に構えるチェロの女性は「私はシャンドール・ヴェーグの頃からこの定位置で弾いているんですよ」とでも言いそうな貫録のある面構えです

第1楽章のピアノのカデンツァは初めて聴いたような気がします.モーツアルト自身のものではないとすれば,誰の作曲によるカデンツァなのでしょうか?小菅は強弱をつけながら見事に弾き切りました 第2楽章のアンダンテの穏やかなやさしさ 一転,底抜けに明るい第3楽章.小菅は自由自在です

休憩後の1曲目「ピアノ協奏曲第23番K.488」はピアノ協奏曲の中で一番好きな曲です.第1楽章のオーケストラの序奏が始まるとわくわくしてきます そして軽快なピアノが入ってきます.モーツアルトって何と素晴らしい音楽を作ったのでしょうか 第2楽章のアダージョはピアノの独奏で始まり,クラリネットそしてフルートに受け継がれますが,その静かな世界はクラリネット協奏曲の第2楽章”アダージョ”に通じるものがあります 小林秀雄いうところの”人間存在根底の哀しみ”の世界です.小菅は淡々と静謐な世界を描いていきます.そして,間をおかずに第3楽章「アレグロ・アッサイ」に突入します.「モーツアルトはみんながいつまでも悲しみにくれている時に,もう笑顔で鼻歌を歌っている」そんな表情の変化を表現します

彼女の演奏する姿を観ていて思ったのは,ダイナミックかつ繊細な音楽表現は,あの二の腕があってこそだろうな,ということです さらに言えば,あのマルタ・アルゲリッチの二の腕を思い出してしまいました そんなことを想っているときに隣のおじさんをチラっと見ると,私と同様紙に書きものをしています.私の場合はブログを書くためのメモですが,ひょっとしてこのおじさんもブログを書いているのかな,と思ってよく見ると,会場で配られていたアンケートに回答を書いていたのでした.演奏中にアンケートって・・・・・・・ 時々見かけますね,このおじさんのように音楽に集中できない人が

圧倒的な拍手とブラボーの嵐の中,小菅が舞台袖に退場しピアノが片付けられます.再度,シェレンベルガ―が登場,最後の交響曲第41番ハ長調K.551”ジュピター”が始まります 第1楽章「アレグロ・ビバーチェ」が力強く演奏されます.第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」を聴いていて,第1ヴァイオリンの音がまるでコンマス一人のヴァイオリンから出ているような感覚を味わいました それほど全員の音が揃っているということです.かつて東京交響楽団がシューベルトの交響曲第3番を演奏した時,第1ヴァイオリンの音がまるでコンマスの大谷康子一人のヴァイオリンから出ているように感じたことを思い出しました

暗譜で指揮した”ジュピター交響曲”を聴いて,シェレンベルガ―もなかなか良い指揮をするな,と思いました メリハリを効かせて気持ちのよいテンポでグングン音楽を進めます

会場一杯の拍手とブラボーに応えてモーツアルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲を演奏しました これも軽快なテンポで,コンサートを締めくくるのにふさわしい気持ちの良い演奏でした

今日も同じ組み合わせでモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバン二K.527」序曲,ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466,同第25番ハ長調K.503,交響曲第38番”プラハ”を聴きます

 

          

          

 

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気軽に読みたい珠玉の短編小説~佐藤雅彦編「教科書に載った小説」を読む

2012年11月02日 06時59分06秒 | 日記

2日(金).最近、頭の中をマーラーの音楽が渦巻いています というのは、先日、園子温監督の映画「希望の国」を観て、そこでマーラーの交響曲第10番「アダージョ」が使われていたことから、映画で使われていたNAXOSのCDを毎朝、新聞を読みながら聴いているのですが、第10番とカップリングされているのが一番好きな第3番なのです

最近は第10番よりも第3番を聴く機会が多く、毎朝聴いているものですから、電車に乗っているときや、歩いているときなどは自然にマーラーの第3番の第1楽章冒頭の音楽が頭の中をぐるぐる回っているというわけです。マーラーが当初”夏の行進”と名づけたあのメロディーです

若い時はウォークマンでCDを聴いていたものですが、今はヘッドホン・ステレオは持っていません 長時間聴いていると難聴になるという話もあるし。自然に頭にメロディーが浮かんでくるのですから機械は要らず、ヘッドホンは要らず、まったくタダで、しかも健康に害もありません

頭に浮かんでくるのは、時にベートーヴェンだったり、ブラームスだったり、モーツアルトだったりしますが、不思議なのは、CDでも生演奏でも滅多に聴くことのないブルックナーの交響曲のメロディーが浮かんでくることがママあることです これはどう考えても理解不能です

かつてタイガースが強かった頃は(何年前だったか思いだせない)「六甲おろし」(正式には”阪神タイガースの歌”)が浮かんできたものですが、ここ数年のテイタラク状態ではまったく浮かんできません。いつかは優勝するなんて,阪神半疑でっせ,ほんまに 

 

  閑話休題  

 

昨夕,警備・清掃を委託しているT社の幹部と当社の患部,もとい,幹部とで9階の日本記者クラブで会食しました ほぼ同じ年代層の集まりだったので,懐かしい昭和の話が話題の中心になりました驚いたのは,T社のIさんは,真珠湾攻撃を題材にした映画「トラ・トラ・トラ」に水兵役でエキストラ出演したとのこと.やくざ映画にもエキストラで出ていたとか.当時から世間に顔を売っていたわけですね.かつてのエキストラは今やT社で主役を張っているというわけですね,なんちって

その後,T社のNさん,Tさん,Tさんを拉致して当社N,E,Sと私とで(私がWだったらNEWSになっていた!)車に分乗して上野のカラオケ・スナックFに向かいました.例のごとく歌合戦を繰り広げましたが,誰が何を歌ってどういう点数だったやら・・・・・・だれか覚えてたらおせーて あ~今日も朝から頭イテ― 今日は土曜日じゃないのか~ サラリーマンはつらいよ

 

  閑話休題  

 

佐藤雅彦編「教科書に載った小説」(ポプラ文庫)を読み終わりました この本は1954年静岡県生まれの筆者が,かつて読んだ教科書の中で印象に残った短編小説を13篇選んで紹介したものです.宿泊した不審な親子を見つめた三浦哲郎の「とんかつ」,差出人のない小包が届く「絵本」,通夜の帰りに靴を間違えて履いてきてしまった男の顛末をかいた「出口入口」など,極めて短い”面白い”小説が集められています 私が一番印象に残ったのは横光利一の「蠅(はえ)」という作品です

一匹の蠅が宿場の隅で蜘蛛の巣に引っかかる しかし,もがいて下に落ちて命拾いする.そして馬の背中まで這い上がる.その馬は,人や荷物を乗せて運ぶ馬車の馬で,死にそうな息子に会う目的の母親らが乗っている.のんびりした馭者はなかなか馬車を出そうとしない.やっと走らせたと思ったら,そのうち饅頭を食べて満腹になり,昼寝を始めてしまう 制御できなくなった馬車は車輪が道から外れ,崖の下へ転落する ただ,蜘蛛の巣から命からがら生き延びた蠅だけが,その馬から飛び立ってゆうゆうと青空を飛んで行く

という話です.たった12ページの小説です.この小説は教育出版の「中学国語2」(昭和61年検定済)に載りました われわれは中学生ではありませんので,これを読んで感想文を書く必要はありません.

自分で走って目的地に行く代わりに,お金を払い馬車で行くことが出来る人間は大した存在だ しかし,他人の居眠りが原因で崖から落ちて死んでしまうはかない存在だ その点,蠅は話すこともできず,お金を使って何かをすることも出来ない しかし,空を飛ぶことが出来るから,いざとなれば自分で自分の命を救うことが出来る 人間,死んでしまえばおしまいだ.あ~蠅がうらやましい・・・・・といったところでしょうか

1篇1篇が味わい深い作品です.”感想文”を頭から除外して気軽に読むことをお薦めします

 

          

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宮谷理香,磯絵里子,水谷川優子~アンサンブル・φ(ファイ)デビュー・コンサートを聴く  

2012年11月01日 07時00分21秒 | 日記

1日(木).今朝6時の東京の気温は10度でした.ずい分寒くなりましたね 時の経つのは速いもので今日から11月.今年もあと2か月を残すのみです 昨夕,銀座のヤマハホールにコンサートを聴きに行きました.久しぶりに銀座を歩きましたが,きれいなお姉さんがちらほら見受けられました.少しは景気が戻ったのでしょうか?コンサート開始まで時間があったので,ヤマハビル2階のCD売り場に行って時間をつぶしました 相変わらず品揃えの少なさにはガッカリします.私のCD所有枚数(約4,000枚)よりは多いと思いますが,あまりにも少なすぎます.ヤマハはやる気があるんでしょうか

 

  閑話休題  

 

7階のヤマハホールでアンサンブルφ(ファイ)のデビュー・コンサートを聴きました アンサンブルφ(ファイ)は,ピアノ=宮谷理香,ヴァイオリン=磯絵里子,チェロ=水谷川優子の3人によるユニットで,φ(ファイ)は「黄金比」の意味です 「芸術のおいて最も美しいと言われる黄金比のように,音楽において,いつまでも美しく,上質な演奏に挑戦し続けるユニットでありたい」という願いを込めて命名したとのことです

プログラムは①ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第7番”大公”」,②チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に”」の2曲です

自席はK列14番,センターブロック右の通路側.会場はほぼ満席です.照明が落とされ,3人の登場です ピアノの宮谷理香は淡いベージュ,ヴァイオリンの磯絵里子は淡いグレーとシルバー,チェロの水谷川優子は淡いパープルのドレスを身にまとっています.小ホールで演奏する時はハッキリした原色よりも中間色が正解でしょう

1曲目のベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調”大公”」は1811年4月にベートーヴェン自身がピアノを弾いて初演されましたが,彼の難聴がかなり進んでいたため音量の調節ができず,それ以降,彼は公の舞台に出ることはなかったといいます この曲の大きな特徴は,それまでのピアノ三重奏曲がピアノ重視だったのを,ピアノとヴァイオリンとチェロが同レベルで活躍するように作曲したことです

第1楽章冒頭,宮谷のピアノがテーマを奏で,次いでヴァイオリンとチェロが加わって絶妙なハーモニーを奏でます 何という良い曲なんだろうと思い,背筋が寒くなりました.これは曲の持つ力であり,演奏の力です この3人はお互いの音に良く耳を傾けながら自分を主張しているように見受けられます息がぴったりといっても過言ではありません.演奏では第3楽章「アンダンテ・カンタービレ」におけるチェロの独奏の音の豊かさが印象に残りました

 

          

 

休憩後のチャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に”」は,ロシアン・ピア二ズムの祖とも言われるアントン・ルビンシュテインの弟ニコライがパリで客死したことから,ニコライ=偉大な芸術家に捧げるために作曲した曲です

再度,照明が落ちて3人の登場です.女性の演奏家の場合は必ずあることが起こります.今回もありました.お色直しです 3人とも黒を基調にしたドレスに着替えての登場です.この曲が偉大な芸術家を”追悼”する意味を持つ曲であることから”黒”を選んだのでしょう

この曲も,第1楽章冒頭ピアノの序奏に次いで水谷川のチェロによりテーマが奏でられるのですが,まさに情熱的なカンタービレとでも言うべき素晴らしい演奏でした センチメンタリズムの極致とでも言うべき曲ですが,心の底から音楽を発信しているのが分かります ピアノの宮谷も主張すべきところは十分に主張しています.もちろんヴァイオリンの磯も負けていません.この3人は,それぞれが一人でも客が呼べるソリストですが,3人集まってもアンサンブルが乱れることはありません

満場の拍手に,3人が舞台中央に揃い,水谷川が代表して「今日はありがとうございます.アンコールを演奏したいのですが,聴く側の皆さんも息絶え絶えだと思いますし(笑),こちらも精一杯演奏して疲れてしまったので,きょうはアンコールはいたしません 次の機会にもっと明るい曲を(笑)演奏したいと思います.今回がこのユニットのデビュー・コンサートですが,これからも聴きたいと思われるような演奏を続けたいと思いますので,今後ともよろしくお願いします」と挨拶しました.やはり,3人の中ではこの水谷川優子がリーダー的な存在のようです

「この3人のうち誰かひとりもう一度聴いてみたいソリストを選べ」と言われたら,私は躊躇なく水谷川優子を挙げますが,このユニットが長く続くことを祈ります

 

 

          

              (上から宮谷理香,磯絵里子,水谷川優子)

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