5日(月).昨日,新宿ピカデリーで,METライブビューイング,ドニゼッティ「愛の妙薬」を見ました これはMETライブビューイング2012-13のオープニングを飾る公演で,ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で今年10月13日(私の誕生日!)に挙行された公演のライブ録画です
キャストは,女農場主アディーナにアンナ・ネトレプコ,アディーナに憧れる農夫の青年ネモリーノにマシュー・ポレンザー二,軍曹ベルコーレにマリウシュ・クヴィエチェン,インチキ薬売りドゥルカマーラにアンプロー・マエストリほか,演奏はマウリツィオ・ベニーニ指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団,演出はMETの前のシーズンで「セビリアの理髪師」「オリー伯爵」を演出したバートレット・シャーです あらすじは,
「農夫の青年ネモリーノは農場主の女性アディーナを愛しています しかし,彼女は相手にしません.そこへ,軍曹ベルコーレが登場,彼女に求婚します.焦ったネモリーノも求婚しますが振られます そこにインチキ薬売りのドゥルカマーラが登場し,惚れ薬と称してワインを売りつけます.それを飲んだネモリーノは自信満々になってアディーナをあしらいます.逆上したアディーナは軍曹ベルコーレとの結婚を宣言します
いよいよ結婚式になり,アディーナはネモリーノの鼻を明かしてやりたいと思って待ちますが,ネモリーノはなかなか現れません 惚れ薬の効果が現われないので焦った彼は,もう1本惚れ薬を買おうとしますがお金がないので,ベルコーレの軍隊に入る決意をして前金を手に入れ,惚れ薬を買います すべてはアディーナと結婚したいがためです.アディーナは,ドゥルカマーラから,ネモリーノが惚れ薬のために軍隊に入った顛末を聞き,自分に対する彼の愛がいかに深いかを理解し,彼に愛を告白してハッピー・エンドを迎えます」
この公演は何と言ってもアンナ・ネトレプコの歌と演技が断然光っています 現在のソプラノ界で喜劇と悲劇の両方を自然に歌い分けることが出来る歌手はルネ・フレミング,ナタリー・デセイ,そしてこのアンナ・ネトレプコくらいでしょう 彼女は決して美人というのではありませんが,人を引き付けて止まない魅力に溢れています ひとつひとつのアリアが素晴らしく,ひとつひとつのちょっとした仕草や演技が他の歌手には真似のできないレベルの高さを保っています 昨年のMETの引っ越し公演で来日する予定でしたが,東日本大震災に伴う福島原発事故の影響で急きょ来られなくなったのが返す返すも残念です
ネモリーノを歌ったテノールのボレンザー二は歌も演技も素晴らしく,とくに第2幕で歌った「人知れぬ涙」は役に成りきって歌い上げ,しばらく拍手が鳴りやみませんでした
私としては,まじめなネモリーノよりも,”ちょい悪”役のベルコーレを歌ったバリトンのクヴィエチェンの方が感情移入しやすかったです この人はMETの前年のシーズンでドン・ジョバンニを歌いましたが,精力的に歌い動き回る彼のスタミナには驚きます.とにかくセクシーです 新国立劇場でもドン・ジョバンニを歌い,話題を呼びました
そしてもう一人,キャラが際立っていたのがインチキ薬売りドゥルカマーラを歌ったバスのマエストリです太った安定感のある身体つきで,いかにもイカサマ師のような雰囲気を醸し出していて,それでいて歌が抜群にうまいのです
休憩時間に歌手のデボラ・ボイトが演出のシャーにインタビューして,今回の演出の意図を訊いていましたが,彼は「”愛の妙薬”というと,これまでは喜劇仕立てで,人を笑わせることに主眼を置いた演出が多かったように思いますが,私は不自然さを感じました むしろ,アディーナとネモリーノの恋愛物語として描いた方が自然だと思い,そのような演出にしました」と答えていました.
昨年だったか,新国立劇場でこの「愛の妙薬」を観ましたが,あの演出は物語を現代に置き換えて,図書館のようなところが舞台になった演出でした.今になって振り返ってみると,まったくストーリーが思い出せません.役割同士の関係もよく分かりません
その点,今回の舞台はむしろオーソドックスでシンプルなもので,演出も観ていて自然に感じました そこで思うのは,”まずは音楽ありき”であるべきで,決して”まずは演出ありき”であってはならない,ということです.これはオペラではすごく大切なことだと思います
上演時間は休憩・インタビュー映像等を含めて2時間50分です.「愛の妙薬」は9日(金)まで,新宿ピカデリー,東銀座・東劇ほかで上映されています
映画の帰りに2階のショップによって「MET日本版シーズンブック」(写真・上 1,400円.高っ!)と,雑誌「MOSTLY・CLASSIC」2011年6月号(写真・下 DVD付1,000円.ふつー)を買い求めました これからのライブビューイング鑑賞の予習・復習に役立てたいと思います
ところで,アディーナとベルコーレの結婚式シーンで,インチキ薬売りのドゥルカマーラが大きなボールから手づかみでスパゲッティを食べるシーンがあるのですが,その時間帯がちょうど昼食時だったので,無性にスパゲッティが食べたくなり,終演後,新宿駅近くのスパゲッティ屋さんに入ってカルボナーラを食べました 演出家バートレット・シャーは,自分の手がけたオペラの演出が日本の聴衆にスパゲッティを食べるよう促したことなど知る由もないでしょう