人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ハイドン,メンデルスゾーン,チャイコフスキーの「ピアノ三重奏曲」を聴く~堀正文+イェンス・ペーター・マインツ+清水和音

2017年03月31日 07時48分07秒 | 日記

31日(金).月日の流れは速いもので3月も今日で終わり,2016年度も今日で最後です

昨日 上野にコンサートを聴きに行くついでにお花見をしてきました 上野の山の上はまだ三分咲きくらいでしたが,下の交番近くの桜は満開でした 真昼間から宴会をやっているネクタイ姿のグループも見かけました.飲むときぐらい首絞めてないでネクタイ外せばいいのに ケータイやカメラで自撮りする人が多く,半分は外国人のようでした 中国や韓国方面からの旅行客が多いようです

 

       

 

ということで,わが家に来てから今日で913日目を迎え,東日本大震災後 三陸の海で大発生したウニが そのままではまずくて商品にならないうえ海藻まで食い荒らす厄介者なので,おいしく育てて商品化し 海の環境も回復させようという取り組みが 東北大学で進められているというニュースを見て 感想を述べるモコタロです

 

       

       昔 習った歌を思い出した「ウニは 広いな 大きいな~」ん? お呼びでない? こらまた失礼しました!

 

                      

 

昨日,夕食に「サバの塩焼き」「ウインナと野菜のスープ」「生野菜とアボガドとサーモンのサラダ」を作りました 最近,肉食が多いので久しぶりに魚にしました

 

       

 

                      

 

昨夕,上野の東京文化会館小ホールで「偉大な芸術家の思い出に~堀正文,イェンス・ペーター・マインツ,清水和音」公演を聴きました これは東京・春・音楽祭の参加公演です.プログラムは①ハイドン「ピアノ三重奏曲第25番ト長調」,②メンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲第1番ニ短調」,③チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に”」です

 

       

 

ヴァイオリンの堀正文は35年間にわたりN響のコンマスを務め,2015年に名誉コンサートマスターに就任しています チェロのイェンス=ペーター・マインツはハンブルク生まれで,1994年のミュンヘン国際音楽コンクールで優勝しています.2006年からクラウディオ・アバドの招きでルツェルン祝祭管弦楽団のソロ・チェリストを務めました 清水和音は1981年に弱冠20歳でロン=ティボー国際コンクール・ピアノ部門で優勝しています.昨年デビュー35周年を迎えた大ベテランです

 

       

 

自席はD列28番,右ブロック左通路側です.会場は9割近く埋まっているでしょうか

3人の演奏者が登場します.チェロのイェンス=ペーター・マインツは背が高く大学教授のような風貌をしています それもそのはず,彼はベルリン芸術大学教授でもあります

1曲目はハイドン「ピアノ三重奏曲第25番ト長調」です この曲は1795年にハイドンが2度目のロンドン滞在中に書かれたと言われています 第1楽章「アンダンテ」,第2楽章「ポコ・アダージョ」,第3楽章「フィナーレ」から成りますが,第3楽章でジプシー調のメロディーが聴かれることから,この曲は「ジプシー・ロンド」の愛称で親しまれています

聴いた限りでは,全体的にハイドンらしい明るく明朗な曲想ですが,マインツのチェロの音色の美しさが際立っていました プログラムの解説を見ると,使用楽器は1697年製のジョヴァンニ・グランチーノ「Ex.セルヴェ」と書かれていました 名器なんでしょうね

2曲目は待望のメンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲第1番ニ短調」です この曲が聴きたくてチケットを買ったようなものです この曲は1839年に作曲されましたが,「弦楽八重奏曲」とともにメンデルスゾーンの代表作一つです 4つの楽章から成ります.第1楽章冒頭,チェロが憂愁に満ちたメロディーを奏でますが,このチェロが素晴らしい この演奏で一気にメンデルスゾーンの世界に引き込まれてしまいました 第2楽章はピアノが無言歌のような魅力的なメロディーを奏でます.このピアノが素晴らしい 次いでヴァイオリンとチェロがロマンに満ちた旋律を奏でます

第3楽章は一転してスケルツォです ピアノの速いパッセージにヴァイオリンとチェロが呼応します そして第4楽章では3つの楽器が融合してメンデルスゾーン特有の世界を描き,最後のクライマックスを迎えます.見事なアンサンブルでした

休憩後はチャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調」です この曲は「偉大な芸術家の思いでに」というサブタイトルが付いていますが,「偉大な芸術家」とは,チャイコフスキーの友人で 彼の理解者でもあった,1881年3月にパリで死去したニコライ・ルビンシテインのことを指しています

この曲は2楽章形式になっていますが,第2楽章が「テーマと変奏」と「最終変奏とコーダ」に分かれています この曲でもマインツのチェロが冴えわたり,チャイコフスキーの 親友を失った悲しみを切々と歌い上げていました

最後の音が静かに閉じられると,一瞬のしじまの後,会場いっぱいの拍手とブラボーが湧き起こりました  カーテンコールが繰り返されましたが,アンコールはありませんでした.見識です

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテットでワーグナー「ニーベルングの指環」組曲他を聴く~東京・春・音楽祭

2017年03月30日 08時07分00秒 | 日記

30日(木).わが家に来てから今日で912日目を迎え,英国のメイ首相が28日 欧州連合(EU)に離脱を通知する書簡に署名したというニュースを見て,関係者に成り代わって感想を述べるモコタロです

 

       

                              メルケル:いいとこ取りは許さない! それをやったらメイ蹴る

                   メイ首相:May  I  ask  you    も少し優しくしておくれでないかい

                   トランプ:英国は えー国やさかい 応酬連合なんか早よ出ちまいな 

              朴 槿 恵:大統領をクビになっちゃったから 何も言えないのよね

                                安倍首相:わが家は 森友学園問題で それどころじゃないのであります

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「鶏団子と大根の鶏ガラスープ」と「生姜焼き」を作りました 「鶏団子~」は本当は中華スープなのですが,なかったので鶏ガラスープの素を使いました.いいんです.そんなもんで.大勢に影響はありません

 

       

 

                      

 

昨夕,上野学園大学・石橋メモリアルホールで「バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテット演奏会」を聴きました これは「東京・春・音楽祭」参加公演です.ここだけの話ですが,間違えて東京文化会館小ホールに行ってしまい,入口で「チラシ配りの人たちがいないなあ」と思い,ハタと間違いに気が付き 駅の反対側の上野学園大学に向かったのでした.幸い開場時間前に会場に着きました

さて,バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテットは,2005年夏にバイロイト祝祭音楽祭に長年参加している4人により結成されたヴァイオリン・アンサンブルです メンバーは第1ヴァイオリン=ベルンハルト・ハルトーク,第2=ミヒャエル・フレンツェル,第3=ウルフ・クラウゼニッツァー,第4=眞峯紀一郎です バイロイト祝祭劇場のオーケストラ・ピットに日本人が入って演奏していたことを初めて知りました

公表されたプログラムは①ラモー「4つのヴァイオリンのための『オペラ組曲』」,②ワーグナー/廣田はる香&ナリ・ホン編「ニーベルングの指環」組曲,③ラヴェル/ブラントナー編「クープランの墓」,④フンメル「4つのヴァイオリンのための『ディヴェルティメント』」,⑤ドント「4つのヴァイオリンのための四重奏曲ホ短調」ですが,当日 後半の順番が変わり⑤④③の順番に演奏しました

 

       

 

自席は1階F列20番,センターブロック右通路側です 会場は後方の席が空いています.同じ弦楽四重奏曲でもヴァイオリンだけ4本の演奏会ということで敬遠した向きが多かったのかも知れません

ステージの上には4本の譜面台が立てられていますが,椅子はありません.4人は立って演奏するようです

1曲目のラモー(キャトル・ヴィオロン編)「4つのヴァイオリンのための『オペラ組曲』」は,ラモーの複数の歌劇からテーマをとって4つの曲として編曲した作品です 第1曲「序曲」,第2曲「メヌエット」,第3曲「未開人のエール」,第4曲「ジーグ」から成ります

この曲を聴いてまず思ったのは,一人一人のヴァイオリンの音が極めて美しく,会場に良く響くということです このホールは特に弦楽器との相性が良いのではないかと思いました 聴いていて,フランスの宮廷の広間で聴いているような感覚を覚えました

2曲目はワーグナー(廣田はる香/ナリ・ホン編)「ニーベルングの指環」組曲です 「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」からそれぞれ代表的な聴かせどころを組曲として編んだものですが,4人の演奏は高音は輝き,中低音はふくよかに響き,聴いていて,バイロイト祝祭劇場ではこういう人たちの職人技のような演奏が聴けるのだろうな,と想像しました とくに「ワルキューレの騎行」と「ジークフリート」の一場面が,本当に4本のヴァイオリンだけで演奏しているのだろうか,と思うほど音楽に幅と深みがありました

演奏後,会場にいた編曲者の廣田はる香がステージに呼ばれ,4人の演奏者と握手,会場に一礼し,大きな拍手を浴びました 学生みたいな若い女性です

休憩後は 最初にJ.ドント「4つのヴァイオリンのための四重奏曲 ホ短調」が演奏されました ドントは19世紀ウィーン出身のヴァイオリニスト兼作曲家です.この曲は4つの楽章から成りますが,この曲でも4人は美しい響きのもと,見事なアンサンブルを聴かせてくれました

後半2曲目はフンメル「4つのヴァイオリンのための『ディヴェルティメント』」ですが,ベートーヴェンとほぼ同じ時代に生きた あのフンメルではなく,ドイツの現代作曲家で,この作品は1968年に作曲されました 演奏を聴く限り,第1楽章冒頭はまるでストラヴィンスキーの「春の祭典」だし,第3楽章はまるでバルトークの「管弦楽のための協奏曲」です 現代音楽とは言え,分かり易い曲です

プログラム最後の曲はラヴェル(ブラントナー編)「クープランの墓」から5曲~第1曲「前奏曲」,第2曲「リゴードン」,第3曲「メヌエット」,第4曲「トッカータ」です この曲では,時に第1ヴァイオリンがトランペットの音に聴こえたりして,4本のヴァイオリンだけで管弦楽の如き色彩感豊かな演奏を展開しました

アンコールの1曲目は誰かの「サラバンド」(と聞こえた)でしたが,短い曲で呆気に取られていると,2曲目にモーツアルトの歌劇「魔笛」から「夜の女王のアリア」が鮮やかに演奏されました ヴァイオリンによるコロラトゥーラに聴衆は大興奮でした

この日の彼らの演奏は期待以上のパフォーマンスで,東京・春・音楽祭に花を添えました

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「人間の値打ち」,「エル・クラン」を観る:ギンレイホール ~ ヴェルディとヴィヴァルディの名曲も流れる / 茂木大輔氏のコラムに思ったこと

2017年03月29日 07時36分28秒 | 日記

29日(水).日経夕刊コラム「プロムナード」にN響首席オーボエ奏者・茂木大輔氏がエッセイを連載しています 昨日は「日本のオーケストラ」というテーマでした.超訳すると

「日本のオケは練習の段階から 隅々までピッタリ合っていないと物凄く気になるが,ドイツのオケは最初は好き勝手にやっていて,次第に流れがまとまってきて凄いクライマックスになる 日本の聴衆は非常に静かに集中して演奏を聴いている,と評価が高い 海外公演に行くと,開演しているのに客席がざわざわしているのが 曲の進行とともに次第に静まって,最後に熱狂的な喝さいを頂けたりする 一緒にコンサートを作っている感じがして なかなか良いものなのだ  試しに日本でも,少しざわざわして頂けますでしょうか?と言われたら,きっとイヤだろうなあ.なかなか面白そうではあるのだが

これを読んで,「面白いかもしれないけれど,まっぴらごめんだ」と思いました.「ざわざわ」の中味が 止めのないおしゃべりだったり 袋や紙のガサガサだったり ジッパーを閉じる音だったりするわけで,そんなものはとても認められません 冗談も休み休み言って欲しい,と思います

ということで,わが家に来てから今日で911日目を迎え,27日に国連本部で始まった核兵器の使用を法的に禁ずる「核兵器禁止条約」の制定交渉で,日本の代表者が演説し「現状では建設的かつ誠実に参加することは困難」と不参加を表明した,というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

        これが唯一の戦争被爆国の態度か! 北朝鮮の核開発を堂々と非難できるのか?

 

                      

 

昨日,夕食に「鶏ももキャベツの味噌ガーリック」「生野菜とタコのサラダ」「野菜とベーコンのスープ」を作りました 「野菜スープ」はキャベツ,人参,大根,ジャガイモ,シメジ,トマト,ベーコンが入っています.コンソメ+鶏ガラスープの素を使っています

 

       

 

                     

 

昨日,神楽坂のギンレイホールで「人間の値打ち」と「エル・クラン」の2本立てを観ました 「命の値打ち」はパオロ・ビルツィ監督による2013年イタリア・フランス合作映画(109分)です

 

       

 

不動産業を営むディーノは,娘セレーナの恋人の父親である投資家ジョバンニと知り合い,自分も投資で一儲けしたいと思い 彼のファンドに投資する そんな中,ジョバンニの家の近くで轢き逃げ事件が発生する 最初はセレーナが酔っていた恋人を庇って自分が運転していたと証言したのだと思いきや,後でそうではないことが分かる 物語はディーノ,ジョバン二の妻カルラ,セレーナそれぞれの視点から語られ,彼らが抱える問題をあぶり出していく

この映画は実話に基づきますが,クラシック音楽が3回のシーンで使われています ジョバンニの妻カルラが財団を設立しようと評議員候補を集めて初会合を開いた時,男性のケータイに電話がかかってきますが,着メロはヴェルディの歌劇「ナブッコ」の有名な合唱曲「行け わが想い 黄金の翼に乗って」でした あとの2回は,ヴィヴァルディの「四季」から「冬」と「秋」でした 監督がどういう意図をもってこれらの曲を選んだのか分かりませんが,「冬」は登場人物の不安な心理を表わしているかのように響きました

 

                      

       

2本目の「エル・クラン」は,パブロ・トラベロ監督による2015年アルゼンチン映画(110分)です この映画も実話に基づいています

 

       

 

時は1983年のアルゼンチン.裕福なプッチオ家は父アルキメデスと母,5人の子供たちが幸せに暮らしていた 実はその裕福な生活はアルキメデスと長男アレックスの手による誘拐の身代金によって支えられていた アルキメデスは誘拐した相手を自宅の地下に幽閉し,相手の家族に身代金の要求をしていた.アレックスは恋人も出来たことから”足を洗いたい”が,父は許さない しかし,そんなことはいつまでも続かない.親子共々逮捕される

この映画も事実に基づく作品ですが,首謀者のアルキメデスは「自分がやったと認めて,家族を巻き込まないようにした方が良い」という説得に対し,裁判では「ある組織に脅かされて誘拐しただけだ」と主張し続けたのでした 普段は紳士そのものの顔をしていながら,誘拐となると冷血になるアルキメデスをギレルモ・フランチェラがクールに演じています

映画とは全然関係ないけれど,ダニエル・バレンボイムもマルタ・アルゲリッチもアルゼンチン生まれだったな,恐ろしい国で生まれたんだな,と思ったりしました

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「紀尾井 明日への扉」次年度のチケットをとる / 中川右介著「現代の名演奏家50~クラシック音楽の天才・奇才・異才」を読む~クラシック界の相関図

2017年03月28日 07時54分20秒 | 日記

28日(火).わが家に来てから今日で910日目を迎え,格安旅行の「てるみくらぶ」主催のツアーであった航空券の発券トラブルを巡り,同社は27日 「東京地裁に自己破産を申請し破産手続き開始の決定を受けた」と発表した,というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

       格安チケットは魅力だけど飛行機に乗れないんじゃ元も子もない Tell me 破産の理由 

 

                      

 

昨日の夕食はステーキでした.「野菜類の付け合わせ」と「生野菜サラダ」と「シメジとキャベツのスープ」は私が作り,娘が肉を焼きました

 

       

 

                     

 

紀尾井ホールの主催する「紀尾井  明日への扉」次年度のチケット(4公演セット:8,000円)をとりました 直接の動機は5月の公演にヴァイオリンの岡本誠司が出演するからです 2014年バッハ国際コンクール第1位,2016年ヴィエニャフスキ国際コンクール第2位の岡本の演奏はこれまで2回聴いていますが,演奏が素晴らしいのはもちろんのこと,演奏曲目への理解や,曲に取り組む姿勢もしっかりしています 現在 私の一押しの若手ヴァイオリニストです この他,カルテット・アマービレはメンデルスゾーン「弦楽四重奏曲第2番」を取り上げるのが嬉しいところです

 

       

 

                   

 

中川右介著「現代の名演奏家50~クラシック音楽の天才・奇才・異才」(幻冬舎新書)を読み終わりました 中川右介は1960年東京生まれ.早稲田大学第2文学部卒.2014年まで出版社アルファベータ代表取締役編集長として「クラシックジャーナル」誌や音楽家の評伝などを編集・発行.当ブログでは「怖いクラシック」(NHK出版新書)をご紹介しましたね

 

       

 

この本で扱っているのはクラシックの帝王カラヤン以下,フルトヴェングラー,カルロス・クライバー,クーベリック,ラトル,ベーム,アーノンクール,ミュンシュ,アバド,チョン・ミュンフン等の指揮者,アルゲリッチ,グルダ,ミケランジェリ,リヒテル,グリモー,ベルマン等のピアニスト,ムター,クレーメルらヴァイオリニスト,ロストロポーヴィチ,マイスキーらチェリスト,パヴァロッティ+ドミンゴ+カレーラスら三大テノール等々,音楽界の頂点で活躍した(している)音楽家たちです 

この本が他の類似本と大きく異なるのは,音楽家たちの生涯の概略を記した人物事典ではなく,それぞれの人生のある瞬間,ある期間を,他の音楽家との交流に焦点を当てて描いている点です 中でも,帝王カラヤンは様々な演奏家と交流や対立があったことが分かります

私が読んで一番面白かったのはヴァイオリニストのアンネ・ゾフィー・ムターを扱ったエピソードです 超訳すると

「多くのヴァイオリニストやピアニストは国際的なコンクールに入賞して初めて世界で認められる傾向にあるが,ムターは大きなコンクールでの入賞歴はなかった.カラヤンが優秀なヴァイオリニストを求めていた頃,「13歳のすごい少女がいる」という噂を耳にしたカラヤンは,ムターに自分のオーディションを受けさせ,自身が主宰するザルツブルク音楽祭に出演させモーツアルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」を初協演し大成功に導いた その後のムターは「帝王カラヤンの秘蔵っ子」と呼ばれ,古今のヴァイオリン協奏曲を協演するとともに,次々と録音していった そんなムターをミュンヘン・フィルがソリストとして招きシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏することになった時,リハーサルが始まると指揮者と意見が合わず,ムターの方からキャンセルを申し出た その時の指揮者はチェリビダッケだった カラヤンが天才と認めたヴァイオリニストをチェリビダッケは認めない・・・あまりにも分かり易い図式である

ここで「分かり易い図式」と言っているのは,ベルリン・フィルの首席指揮者だったフルトヴェングラーの後任候補としてカラヤンとチェリビダッケが跡目争いをして,結果としてカラヤンが勝ったことから,それ以降 二人の間には確執があった,さらに,音楽に対する姿勢が全く異なることによる確執があった,ということです すなわち,カラヤンはクラシック音楽の大衆化を図るため,積極的にCDやLDなど最新録音技術に関わっていたが,チェリビダッケは基本的には録音・録画は認めない主義で生の演奏に執着していたということです

一方,アンドレ・プレヴィンの項を見ると,ムターはプレヴィンの4度目の結婚相手(30歳以上の歳の差婚)として登場しています 二人はコルンゴルト,シベリウス,チャイコフスキーの協奏曲で協演していますが,多忙によるすれ違い生活のため4年後に離婚しています

他のアーティストについても面白く興味深いエピソードが満載です この本は,クラシック音楽界の相関図が描かれていると言ってもいいかもしれません クラシック好きにはたまらない本です

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高関健+音楽大学フェスティバルオーケストラでマーラー「交響曲第6番イ短調」他を聴く~プロ顔負けの演奏

2017年03月27日 07時47分51秒 | 日記

27日(月).「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので,今朝 都内でも雪が舞ったようです 全然当てはまらないじゃん.朝から寒いし ということで,わが家に来てから今日で909日目を迎え,トランプ米大統領が大統領選の公約に掲げた医療保険制度改革(オバマケ)の撤廃・見直しが早くも頓挫したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

       トランプのオバマケア撤廃提案はケアレスミスだった  保険をかけておけば良かったのに

 

                   

 

昨日,東京芸術劇場コンサートホールで「第6回音楽大学フェスティバル オーケストラ」を聴きました プログラムは①ドビュッシー:交響詩「海」,②マーラー「交響曲第6番イ短調”悲劇的”」です 指揮は東京シティ・フィル常任指揮者,京都市交響楽団常任客員指揮者の高関健です

このオーケストラは首都圏の9つの音楽大学と熊本地震(2016年4月)で被災した九州の2音大の学生奏者が集まり,復興支援と交流を図るために編成されました 参加大学は,上野学園大学,国立音楽大学,昭和音楽大学,洗足学園大学,東京音楽大学,東京藝術大学,東邦音楽大学,桐朋学園大学,武蔵野音楽大学,平成音楽大学(熊本),大分県立芸術文化短期大学(大分)の各音楽大学です

 

       

 

15時の開演に先立ち本番10分前から指揮者・高関健氏によるプレトークがありました 前日はミューザ川崎で同じプログラムで演奏,この日が2回目ということで「昨日より上手く演奏すると思います」と宣言しました そして,今回の公演でドビュッシーの「海」とマーラーの「第6交響曲」を取り上げたキッカケは,この2曲が同じ時期に作曲されたからだという説明がありました すなわち,ドビュッシーの「海」は1903年8月から1905年3月にかけて作曲され,マーラーの「第6交響曲」は1903年7,8月に第1~第3楽章が,1904年6月~9月に第4楽章が作曲されたということです さらに,マーラーの妻アルマの「夫とドビュッシーは仲違いしていた」という見解は誤解で,マーラーとドビュッシーの関係は良好なものであったことが紹介されました また,マーラーの「交響曲第6番」で中間の第2楽章と第3楽章を「アンダンテ」と「スケルツォ」のどちらを持ってくるかの解釈について,マーラーは3回自身の指揮でこの曲を演奏しているが,第2楽章を「アンダンテ」,第3楽章「スケルツォ」の順番で演奏したことから,これまでいろいろ演奏方法に変遷があったが,現代ではその順番で演奏されるようになった,という説明がありました 高関氏はスコアの読み込みが徹底的であることで知られていますが,彼もその順番で演奏することを選びました.高関健ならではのプレトークでした

さて,自席は1階P列26番,右ブロック左から2つ目です.会場は出演学生の家族・親戚・友人・知人,債権者,赤の他人を中心に9割方埋まっている感じです

学生諸君が入場し配置に着きます.弦楽器の配置は,左奥にコントラバス,前に左から第1ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリンという対向配置をとります 高関健の時はこの編成で,いわば「高関健シフト」です 弦楽器を中心に圧倒的に女子学生の多さが目立ちますが,学生の数が多いのでステージが狭く見えます

プログラム冊子のメンバー表を見ると,前半のコンマスは東京藝大の柘植彩音さんです.名前は覚えているので多分彼女の演奏をどこかで聴いたことがあると思います

再度,高関健が登場し,1曲目のドビュッシー「海ー3つの交響的素描」の演奏に入ります この曲は第1曲「海の夜明けから真昼まで」,第2曲「波の戯れ」,第3曲「風と海との対話」の3つの曲から成ります 驚くべきは管楽器群の素晴らしい演奏です 木管も金管も冴えわたっています.もちろん厚みのある弦楽器も侮れません ドビュッシーならではの色彩感豊かな音楽が展開します これが本当に学生の演奏だろうか,と思うほど素晴らしいパフォーマンスでした

最後の1音が鳴り終わるや否や,上階(2階か3階)から絶叫に近い「ブラボー」が発せられましたが,明らかにフライングです あれでは余韻に浸る猶予がありません こういう人を日本語で「無粋者」と言います 一人で聴いているわけではないのですから,演奏する側と聴く側の両方の立場に立って どうすべきか考えた上で行動して欲しいと思います 明らかに高関健は「ブラボーが早すぎた」という反応でした 案の定,休憩後のアナウンスでは「演奏後の余韻を楽しむため,拍手などは指揮者の手が下されてからお願いいたします」という注意喚起がありました

 

       

 

プログラム後半はマーラーの「交響曲第6番イ短調」です 前述の通り,20世紀初頭の1903年7,8月と1904年6~9月に作曲されました.4楽章から成りますが,前で触れた通り,第1楽章「アレグロ・エネジコ・マ・ノン・トロッポ」,第2楽章「アンダンテ・モデラート」,第3楽章「スケルツォ」,第4楽章「フィナーレ:アレグロ・モデラート」の順番に演奏されます 管楽器群は前半とメンバーが入れ替わります.コンマスも東京音大の福田俊一郎君に代わります

高関健のタクトで第1楽章が開始されます.行進曲風のリズムでグングン音楽が進みますが,中盤では,マーラーの指示通り,クラリネットがベルアップ奏法で演奏します ホルンが抜群に上手い 実に味のある演奏をしています.第2楽章ではオーボエ,クラリネットを中心に木管楽器が冴え,弦楽器が美しいアンサンブルを聴かせます 第3楽章では重心の低いスケルツォが奏でられます.先日同じ曲を取り上げた上岡敏之+新日本フィルの演奏はエクセントリックなものでしたが,高関健+大学選抜オケの演奏は整然としたもので,「楽譜通り」といった調味料なしの演奏でした

最後の第4楽章が,ハープとチェレスタによるグリッサンドによって開始されます この楽章でも木管,金管を問わず管楽器が冴えわたり,弦楽器も渾身の演奏を展開しました この楽章でも高関は時にクラリネットに,ホルンに,オーボエに,ベルアップ奏法を求めます 高関健のことですから,すべてが楽譜通りなのでしょう

この楽章では中盤とコーダ近くにハンマーによる打撃が2回ありますが,床が揺れ,振動が椅子に伝わりました 最後に第1楽章冒頭の忘れがたいメロディーが戻ってきてコーダになり,突然全楽器による強奏により衝撃的な結末を迎えます

今度は,アナウンスが効いたようで,しばしの しじまがあって,指揮者のタクトが下されてから会場いっぱいの拍手が起こりました これが普通なのです

この日の学生選抜による演奏は,とても学生オケとは思えないほど技術的にも優れており,素晴らしいパフォーマンスでした 今回の大成功は,寄せ集め学生オケの力を最大限に引き出し 熱演を繰り広げた高関健に依るところが大きいと思います

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メンデルスゾーン「弦楽八重奏曲」他を聴く~東京春祭「都響メンバーによる室内楽」 / シトコヴェツキー+藝大フィルハーモニアの公演チケットを買う

2017年03月26日 09時20分55秒 | 日記

26日(日).わが家に来てから今日で908日目を迎え,映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎の銅像がある京成電鉄金町線の柴又駅前に,妹さくらの銅像が建てられ,25日に除幕式があったというニュースを見て 国会で話題の夫婦に成り代わって感想を述べるモコタロです

 

       

        これを見た安倍首相「男はつらいよ」 昭恵夫人「女もつらいよ」 モコタロ「自業自得だ」

 

                              

 

6月9日(金)午後7時から東京芸術大学奏楽堂で開かれる「第381回藝大フィルハーモニア管弦楽団定期演奏会」のチケットを購入しました プログラムは①チャイコフスキー「瞑想曲」,②ストラヴィンスキー「ディヴェルティメント」,③チャイコフスキー「交響曲第6番ロ短調」です ヴァイオリン独奏と指揮はドミトリー・シトコヴェツキ―です

 

       

       

 

                  

 

昨夕,上野の東京文化会館小ホールで「都響メンバーによる室内楽」を聴きました これは「東京・春・音楽祭」の参加公演です.プログラムは①シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」,②ナイクルグ「ギターと弦楽四重奏のためのAcequias」,③メンデルスゾーン「弦楽八重奏曲変ホ長調」です 出演はヴァイオリン=四方恭子,双紙正哉,吉岡麻貴子,渡邉ゆづき,ヴィオラ=鈴木学,村田恵子,チェロ=田中雅弘,コントラバス=池松宏,ギター=鈴木大介です

 

       

 

 自席はE列19番,左ブロック右通路側です  1曲目はシューベルトの「アルペジオ―ネ・ソナタ イ短調」ですが,プログラムの解説によると「アルペジオ―ネ」とはチェロのように弾くギターとのことで,この曲はアルペジオ―ネのために書かれた曲としては現存する唯一の楽曲だそうです 私が知っている範囲ではチェロとピアノで演奏されるケースが多いように思います この日はいったいどの楽器の組み合わせで演奏するのだろうか,と思っていると,ヴィオラの鈴木学とギターの鈴木大介が現われました.どうやらダブル鈴木で演奏するようです ヴィオラのメロディーをギターの伴奏が支えるという態勢です.この曲は第1楽章「アレグロ・モデラート」,第2楽章「アダージョ」,第3楽章「アレグレット」の3つの楽章から成ります

冒頭はギターから入りますが,ヴィオラが哀愁を帯びたメロディーを奏でます シューベルトらしいな,と思うのは第2楽章から続けて演奏される第3楽章です.まさに「歌のシューベルト」です.何と言ってもシューベルトは歌曲です.その歌心がこの楽章には横溢しています

2曲目は1946年ニューヨーク生まれのマーク・ナイクルグ作曲「ギターと弦楽四重奏のためのアセキアス」です この曲は今回が日本初演ということなので,誰もが等しく初めて聴きます 四方,双紙,鈴木,田中の弦楽奏者とギターの鈴木により演奏されます

プログラムの解説に「(この曲は)スペインとアメリカの文化が混じりあうミューメキシコ州サンタフェの風土を濃厚に映し出している」と書かれていますが,私にはまったくそのようには聴こえませんでした まさに「メロディーがありそうで なく,なさそうで ある」といった典型的な現代音楽です また同じ解説によると「タイトルの『アセキア』とはアメリカ南西部で使われる言葉で『スペインの伝統的な灌漑用の水路』を意味する」らしいのですが,”考いよう”によってはそんな感じに聴こえるかな,と思って耳を傾けましたが,”推論”に過ぎず,”汗が際”に流れるだけでした(ちょっと苦しい)

休憩時間にロビーでNさんと立ち話をしました.Nさんは「ナイクルグの冒頭は雅楽のようでした 全体的には現代音楽ですね.演奏家は常に新しい曲を演奏していかないといけないのでしょうね」と言われていましたが,確かに,いわゆるコテコテの古典ばかりを繰り返し演奏してるだけでは 演奏家として成長しないのかも知れないな,と思いました

 

       

 

休憩後は待ちに待ったメンデルスゾーン「弦楽八重奏曲」です この作品は1825年,メンデルスゾーンが16歳の時に書きました.第1楽章「アレグロ・モデラート・マ・コン・フーコ」,第2楽章「アンダンテ」,第3楽章「スケルツォ:アレグロ・レッジエーリッシモ」,第4楽章「プレスト」の4つの楽章から成ります

メンバーは左サイドにヴァイオリンの4人が,右サイドにチェロ,コントラバス,ヴィオラ2人がスタンバイします  この曲は本来チェロが2本ですが,今回はチェロの代わりにコントラバスを入れたようです.これが演奏にどういう影響を及ぼすかが聴きものです

第1楽章が四方恭子のリードで”前へ前へ”という推進力のある音楽が開始されます この楽章を聴いた段階で「円熟の演奏だな」と思いました これまで聴いた若手だけの元気溌剌の演奏とは異なり,落ち着きがあるというか,節度をもって演奏しているという印象を持ちました 第2楽章はとても美しい緩徐楽章です.8人の円熟した演奏スタイルが最も生きた楽章だと思います 一転,第3楽章「スケルツォ」では,高速で妖精が飛び回るような軽快な演奏が展開します

ここで,間を置かずに池松宏のコントラバスが炸裂します 次いでチェロ,ヴィオラ,ヴァイオリンへと8人のフーガでつないでいきます 第3楽章までは節度を保って演奏していた8人でしたが,この楽章に入ってからは,地下に溜まっていたマグマが爆発したかのように躍動感あふれる演奏を展開し若きメンデルスゾーンの記念碑的な作品のフィナーレになだれ込みました チェロの1本を池松のコントラバスに代えたことが功を奏したと言うべきでしょう

モーツアルトの「アレグロ」は哀しみが疾走します.メンデルスゾーンの「プレスト」は喜びが疾走します 8人は渾身の演奏で聴衆の期待に応えました 繰り返されるカーテンコールに応えて ステージに登場する8人の 誇らしげな表情が印象的でした

この日に取り上げられたシューベルトは31歳,メンデルスゾーンは38歳,そしてモーツアルトは35歳でこの世を去っています.天才はみな短命です 運命の前に「もし・・たら・・れば」は無意味です

「弦楽八重奏曲」は いつ聴いても感動的な曲です とても16歳の少年が作曲した作品とは思えないほど充実した 魅力たっぷりの楽曲です もっと演奏する機会が増えても良いと思います

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海老原光+仲道郁代+がんばろう日本!スーパーオーケストラで「オール・ベートーヴェンプログラム」を聴く / 新国立オペラ次期シーズンのチケット届く

2017年03月25日 09時14分49秒 | 日記

25日(土).読者の読書さんから,このブログで話題を切り替える時に使用している「閑話休題」の使い方について「本題に戻る時に使うものなので 誤用である」とのご指摘をいただきました.私は「話は変わって・・・」というつもりで気軽に使用していましたが,厳密には誤用でした ご指摘いただいた読書さんにお礼を申し上げるとともに,本日から新しい方法を採用いたします

ということで,わが家に来てから今日で907日目を迎え,森友学園への国有地売却問題をめぐり,安倍晋三首相が予算委員会で,国有地売却や学校認可に関する自身と妻 昭恵氏の関与を全面的に否定した,というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

        安倍晋三首相:本音を言うと「あ~心臓!」 昭恵夫人「メールの件は気が滅入る!」

 

                               

    

昨日,夕食に「豚もやし炒めのおろしポン酢かけ」「ホウレン草のお浸し」「生野菜とサーモンのサラダ」を作りました.「豚もやし~」は初挑戦です レシピでは「もやしのひげ根を取る」と書いてありましたが 面倒なので無視しました.大勢に影響はありませんでした

 

        

 

                                

 

昨日,新国立劇場から2017/2018シーズン オペラのチケットが届きました 10月の「神々の黄昏」から来年7月の「トスカ」まで10回分です

 

       

 

チケットホルダーも同封されていました 私の場合は,今月分のチケットは財布に直接入れており(財布をなくすと現金よりチケット代の方が高いので大損害),来月以降のチケットを2つのホルダー(今年分と来年分)に分けて保管しています 毎年 読響からも会員特典のチケットホルダーが届くので溜まってしまいます

 

       

 

                               

 

昨夕,初台の東京オペラシティコンサートホールで「毎日希望奨学金チャリティーコンサート~がんばろう日本!スーパーオーケストラ」公演を聴きました オール・ベートーヴェン・プログラムで,①劇音楽「エグモント」序曲,②ピアノ協奏曲第5番”皇帝”,③交響曲第5番ハ短調”運命”です ②のピアノ独奏は仲道郁代,指揮は海老原光です

 

       

 

自席は1階27列10番,左ブロック右通路側です.会場はほぼ満席です 開演に当たりいつものアナウンスがあります 「公演中にケータイ電話等の呼び出し音が鳴ると ほかのお客様のご迷惑になる場合がございます・・・・・」という内容ですが,はっきり言って「ご迷惑となることがある」ではなく「迷惑になります」でしょう こういう湾曲なアナウンスは東京オペラシティコンサートホール以外の会場で聞いたことがありません どうしてこのような客に媚びへつらった言い方をするのでしょうか? 聞くたびにもどかしく思います 他のコンサート会場と同じように「ケータイ電話の電源はお切りください」にすべきです

さて,「がんばろう日本!スーパーオーケストラ」のメンバーが入場し配置に着きます オケの配置は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,その後ろにコントラバスという並びです 「さすがはスーパーオーケストラだ」と思うのは,コンサートマスターが読響コンマスの小森谷巧,副コンマスがN響コンマスの伊藤亮太郎,第2ヴァイオリン首席は読響首席の瀧村依里,ヴィオラの首席は読響首席の柳瀬省太,フルート首席はN響首席の甲斐雅之,オーボエ首席は東京藝大教授の小畑善昭,クラリネット首席は藝大教授の山本正治といったように,首席クラスの演奏者が要所を押さえていることです メンバーの出身オケでは,このほか札幌響,仙台フィル,千葉響,東京フィル,東京シティ・フィル,東京ニューシティ・フィル,都響,日本フィルから有志が出場しています 特に毎日新聞主催のコンサートのコンマスが読売日本交響楽団のコンマスで,副コンマスがNHK交響楽団のコンマスというのは,この公演ならではのことでしょう 新聞同士は販売競争していますから

指揮者・海老原光は1974年鹿児島生まれですが,何と名門進学校・鹿児島ラサール中学・高校を卒業し 東京藝大大学院を修了しています 父親が東大卒で母親が東京藝大卒で指揮者だそうです 高学力家系コンダクターですね

海老原は会場に一礼し,オケの方を向いて一礼してから指揮台に上がります.これは師匠・コバケンこと小林研一郎の儀式そのものです

1曲目は「エグモント」序曲です.この曲は10曲から成る劇付随音楽ですが,1810年春にウィーンで初演されました 海老原光のタクトで演奏に入りますが,冒頭から根性が入った演奏です.特に弦楽器に重厚感が溢れています

2曲目は「ピアノ協奏曲第5番変ホ長調”皇帝”」です.1811年に 今ではピアノ教則本で有名なカール・チェルニーによって初演されました 「皇帝」というニックネームはベートーヴェンが付けたものではなく,名づけ親は不明です しかし,堂々たる曲想から言って,ピアノ協奏曲の中の最高位に位置する皇帝のような存在感があります

ソリストの仲道郁代がゴールドの艶やかな衣装で登場しピアノに対峙します 海老原光の合図で第1楽章「アレグロ」の冒頭のカデンツァが華々しく開始されます 仲道のピアノはもちろんのこと,オケが半端なく力が入っています 迫力ある演奏に 第1楽章終了後 会場後方から拍手が起きました 比率から言うと約2割の聴衆が初めてこの曲を聴いたのではないかと思います 仲道は大人の対応で,チラッと会場の方に一礼し拍手に応えます.彼女ほどのピアニストになると楽章間の拍手ぐらいで集中力が途絶えることなどないのでしょう 第2楽章は緩徐楽章です.仲道は若干スタッカート気味に 一音一音を明確に 慈しむように演奏しました   何か思うところがあったのでしょうか 間を置かずに続けて演奏される第3楽章「ロンド:アレグロ」への切り替えが鮮やかです   この楽章ではフルート,クラリネット,オーボエを中心に管楽器が冴えていました

 

       

 

休憩後は「交響曲第5番ハ短調」です  言うまでもなくクラシック音楽の代名詞的な名曲です.司会の小森谷徹からインタビューを受けた海老原光は,

「ベートーヴェンの曲はこの第五や第九に代表されるように,苦悩から歓喜へという精神を音楽として表すには,頑張って演奏しないとダメなんです

と語っていましたが,第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」の冒頭から,指揮者のやる気と根性がオケのメンバーに伝染したかのように,渾身の演奏を展開します

第2楽章「アンダンテ・コン・モート」も冒頭から重心の低い重厚感溢れる演奏が展開します そんな時,1階中央後方からケータイのマナーモードの「ブーブー」という着信音が鳴りました 相当長い間鳴り続けていましたが,当人が気付かなかったはずはないと思います 「ほかのお客様のご迷惑になる場合がございます」からマナーモードでなく,電源を切りましょうね それが出来ない人はもう来なくていいです

第3楽章から第4楽章にかけては,海老原のキビキビした指揮のもと 厚みのある弦楽器を中心に渾身の演奏が展開しました とくに第4楽章「アレグロ」のフィナーレは圧倒的な熱風が会場に押し寄せました 「根性の運命」でした.これほどエネルギーと集中力に満ちた「運命」はジョナサン・ノットが東京交響楽団を振ったコンサート以来です 海老原光という指揮者の存在を印象付けたコンサートでした

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

垣内悠希+周防亮介+東京シティ・フィルでシベリウス「ヴァイオリン協奏曲」他を聴く~素直な演奏スタイルに好感

2017年03月24日 07時48分10秒 | 日記

24日(金).昨日,当ブログの読者Nさんと渋谷でランチしました 明日 25日,東京文化会館小ホールで開かれる東京・春・音楽祭の「都響メンバーによる室内楽」コンサートのチケットをNETで発注する際 ミスをして2枚とってしまい,Nさんにメールしたところ ちょうど予定が空いているということで,行っていただくことにしたのです 昨日はそのチケットの受け渡しをしました.相変わらずスマートなNさんはシックながらエレガントな衣装で決めています 音楽の話を中心にいろいろな話をしました 唯我独尊・四面楚歌のサスペンダー爺さんの話から,最近とくに印象に残ったコンサート,若手演奏家の有望株は誰か,CDの整理方法,そして私が住んでいる巣鴨の地蔵通り商店街の話に至るまで多岐にわたる話で盛り上がりました.楽しい時は時間が経つのは速いものでいつの間にか1時間半も経っていました

ということで,わが家に来てから今日で906日目を迎え,森友学園の籠池泰典理事長が,23日の参院予算委員会の証人喚問で,2015年9月に安倍昭恵首相夫人から封筒に入った100万円の寄付を受け取ったと証言した,というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

          国会での籠池泰典氏は  籠の中の鳥か  池の中の鯉か  質問に安乗りはしなかったな

       当事者の片方だけが証言しても真相は解明できない 相手方の証人喚問が必要では?

 

  閑話休題  

 

昨日,娘のリクエストで夕食に「カレーライス」と「生野菜とアボガドのサラダ」を作りました 新じゃがを使ったら半分以上が溶けてしまいましたが,かえって美味しくなりました

 

       

 

  も一度,閑話休題  

 

昨夕,池袋の東京芸術劇場コンサートホールで東京シティ・フィルのコンサートを聴きました これは「2017都民芸術フェスティバル」参加公演です.オール・シベリウス・プログラムで,①交響詩「フィンランディア」,②ヴァイオリン協奏曲ニ短調,③交響曲第2番ニ長調です ②のヴァイオリン独奏は周防亮介,指揮は垣内悠希です

 

       

 

自席は2階L列51番,右ブロック左通路側です.残念ながら庇の下です.会場は9割方入っているでしょうか

オケのメンバーが入場し配置に着きます.コンマスは客員の松野弘明.オケの編成は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという いつもの並びです 指揮者の垣内悠希は2011年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝者です

この日のコンサートは2曲目の「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」の演奏が印象に残ったのでそれについて書きます 

ステージに周防亮介が登場すると,自席の3つ前の列に座っている女子学生らしき3人組が顔を見合わせて何やら呟き合っています.「ねえ,あの人,女性じゃないよね?」「だって名前が亮介だよ,男性でしょ!」と会話しているように見えます 彼女たちが誤解するのも無理もないな と思うのは,周防は髪を肩まで伸ばし 優しい顔立ちをしているので,まるで女子学生のように見えるからです

この日もそうでしたが,周防の演奏を聴いて思うのは,とても美しい音で 素直な 流れるような演奏をするということです 技巧的には完璧ではないかと思います 考えるに,彼の演奏スタイルに合うのはメンデルスゾーンやシベリウスのようなメロディー・ラインが美しい流麗な曲だと思います 一方,まだ聴いたことはありませんが,チャイコフスキーやショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲のような作曲家の強い個性が前面に出てくる曲はどのように演奏するのだろうか,と興味が湧きます

この日はアンコールにバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番BWV1003」から「グラ―ヴェ」を叙情的に演奏しましたが,バッハもこの人に合っています

1995年生まれと言いますから現在22歳です 現在,東京音楽大学に特別特待奨学生として在学中とのことですが,すでに内外の数々のコンクールに入賞し,オーケストラとの共演も多くこなすなど,演奏するたびにその名を全国に轟かせています 素直な演奏スタイルなので,これからの活躍が楽しみです

 

       

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ワーグナー ✖ ホルン ~ N響メンバーと仲間たちによるホルン・アンサンブル」を聴く / NHK音楽祭:ヤルヴィ+N響の「ドン・ジョバンニ」を申し込む

2017年03月23日 07時52分53秒 | 日記

23日(木).わが家に来てから今日で905日目を迎え,第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝で,日本が米国に1-2で敗れたというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

         「たかが野球 されど野球」  「たかが証人喚問 されど証人喚問」  てか 関係なくね?

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「カレイの煮つけ」「牛肉とゴボウのしぐれ煮」「生野菜とツナのサラダ」を作りました 「牛肉~」は料理本のレシピではゴボウを”さきがき”にすると書いてありますが,包丁で削ると厚くなり歯で噛みにくくなります ピーラーを使うとちょうど食べやすい柔らかさになります 「カレイ~」は勝浦在住の大学時代の友人S君が送ってくれた逸品を解凍しました 持つべきものは友だちです 煮崩れしないように煮たつもりですが,華麗にできませんでした 料理の火加減って難しいですね

 

       

 

  も一度,閑話休題  

 

NHK交響楽団から「NHK音楽祭2017」の案内が届きました 今年は下の4公演ですが,4月4日までが先行抽選販売期間になっています

①9月 9日(土)15時開演 ヤルヴィ+NHK交響楽団:モーツアルト「ドン・ジョバンニ」

②10月 1日(日)15時開演 ぺトレンコ+バイエルン国立管弦楽団:ワーグナー「ワルキューレ」~第1幕,マーラー「こどもの不思議な角笛」

③11月9日(木)18時開演 フェドセーエフ+チャイコフスキー交響楽団:チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」

④11月13日(月)19時開演 ブロムシュテット+ゲヴァントハウス管弦楽団:ブラームス「ドイツ・レクイエム」

今年の本命は2019年からベルリン・フィルの首席指揮者に内定しているキリル・ぺトレンコ+バイエルン国立管弦楽団の「ワーグナー+マーラー」ですが,10月1日は,新国立オペラのワーグナー「神々の黄昏」のプルミエ(初日)公演と重なっているので聴きに行けません もちろん,他日公演に振り替えるという選択肢もありますが,私の予想ではプルミエ会員からの他日公演への振替要求がかなりの数になり,希望振替先公演が確保しにくくなるのではないか,と思います そういうことも踏まえて,ヤルヴィ+N響の「ドン・ジョバンニ」A席の抽選販売だけ申し込みました 先行抽選販売では座席指定が出来ないのが不満ですが,抽選結果は5月1日18時以降に登録先メルアド宛てに届くそうなので,それを楽しみに待ちたいと思います

 

       

       

       

       

 

  最後の,閑話休題   

 

昨夕,上野の東京文化会館小ホールで「東京・春・音楽祭」参加公演,「ワーグナー✖ホルン~N響メンバーと仲間たちによるホルン・アンサンブル」を聴きました

 プログラムは①ウェーバー(ヴァレンドルフ編)「魔弾の射手」より「序奏,狩人と村人の合唱」,②ワーグナー(シュティーグラ―編)「ローエングリン」幻想曲,③同(クリアー編)「ラインの黄金」幻想曲,④ベートーヴェン(テルツァー編)「フィデリオ」序曲,⑤フンパーディンク(キルシェン編)「ヘンゼルとグレーテル」より「前奏曲とコラール」,⑥ワーグナー(ユーリセン編)「トリスタンとイゾルデ」幻想曲,⑦同(シュティーグラ―編)「ジークフリート」幻想曲です  演奏は,N響の今井仁志,福川伸陽(以上首席),石山直城,勝俣泰,木川博史,野見山和子,山本真(N響OB?)と読響の久永重明です

 

       

 

自席はE列29番,右ブロック左から2つ目です.会場はほぼ満席,良く入りました ホルン・セクションだけで会場を埋めることが出来るのはN響だからでしょうか

8人のメンバーがステージに登場します.前列と後列に4人ずつスタンバイします.最初はやはり首席の二人は前列ですが,後で曲に応じて8人の位置が変わります

1曲目はウェーバー(ヴァレンドルフ編):歌劇「魔弾の射手」から「序奏,狩人と村人の合唱」です このオペラは1821年に初演されましたが,ドイツ・ロマン派オペラの先駆けとなった記念すべき作品です ホルンだけのアンサンブルで あの有名な 旋律 が聴こえたときには感動で 戦慄 しました

2曲目はワーグナー(シュティーグラ―編):「ローエングリン」幻想曲です このオペラは1850年に初演されましたが,シュティーグラ―の編曲は第1幕の前奏曲(聖杯の動機)から「結婚行進曲」そして「第1幕終曲」へと受け継がれていきます.特に前奏曲がワクワクするほど感動的でした

3曲目はワーグナー(クリアー編)「ラインの黄金」幻想曲です 「ラインの黄金」はワーグナーが20年近くの歳月をかけて完成した舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」の序夜にあたります この曲では,ラインの流れを表わす前奏曲の神秘的なアンサンブルが印象的でした この曲では,後列の4人が途中からワグナー・チューバに持ち代えて演奏し 音楽に深みを与えていました

プログラム後半の1曲目は,ワーグナーを離れて,ベートーヴェン(テルツァー編):歌劇「フィデリオ」序曲を演奏しました 言うまでもなく「フィデリオ」はベートーヴェン唯一の歌劇ですが,序曲が4つもある過激な歌劇は音楽史上でこの「フィデリオ」だけでしょう すなわち「フィデリオ序曲」,「レオノーレ序曲」第1番~第3番です.この作品はホルン奏者テルツァーが2010年に編曲したものですが,さすが自らホルンを吹く人が編曲しただけあって,ホルンの聴かせどころが満載でした

次もワーグナーを離れて,フンパーディンク(キルシェン編)の歌劇「ヘンゼルとグレーテル」から「前奏曲とコラール」が演奏されました とても優しく美しい曲でした N響のメンバーがワーグナーの合間にこの曲を挟んだのは,同じホルンによる演奏でもいかにワーグナーと他の作曲家の曲とが違うのかを解ってほしいからだと思います.とても感動的な演奏でした

ホルンと言えばやはりワーグナーです 再びワーグナーに戻ります.ワーグナー(ユーリセン編):「トリスタンとイゾルデ」幻想曲が演奏されました 演奏を聴きながら,過去に観たこのオペラのシーンを思い浮かべていました

プログラムの最後はワーグナー(シュティーグラ―編)「ジークフリート」幻想曲です  冒頭からジークフリートの角笛が高らかに鳴り響きます.曲は「ジークフリート」から いつの間にか「神々の黄昏」第3幕のテーマを中心に音楽が展開します この曲でも中盤からワーグナー・チューバが使用され,厚みのある音楽が展開します

演奏する側のN響メンバーも満席になるとは思っていなかったようで,感激の面持ちでした アンコールとしてウェーバー「魔弾の射手」から「狩人の合唱」が,次いでワーグナー「ワルキューレ」から「ワルキューレの騎行」が勇ましく演奏され,フランシス・コッポラ監督「地獄の黙示録」を思い出させました

今回の収穫は,ホルンだけでワーグナーの名曲を堪能することが出来たこともありますが,それよりも むしろ,N響定期会員なのに首席の福川伸陽しか知らず,他の楽員の顔も知らなかったのが,今回 近くで演奏を聴くことによって顔と名前が一致するようになったことです  生のコンサートを聴くに当たって,こういうことは大切なことだと思います

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

METライブビューイング,ドヴォルザーク「ルサルカ」を観る~魅惑的なオポライスのルサルカ / 遠藤周作著「十頁だけ読んでごらんなさい.十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい」を読む

2017年03月22日 08時14分53秒 | 日記

22日(水).わが家に来てから今日で904日目を迎え,政府が 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を閣議決定した というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

          ぼくがご主人さまに噛みついたりすると適用されるの? それは「狂暴罪」だって?

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「鶏のトマト煮」と「生野菜とアボガドのサラダ」と「野菜とベーコンのスープ」を作りました 「鶏の~」は初挑戦ですが,美味くできました

 

       

 

  も一度,閑話休題  

 

昨日,新宿ピカデリーでMETライブビューイング,ドヴォルザーク「ルサルカ」を観ました これは今年2月25日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演された公演のライブ録画映像です

出演はルサルカ=クリスティーヌ・オポライス(ソプラノ),イェジババ=ジェイミー・バートン(メゾソプラノ),水の精ヴォドニク=エリック・オーウェンズ(バスバリトン),王子=ブランドン・ジョヴァノヴィッチ(テノール),外国の王女=カタリーナ・ダライマン(ソプラノ),指揮=イギリス出身のマーク・エルダー,演出=アメリカ生まれのメアリー・ジマーマンです

 

       

 

「ルサルカ」はアンデルセンの「人魚姫」などに代表される「水の精」です

物語は,水の精ルサルカが人間の王子に恋をして,魔法使いのイェジババに人間にして欲しいと頼むが,「人間の姿になる代りに愛のあかしを得るまでは口がきけなくなり,王子に裏切られた時は破滅する」と忠告される それでもルサルカは人間になる道を選ぶ.森の奧で王子はルサルカを見つけて城へ連れ帰り,結婚式を挙げる.しかし,王子は口がきけないルサルカに不満を抱き,外国の王女に心を移す 絶望したルサルカはイェジババの元へ戻り相談するが,「王子の命を奪えば呪いが消える」と短剣を渡す.しかし,ルサルカはそれを拒否する.王子と再会したルサルカは口づけを求める王子に「私と口づけすれば命を落とす」と忠告するが,王子はそれを拒む.二人は口づけし湖に消える

 

       

 

この公演はルサルカを歌ったクリスティーヌ・オポライスに尽きます 美しい「水の精」そのものです 魅惑的な美声と 役柄に成り切った演技力,さらに理想的なプロポーションと美貌を兼ね備えた類まれなソプラノです 前回のMETライブでルサルカを演じたルネ・フレミングに対抗できるのはオポライスしかいません

第1幕で,大きな月が昇るシーンを背景にして ルサルカが歌う「月に寄せる歌」は,ドヴォルザークの魅力を凝縮した名アリアですが,オポライスは惚れ惚れするソプラノで抒情的に歌い上げました ルサルカは第2幕では王子を相手に口がきけないので,20分以上も舞台上にいながらセリフもなければ歌も歌わないという状態にありますが,オポライスによる ルサルカの不安な心理を反映した”背中で見せる演技”が光りました 

イェジババを歌ったジェイミー・バートンは,先日のMETライブ「ナブッコ」でフェネーナを歌ったメゾソプラノですが,今回の魔法使いの役柄の方が伸び伸びとした演技で,彼女にピッタリだと思いました  歌が抜群に上手いだけでなく,顔と身体全体を使ったオーバーアクション気味な演技力は特筆に値します

水の精ヴォドニクを歌ったエリック・オーウェンズはアメリカ生まれの黒人歌手ですが,深みのあるバスバリトンで説得力がありました

今回の演出はアメリカ生まれの女性演出家メアリー・ジマーマンによる新制作ですが,メルヘンタッチの物語に相応しい美しい舞台作りが印象的です また,第1幕では水の精たちによるバレエ・シーン,第2幕では結婚披露パーティーでの舞踏シーンがありますが,マコーミックによる振付が素晴らしく,このオペラに華を添えていました

幕間のインタビューで指揮者のマーク・エルダーが

「40年前からこのオペラの魅力に取りつかれて上演してきたが,実際に指揮をしてみて分かったのは,『ルサルカ』にはワーグナーの影響が表れている,特にオペラの暗い側面を表す場面でワーグナーの影響を見い出すことが出来る,ということです

と語っていましたが,第3幕を聴いていて,なるほどと思いました ベートーヴェンと同じように,ワーグナーは後の作曲家に大きな影響を与えているのだということをあらためて感じました

今回の公演はチェコ語での上演ということで,歌手陣も普段より数倍の努力が必要だったのではないかと思います 

約10分の休憩2回と,歌手等へのインタビュー,次シーズン予告などすべてを含めて3時間53分の長丁場でしたが,見ごたえ十分でした

中でも,現在METで進められている 歌劇場がリンカーンセンターに移設されて50周年を記念して企画・収録中の「特別企画」の映像の中で,50年前のこけら落とし公演,バーバーのオペラ「アントニオとクレオパトラ」でクレオパトラを歌ったレオンタイン・プライスがインタビューに応じ,マイクの前で当時歌ったアリアの一部を歌い「これで合ってるかしら?」と言うのですが,これが全盛期から50年後の歌声かと驚くほど現役のような見事な歌唱力なのです.これには度肝を抜かれました

METライブビューイングはこういう特典映像も魅力の一つです

 

  最後の,閑話休題  

 

遠藤周作著「十頁だけ読んでごらんなさい.十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい」(新潮文庫)を読み終わりました 私がこれまで読んだ本の中で一番長いタイトルの作品です 遠藤周作は1923年東京生まれ.慶応義塾大学卒業.55年「白い人」で芥川賞,66年「沈黙」で谷崎潤一郎賞を受賞.96年9月逝去

 

       

 

遠藤周作没後10年の平成18年(2006年)に,光文社の編集者だったS氏に預けられたまま46年間も埋もれていた未発表原稿が発見されました それは,昭和35年4月5日から同年9月5日までに書かれた185枚の原稿で,タイトルはなく,「ちょっとしたことだけれども・・・」という最初の書き出しの後,「十頁だけ読んでごらんなさい.十頁読んで飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい」というユニークな書き出しで始まる原稿でした それを復活させたのがこの作品です

「序」で「ちょっとしたことであなたの人生が変わる」を語り,以下,「筆不精をなおすちょっとしたこと」,「手紙を書く時に大切なちょっとしたこと」,「真心を伝える書き出しのちょっとしたこと」,「返事を書く時に大切なちょっとしたこと」・・・・「相手の心をキャッチするラブ・レターのちょっとしたこと」,「彼女を上手くデートに誘うちょっとしたこと」,「恋愛を断る手紙で大切なちょっとしたこと」,「先輩や知人に出す手紙で大切なちょっとしたこと」など,実生活ですぐに役立つ「手紙を書く時のちょっとした気遣い」が書かれています 見出しからも分かるように,どちらかと言うと,若者向けの「手紙の書き方指南書」のような内容です

スマホやケータイでのメールが主な通信手段となっている現代では,紙の「手紙」による意志の伝達はあまり身近に感じないかも知れませんが,手紙だろうが,スマホやケータイのメールだろうが,伝える内容は同じことです 遠藤周作氏が57年前に伝えたかったことを要約すれば「相手の立場になって手紙を書きなさい」ということです 若者に限らず広くお薦めします

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする