30日(火)。昨日で大型連休前半が終わり、今日で4月も終わりです この分だと5月の4連休もアッという間に終わってしまうのではないかと懸念しています。私は5月3日~5日の3日間は東京国際フォーラムを中心に開かれる「ラ・フォル・ジュルネ音楽祭」に朝から晩まで通いつめます。皆さんはどんな予定を立てていますか
閑話休題
昨日、紀尾井ホールで伊藤恵ピアノ・リサイタルを聴きました 伊藤恵は1983年第32回ミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門で日本人初の優勝を飾り、現在、東京藝術大学と桐朋学園大学で後進の指導に当たっています。最近では2008年から8年連続でシューベルトを中心とするリサイタルを開いています。今回のプログラムは①ブラームス「シューマンの主題による変奏曲 作品9」、②シューベルト「4つの即興曲 D899作品90」、③ショパン「24のプレリュード 作品28」です
自席は1階5列22番、かなり前方の右端ですがピアニストの顔が見える位置です。会場は2階席までほぼ満席
1曲目のブラームス「シューマンの主題による変奏曲」は、シューマンの「色とりどりの作品」中の曲を主題とする16の変奏曲です ブラームス21歳の時、1854年の作品です この年の2月には恩師のシューマンが投身自殺を図り精神病院に入っています。ブラームスはこの事件に衝撃を受け、恩師に報いる気持ちでこの曲を作ったと言われています
拍手に迎えられて薄緑色のサマードレスに身を包まれた伊藤恵が登場します 会場に一礼し、ピアノに向かいます。シューマンの音楽に似て、幻想的で、時に激しく、時に冥想するような音楽が続きます
曲が始まってすぐ、カタンと何かが床に落ちる音が聞こえました。ン、と思って靴で足元を探ると自分のケータイらしき物体に当たりました。会場が少し暑かったので、上着を脱いて膝の上に置いていたのですが、ポケットからスルリと抜け落ちてしまったようです 大変申し訳ありませんでした。伊藤恵さん、会場の皆さんにお詫びいたします
2曲目のシューベルト「4つの即興曲D.899作品90」はシューベルト後期のピアノ小品です。第1曲ハ短調の冒頭の和音を伊藤はかなり長く響かせました 第2曲変ホ長調は流れるような曲想、第3曲変ト長調は夢見るような旋律、第4曲変イ長調はメランコリックな感じが混じります 一つ一つの曲がまったく別の魅力を持った小品で、それぞれがシューベルトの音楽の縮図のようです
休憩後のショパン「24のプレリュード作品28」は、24すべての調を用いた全24曲からなる「前奏曲集」で、大部分は1838年から39年にかけて、すなわち彼が28~29歳の時に作曲されました 1曲1曲がまったく異なる曲想ですが、全体を通して一つの大きな潮流を感じさせる音楽になっています
第1番ハ長調「アジタート」が開始されます。ちょっと重めかな、と思って聴きましたが、次の第2番イ短調「レント」も同じ感じです 前半の12曲を振り返ってみると、全体的にゆったりとしたテンポを取り、曲と曲との間を十分に空けて、それぞれが独立した曲であることを明確に表出していると思いました
後半の12曲に入ると、曲と曲との間が狭まってきたように感じました。とくに第15番変ニ長調「ソステヌート」(”雨だれ”)と次の第16番変ロ短調「プレスト・コン・フォコ」とは連続して演奏し、演奏効果をあげていました 最後の第24番ニ短調は、ドラマチックでピアノがうなり声を上げていました
私はこの演奏会を聴くに当たって、マルタ・アルゲリッチのCD(1977年録音)を聴いて予習しておいたのですが、アルゲリッチが全体的に速めのテンポで颯爽と弾き切り、いくつかの曲を連続してまるで一つの曲のように弾いているのに対して、伊藤恵の演奏は正反対の位置にあると感じました
会場一杯の拍手に応えて、アンコールにシューマンの「子どもの情景」から「詩人は語る」を演奏。それでも鳴り止まない拍手を制して次のように語りました。
「今日はありがとうございました。気がついたら今年は何とデビュー30周年だそうです(会場) いま大学で教えさせていただいていますが、30歳の学生は一人も居ません(会場・笑) 毎日の積み重ねがあって、そして応援して下さる皆さまがあっての30年だと思います また、天に守られてきたとも思っています。あと30年やろうとは、とても思いませんが、これからもよろしくお願いいたします 最後に、今日最初に演奏したシューマンの変奏曲の主題が「色とりどりの作品」ということもあるので、締めくくりとして「色とりどりの作品」の第1曲を演奏して今日の演奏会を閉じたいと思います」
ひと言ひと言、ゆっくりと、聴く側がよく聞き取れるように話されたので、よく判りました 多くの演奏家は、普通の速さで話すので、音が反響して聞き取りにくいのです。彼女のように話すことが出来る演奏家はそうはいません。紀尾井ホールの音響特性を良く把握できている証左です。こういう点にも優れた演奏家の特性は現われるものです