守田です。(20110419 14:30)
昨夜、「事故収束に向けた工程表」についての意味するものの推論と、
疑問点を書きましたが、それに引き続き、どう考えてよいのか、悩んでいる
点について、述べてみたいと思います。
僕が一番、考えあぐねているのは、福島原発の今が、よく把握できないことです。
いろいろなデータを見ても疑問が深まるばかりです。
何より重要だと思われるのは、水素爆発の可能性はどうなったのかということ。
4月6日時点の東電や政府の発表で、1号機から3号機まで、水素爆発が
懸念されるため、順次、窒素を注入していくことが明らかにされました。これは
工程表の中にも当面の作業として書きこまれていることです。
しかし6日の夜遅くに始まった1号機の窒素注入のその後が分からない。すでに
数日前に、ある程度の気圧以上入らなくなり、窒素と水蒸気が漏れ出している
ことが報じられていましたが、その後、どうなったか分かりません。;
少なくとも周辺の放射線モニター値を見る限り、高い濃度の放射能漏れが
起こったというわけではないらしい。しかしいずれにせよ10日以上、経過して
いるのに、1号機の作業完了が伝えられない。
そうなると、2号機、3号機はどうなるのでしょうか。この二つの原子炉格納
容器内は、1号機よりも放射能濃度が高いと予想されるため、ドライベントの
時のような大量の放射能の放出が予測されています。
4月7日の読売新聞でも、次のように報じられていました。
「『気密性が完全ではなく、放射性物質が漏れる可能性はあるが、より大きな
事故を防ぐために必要な措置』。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は
理解を求めた。東電は、1号機に続き、2、3号機でも窒素注入を行う
予定だが、両号機の格納容器の圧力はほぼ大気圧にまで下がっており、
注入で放射性物質が漏れ出す危険性は1号機よりも高い。」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110407-OYT1T00089.htm
このため僕は事実上のドライベントへの注意をこの場で喚起しましたが、
しかしこの「より大きな事故を防ぐために必要な措置」である2号機、3号機への
注入がいっこうに始まらない。とすれは水素爆発の危険性は増しているのでは
ないか。にもかかわらず、この点の情報がまったく出て来ていません。
二つ目の問題として、1号機の原子炉が2号機、3号機に比べて高い温度を
保っていることです。おおむね200度以下ぐらいと、100度超ぐらいのひらきが
ある。これはなぜなのか。1号機で何が起こっているのか。
これに対しては二つの説が出されています。一つは後藤政志さんによる、
冷却失敗説です。原子炉内に水が注入されていますが、この水は、
いったん炉内に入ってから、再循環経路をめぐったのち、再び原子炉に
入り、ジェットポンプという場所を経て、炉心の下に入っていく。そして下から
上へと炉心を冷やしてくことになる。
しかし再循環系統のどこかに破断などがあり、思ったように水が炉心に
届いてないのではないか。そのため満足に冷やすことができてないのでは
ないかという推論です。
一方では再臨界説が語られています。小出裕章さんのものです。被覆管を
失った燃料が、一部溶けながら、下部に落下して集まっている。そこで自然
発生的に臨界が起こり、そのエネルギーによって燃料の形状が変わって、
臨界が終息し、暫くしてまた燃料がつもって臨界になり・・・という状態が
繰り返されているのではないか。核暴走にいたるのではなく、ブスブスと
燃えるような状態にあるのではないかということです。
これらの推論は、原子炉温度が他の2基に比べて高いことを根拠としています。
また8日にいきなり1号機の放射線量が上がったことも、論拠の一つとされました。
これに対して、東電側は、計器が故障したという説明を行った。
しかし昨日になってロボットが、建屋内に入ったところ、1号機だけ、放射線値が
高い地点があることが分かりました。朝日新聞でこう報じられています。
「東京電力によると、最初の扉を開けて入った1畳ほどの小部屋の線量は、
1号機で最大で毎時270ミリシーベルトだった。2号機は12ミリシーベルト、
3号機は10ミリシーベルト。作業員は扉の陰に隠れながら計測したという。」
http://www.asahi.com/national/update/0418/TKY201104180079.html
これらから1号機の中で、何らかのなかなか抑え込むことができない反応が
起こっている可能性が考えられます。あるいはこのことが、窒素注入が
終了しないことと連動しているのかもしれない。
一方で、昨日も述べたように原子力安全委員会は、工程表の現実性を
否定していますが、その際に、一番、問題なのは2号機だとの見解をもらしている。
これはどういうことなのでしょうか。
昨日の報道を見ると、2号機プールから高濃度の放射能が漏れ出しており、
プールにある燃料棒が、がれきなどによって破損している可能性があることが
伝えられています。同時に、2号機は格納容器そのものの損傷が早くから
伝えられており、これを修理することの困難さが指摘されたのかもしれませんが、
いずれにせよ、2号機が何らかのトラブルを抱えていることが分かります。
3号機はどうかというと、4月15日の朝日新聞で「原因は不明だが12日に
約170度だったのが、13日に約200度、14日に約250度に上昇した」
と書かれていました。この場合も計器の故障の可能性が指摘されていましたが、
この温度の正体は何だったのか、追加情報が出てきません。
さらに4号機はというと、燃料プールの温度が90度になったことが伝えられ
ました。ここには1号機のプールの4倍、2号機、3号機のプールの2倍以上の
1331体の燃料集合体がありますが、その冷却不足が起こっていると思われ、
温度上昇が起こっているわけです。ちなみに4号機も3月15日に水素爆発と
火災を起こしましたが、その時のプールの温度は85度でした。
この4号機がその後、どうなっているのかもよく見えない。
僕が把握できていない面もあるかと思いますが、このように福島原発の
状態は、どうも靄の中に見え隠れするような状態で、さまざまな危機の
兆候が語られながら、それに対して施された処置の結果や、その後の
推移がいずれも明らかにされていないのです。
なぜなのだろうか。何が起こっているのだろうか。良く見えてきません。
ちなみに再臨界の可能性について、後藤政志さんは、4月14日の説明で、
事故当初は、「再臨界などと言うと怒られた」が、それが起こりうることは
原子力をやっている人間なら常識だと強い調子で語られました。だからこそ
初期の段階で、中性子を吸収し、臨界を抑制するホウ酸が投入されている
のであり、当然にも再臨界はありうるものとして、対処がなされているのだと
指摘されています。その上で現状について、後藤さんからは再臨界説は
出ていません。
後藤さん自身は、すでに3月20日の段階で、4号機の燃料プールで、臨界があったの
ではないかという推論も出されています。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/77afc15a89857a60c2bdd6d9acb904dd
地震で燃料集合体が斜めに傾き、それぞれが接近して、臨界の状態が
できたのではないかということです。
現状でも、核分裂で出てくるクロル38やテルルなどが観測されており、1号機か、
そうでなければ4号機プールで断続的な臨界がある可能性も考えられますが、
これらも推論の域を出ません。
・・・これらから福島原発は、1号機から4号機まで、それぞれに深刻な
トラブルを抱えていながら、その状況が十分にモニターされていないか、
また実情が公開されていない面があるのではないかと思えます。
破局的事態に近づいているとは思いたくないし、またそう即断するだけの
根拠があるわけではないですが、しかし原子炉の状態が小康状態にある・・・
と結論づけられるデータも見当たりません。
またそもそもこの霞のような状態をもたらしているものは何なのか。計器が
次々と故障し、誰にも分からなくなっているのか。それとも情報が隠されて
いるのか。いるとすればなぜなのか。それも見えてきません。
そのために私たちは、最悪の状態への身構えを解くことはできない。しかし
この状態はすでに1カ月以上続いており、私たちの精神力を大きく削りとっても
います。そのため社会の多くの人々が、危機は去ったモードになってしまって
いる。こうした状態の中で、危機感を維持するのは難しいことです。
ひょっとして、明日にも原子炉の破断という破局が訪れるのかもしれない。
しかし生活者である私たちは、その前に今日の夕飯の心配もしなくては
いけないし、日常のこまごましたことに関わらないわけにはいかない。
これが、ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れという、人類初の事故の
残酷性そのものなのではないかと僕には思えます。
・・・ともあれ、僕自身は、危機感を保持しながら、霞の向こうにある原発の
ウォッチを続けます。
昨夜、「事故収束に向けた工程表」についての意味するものの推論と、
疑問点を書きましたが、それに引き続き、どう考えてよいのか、悩んでいる
点について、述べてみたいと思います。
僕が一番、考えあぐねているのは、福島原発の今が、よく把握できないことです。
いろいろなデータを見ても疑問が深まるばかりです。
何より重要だと思われるのは、水素爆発の可能性はどうなったのかということ。
4月6日時点の東電や政府の発表で、1号機から3号機まで、水素爆発が
懸念されるため、順次、窒素を注入していくことが明らかにされました。これは
工程表の中にも当面の作業として書きこまれていることです。
しかし6日の夜遅くに始まった1号機の窒素注入のその後が分からない。すでに
数日前に、ある程度の気圧以上入らなくなり、窒素と水蒸気が漏れ出している
ことが報じられていましたが、その後、どうなったか分かりません。;
少なくとも周辺の放射線モニター値を見る限り、高い濃度の放射能漏れが
起こったというわけではないらしい。しかしいずれにせよ10日以上、経過して
いるのに、1号機の作業完了が伝えられない。
そうなると、2号機、3号機はどうなるのでしょうか。この二つの原子炉格納
容器内は、1号機よりも放射能濃度が高いと予想されるため、ドライベントの
時のような大量の放射能の放出が予測されています。
4月7日の読売新聞でも、次のように報じられていました。
「『気密性が完全ではなく、放射性物質が漏れる可能性はあるが、より大きな
事故を防ぐために必要な措置』。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は
理解を求めた。東電は、1号機に続き、2、3号機でも窒素注入を行う
予定だが、両号機の格納容器の圧力はほぼ大気圧にまで下がっており、
注入で放射性物質が漏れ出す危険性は1号機よりも高い。」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110407-OYT1T00089.htm
このため僕は事実上のドライベントへの注意をこの場で喚起しましたが、
しかしこの「より大きな事故を防ぐために必要な措置」である2号機、3号機への
注入がいっこうに始まらない。とすれは水素爆発の危険性は増しているのでは
ないか。にもかかわらず、この点の情報がまったく出て来ていません。
二つ目の問題として、1号機の原子炉が2号機、3号機に比べて高い温度を
保っていることです。おおむね200度以下ぐらいと、100度超ぐらいのひらきが
ある。これはなぜなのか。1号機で何が起こっているのか。
これに対しては二つの説が出されています。一つは後藤政志さんによる、
冷却失敗説です。原子炉内に水が注入されていますが、この水は、
いったん炉内に入ってから、再循環経路をめぐったのち、再び原子炉に
入り、ジェットポンプという場所を経て、炉心の下に入っていく。そして下から
上へと炉心を冷やしてくことになる。
しかし再循環系統のどこかに破断などがあり、思ったように水が炉心に
届いてないのではないか。そのため満足に冷やすことができてないのでは
ないかという推論です。
一方では再臨界説が語られています。小出裕章さんのものです。被覆管を
失った燃料が、一部溶けながら、下部に落下して集まっている。そこで自然
発生的に臨界が起こり、そのエネルギーによって燃料の形状が変わって、
臨界が終息し、暫くしてまた燃料がつもって臨界になり・・・という状態が
繰り返されているのではないか。核暴走にいたるのではなく、ブスブスと
燃えるような状態にあるのではないかということです。
これらの推論は、原子炉温度が他の2基に比べて高いことを根拠としています。
また8日にいきなり1号機の放射線量が上がったことも、論拠の一つとされました。
これに対して、東電側は、計器が故障したという説明を行った。
しかし昨日になってロボットが、建屋内に入ったところ、1号機だけ、放射線値が
高い地点があることが分かりました。朝日新聞でこう報じられています。
「東京電力によると、最初の扉を開けて入った1畳ほどの小部屋の線量は、
1号機で最大で毎時270ミリシーベルトだった。2号機は12ミリシーベルト、
3号機は10ミリシーベルト。作業員は扉の陰に隠れながら計測したという。」
http://www.asahi.com/national/update/0418/TKY201104180079.html
これらから1号機の中で、何らかのなかなか抑え込むことができない反応が
起こっている可能性が考えられます。あるいはこのことが、窒素注入が
終了しないことと連動しているのかもしれない。
一方で、昨日も述べたように原子力安全委員会は、工程表の現実性を
否定していますが、その際に、一番、問題なのは2号機だとの見解をもらしている。
これはどういうことなのでしょうか。
昨日の報道を見ると、2号機プールから高濃度の放射能が漏れ出しており、
プールにある燃料棒が、がれきなどによって破損している可能性があることが
伝えられています。同時に、2号機は格納容器そのものの損傷が早くから
伝えられており、これを修理することの困難さが指摘されたのかもしれませんが、
いずれにせよ、2号機が何らかのトラブルを抱えていることが分かります。
3号機はどうかというと、4月15日の朝日新聞で「原因は不明だが12日に
約170度だったのが、13日に約200度、14日に約250度に上昇した」
と書かれていました。この場合も計器の故障の可能性が指摘されていましたが、
この温度の正体は何だったのか、追加情報が出てきません。
さらに4号機はというと、燃料プールの温度が90度になったことが伝えられ
ました。ここには1号機のプールの4倍、2号機、3号機のプールの2倍以上の
1331体の燃料集合体がありますが、その冷却不足が起こっていると思われ、
温度上昇が起こっているわけです。ちなみに4号機も3月15日に水素爆発と
火災を起こしましたが、その時のプールの温度は85度でした。
この4号機がその後、どうなっているのかもよく見えない。
僕が把握できていない面もあるかと思いますが、このように福島原発の
状態は、どうも靄の中に見え隠れするような状態で、さまざまな危機の
兆候が語られながら、それに対して施された処置の結果や、その後の
推移がいずれも明らかにされていないのです。
なぜなのだろうか。何が起こっているのだろうか。良く見えてきません。
ちなみに再臨界の可能性について、後藤政志さんは、4月14日の説明で、
事故当初は、「再臨界などと言うと怒られた」が、それが起こりうることは
原子力をやっている人間なら常識だと強い調子で語られました。だからこそ
初期の段階で、中性子を吸収し、臨界を抑制するホウ酸が投入されている
のであり、当然にも再臨界はありうるものとして、対処がなされているのだと
指摘されています。その上で現状について、後藤さんからは再臨界説は
出ていません。
後藤さん自身は、すでに3月20日の段階で、4号機の燃料プールで、臨界があったの
ではないかという推論も出されています。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/77afc15a89857a60c2bdd6d9acb904dd
地震で燃料集合体が斜めに傾き、それぞれが接近して、臨界の状態が
できたのではないかということです。
現状でも、核分裂で出てくるクロル38やテルルなどが観測されており、1号機か、
そうでなければ4号機プールで断続的な臨界がある可能性も考えられますが、
これらも推論の域を出ません。
・・・これらから福島原発は、1号機から4号機まで、それぞれに深刻な
トラブルを抱えていながら、その状況が十分にモニターされていないか、
また実情が公開されていない面があるのではないかと思えます。
破局的事態に近づいているとは思いたくないし、またそう即断するだけの
根拠があるわけではないですが、しかし原子炉の状態が小康状態にある・・・
と結論づけられるデータも見当たりません。
またそもそもこの霞のような状態をもたらしているものは何なのか。計器が
次々と故障し、誰にも分からなくなっているのか。それとも情報が隠されて
いるのか。いるとすればなぜなのか。それも見えてきません。
そのために私たちは、最悪の状態への身構えを解くことはできない。しかし
この状態はすでに1カ月以上続いており、私たちの精神力を大きく削りとっても
います。そのため社会の多くの人々が、危機は去ったモードになってしまって
いる。こうした状態の中で、危機感を維持するのは難しいことです。
ひょっとして、明日にも原子炉の破断という破局が訪れるのかもしれない。
しかし生活者である私たちは、その前に今日の夕飯の心配もしなくては
いけないし、日常のこまごましたことに関わらないわけにはいかない。
これが、ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れという、人類初の事故の
残酷性そのものなのではないかと僕には思えます。
・・・ともあれ、僕自身は、危機感を保持しながら、霞の向こうにある原発の
ウォッチを続けます。