明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1300)法実証主義の祖としてのベンサム(功利主義の世紀を越えるために-2)

2016年09月02日 09時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160902 09:00)

功利主義の捉え返しをジェレミー・ベンサムの思想の考察から行っていく試みの第二回目です。

2、法実証主義の祖、ベンサム

第1回目の考察(明日に向けて(1292)ベンサムのパラドックス)を踏まえて、今回は西洋思想史の中におけるベンサムの位置性を見定めてみましょう。
ベンサムは日本ではあまり評判がよろしくないので、その積極的な側面に光を当てていきたいと思うのですが、それは哲学史よりも法理論史の中にあるようです。
なぜならベンサムは法理論に言う「法実証主義」の祖だからであり、近代法の主要な概念を提起したのだからです。実は私たちもまたベンサムの提起にけっこうあやかっています。

この点について現代自由主義法理論の第一人者であったイギリスのH・L・A・ハート(1907-1992)は次のようにベンサムを評しています。
「功利主義者ほど偏見のない公正さで、法に関する改革の情熱と、そして、権力が改革者の手の中にある時でさえ権力の濫用を制御する必要性があるという正当な認識を合わせ持った者はいない。
ベンサムの著作の中に、法治国家の要素を、また、私たちの時代において自然法の用語を使って擁護されている原理のすべてを、逐一認識していくことができる。
表現の自由、出版の自由、団体をつくる精神、法は執行される前に公表され広く知られなければならないという要求、行政官を制御する必要性、責任がなければ刑事罰は問われるべきではないという主張、そして法律がなければ刑罰はいらないという合法性の原則の重要な主張がそこにみられる」(『法学・哲学論集』みすず書房 p61)

どうでしょうか?私たちの人権を守ってくれている憲法の中に盛り込まれた多くの法思想が実にベンサムによって編み出されたことがみてとれるのではないでしょうか。私たちは明らかにベンサムの恩恵を受けているのです。
ここで言う法実証主義とは、これまで論じてきたイギリス経験論に脈打つ神学的世界観の否定と、現実の人間の積極的肯定が、法理論という形であらわれた一つの帰結であるということもできます。
つまり、法とは神に与えられたものではなく、人間が自分たちで社会的に決めたものだという「実定法」の立場を主張するものです。それはホッブスやロック以来の社会契約論に対する批判の系譜に立つものでもあります。

社会契約論というのは社会の始原的な成り立ちを人々が相互にかわした社会的契約におくものでトマス・ホッブス(1588-1679)を出発点としています。
そのホッブスは、ありのままの人間を、相互に生命と財産の保全を求めて相争う存在であり、社会契約によって政府を形成し、権力を譲渡して治めてもらわなければ互いの安全を保障しえない存在として捉えたのでした。
ホッブスは、人間の「利己心」を事実として、現にあるあるものとして認識したものの、きわめて否定的な評価を与えていたのです。

イギリス思想史におけるジョン・ロック(1632-1704)以降の流れは、このホッブスのペシミスティックな人間観を克服し、相互に利己的な人間が、他方で相互を尊重しうる根拠を探るものとなりました。
ホッブスが考えたように原始的な契約など持ち出さなくとも、現実に存在する人間の考察の中から、社会の存続の根拠を唱えられるはずだという観点がさまざまに考察されました。
これを受けて人間は快楽(喜び)を追及し、苦痛を避けようとすることを行動原理にしている、それならば人々の喜びが最大化することを目指すことこそが社会的善だとする「最大多数の最大幸福」の考え方が唱えられるにいたるのです。

このスローガンを初めに唱えたのはフランシス・ハチソン(1694‐1746)だと言われています。人は他者の喜びや悲しみに共感できる、そこに道徳の基礎があるとする「道徳感覚理論(モラルセンス理論)」に立ってのことでした。
さらにこの発想をより深めて主著『人性論』にまとめたのがデイヴィッド・ヒューム(1711-1776)でした。
そこではイギリス社会に極めて強い影響を与えていた「現世はただ神の千年王国の実現のために費やすべきもの」というカルヴァン主義の教義を逆転させ、現世における幸福の追及こそが人間の生であるという主張が意気軒高に打ち出されたのでした。

なおハチソンを始め、これらモラルセンス派の人々にスコットランドの人々が多かったことから、この一連の思想は「スコットランド啓蒙思想」と総称されます。
僕はちょうど昨年の夏にその詳しい解説を行いました。以下の記事などを参照していただけると嬉しいです。

 明日に向けて(1137)スコットランドにおけ独自の人間観の形成(スコットランド啓蒙思想に学ぶ-4)
 2015年8月30日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/465647b8d1287421cb141d8dab8ba36b/?st=1

さてそもそも功利主義とは、快楽を追及し苦痛を避けることを人間の本性をとらえ、最大多数の最大幸福をめざす思想であり、今回の連載の主役であるジェレミー・ベンサムによって体系化されたとされています。
それで間違いはないのですが、功利主義とはもともとスコットランド啓蒙派の中で形成され、ヒュームなどによって確立されてきた思想です。
ヒュームらが主張したのは、人間は他者を理解しうる存在なのであり、だからこそ一方で利己的であっても社会がうまく存続できるということ、絶対的な神の助けなどがいるわけではないということでした、
そこに込められたのは、人間の自然状態を限りない愛を込めて肯定していくことでした。

これに対してベンサムがより良き社会の実現のために最も追い求めたのは立法の諸原理でした。しかもベンサムは功利主義の問題意識性を継承しつつも、「道徳感覚理論」を社会の存続の根拠と考えるのは脆弱だと考えました。
そしてこれを超えるものとして、他者と共存しうる人間のあり方をもっぱら法的に作りだせうとするシステマチックな観点を打ち出すにいたったのです。
なぜなら立法の観点に立つならば、「共感」とは一方で「反感」とも裏腹な情動であり、共感を社会の存立根拠にするならば、必然的に反感が人間の争いの根拠としても存立してしまうことになると考えたからでした。

このためベンサムは「人間存在は利己的であるのか否か、その場合、共感とはどのような役割を果たすのか」というそれまでの問題意識性=プロブレマティークそのものを法においては不要だと考えていきます。
そうして、もっぱら人間を正しい方向に導くものとしての法のあり方を問題にしていき、社会的快楽を増やすことは善、減らすことは悪、苦痛を増やすことは悪、減らすことは善という原理に基づいた法の体系化を目指したのでした。

それは、後に功利主義を現代自由主義社会の中心思想にまで高め上げたジョン・スチュワート・ミル(1806-1873)が、論文『ベンサム』(1838年)において酷評したごとく、「少年のままに生涯を過ごした」ベンサムによって初めてできたことでした。
ベンサムは人間存在の洞察においてあまりに単純であったがゆえに、かえって人間を「快楽」「苦痛」という二つのファクターから分析できるとこれまた単純に考えることができたからです。
このもとにベンサムは人々を最大多数の最大幸福をめざす方向へと導いていくことができると考えたのでした。

このようにしてベンサムは、社会の存立根拠を「共感」という情動ではなく、人間の社会的な価値判断力に委ね、それを法律として示すことに力を注ぎました。
そのもとでベンサムは、冒頭にハートが述べたような現代法学の基礎となる考えを次々と打ち出し、現代の法理論に大きな貢献をなすことになったのです。

続く

補足
なお功利主義は「快楽」「苦痛」原則に基づくものと長らく訳されてきましたが、この日本語の「快楽」という言葉には、初めから否定的な意味も含まれていることに注意が必要です。「快楽をむさぼる」と使われる如くです。
ではこの言葉は英語ではなんと書かれているのかというとpleasuruです。一般には「快楽」とは訳されず、「喜び」「歓喜」などと訳され、否定的な響きはほとんどありません。
このように日本では功利主義は、初めから批判的意味合いの入り込んだ言語に訳され、解釈されてきたこと、それもあって日本社会に浸透しにくかったこともおさえておくべきです。

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明日に向けて(1299)一次冷却材ポンプ、再循環ポンプは原発のアキレス腱!川内、伊方原発をただちに停止すべきだ!

2016年09月01日 11時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160901 11:30)

7月17日に伊方原発3号機で一次冷却材ポンプの故障事故が起こりました。
四電は予定されていた7月末の再稼働を断念、部品の取り換えなど大掛かりな修理を行い、8月12日に再稼働を強行しました。
しかし細かく調べてみるとこの一次冷却水ポンプはこれまでも繰り返し事故を起こしてきたことが分かりました。
また四電の事故に関する発表を分析してみると、格納容器の耐圧試験で壊れてしまったこと、にもかかわらず再び予備部品への交換だけで対処に代えられたことが分かりました。

僕はこれらの事態から、そもそもこの一次冷却材ポンプには構造的欠陥があり、だから事故を繰り返してきたのではないかと推論しました。
この点に関して専門の技術者からの助言を得たいと考えて、元東芝の技術者の小倉志郎さんにお尋ねしました。
小倉さんは『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)を書かれた方で、同じく元東芝の格納容器設計者だった後藤政志さんの先輩にあたります。「原子力プラントに誰よりも精通した方」と後藤さんよりご紹介いただきました。

小倉さんはこのように指摘してくださいました。
「問題の伊方原発3号機ポンプ故障についてですが、守田さんのご指摘の通り、この軸シール=軸封装置=こそ、原子炉システムの「アキレス腱」です。そして、この装置については政府=原子力規制庁=の技術基準はありません。
原子炉圧力バウンダリーを構成する箇所でありながら、「溶接部」「フランジ部」とは異なり、圧力に耐えている部品同志が相対的に移動しあっているのですから、内部から液体が漏れるのを防ぐのは至難です。
とりわけ、原子炉の高圧がかかるのですから、その部品の設計はメーカーの設計、製造技術、経験のノウハウ固まりのようなものです。」

僕なりに読み解いていきたいと思います。
まず一次冷却材ポンプは「原子炉冷却材圧力バウンダリ」を構成する箇所です。この用語は以下のように定義されています。

「「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とは、原子炉の通常運転時に、原子炉冷却材(加圧水型軽水炉においては一次冷却材)を内包して原子炉と同じ圧力条件となり、運転時の異常な過渡変化時及び設計基準事故時において圧力障壁を形成するものであって、それが破壊すると原子炉冷却材喪失となる範囲の施設をいう」

引用は以下の文章からです。

 原子炉冷却材圧力バウンダリの考え方について
 https://www.nsr.go.jp/data/000050332.pdf

ここは原子炉内と同じ圧力に耐えていて、冷却材を封じ込めているのですから、ここが突破されれば最も恐ろしい冷却材喪失事故が起こり、メルトダウンが発生しかねない核心部分だということです。
しかし溶接でがっちりと接合してあるところや、配管を周りに貼り出した帽子のふちのようなところでボルト締めしている「フランジ部」と違って、このポンプの中の冷却材のシール部は、部品同士が相対的に動きあっている。
なかなかこの部分の構造が理解しにくいのですが、四国電力が発表した以下の故障原因の説明の図をみると概略が分かると思います。

 伊方発電所3号機 1次冷却材ポンプ3B第3シールの点検結果等について
 四国電力 2016年7月25日
 http://www.yonden.co.jp/press/re1607/data/pr005.pdf

小倉さんは次のように続けられています。
「ケーシングに固定された固定リングと軸に固定されたリングの接触面は水分子程度の微小な隙間を介して、こすれあっています。その隙間から「なぜ水が漏れないのか?」の理由さえよくわからないのです。
ですから、ある時漏れたとしても「なぜ漏れたか?」がわかるわけがありません。それで、7月25日に四国電力がプレスリリースしたような「一方のリングが傾いた」などという苦し紛れの理由を挙げるのです。
しかし、その傾きは光の1~2波長程度の傾きであっても漏洩の原因になるのですから、傾いた証拠など測定できるわけがありません。」

理解を進めるために、ここでポンプ一般(渦巻きポンプ)の構造を捉えておきたいと思います。以下をご覧下さい。

 ポンプのお話
 三和ハイドロテック株式会社
 http://www.sanwapump.co.jp/special/story/01_08.html

ケーシングとはいわばポンプの外枠です。この中に羽根車が入っていて回ります。このとき羽根車がまわる部分には液体が入っているわけで、これが羽根車の軸受け部に侵入してこないように「軸シール」が付けられます。
原発の場合、ここに原子炉内の高圧がかかってしまうのでやっかいなわけです。それでここに純水を回す、液体によってシールをするという特別な方法をとっているわけですが、ここが技術的な難所であるわけです。
このポンプの軸受け部のシール方法に技術的困難を抱えているのは実は加圧水型原発だけではないそうです。沸騰水型原発も同様の部品を抱えているからです。沸騰水型では「再循環ポンプ」と呼ばれています。

小倉さんは次のように続けられました。
「私がBWRの原子炉再循環ポンプをはじめ各種のポンプでのシール部漏洩を起こした場合に良く見たのは「シール面=こすれ合う面=に微細な異物が侵入した」という理由です。しかし、分解してみてもそんな微細な遺物が見つかったためしがないのです。
今回の伊方の場合もそうですが、本当は漏洩の原因は不明なのです。しかし、「原因不明」と公表してしまえば、「対策の妥当性」を説明できなくなります。そこで、苦し紛れの誰も確認できない理由を挙げざるを得ないのです。
シールの断面の構造をみるかぎり、原子炉格納容器の漏えいテストのために原子炉格納容器の内圧を挙げたところで、第3シールの固定リングが傾くとは考えられません。上記したように、傾きの存在を確かめられないし、Oリングの摩擦力が(不均一に)増えたことも確かめられないのですから、これは空想による「屁理屈」でしかありません。」

これはすごい指摘です。
実際に現場に携わってきた方にしか知り得ないことですが、実は各種のポンプでこうしたシール部の漏えいがこれまでも起こってきており、しかも「本当の原因は不明」なのだというのです。
小倉さんはここから、7月25日に発表された四国電力の報告をバッサリ切り捨てておられます。「これは空想による「屁理屈」でしかありません」と!

この小倉さんのご指摘を読んで、とても納得するものがありました。
というのは四電は報告書の中で、格納容器の耐圧試験を行ったら、普段はこのシール部にかからない圧力がかかって第3シールの固定リングが傾き、隙間ができてしまってシール部の水が漏れたと説明しているのです。
しかしそれなら耐圧試験で壊れたことになるわけで、当たり前ですが、耐圧試験をクリアできる構造に変えないといけないわけです。
ところが四電はこの部品を予備品と変えることですませてしまったのですが、なんというか、どうしてそれで今回の漏えいの原因への対処を説明できたと四電の技術者が思えるのか分からなかったからです。

事実は小倉さんが指摘するようにそもそも原因が分かってないことにあるのでしょう。だから「屁理屈」で言い逃れようとしたわけですが、辻褄があわなくなってしまったのでしょう。
しかしこれは実にひどいことです。故障事故の原因が分かってないのです。当たり前ですがそれでは修理できません。それで新しい部品に代えてすましているわけなのです。しかし構造的欠陥が正されないのですから、再び故障事故が起こる可能性が極めて高い。
同時に大事なのは、この構造的欠陥は加圧水型原発だけのものではないということです。沸騰水型も同じ問題を抱えている。その意味で原発のアキレス腱そのものなのです。

小倉さんはこう結論付けています。
「シールの断面のポンチ絵を見れば第1シールの内側に「封水」、第3シールの内側に「パージ水」を注入しています。これらは常温の純水のはずです。
ですから、なんらかの原因で、「封水」「パージ水」が止まった場合には高温高圧の原子炉水がシール内部に侵入してきて、シール部品に使っているOリングやカーボンリングを破損させて、LOCA(原子炉冷却材喪失事故)の原因にもなりかねません。
ですから、PWR、BWRのどちらにおいても原子炉圧力バウンダリーでありながら、原発導入の最初から規制の「盲点」になっていたと言えるでしょう。
PWRは3段シール、BWRは2段シールと基本的な違いがありますが、原理的な弱点を持っていることは同様です。」

恐ろしいのはこの構造的欠陥、ポンプの軸受け部のシール技術の未確立から繰り返されてきた水漏れ故障事故が、冷却材喪失事故に直結する可能性があることです。まさに原子炉の核心部の構造的欠陥です。
この一点からだけでも、もはや日本中のすべての原発を動かしてはならないことは明らかです。

なお小倉さんは、他にも現場で作業に携わった方でしか知り得ないリアリティに基づきつつ、原発の「ほんとうの怖さ」を伝えて下さっています。
ぜひこの機会に小倉さんの著書、『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)をお読み下さい。
僕が書いた拙い書評も末尾にご紹介しておきます。

最後になりましたが丁寧にご説明くださった小倉さんに感謝を申し上げます。

*****

明日に向けて(1258)書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(小倉志郎著)上
2016年5月5日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4d69f94211bb3211cd069067a5d12e45

明日に向けて(1259)原発の複雑さと被曝の恐ろしさ―書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』中
2016年5月7日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3ad835a9c25f35ad2ec51063e164ecd9

明日に向けて(1260)原発の危険性の核心―書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』下
2016年5月8日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/58e006e2625b59e2151bb7218500c919

 

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明日に向けて(1298)なんと6400Bq以下が法的規制対象から除外されていた!(8000Bq以下再利用問題3)

2016年08月31日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160831 23:30)

福島県内の除染などによって生じた8000Bq/kg以下の放射能汚染土を公共事業で使ってしまえというとんでもない悪政に関する考察の続きを書きたいと思います。

すでに論じてきたように、この問題は2011年9月に制定され一部の施行が始まった「放射性物質汚染対処特措法」を前提としています。
もともと2011年の事故後の大混乱の中で作られたこの法律によって、8000Bq/kg以下の焼却灰を、一般の焼却灰と同じように処理してかまわないことが決められ、今回の処置もまたこの延長線上に考えられていると思われるからです。
再度、同法律をここに貼り付けておきます。(「放射性物質汚染対処特措法」という名は略称で、正式名称は以下のように長い)

「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」
 http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/law_h23-110a.pdf

この法律は政府や関係省庁の側からいっても急ごしらえで作ったものであり、もともと3年経ったのちに振り返りを行うことが書きこまれていました。
このため施行から3年経って「放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会」が始められました。第一回の会合は2015年3月31日に開かれ、9月24日に行われた第5回検討会で「放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関する取りまとめ(案)」が承認されました。
なされたことは端的に言って同法律に孕まれた矛盾の是正ではなく拡大です。今回の再利用問題につながる布石もここで打たれました。

 放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関する取りまとめ
 2015年9月
 http://www.env.go.jp/press/files/jp/28225.pdf

今回はこの文章を分析したいと思いますが、冒頭にこの法律の、というより日本の原子力行政の根本問題がさらりと書かれています。以下、引用します。

「事故発生当時、我が国では、原子力発電所から広範囲に放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する法制度が存在しなかった。すなわち、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)では、原子力発電所を含む施設における原子力災害の防止は目的としていたものの実際に事故が発生して施設外に放射性物質が放出された場合の環境回復措置については規定しておらず、また環境基本法(平成5年法律第91号)を始めとする環境関連法では、放射性物質は規制の適用除外となっていた。」

引用はここまで

このため放射能による環境汚染に対する基本的な考え方や政府内の役割すら決まっておらず、それまで経験も権限も有してなかった環境省が取り組まなくてはならなかった・・・と続いていくのですが、ここに根本問題があることを何度も指摘しておきます。
そもそもこの国の政府も原子力村も、原発の敷地外を越える深刻な放射能汚染は絶対に起きないと豪語してきたのです。豪語するどころかそのために法律も政府内での役割分担も決めていなかった。そしてここが国民、住民との約束の線だったのです。
絶対に深刻な放射能漏れ事故は起こらないから、原発の運転を認めよという形でです。

ところが「絶対にない」と言っていた大事故が起き、政府や原子力村の政治的な威信も、科学的な信用性も完全に吹き飛んだのでした。この一点だけでもはや日本の原子力行政は閉じなければならないのです。
にもかかわらず政府は言うに事欠いて「絶対に起きないと言っていざという時の法律を作ってこなかったのが間違っていた」と言い出し、新たに法律を作ったというわけです。

こんなものは完全な居直りであり許されるものではありませんが、さらに許しがたいことは開き直りの上に作られた法律が、それまでの「原子炉の規制に関する法律」の無視の上に作られたことです。
例えばこの従来の法律の中で、100Bq/kg以上のものを放射性廃棄物として厳重管理することが決められていたのであり、本来、原発の外に漏れ出た放射能に対応するならば原発サイト内で適用されてきたこの法律を原発の外にまで拡大適用すべきでした。
ところがこれまでの規制値のもとではとても処理できないほどの膨大な放射能汚染物が出てしまったがゆえに、その事実を国民・住民に知らしめることなく、規制値を極端に下げて新たな法律を作ったのです。

ここまでがこの問題の前提にある根本矛盾ですが、私たちが踏まえるべきなのはこの悪法の3年後の見直しで矛盾のさらなる拡大がなされたことです。
とくに重要なことは先に6400Bq/kg以下の放射性廃棄物の処理が法的対処から除外されてしまったことです。

同時にこの矛盾を推し進めるために、放射能に対する人々の危機意識を解体すること、安全論を振りまくことがセットで強調されていることです。
というのは特措法の制定時、福島の除染について「3年程度の間に一通りの対応を行う」とされていたのですが、「当初の想定よりも大幅に遅れた」ことが反省点だとされています。その理由に以下の点があげられているからです。
「放射性物質に関する正しい情報が広くは知られていない中で、放射性物質に対する不安感や政府の説明・対応に対する信用の欠如といった面で、国が関係自治体や地域住民との間の信頼関係の構築に時間を要した」

さてこの捉え返しでは除染、中間貯蔵、汚染廃棄物の処理、横断的事項についての分析が行われていますが、問題の8000Bq/kgの汚染物については、3番目の「汚染廃棄物の処理」の中で扱われています。
より詳しくみると「汚染廃棄物」は、8000Bq/kg以上の「指定廃棄物」、原発周辺で指定された11市町村の「対策地域内廃棄物」、8000Bq/kg以下の「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」と分類されています。
その上で次のような記述が見られます。引用します。

「8000Bq/kg以下の廃棄物については、通常行われいてる処理方法(破砕・分別、焼却処理、埋立処分、再生利用)で、周辺住民及び作業者のいずれにとっても安全に処理可能であることが、処理プロセス全体についての放射性物質による影響評価を通じて確認されている。
その上で、特措法では、このような特定廃棄物以外の廃棄物であって、事故由来放射性物質により汚染され、又はそのおそれがある廃棄物のうち一定の要件に該当するものを「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」と位置づけ、当分の間の措置として、入念的に上乗せ基準及び当該廃棄物の処理施設における維持管理基準を規定し、安全側に立って、当該規制が広めに適用されてきた。
(これについて)平成24年8月に有識者による検討会(災害廃棄物安全評価検討会)が行われ、実態を踏まえ、対象範囲を縮小する形で要件の見直しを行い、同年12月から新たな要件が適用されている」

引用はここまで

言わんとしていることは、「本来、8000Bq/kg以下のものは、通常行われいてる処理をしても大丈夫なのだが、これまで安全側にたって規制してきた。しかし対象範囲の見直しを行ってきた」ということです。
では「災害廃棄物安全評価検討会」でいかなる討議されたのか、議事録を見てみると、かなり重大なことがことが書かれていることが分かりました。
なんと8000Bq/kg以下といっても福島県以外では6400Bq/kgを越えることはあまりなくなったのでそれ以下を規制の対象からはずすというのです。以下の文章に書かれています。当該箇所を抜粋します。

 特定一般廃棄物及び特定産業廃棄物の要件の見直しについて
 平成24年8月20日 第14回 災害廃棄物安全評価検討会 資料6
 http://www.env.go.jp/jishin/attach/haikihyouka_kentokai/14-mat_3.pdf

「事故由来放射性物質の放射能濃度が6400Bq/kgを超える廃棄物が排出されておらず、事故由来放射性物質により一定程度に汚染された廃棄物の多量排出が今後見込まれないと考えられる都道府県については、特定一般廃棄物・特定産業廃棄物の対象地域から外すことを基本として要件の見直しを行う」

引用はここまで

なんと2012年12月から、すでに6400Bq/kg以下の放射性廃棄物が「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」の中から除外されてしまっていたのです。6400Bq/kg以下の放射性廃棄物には何の法的規制もなくなってしまったことになります。
ここまで調べてくると私たちは「8000Bq/kg以下」という数値だけをみていてはならないこと、それでは騙されてしまうことが分かります。
現在の「8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業で使っても良いことにする」という論議も、実はすでに6400~8000Bq/kgの汚染土の問題とされているのであって、先に6400Bq/kg以下のものの規制の排除が組み込まれているのです。
なんという狡猾さでしょうか。8000Bq/kgという数値に人々を引き付けておいて、6400Bq/k以下は法的規制から外してしまったのです。本当に卑劣です。

私たちは8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業で使うな」だけでなく「6400Bq/kg以下の放射性廃棄物を法的規制から切り捨てるな」「100Bq/kg以上のものを放射性廃棄物として厳重管理してきた『原子炉等の規制に関する法律』を守れ」と言わねばなりません。
その上で「100Bq/kg」という規制基準のより厳しい見直しも含めた「放射能汚染防止法」の制定にこそ向かわなければならないのです。

続く

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明日に向けて(1297)台風10号東北初上陸の恐れあり!行政任せでない命を守る能動的な行動を!

2016年08月30日 00時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160829 23:00)

大型の台風10号が太平洋上を記録にない形で迷走した上、日本列島に近づいてきています。
29日21時現在の位置は関東の南東沖数100キロの海上ですが、今後、進路を北西に変え、関東・東北に接近し、明日の午前中から午後にかけて東北地方に上陸する可能性があります。
東北への上陸は1951年の現在の体制での観測開始以来、初めてのことになるそうです。

この台風により記録的な暴風雨が各地を襲うことが懸念されています。
気象庁は8月一月分の雨が1日で降る可能性があるとしています。このため洪水や土砂災害の発生が強く懸念されています。
また今の時期は年間でも最も潮位の高い「大潮」の時期にあたっています。このため台風で高潮が発生し、海岸地帯で浸水被害が発生する可能性があります。

非常に懸念されるのは、東日本大震災から復興、ないし街の回復がまだきちんとなされていない東北の太平洋岸の町々にこの猛烈な台風が襲おうとしていることです。
これまでも指摘してきましたが、日本政府は東北沿岸部の復興をきちんと行わないままに東京オリンピックなどに取り組み始めてしまったため、今も沿岸部では町の再建が十分に進んでいるとはいえません。
2016年1月現在で仮設住宅に住まわれている方は約18万人。さらに激しく壊れた防波堤をどうするのか、高台移転をどう進めるのかなども含めて、さまざまなことが中途半端なままです。

ここに猛烈な台風が襲おうとしており、それに伴う高潮などが起きようとしています。とても心配です。
また初めての台風上陸ということで、東北の方々が、行政を含めて未経験な体験に晒されざるをえないことも大きな懸念材料です。
その上、すでに台風9月、11号でたくさん雨が降り、地盤が緩んでいる後ですので、土砂災害も発生しやすくなっています。

このような状態を前にして、今、提案できることはとにかく「念のため」の精神を大事にした「早目の避難」を広範に行っていただくことです。ぜひとも、とっとと逃げていただきたいです。
とくに大事なのは「行政任せでない命を守る能動的な行動」に出ることですが、このことはけして行政当局への批判、批難を意味しているのではありません。

そもそもこの間、地球的規模での気候や大地の変動が起こっていて、「観測史上初めて」のことが度々記録されています。
熊本・九州地震でもそうでした。4月14日に熊本県益城町でマグニチュード6.5、震度7の大地震が起こり、その2日後の16日に、マグニチュード7.3、震度7のさらなる大地震が起こりました。
マグニチュードは0.1上がるとエネルギーは倍違いますから、16日の地震は14日よりもエネルギーでは16倍も大きかったことになります。ちなみにこのため地震計が壊れてしまい、正確な値が測れませんでした。

これは観測史上、初めての事態でした。大きな地震のあとにそれをはるかにうわまわる地震が来ることなど、現代人は経験したことがなかったのです。
このためとくに熊本では、多くの方たちがさらに大きな地震が発生する可能性も考えざるをえず、家に戻れなくなってしまいました。
避難所はたちまち人が収容しきれなくなり、たくさんのテントが立ち並び、その周辺に多数の車が駐車して寝泊まりする人々が発生しましたが、その中かからエコノミー症候群で亡くなる方も多数出てしまいました。
これらのことに見られるのは、この地震災害があまりに行政の想定を超えてしまったために、対処が間に合わない事態でした。

いやそもそも気象庁は2013年8月末から、それまでの「注意報」「警報」に変えて「特別警報」の発令を始め、「ただちに命を守る行動を」と呼びかけてきました。
それまでのような危険性の告知では、事態に対応できないと判断したが故の措置でした。
しかしこの2013年に伊豆大島で発生した大規模な土砂災害のときも、翌年の2014年に発生した広島市での大規模な土砂災害の時も、特別警報は出されませんでした。いずれも気象庁の設定を越えて急速に災害が進展してしまったからでした。

このことが意味するのは、気象庁そのものが、未曽有の事態に度々襲われて、十分に危険情報が出せなかったり、人々の避難を有効に勧告できなかったりしていることです。
もちろん多くの方がこの限界を越えるために奮闘しておられるのですが、僕はこれは気象庁のせいと考えてはならず、地球規模での災害の変化がこれまでの私たちの科学的知見を上回っていることにこそ向かい合うべきだと思います。
だからこそ、行政に災害との格闘の努力を任せてばかりではいけないのです。何時、避難するのか、逃げ出すのかという判断を、受動的に出してもらうのではなく、自ら能動的に判断し、行動する必要があるのです。

とくに今回起ころうとしているのは、当然にも行政当局も経験のない初の台風の上陸です。
しかも二つの台風が雨を降らせて通り過ぎたあとの大型台風の直撃であり、年間で最も潮位の高い「大潮」の時期が重なっているのです。
さらには東日本大震災の爪痕もまだまだ癒えてないところがたくさんあるのですから、多くの方々に、ぜひとも早めに安全地帯に逃れる行動をとっていただき、むしろ行政を助けてあげて欲しいのです。

その際、非常に参考になるサイトをご紹介しておきます。災害対策のスペシャリスト、山村武彦さんが主宰する防災システム研究所HPに掲載されているものです。
避難や水害対策の手引きとして下さい。

 台風・ゲリラ豪雨・洪水・土砂災害・落雷・竜巻・特別警報対策
 http://www.bo-sai.co.jp/suigaitaisaku.htm

またこの記事の末尾にとくに重要だと思われる満潮情報や、大雨、風、高波、高潮の予想などを転載しておきます。
これらもあくまでも「予想」であることを踏まえつつ、より安全側にたった判断の上で行動してください。

なお東北への初の台風の上陸の可能性がある中、やはり福島第一原発サイトが被害を受けないか不安が募ります。
これに対してはとにかく現場の奮闘を祈るしかないですが、同時に何が起こっているのか、危険に見舞われていないか、避難の必要性が生じていないかなど、主に台風の影響を受けない地域の人々でウォッチし、情報を発信しましょう。
僕も今は京都にいますので、明日は台風情報全般をチェックしつつ、福島原発の状態のチェックを続けようと思います。

ともあれ東日本のみなさんの安全を心の底からお祈りします。必要がある時は、けして躊躇せず、とっととお逃げ下さい。
以下、必要情報などを貼り付けておきます。

*****

気象庁 台風情報
http://www.jma.go.jp/jp/typh/1610l.html

*****

高潮に警戒を 東北地方の満潮時刻は
NHK NEWSWEB 8月29日 15時59分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160829/k10010657991000.html?utm_int=word_contents_list-items_003&word_result=%E5%8F%B0%E9%A2%A8%EF%BC%91%EF%BC%90%E5%8F%B7%20%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9

気象庁によりますと、台風が近づくと予想されている東北地方の太平洋側では、今は1年で最も潮位が高い大潮の時期にあたります。
台風の進路にあたる東北の沿岸では、5年前の巨大地震の影響で地盤が大きく沈下しているところがあり、気象庁は、台風が近づいたり満潮を迎えたりする時間帯を中心に、高潮に警戒するよう呼びかけています。

東北地方の太平洋側の30日午後から31日午前にかけての満潮時刻は次のとおりです。

福島県
いわき市の小名浜港
30日午後3時33分ごろと31日午前2時32分ごろ。
相馬港
30日午後3時24分ごろと31日午前2時19分ごろ。

宮城県
仙台新港
30日午後3時18分ごろと31日午前2時14分ごろ。
塩釜港
30日午後3時20分ごろと31日午前2時16分ごろ。
石巻港
30日午後3時19分ごろと31日午前2時11分ごろ。
石巻市の鮎川港
30日午後3時17分ごろと31日午前2時9分ごろ。

岩手県
大船渡港
30日午後3時8分ごろと31日午前2時ごろ。
釜石港
30日午後3時8分ごろと31日午前1時58分ごろ。
宮古港
30日午後3時9分ごろと31日午前1時49分ごろ。
久慈港
30日午後3時ごろと31日午前1時46分ごろ。

青森県
八戸港
30日午後2時54分ごろと31日午前1時48分ごろ。
むつ小川原港
30日午後3時1分ごろと31日午前1時44分ごろ。
青森港
30日午後2時20分ごろと31日午前2時17分ごろ。

高潮は、台風の接近に伴い、気圧が1ヘクトパスカル下がると海面が吸い上げられて1センチ高くなるほか、強い風が沖合から吹くと大量の海水が吹き寄せられてさらに潮位を押し上げます。
そして、海面全体が上昇し大量の海水が押し寄せ、沿岸の地域に浸水の被害が出ることがあります。
30日から31日にかけて、東北地方の太平洋沿岸など台風の進路にあたる地域では、台風が近づく時間帯や満潮の時間帯を中心に、高潮に警戒が必要です。

***

大雨や高波など 警戒必要な時間帯の目安
NHK NEWSWEB 8月29日 18時32分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160829/k10010657351000.html

大雨や高波など 警戒必要な時間帯の目安
気象庁によりますと、台風や上空の寒気による大雨と高波などに警戒が必要な時間帯の目安は次のとおりです。

大雨
まず、大雨が予想される時間帯です。
▽関東では30日の未明から夕方にかけて。
▽北陸では29日夜から30日夜にかけて。
▽東北では30日未明から31日昼ごろにかけて。
▽北海道では30日未明から31日昼すぎにかけて。


続いて暴風に警戒が必要な時間帯です。
▽関東では30日朝から昼すぎにかけて。
▽東北は30日昼前から31日朝にかけて。
▽北海道は30日夜から31日朝にかけて。

高波
続いて高波です。
▽東海と伊豆諸島、小笠原諸島では30日の朝にかけて。
▽関東では30日の夕方にかけて。
▽東北では29日夜から31日昼にかけて。
▽北海道では30日昼から31日昼にかけて。

高潮
このほか、東北では30日昼から31日朝にかけて、高潮に警戒が必要です。

今後の台風の進路や速度によっては、見通しが変わる可能性があり、気象庁は、最新の情報を確認するよう呼びかけています。

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明日に向けて(1296)伊方原発3号機1次冷却水ポンプは耐圧試験で壊れた!ただちに停止すべきだ!

2016年08月29日 18時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160829 18:30)

前回の続きで伊方原発3号機の構造的欠陥と思われる一次冷却水ポンプ故障事故についてさらに解析していきたいと思います。
すでにこの点については「明日に向けて」(1282)(1283)で記事にしたのですが、これらを書いた翌日の7月25日に四国電力から報告書が出されました。以下の文章です。

 伊方発電所3号機 1次冷却材ポンプ3B第3シールの点検結果等について
 四国電力 2016年7月25日
 http://www.yonden.co.jp/press/re1607/data/pr005.pdf

ここで7月17日に起こった事故原因の解説がされているのですが、核心部分で述べているのは、なんと格納容器の耐圧試験を行ったときに、ポンプの軸受け部分のシールド箇所に大きな圧力がかかりシールドが効かなくなったということでした。
当該部分を以下に抜粋しておきます。

 「7月12日に実施した原子炉格納容器の耐圧検査時に、第3シールに通常より高い圧力がかかったことにより、シール構成部品であるOリングの噛み込み等が発生し、摩擦力が多きくくなり、シーリングの動きが悪くなったものです。
 このため1次冷却材ポンプ3B起動時に、シールリングが傾いた状態となり、シート面に隙間ができたことから、シールリークオフ流量が増加したものと推定しました。」

抜粋はここまで。

分かりやすいように解説します。そもそもこのポンプと言われる装置、150気圧300度で流れている一次冷却水の中にプロペラを仕込んで回し、水流を強める役割を果たしているものです。
プロペラを回すためにモーターが必要で、その軸が循環している一次冷却水の配管にいわば直角に差し込まれ、その先でプロペラが回されて冷却水が攪拌されているのですが、このモーターの軸の部分がシールド上の弱点になっているのです。

なぜかというとモーターの軸が回転可能なためには当たり前のことですが軸受け部に一定の隙間がなくてはなりません。しかし一次冷却水の圧力はなんと150気圧ですのでこのわずかな隙間に高圧の熱湯が押し寄せて、水漏れが起こりやすいのです。
このためここは3重ものシールドが施されており、主に放射能を大量に含んだ1次冷却水は第一、第二シールまでて侵入を阻止しようという構造になっています。
第3シールの役目はこの軸受けの隙間を埋めて循環しつつ、一次冷却水の侵入をシールドしている純水が漏れないよう封じることにあります。この純水はシール部分を洗浄する役目も負っているのですが、さらにそれを第3シールで封じているのです。

理解を容易にするためにこのポンプを図示している三菱重工のページをご紹介します。

 1次冷却材ポンプ 三菱重工HPより
 https://www.mhi.co.jp/products/detail/reactor_coolant_pump.html

さてこれまで僕はこのポンプが繰り返し同じような故障事故を繰り返しているので、構造的欠陥ではないかと論じてきたのですが、今回は図らずも四国電力の発表によってその一角が明らかになったのではないかと思います。
というのはこの故障事故は、格納容器の耐圧試験でこそ起こったからです。もちろんこの試験は直接にポンプの強度を試すものではなかったのでしょうが、しかし同ポンプが、格納容器が耐えるべき圧力に耐えられなかったのは確かです。
要するに同ポンプは試験に耐えられなかった。角度を変えて言えば、格納容器の強度を試験していたら違う部分が壊れることが判明したのでした。そんなポンプをそのまま使っての稼働などしてよいはずがない。

四電の発表によってもう少し詳しく見ていくと、このポンプには通常は1次冷却水側から強い圧力がかかっていることが説明されています。1番目のシールである第1シール側からです。
ところが試験によって格納容器内の圧力を高めたので、このときは第3シール側からより高い圧力を受けることになりました。このため第3シールの前後で「通常時とは逆向きの圧力が発生する」と説明されています。
このことがシールがずれて水漏れが発生した根拠に上げられているのですが、一読して開いた口がふさがりませんでした。

これではなんらかの事故が発生し、格納容器内の圧力が高まる事態が発生すると、どう考えたってこのポンプで同じ故障が発生する可能性が極めて高いからです。
耐圧試験によってそのことこそが明らかになったのではないでしょうか。というかこういう不慮の事態の発生の可能性を知ることにこそ、試験の意味があるのではないでしょうか。
となれば本来、このように格納容器側、つまり第3シール側の圧力が高まった時にシールがずれてしまう欠陥を解決しなければ再稼働してはならなかったはずです。

にもかかわらず以下のように対処することが発表されたのみでした。抜粋します。

 「今後、一次冷却材ポンプ3Bの第2および第3シールを予備品と取り替えるとともに、万全を期すため、同じ構造である3A、3Cのシールについても同様に取り替えます」

抜粋はここまで

万全を期すためとかいったって、故障事故を起こした肝心な部分の第2、3シールは予備品と変えられたのでしかない。
これは従来と同じ部品ですから、今回起こった事故に対応したことになっていません。つまり試験結果を反映した改良になっておらず、むしろ試験結果を無視したまま従来品と交換したことにしかなりません。
そもそも今回壊れたポンプそのものが、これまで繰り返し事故を起こしてきた箇所であるがゆえに、再稼働を前に新品を取り付けていたのにもかかわらず、7月に事故に見舞われたのです。それでなぜ予備品への交換ですませてしまうのか。

ここからも強く疑われるのは、三菱重工がこの一次冷却水ポンプの構造的欠陥に気が付きながら、抜本的な改良を行わずに、ないしは技術的に行えないままに、今日まで加圧水型原発を動かしてきたと思われることです。
そして壊れる度に、部品の交換などで弥縫してきた。蒸気発生器と同じようにです。
しかしこのポンプは150気圧でまわっている一次冷却水の配管の途中に設置されたものですから、この部分の故障が深刻化すると、冷却材の飛び出し=炉心の冷却材喪失=メルトダウンに直結する可能性があり、こんな対応は許されてはならないのです。

このことからも伊方原発3号機はただちに停めるべきです。

また現在稼働中の川内原発1号機、2号機も同じ三菱重工製の加圧水型原発であり、同じ部品が使われています。それどころか川内原発1号機でも2008年に同ポンプに取り付けられたプロペラの軸(モーターの軸)が折れてしまうという事故も起こっています。
伊方原発と川内原発は蒸気発生器とともに、同ポンプに同じ構造的欠陥を有しているのですから、こちらもまたただちに停めるべきです。
もちろん高浜原発も同じ型ですからやはり二度と稼動させてはならないのです。

なお伊方原発を動かしてはならない理由は他にもたくさんあります。
以下の記事も参照にしてください。

 明日に向けて(1288)伊方原発を動かしてはならない幾つもの理由-上 
 2016年8月15日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ac6e04f05f8f856793573e9be441cddc
 http://toshikyoto.com/press/2193

 明日に向けて(1289)伊方原発を動かしてはならない幾つもの理由-下 
 2016年8月16日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/41d6ef9fd874dce9c96df803ffa6ef4a 
 http://toshikyoto.com/press/2195

この項の連載終わり

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明日に向けて(1295)事故を繰り返している伊方原発3号機はただちに停めるべきだ!

2016年08月28日 06時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160828 06:00)

8月12日に再稼働を強行し、22日よりフル稼働に移った伊方原発3号機で26日に水漏れ事故が起こりました。
再稼働前、7月17日にも一次冷却水ポンプの故障事故を起こしており、これを含めると再稼働前後で2回目の水漏れ事故を起こしたことになります。
幸いにも今回は深刻な放射能漏れにまで至りませんでしたが、重大事故にいたっていないこの段階で、再稼働に無理があることを認め、原発を停止すべきことを強く主張します。

今回の水漏れ事故が起こったのは、原子炉建屋とは別の「純水装置建屋」と呼ばれる場所です。
加圧水型原発である伊方原発3号機は、炉心を150気圧300度の「一次冷却水」がまわっています。これが「蒸気発生器」の細管の壁を経て「二次冷却水」と接しています。
ここで二次系に熱が移され、二次冷却水が沸騰し、蒸気化してタービンを回して発電する仕組みになっています。その二次冷却水はやはり配管の壁を通じて三次冷却水である海水と接していて、最終的に熱を海に捨てています。

漏えいが起こったのはこの二次冷却水に混じった不純物を取り除く装置を洗浄した「純粋」でおよそ1.3トンが漏れ出したとされています。
この点に関して四国電力が26日に発表した広報を紹介しておきます。

 伊方発電所3号機 純水装置建屋内での水漏れについて
 四国電力 2016年8月26日
 http://www.yonden.co.jp/press/re1608/data/pr015.pdf

原因はこの純粋を「排水処理装置」に送る配管のつなぎ目のパッキングに2センチの亀裂が入ってしまいそこから水が漏れたことだそうです。
四国電力はすでにパッキングの交換を行い、漏れた原因を除去したため、予定されている9月7日からの営業運転には問題がないと言っています。

しかし翌日27日に発表された広報を読み込んでみると以下のように書いてあります。
「今後、パッキンの損傷原因について、詳細調査を実施し、必要な再発防止対策を実施します」
必要な再発防止対策を施したから問題がないのではなく、なんとすでにフル稼働している現下の状態で、これから対策を実施するというのです。

さらにこうも書かれています。
「漏えい水に被水した純水装置B系統の弁24台について、動作不良の可能性があることから、念のため、今後、取り替えを実施します。プラントの運転に必要な純水の製造は、純粋装置A系統で確保します。」
これもひどい。そもそもA,B両系統は同じ装置です。だとすれば同じトラブルが発生する可能性が十分にあります。しかし片方の系統が残っているからこのままフル稼働を続けてもかまわないというのです。

 伊方発電所3号機 純水装置建屋内での水漏れの復旧について
 四国電力 2016年8月27日
 http://www.yonden.co.jp/press/re1608/data/pr016.pdf

このようにフル稼働を続けながら「対策を実施する」「24の弁を取り換える」などと言うのはまったくもって著しい安全性の軽視です。
しかし4月から激発した熊本・九州地震の中で、伊方原発がそこから続く中央構造線断層帯のほぼ真上(正確には6キロから8キロ離れている)に位置していることに全国の注目が集まる中で、どうして再稼働前後で二度も事故を起こしたのでしょうか。
四国電力とて、どんな事故でも起こしてしまえば稼働の継続にとって不利なことは分かっているはずで、「万全の態勢」で再稼働に臨んだはずです。
しかしまず7月17日に1次冷却水ポンプの故障事故を起こしました。このため予定されていた7月末の再稼働は断念され、8月12日まで延期されてようやく稼動に漕ぎ着けました。しかしフル稼働に移るや、またも水漏れ事故が重なりました。

そもそもここに表出しているのは、長く停めていた原発を再稼働させることの大きなリスクです。
なぜならあらゆる機械は動いていない期間が長いだけ、稼動部分がゴミやさびの付着等々によって動かなくなる「固着」などの現象にさらされ、故障しやすくなってしまうからです。
例えば長く動かしていなかったオートバイなど、なかなかエンジンがかかりません。場合によっては分解点検し、油をさしてやるなどしなければ動きません。

ところが原発はあまりに巨大であるため、とても全ての分解点検などできないのです。しかも大量の水を循環させており、その一部は塩分を含んだ海水であるため、金属にとって最大の脅威であるサビに見舞われやすい。
今回、亀裂が入り、水漏れを起こしてしまったパッキングも、膨大な箇所で使われていながら、耐性が強いとは言えず、壊れやすい部分の一つです。
このため実際には再稼働して出力をあげてみないと、どこでどういう不具合が出てくるか分からないのが実情なのです。だから今後も不慮の事故が起こる可能性が高いのです。何せ伊方3号機は5年3カ月にもわたる停止の後に再稼動したのですから。
だからこそ今回の再稼働は極めて危険なのです。伊方原発だけでなく日本中の原発がもう4年以上は停まっています。これだけでもはや再稼働は断念すべきなのです。機械としての限界です。

伊方原発3号機の場合、さらに注目すべきことがあります。再稼働直前の7月17日に起こった1次冷却水ポンプの故障事故が、加圧水型原発の構造的欠陥によってもたらされている可能性が高いことです。
この点に関して、すでに7月24日に「明日に向けて」(1282)と(1283)で論じましたが、今ここでポイントをあげると、このポンプの事故は同型の加圧水型原発で繰り返されてきています。しかもそのうちの一回は伊方3号機で2003年に起こっているのです。
同様に2005年にも同じ加圧水型原発の美浜原発1号機でも同じ事故が起こっています。2008年にも同じポンプ部分に取り付けられた1次冷却水を攪拌するためのプロペラの主軸が折れるという事故が、同型の川内原発1号機で起こっています。

伊方も美浜も川内も三菱重工製の加圧水型原発で基本的構造を等しくしていますから、ここから垣間見えるのは三菱重工がこの一次冷却水ポンプの構造的欠陥を克服できていないことです。
この点を強く疑わせるのは、四国電力が今回の再稼働の直前にこの1次冷却水ポンプの部品を新品に交換していたことです。にもかかわらず再び三度、同じ事故が起こってしまったのです。
ここからは5年近くも停めておいたがゆえに固着などのさまざまな不具合が生じて事故が起こっているだけではなく、1次冷却水ポンプの構造的欠陥が表出している可能性が強く考えられます。
加圧水型原発は、「蒸気発生器」に致命的な構造的欠陥を抱えていて、三菱重工はここでのトラブル発生をまったくかわせていないのですが、同様なことが実は一次冷却水ポンプにもあるのではないか。この点をすでに以下で論じましたのでご参照ください。

 明日に向けて(1282)伊方原発3号機ポンプ故障事故は大問題!再稼働を断念すべきだ!上 
 2016年7月24日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/643579af330808d6be892623cd6ed94b

 明日に向けて(1283)伊方原発3号機ポンプ故障事故は大問題!再稼働を断念すべきだ!下 
 2016年7月24日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9a7954d2d3903adade7e5affa003fb26

以上から伊方原発3号機は、5年3カ月も停まっていたので、再稼働の前後にすでに2回も水漏れ事故を起こしており、今後、またどこかが壊れて事故を起こすことが考えられること。
蒸気発生器に構造的な欠陥を抱えており、メルトダウンに直結する一次冷却水系統の破断事故などを起こす可能性があること。
さらに一次冷却水ポンプにも構造的な欠陥を抱えており、冷却材の漏れ出し=喪失により、これまたメルトダウンに直結する事故を起こす可能性があること。
これらからだけでもただちに運転を止めるべきです。

続く

次回は一次冷却水ポンプの問題にさらに切り込みます。
なお伊方原発3号機の危険性について、本日28日、滋賀県彦根市で開催される「くらしとせいじカフェ@ひこね」の場でお話します。
午前10時からです。イベントページをご紹介しておきます。
https://www.facebook.com/events/1064093957018705/

------------------------
守田敏也 MORITA Toshiya
[blog] http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011
[website] http://toshikyoto.com/
[twitter] https://twitter.com/toshikyoto
[facebook] https://www.facebook.com/toshiya.morita.90

[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4
 

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明日に向けて(1292)ベンサムのパラドックスを問う(功利主義の世紀を越えるために-1)

2016年08月23日 11時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160823 11:30)

8000ベクレル問題の解析の途中ですが、またちょっと唐突かもしれませんが、今回は思想問題を論じたいと思います。
というのはちょうど1年前の8月30日に、京都市・出町柳のかぜのねで以下のような企画でお話したのでした。

 日本の社会活動のあり方を考えよう
 -スコットランド啓蒙思想の対話性と現実性に学ぶ-
 https://www.facebook.com/events/795032107261199/

当時、これに続けて思想問題を論じ続けようと思っていたのですが、目の前の課題に追われているうち早一年が経ってしまいました。
その間に、昨年9月に戦争法が強行可決され、本年7月の参院選では改憲勢力が議席の3分の2を獲得してしまいました。
憲法と平和が危機に立っています。

この状態を打開していくために多くの人々が努力を続けていますが、僕はそのための力の一部を思想問題に振り向けなければと思い続けてきました。
とくに重要なのはマルクス主義に代わる現代社会へのアクチュアルな批判の観点をみんなで紡ぎ出すことです。
もちろんかといって、新たな大理論の打ち立てを目指すわけではありません。そうではなくてなすべきこと、深めるべきことは、私たちが向かい合っている社会への批判的考察です。

これはこの間の安倍政権の暴走の中で新たな高揚を迎えてもいる市民運動を、これまでのように四分五裂に終わらせてしまうことなく、大きな連帯、多様な違いを認め合った団結へと発展させるための試みでもあります。
そのために私たちが格闘しているこの社会とは何なのかについての共通認識を作り出すことが肝要だと思うからです。もちろんここでの考察が目指しているのは、そのためのほんの一助に過ぎませんが重要な試みだと自負しています。

さて、ご承知のようにマルクス自身は、この試みを「資本主義批判」として成し遂げようとしました。その際、彼は「経済学批判」という手法を採り、のちに『資本論』にその考察をまとめていきました。
現にある社会を何もないところから分析するのではなく、この社会がいかに捉えられてきたのか、人々にいかに認識されたのかを問う道筋を採ったのでした。
この中で経済学徒から肯定的に捉えられている資本主義社会の批判的分析を紡ぎ出すのはマルクスの「戦略」でした。
こうしたマルクスの方法論に学びつつ、ここではしかし「経済学批判」ではなく「社会思想批判」という手法を採用したいと思います。

その際、もっとも重要な思想としておさえるべきは「功利主義」だと思われます。なぜなら現代世界の大きなエートスにまで昇華しているのがこの功利主義だからです。
しかし功利主義は「損得勘定」などの言葉にも置き換えられ、どちらかというと日本では不人気な思想です。不人気でありながら、しかし企業経営などでは必須の発想として踏まえられてもいるもので、ここに重要なポイントがあります。
また「左翼」と分類される社会運動の側から、この功利主義への内在的批判を試みた考察がほとんど出てこなかったことが、現代社会の解明に大きな欠損をもたらしてきたのではないかと僕には思えます。

そこでここでは功利主義の祖であるジェレミー・ベンサムの思想を取り上げたいと思います。
とくに留意したいのはベンサムの何がその後の世界に大きな影響を与えたのか、その肯定面を一度抽出することです。
その上で、「損得勘定」ないしその権化としての「拝金主義」にもつながっていったベンサムの思想の歴史的限界、その意味でのベンサムのパラドックスの捉え返しをここで試みていきたいと思います。
社会運動の豊かな発展を願いつつ、以下、考察を進めたいと思います。


1、ベンサムによるイギリス経験論の転回

1年前に、スコットランド啓蒙思想の捉え返しの中で論じてきたことですが、近代ヨーロッパには大きな二つの思想潮流がありました。
今日、人々はそれを「イギリス経験論」「大陸合理論」と呼びならわしています。スコットランド啓蒙思想は前者の中核をなすものであり、イギリス市民革命を経る中で成熟を迎えていきました。

出発点を誰と捉えるのか幾つかの意見があると思われますが、重要なのはイギリス市民革命に影響を与えたジョン・ロックなどの考察だと思います。
そこで問題とされたのは、絶対王政が依拠し独自に解釈したたカソリック思想やイギリス国教と、他方でのピューリタン革命の思想的バックボーンをなしたカルヴァン主義への批判の内包でした。
つまりそこでは当時のキリスト教的世界観=人間を原罪を負った不完全な存在としてとらえ、だからこそ神の代弁者たる教会や絶対王政への服従を求めた思想に対するアンチとして現世肯定的な考え方が押し出されたのでした。

中でも重要だったのは、「神の千年王国」の実現ではなく、この世の中での幸福の実現を目指し、そのために諸個人の利己心の追及の積極的な肯定が打ち出されたことです。
だからといってそれはむき出しのエゴイズムの肯定としてなされたわけではありません。むしろ明確な社会正義による裏打ちが目指されたのでした。
つまり人間の利己心を肯定したイギリス経験論は、一方で相互に利己的な人間たちが、神学的な何らかの権威を必要としなくとも、相互理解にたった尊厳あふれる社会を形成しうる根拠を探し続けたのでした。
ゆえにそれはやがてフランス革命やアメリカ独立戦争の指導的理念ともなり得たのであり、近代の人間的正義を打ち立てようとする試みに大きな影響を与えてきたのでした。

しかしこうしたイギリス経験論の流れは、産業革命期に入ったイギリス資本主義の成長と共に、次第に人間の幸福を金銭の多寡に一面化していく「金儲け第一主義」へと連なってしまいました。
その意味で、全てを利害計算によって価値づけていくという意味での「功利主義」への変容を見ていくこととなったのです。そしてその重要な転換点に位置していたのが今回、問題にするジェレミー・ベンサムでした。
そのため、ベンサムの思想を考察することは、現代自由主義の肯定面と否定面を併せて捉えるための重要な手掛かりになります。

その際、注目しておくべきことは、ベンサムの意図したところもまた単なる私利私欲の賞賛ではなく、人々に快楽を与えるのは善、苦痛を与えるのは悪、という原則に基づく立法を行い、社会的正義を打ちたてることだったということです。
にもかかわらず彼の主張は、後年に私利私欲の賞賛として受け取られてしまいました。
その意味でのベンサムのパラドックスを解き明かすことから、現代社会の秘密、幸せの追求がしばしば金銭の多寡に一元化されてきてしまったカラクリを捉え返していきたいと思います。

続く

------------------------
守田敏也 MORITA Toshiya
[blog] http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4
 

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明日に向けて(1291)8000Bq/kgという数値はどこから出てきたのか(8000Bq/kg以下再利用問題2)

2016年08月22日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160822 23:30)

8月17日から19日まで琵琶湖の周辺で行われている二つの保養キャンプに参加し、福島をはじめ東北・関東から訪れている子どもたち、親御さんたち、スタッフのみなさんと濃密な時間を過ごしてきました。さらに20日には宇治市で講演を行ってきました。
この数日間で実にたくさんのことを得てきましたが、それはおいおいご報告するとして、今回は「8000ベクレル問題」の続きを書きたいと思います。

8000ベクレル問題を考察する上で、次に私たちは「放射性物質汚染対処特措法」においてなぜ8000Bq/kg以下の放射能汚染物を一般廃棄物として埋め立ててよいとされたのか、8000Bq/kgという数字がどこから出てきたのかを探っていきましょう。
といっても、これまで僕が文献を調べた限りにおいて、8000Bq/kgとする明示的な根拠が示されたものは見つけられませんでした。ですからここからは推論になります。
まず重要なことはこの国にはある濃度以上の放射性同位体の管理についての「放射線障害防止法」があり、そこで管理を必要とする「放射性同位元素」の定義が行われていることです。


原子力規制委員会のホームページにある説明をご紹介しておきます。

https://www.nsr.go.jp/activity/ri_kisei/kiseihou/

  「放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染されたものの廃棄などを規制することによって、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的に制定された法律です。なお、放射性物質の規制は、同法のほか、原子炉等規制法、医療法、薬事法、獣医療法等においても行われています。」

 引用はここまで

放射性物質ごとに管理対象となる総量と濃度の双方が規定されており、その値を越えると管理すべき放射線同位元素とするとされています。
具体的なことは「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」で規定されており、セシウム134と137に関しては10000Bq/kgベクレル以下のものは「放射線同位元素」とみなされないとなっています。


 放射線を放出する同位元素の数量等を定める件 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/04/02/1261331_15_1.pdf


セシウムだけでなく他の多くの放射性物質についても、かなり緩い設定が行われており、この基準自身、非常に問題の多いものですが今はその内容には立ち入りません。

重要なのは、ここから推論できることとして、この放射性同位体の取り扱いを規制している法律が「放射性廃棄物特別措置法」の足かせになったことがあることです。
なぜならこの「放射線障害防止法」との整合性を採らねばならず、放射能汚染物を一般廃棄物とみなすラインを「自由に」設定できず、最大でも10000Bq/kg以下にする必要があったと思われるということです。

その上で再度、おさえておきたいのですが、この国の政府、ないしお役人たちは、膨大な放射能が出てしまったことに事後的に対処せざるをえなくなってしまいました。それは下水汚泥への放射性物質の極端な濃縮の中で強いられてきました。
このため2011年6月には一定の指針を出さざるを得なくなったわけですが、おそらくこの時点では、まだ福島原発から漏れ出した放射性物質の総量が見通せていなかったのではなかったのではないかと思われます。
そのためあるいは8000Bq/kgで問題を収められるとの見通しを持ったのかもしれません。

もっともこの時点でも、将来的に問題になることが焼却場の灰であることを彼らは熟知していたはずです。汚泥もまた焼却され、濃縮されて問題が浮上していたからです。
しかし重大なポイントなのですが、例えば東京都がすでに問題を把握し始めていた3月の段階で東北・関東の焼却場で日々作りだされている焼却灰の放射線値を測ったら恐ろしい数字が出てしまう可能性がありました。
端的に言って、ヨウ素131をはじめ、半減期の短い核種が廃棄物の中に大量に存在していたからです。この時点できちんとした調査を行えば、焼却そのものが続けられなくなるようなデータが各地から出てきてしまったでしょう。

このため環境省はすぐに都道府県に焼却灰の放射線値を測ることを指導せず、放射性ヨウ素131が1000分の1に減衰した事故から80日以上が過ぎた6月になってはじめてこうした指示を発しています。
そして8月24日までに16都県にデータを提出させたのですが、この事実からすると政府は焼却灰のリアルな計測をすることなしに8000ベクレルを決めざるを得なかったのではないかと思われます。
ところが8月24日に出そろったデータを見てみると、各地で8000ベクレルを大きく超えてしまう焼却灰が出てきてしまいました。以下にデータを示しておきます。

 16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果一覧
 https://www.env.go.jp/jishin/attach/waste-radioCs-16pref-result20110829.pdf

これをみるとセシウムだけでもものすごい値が各地の焼却場から出ていたことが分かります。
なおこのデータを僕は翌年4月ごろからつかみはじめ、分析して発表しました。当時の記事をご紹介しておきます。簡略ですが16都県について分析したので今でも参考になると思います。

 明日に向けて(443)岩手県における放射能汚染の実態(がれき問題によせて) 2012年4月3日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8bfff14a348072520dd72985df1ab067

 明日に向けて(462)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その1 2012年5月2日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/fb16143656f0bffe1a9ebaf9b29f4bc2

 明日に向けて(463)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その2 2012年5月3日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/a4aa815200b30684344631f712080879

 明日に向けて(464)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その3 2012年5月4日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1ddac9569cdc4dd9758b9a93f935a744

ご覧になると分かるように、とくに福島県ではのきなみ1万ベクレルを軽く越えてしまい、福島市ではあぶくまクリーンセンターで95300Bq/kg、郡山市では富久山クリーンセンターで88300Bq/kgという値が出てしまいました。
この他各地で数万Bq/kgの値が出てしまい、これらの焼却灰は一般廃棄物として処理できず、行き場がないので焼却場内にため込まれるようになりました。

ここに政府にとっては、8000Bq/kgのものを廃棄物として捨てられるようにするだけでは処理できない放射性廃棄物問題が登場することになってしまったわけですが、ここでおさえておきたいのは、本来政府が対応すべき問題が大きくずれていたことです。
繰り返し述べてきたようにこの問題はいわば二次的な放射能被曝問題です。それを「廃棄物問題」と捉える方が間違っているのです。ここで政府が取り組むべきことは、福島原発事故で出てきた放射能による二次被曝、三次被曝を食い止めることにあったのです。

事故はすでに起こってしまったものであっても、焼却による濃縮された放射能による二次被曝は避けようがあったし、避けなければならなかった。しかし政府は、それでは廃棄物問題が処理できないからと、追加被曝を野放しにしたのです。

こう考えるとその後にがれきを広域処理しようとしたのも、すでに起こしてしまった焼却による二次被曝、三次被曝をうやむやにしてしまう目的があったようにも思えてきます。
私たちはこの点をしっかりと踏まえなくてはいけません。福島原発事故だけでなく、その後に放射性廃棄物の広範な焼却を何らの防護措置もないままに認めてしまい、広範囲な追加被曝を人々にもたらしてしまった犯罪があったのです。
今回の8000Bq/kg以下の汚染された土を公共事業で使ってしまえ、いや、公共事業の場を最終処分場に代替してしまえという方針も、この延長線上に生まれてきたものであるように僕には思えてならないのです。

続く
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守田敏也 MORITA Toshiya
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明日に向けて(1290)原発汚染土8000Bq/kg以下再利用問題について-1

2016年08月17日 02時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160817 02:00)

「原発汚染土8000Bq/kg以下再利用問題」について解説していきたいと思います。
この問題は1キログラムあたり8000ベクレルの放射能を含む除染などで生じた「汚染土」を、全国の公共事業で使ってしまおうというものです。
毎日新聞の報道記事をご紹介しておきます。(全文を資料として保全するため末尾に添付します)

 原発汚染土 「8000ベクレル以下」なら再利用を決定
 毎日新聞2016年6月30日 20時30分(最終更新 6月30日 21時23分)
 http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/063000c

記事の重要なポイントを抜粋します。
「福島県大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設に保管される除染廃棄物は最大2200万立方メートルになると見込まれる。国は2045年3月までに県外で最終処分する方針で、できるだけ再利用して処分量を減らしたい考え。 」
2200万立法メートルとは東京ドーム18個分だそうですが、国は福島県に30年後までに県外で最終処分する約束をしています。この実現が危ぶまれる中でとにかく処分量を減らそうというのが狙われているところです。
端的に本来、放射性物質の最終処分場に持っていくべきものを公共事業で使ってしまおうというものですから、公共事業の場を最終処分場に変えてしまう恐ろしい方針です。

さてこの問題をきちんとおさえるためには、前提となることがらを踏まえておく必要性があります。
最も重要なことは、福島原発事故が起こり、膨大な放射能が原子炉から環境中に飛び出してしまったとき、この国にはこの事態に対処する法的な枠組みがなかったことです。
なぜかと言えば、原発敷地外への重大な放射能漏れは「絶対におきない」と強弁してきたため、これに対応する法律も作られていなかったのです。
放射性物質以外のさまざまな汚染物質に対しては、環境保護の観点から幾つかの法律が作られ、規制が実行されてきたのですが、それらのどれも放射性物質を除外しています。

この「無法」状態の中で膨大な放射能が飛び出してきてしまったわけですが、当初政府は、主に放射能がたっぷり降ってしまった福島県内の災害廃棄物(=放射性廃棄物)をどう扱うのかに関心を寄せていました。
ところが先に顕在化したのは福島だけでなく各地の下水汚泥の問題でした。放射性物質が下水を通して集められ、汚泥に濃縮されてしまったからですが、深刻だったのはこれらの汚泥がそれまでセメントに混ぜるなど建築資材として利用されてきたことでした。
福島原発事故後も、この汚泥流通システムにストップがかけられなかったため、放射能に汚染された汚泥が建築資材にまわってしまったのです。

例えば共同通信は2011年5月13日に行った東京都への取材から、3月下旬に採取された汚泥焼却灰から1キロあたり17万ベクレルもの放射性物質が検出されたことを明らかにしています。
検出されたのは江東区の「東部スラッジプラント」でしたが、同時期に大田区と板橋区の下水処理場2か所でも汚泥焼却灰から10~14万Bq/kgの放射性物質が検出されています。
なお調査は1カ月後にも行われ、3施設ともに放射性物質の濃度が1万5千~2万4千Bq/kgまで下がったと報告されているのですが、これから当初の汚泥焼却灰に放射性ヨウ素131が多量に含まれていたことが想像できます。

この点については僕はリアルタイムで記事にしました。以下をご参照ください。

 明日に向けて(112) 放射能汚染が各地に拡大中・・・ 2011年5月14日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/24da6e3ad75d730622dbab7916ff40d7

 明日に向けて(153)汚泥から放射能が。北海道・大阪でも!・・・2011年6月15日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/43c6ee2e40d8dc763f98e04bc72314a6

いま、振り返ってみてもこの問題は大変深刻です。東京都で3月下旬に採取された汚泥焼却灰から17万Bq/kgもの放射性物質が検出されたことが意味していることは、この時期、焼却によってものすごい高濃度の放射能が再度、放出されてしまったことです。
特に焼却場の周辺地域に高濃度の放射性物質が再び降り、大変な被曝がもたらされていたと思われますが、これに対しては焼却の危険性に早くから気がつけば何らかの対処ができたはずでした。
しかも放射能にまみれた汚泥が、それまでなされていたように建築資材に回り、セメントと混ぜ合わされて各地に出荷されてしまったのです。ということは放射能まみれのコンクリートが各地で使われてしまったということです。

今後の原発事故対策には、放射性物質が漏れ出したあとの焼却場の稼働停止、あるいは汚泥対策など、福島原発事故で対処されなかった放射能の二次的拡散の防止が課題化されなければなりません。本質的にはこうしたことこそが立法者に問われたのでした。
しかしこうした中でなされたのは、膨大に出てきてしまった放射能の処理を可能にするための法律的な整備でしかありませんでした。
まず6月16日に、原子力災害対策本部から関連省に「放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取り扱いに関する考え方」が通知されました。環境省からでなく、原子力災害対策本部から出されたことが重要なポイントでした。
この通知ではじめて8000Bq/kg以下の「上下水処理等副次産物」を、通常の管理型処分場で埋め立て可能とする技術基準が示され、環境省を含む各関連省はそれに基づいてその後の方針を策定していったのでした。以下に同文章を示しておきます。

 放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取り扱いに関する考え方
 http://www.mlit.go.jp/common/000147621.pdf

これを踏まえて今度は環境省から6月23日に「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」が発表されました。
この通知において福島県内において「上下水処理等副次産物」と同じく8000Bq/kgまでの放射性廃棄物を管理型処分場で埋立て良いとする基準が示されることになりました。

 福島県内の災害廃棄物の処理の方針
 https://www.env.go.jp/jishin/attach/fukushima_hoshin110623.pdf

これらを踏まえて8月30日に「放射性物質に汚染された廃棄物の処理」と「土壌等の除染」の二本柱からなるいわゆる「放射性物質汚染対処特措法」が新たに公布され、一部施行を迎えました。
この法律の施行によって、それまで原子力災害対策本部からの通知や環境省からの方針の形で出されていた8000Bq/kg以下のものを一般の廃棄物と同じく、通常の管理型処分場で埋め立て可能にすることが合法化されてしまいました。

 「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」
 http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/law_h23-110a.pdf

ここまでで整理すべきことは、そもそも問題の背後にあるのは、放射性物質の原発外への放出を想定せず、原発外での放射性物質の管理に関する法律すら作ってこなかった国のあやまり、政府の極めて大きな責任だと言うことです。
何よりもそのことで二重三重の被曝が生み出されてしまいました。これらは福島原発事故が起こってしまったから必然的にもたらされた被曝とは言えない、対処の遅れとあやまりによってもたらされた被曝でした。
端的に言って、この一点からだけでも本来、原子力発電は終わりにしなければなりません。「事故は絶対に起きない、起こさない」と公言し、だから法律も作ってこず、二重三重の被曝を作りだしてしまったのだからです。
しかもこの点に関しては実はいまだに誰も責任をとっていません。追及すらされていない。それでなぜ原発の延命などできるのでしょうか。原発の延命はまったく道義を欠いたあやまったものであることを強く指摘しておきたいと思います。

さらにひどいのは事故の責任者である東京電力が、このように原発敷地外での放射性物質を規制する法律がなかったことをよいことに、膨大な土地を汚染したことを開き直ってきたことです。
というのは東電は、放射能で汚染されたゴルフ場のオーナーが、東電を訴えた裁判において「原発から出て行った放射能はもう自分たちのものではない。無主物だ。だから責任はない」と傲慢にも言い放ちました。
こんなこと他の廃棄物では通用しません。あまりにひどい言い草です。道義的に許されるはずがない。しかしそれがまかり通ってしまったのも廃棄物に関する法律から放射性物質を除外してきたからです。この責任は極めて大きい。

その上政府は、特措法を作る段階で、規制する法律がないがために生じた問題には切り込まず、むしろ一挙に8000Bq/kgまでの放射能を含んだ廃棄物を普通の廃棄物と同じように通常の管理型処分場で埋め立て可能としてしまいました。
これは原発敷地内で守られてきた100Bq/kgを超えるものを放射性廃棄物ととらえ厳重管理してきた法律とも矛盾し、違反するものです。
そもそもより放射線値が高くなる可能性の高い原発敷地内で決められた基準が、敷地外でどうして80倍にも緩められてしまうのか。合理的な理由など一つも見いだすことはできません。

この点で「放射性物質汚染対処特措法」は、それまで原発からの敷地外への重大な放射能漏れを想定してこなかったこの国のあやまりを捉え返すどころか追認し、よりひどい方向に進めてしまったものに他なりません。
したがってこの悪法は、撤廃されるか徹底的に改正される必要があります。原発敷地外に敷地内よりも厳しいレベルの規制基準を施すのが当然の正しい道です。
今回の、除染などで生じた8000Bq/kg以下の放射能「汚染土」の公共事業での利用を可能とする方針は、この2011年の「放射性物質汚染対処特措法」に含まれた根本的矛盾を問題を前提としていること、ここから正さねばならないことをおさえておきましょう。

続く

*****

原発汚染土 「8000ベクレル以下」なら再利用を決定
毎日新聞2016年6月30日 20時30分(最終更新 6月30日 21時23分)

東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内の汚染土などの除染廃棄物について、環境省は30日、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下であれば、公共事業の盛り土などに限定して再利用する基本方針を正式決定した。
同省が非公式会合で盛り土の耐用年数をはるかに超える170年もの管理が必要になると試算していたことが発覚したが、基本方針では「今後、実証事業で安全性や具体的な管理方法を検証する」と表記するにとどまり、管理期間には言及しなかった。

福島県大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設に保管される除染廃棄物は最大2200万立方メートルになると見込まれる。国は2045年3月までに県外で最終処分する方針で、できるだけ再利用して処分量を減らしたい考え。

基本方針では、再利用は管理主体などが明確な公共事業に限定し、1メートル離れた場所での追加被ばく線量を年間0.01ミリシーベルト以下に抑えると明記。
同8000ベクレルの汚染土を使う場合、50センチ以上の覆土をし、さらに土砂やアスファルトで覆う対策を取るという。
ただし、原子炉等規制法では、制限なく再利用できるのは同100ベクレル以下。環境省の非公式会合で、同5000ベクレルの廃棄物が同100ベクレル以下まで低下するには170年かかる一方、盛り土の耐用年数は70年とする試算が出ていた。

基本方針では、再利用後の管理期間の設定や、管理体制の構築について触れられておらず、原子炉等規制法との整合性を疑問視する声も上がっている。
環境省側は「管理期間や方法については、モデル事業を通じ、今後検討を進める」(井上信治副環境相)との姿勢だ。【渡辺諒】

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明日に向けて(1289)伊方原発を動かしてはならない幾つもの理由-下

2016年08月16日 02時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160816 02:00)

伊方原発を動かしてはならない理由の続きです。


5年4か月ぶりの再稼働を伝えるANNニュース

第七に懸念すべきことは、伊方原発が実に5年4カ月ぶりの再稼働を迎えていることです。
昨年夏に川内原発が再稼働するまで、世界で4年以上停まっていて再稼働した原発は14例しかありませんでしたが、そのすべてで大小の事故が起こりました。
なぜかというと、あらゆる機械は恒常的に動かしていてこそ正常に動くのであり、長く停めていると、可動部がくっついて動かなくなる「固着」などの現象が起こり、動きが悪くなってしまうからです。

しかも原発は大量の水が循環しており、一部は海水がまわっているため、腐食やさびなどが生じやすいのです。
しかし設備があまりに巨大なために、あらかじめすべての箇所を点検することができません。そのためこうした事故が起こりやすいのです。
この間の再稼働でも川内原発1号機で復水器のトラブルが起こりました。高浜原発4号機は、送電開始とともにアラームがなり原子炉が緊急停止してしまいました。

なお以下の記事では触れていませんが、こうした長く停まっていた原発のトラブルは機械的要因だけはでなく、運転手や保守点検員などの技術者の能力の低下にも直結します。
このため事前の点検にミスが出やすかったり、さまざまな数値の入力の誤りなども生じやすい。4号機もそれで停まったのだと思われますが、原発の場合、こうしたミスが大事故に直結することもあるだけに深刻です。

 明日に向けて(1127)再稼働した川内原発でさっそくトラブル発生!ただちに運転を中止すべきだ! 2015年8月22日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/649eafab984d8f08dcb08954f246de2f

第八に、加圧水型原発である伊方原発は致命的な欠陥を抱えた蒸気発生器という大きな部品を持っていることです。
蒸気発生器は、炉内を約150気圧300度の高温で周っている一次冷却水と細管で接して二次系に熱を送り、タービンを回す蒸気を発生させる機器です。
この細管が高圧高温のために損傷しやすく、すぐにピンホールが空いてしまい、美浜原発では配管がギロチン破断して冷却水が飛び出すと言う深刻な事故が引き起こされました。冷却材喪失でメルトダウンに発展する直前まで事故が進みました。

このため三菱重工は蒸気発生器を交換しながら原発を運転してきましたが、2007年と翌年にアメリカのサンオノフレ原発に蒸気発生器を輸出して交換したものの、すぐに深刻な事故が起きて原発が停まってしまいました。
その後、アメリカの原子力規制庁が査察に入り、「修理不可能」と判断。なんとサンオノフレ原発は廃炉になってしまったのです。
技術的にはこれと同じ時に作られた蒸気発生器を三菱重工は使っていますが、なんと川内原発2号機はこの部品を運び込み、取り替えの認可も得ていたにも関わらず、交換をしないで再稼働してしまいました。

どう考えてもサンオノフレ原発の事故で、同じ時期の技術で作られている最新型が怖くなって、交換をせずに再稼働したとしか考えられないのですが、しかしなぜ交換しようと思ったのかと言えばもともとの部品に自信が持てなくなったからです。
このため川内原発は1号機は最新型を付けているから危険で、2号機は旧型を付けれているから危険なのです。交換しようがしまいが、蒸気発生器の欠陥から自由ではないのが加圧水型原発なのです。
伊方原発もこれと変わらない部品を使っており、その面でも極めて危険です。

 明日に向けて(1166)川内原発2号機の再稼働はあまりに危険!みんなで食い止めよう! 2015年10月8日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4b723d9972dd00d65f24baa1e200ebab

第九に、7月に起きた1次冷却水の循環のためのポンプの故障事故もまた、この原発の構造的欠陥としてあると思われることです。
なぜなら同様の故障事故が2005年に美浜原発1号機で起こっており、実は2003年に同じ伊方原発3号機でも起こっていることです。
あるいは川内原発1号機では2008年に同じ個所で、一次冷却水を循環させるためのモーターに取り付けられたプロペラの主軸が折れてしまう事故も起こっています。

しかも今回、伊方原発3号機は、直前にこのポンプを新品に交換して再稼働へとのぞみつつあったのでした。
にもかかわらず事故がおきて再稼働スケジュールが一月近くも伸びたことからもこの部分に構造的欠陥があることがうかがわれます。
150気圧300度の高圧高温の熱湯がまわっているだけに大変危険です。

 明日に向けて(1282)伊方原発3号機ポンプ故障事故は大問題!再稼働を断念すべきだ!上 2016年7月24日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/643579af330808d6be892623cd6ed94b

 明日に向けて(1283)伊方原発3号機ポンプ故障事故は大問題!再稼働を断念すべきだ!下 2016年7月24日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9a7954d2d3903adade7e5affa003fb26

細かくはもっと指摘できることもありますが、ともあれこれらからだけでも伊方原発が即刻再稼働を止めるべき理由は明らかです。
今からでもけして遅くありません。
伊方3号機は運転を中止せよ!の声を各地で高めていきましょう!

終わり

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守田敏也 MORITA Toshiya
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