以前、登山は若者の命がけの遊びでした。日本で最も厳しい登山は、冬の北アルプスと言われています。北アルプスは厳冬期、悪天に陥ると1週間から10日間吹雪くことが続きます。この間、若者は命をかけながら登山という遊びをするわけです。10日間の吹雪に耐えられる装備と訓練をした者だけが、入ることができた世界でした。未熟なパーティは、北アルプスに閉じ込められで身動きできなくなり遭難という報道を招くこともあったようです。登山の事故は、自己責任が世界の常識です。ここでは、想定外の吹雪でしたという言い訳が通用しない世界でもあります。
阪神淡路大震災のような都市型災害にあっても、普通の生活が送ることができたのは1週間でも10日間でもビバークのできた山男達でした。都市型災害では、電気が止まり、水道が止まり、ガスが止まり、日常を支えるインフラが機能しなくなります。彼らは、電気が止まってもへッドランプを使うことができます。ガスが止まっても、ガスコンロとガスカートリッジを使い、コッヘルで慣れた料理ができます。水道が止まれば、空の水筒を利用します。ガラスの破片の上でも、安全に歩けるトレッキングシューズがあります。テントも寝袋もあり、寒ければテント用のマットもあり寝泊まりに不安はありません。
阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓で、多くの家庭では、食料や水を備蓄しました。危険ものど元を過ぎれば、危機管理を忘れてしまう傾向があります。おそらく、多くの家に備蓄されている食料は、とうの昔に賞昧期限切れになっているかもしれません。入れ替えが、必要でしょう。これを有効利用するために、仲間で集まりバーベキューなどして、賞味期限の食品を入れ替えてはどうでしょうか。災害時を思い出しながら、危機に備える場にするわけです。
登山やハイキング人口は、800~1000万人といわれています。山ガールブームで、それが1200万人以上に増加したとも言われています。多くの登山者の中には、遭難する人も増えています。特に、報道で目につくのはツアー登山による遭難事故です。ツアー登山では、トレーニングなしで登る方が多いようです。不足している部分を、ガイドや旅行会社に託す傾向があります。登山には、絶対の安全ということがありません。ツアー登山では、不足している技術、体力、精神力を少し高めてから参加するする仕組みを作ってはどうでしょうか。1000万人の山男や山ガールの何割かが、ツアー登山に参加します。その対象者が、災難に備えることができれば、二次災害は減らせるかもしれません。
山登りに絶対安全がないように、日常生活にも絶対ということはありません。山登りの初心者は、山頂までに体力を使い果たしてしまうことが多いようです。山頂に立つまでに全力を使い果たしてしまっては、下山に力が残っていません。下山に捻挫や道に迷う事故が増えています。身体的にも精神的に余裕がなくなっているので、このような単純な事故が、山では重大事故に発展します。山登りの体力は、山頂まで3分の1、下山に3分の1、3分の1の余力を残しておくことが基本になります。山行を何度か経験することで、自分の体力を客観的に把握して、無理のない山歩きができるようになります。余裕をもって長い行程を歩き通すには、それなりの体力が必要となることがわかります。これと同じようなことは、避難生活でも現れるようです。避難所での生活に3分の1、帰宅後の生活に3分の1、再出発に3分の1の余力を残すような備えをしておきたいものです。