最近、親の子どもに対する虐待が大きく報道されることが多くなりました。子を持つ親として、切なくなるときがあります。昔から、子は鎹(かすがい)と言われていました。子に対する愛情が夫婦のかすがいになって、家庭を円満にしていくものでした。その子を虐待する行為は、今までの人間のあり方を破壊するものです。でも、人間はなぜ子どもを大切にしてきたのでしょうか。母親は自分の食事を削ってまでも、子に与える光景が見られます。この利他性はどうしてできるのでしょうか。このヒントは、最近急速に進んだ恐竜の研究にありました。
そこで、親が子どもを大切にする根源的理由を探ってみました。出産時に、オキシトシンというホルモンが分泌され、母親が子どもを献身的に育てることが知られています。不思議なことに、愛情を注げば注ぐほど母親は、このホルモンの分泌を増やしていくのです。また、オキシトシンと同じように、バソプレシンも子どもへの愛情に関わるホルモンと言われています。これらは、愛情ホルモンとも言われ、わが子の世話をすればするほど、このホルモンの分泌は高まるのです。わが子を見ただけで、父親の中にはバソプレシンという愛情ホルモンの分泌が高まる方もいるようです。いわゆる「親ばか」といわれる父親ということが、できるかもしれません。この時、父親の愛情が高まると同時に子どもの愛情も高まるのです。母親は、子どもを産むと学習能力が高まるとも言われています。こんな常識に、虐待の報道が水を差しているわけです。
近年、世界各地で新たな恐竜の化石が、相次いで発掘されています。その中で、ある種の恐竜の卵の化石が、ーか所に集中して大量に発見されているのです。このことから、恐竜が子育てをしたのではないかと推論されるようになってきました。一般に動物は、子孫を残す戦略として、2つの方式があります。卵をたくさん産んで自然に任せる方式です。魚の産卵などはその典型と言えます。何万という卵を産み、その数%が成長すれば良いという方式です。もう一つは、少なく産卵し、親が大事に育てるというものです。この代表が、人間ということになります。
恐竜の行動様式を知る場合、現在の爬虫類や鳥類の特徴を調べることになります。爬虫類や鳥類の子孫とされるからです。恐竜に近い現在のワニ類や鳥類の卵の温め方を、まず調べます。恐竜の卵が発見された地形や場所、そしてその特徴を見ると、植物の葉や枝を含む土に卵を産む種と砂に産卵する種の2つのわかれるそうです。現在の鳥の中にも、卵を温める抱卵の代わりに、土や砂の中に卵を埋めている事例はあるようです。抱卵する種の卵は、土と砂の両方から見つかっています。土の場合は、腐敗した植物が発酵する際に出す熱で卵を温めています。砂の場合は、太陽光や地熱で卵を温めています。面白いことに、温められた卵の配置は、サークルになっているのです。中心部が砂や土でその周りに卵が円の配列で並んでいるのです。これは、親の恐竜が卵の無い中心部にうずくまり腕や羽毛で日光の紫外線を遮り、雨から卵を守ったと説明さえています。6600万年前から、子を守る習性が芽生えていたことに驚きを感じました。
余談ですが、ロシアのシべリアで原始的な鳥類といわれる草食恐竜、ハドロサウルス類の化石が見つかっています。恐竜が栄えた6600万年前の白亜紀末期のシべリアは、涼しい気候でした。この当時のシべリアの夏の平均気温は19度と、恐竜には寒い気候だったのです。こんな涼しい土地で、恐竜はどうやって卵を温めたのだろうかと疑問をいだいた科学者がいました。どうやら、ハドロサウルス類は植物の発酵熱を利用した可能性が高いのです。この草食恐竜は発酵の熱を使って卵をかえしていたようです。別の種類の竜脚形類は、砂に産卵し太陽光や地熱で卵を出す熱で温めたと考えられています。恐竜達は、住んでいた土地の気候にあわせて卵の温め方を使い分けていたわけです。寒い地方に進出するにあたり、抱卵のスキル増やしながら、子孫を残していく知恵を持っていたのでしょうか。このようなハドロサウルス類のスキルと知恵が、寒冷のシベリアで子孫を繁栄させていった理由なのでしょう。別の見方をすると、寒い地方に適応することで恐竜の知能の発達を促したとも言えるかもしれません。母親は子どもを産むと学習能力が高くなるといわれますが、白亜紀の時代からこの能力があったとしたら驚きです。もっと驚くべきことは、この時代から親は子どもに対する利他性をもって、子どもを育てていたことがわかったことです。