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ラザナンドロンゴべ (メソエウクロコディリア、ノトスクス類)




(三畳紀ではなくジュラ紀の動物であるが、ワニつながりでここに入れておく。)

恐竜ファンでも知っている人は少ないかもしれないが、ミネラルフェアなどで恐竜の歯を探しているコレクターなら馴染みがあるはずである。私のミネラルフェア・ミネラルショー歴は15年くらいであるが、正体不明の歯化石としてよく見かけるものであった。獣脚類ともいわれるが、違うんじゃないか、と言われていた。結局ワニ類となった。

ラザナンドロンゴベ・サカラヴァエRazanandrongobe sakalavaeは、中期ジュラ紀バトニアンのマダガスカルから産する歯と上顎骨の断片のみの化石として2006年に記載された。特徴的な歯の形状から新属新種として命名されたが、断片的であるために分類学的位置を定めることはできなかった。その後、吻の部分の新たな化石が発見されたことで、多くの情報が得られ、研究が進展した。新たに追加された標本は、ほとんど完全な右の前上顎骨と、左の歯骨の前方部分、そしてホロタイプとは異なる上顎骨の一部である。これらの新しい標本は、2012年にトゥールーズ自然史博物館が個人コレクションから獲得した(寄贈?)とある。

前上顎骨の形から吻は丈が高く、幅広く、尖ってはいなかったことがわかる。前上顎骨には5本の歯があり、それらはほとんど垂直でわずかに内側に曲がっている。前方の歯は断面がU字形で、鋸歯のある稜縁が内側(舌側)にある。骨の外鼻孔は左右が癒合して1つになり、前方を向いている。また前上顎骨/上顎骨境界の側面には、バウルスクス類などにあるような下顎の犬歯状の大きな歯を受け入れる溝はない。歯骨の前方部分には歯のない先端部と8本の大きな歯骨歯があり、そのうち前方の歯(1-3)が最も大きいが、肥大した犬歯状caniniformの歯はない。下顎結合は3番目の歯の位置まで後方に延びている。夾板骨splenialは保存されていないが、歯骨側の関節面から少なくとも下顎結合の長さの20%に寄与していたと考えられた。

ラザナンドロンゴベの歯は非常に太く断面は円形に近い。歯冠には非常に大きな鋸歯があり、ティラノサウルスのような大型獣脚類の最大の鋸歯よりも大きいという。前方の歯は断面がU字形で稜縁が舌側にあり、側方の歯も稜縁が舌側にねじれているため非対称で、中央の断面はサリノン形salinon-shapedで基部は楕円形である。しばしば唇側舌側の幅が前後(近心遠心)の長さよりも大きい。つまりラザナンドロンゴベの歯は多くのジフォスキアやティラノサウルス類よりも肥厚している。

ラザナンドロンゴベの新しい標本は、以下の特徴から確かにワニ形類であり獣脚類ではないことを示している。1)外鼻孔が前方を向き、明らかに癒合していて正中面で左右を隔てる前上顎骨の鼻骨突起がない。2)下顎結合が獣脚類よりも頑丈で、前後に伸びている。3)メソエウクロコディリアと同様に、夾板骨が下顎結合に組み込まれており、下顎の腹内側部分として側面から見えている。4)多くのワニ形類と同様に、上顎骨の骨口蓋がよく発達している。5)歯槽と歯冠が唇側舌側に肥厚し膨張している。これはマダガスカルから知られているアベリサウルス類などの獣脚類とは全く異なる。実際にスピノサウルス類以外の獣脚類ではこのような円錐形の歯はみられないが、ワニ形類には普通にみられる。またスピノサウルス類の前上顎骨は、外鼻孔が後退しているなど多くの点でラザナンドロンゴベとは異なる。

ラザナンドロンゴベでは外鼻孔が前方を向いている。この形質は多くのワニ形類にみられる。バウルスクス科Baurusuchidaeでも外鼻孔が前方を向いているが、前上顎骨と鼻骨からなる中隔で仕切られている。セベクス科Sebecidaeでは外鼻孔は仕切られており、また背方を向いている。スファゲサウルス科Sphagesauridaeはラザナンドロンゴベと同様に、左右の外鼻孔が癒合し、前方を向いている。

まだまだ断片的ではあるが系統解析の結果、ラザナンドロンゴベは、ワニ形類、メソエウクロコディリア、ノトスクス類となった。知られる限り最古のノトスクス類であるという。ノトスクス類は主に白亜紀のゴンドワナ地域で繁栄した、植物食のキメラスクス、雑食のシモスクスから肉食のバウルスクスまで含む、非常に多様な陸生ワニ類のグループである。ノトスクス類の中でも、ラザナンドロンゴベはジフォスキアZiphosuchiaの中でセベコスキアSebecosuchia(セベクス科+バウルスクス科)と近い位置にきた。よってセベクスやバウルスクスのような肉食性の種類に近縁だが、それらのもつ犬歯状の大きな歯はないらしい。

ラザナンドロンゴベの頭骨は復元すると1m以上になり、バリナスクスよりもやや大きい最大のノトスクス類となった。これより大型のワニはサルコスクスやプルスサウルスなど、ずっと時代の新しい半水生の種類だけのようである。


参考文献
Dal Sasso et al. (2017), Razanandrongobe sakalavae, a gigantic mesoeucrocodylian from the Middle Jurassic of Madagascar, is the oldest known notosuchian. PeerJ 5:e3481; DOI 10.7717/peerj.3481
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