goo

ブイトレラプトル




大きい画像

ブイトレラプトルは、白亜紀後期セノマニアンからチューロニアン(Candeleros Formation)にアルゼンチンのリオ・ネグロ州Rio Negro Provinceに生息したドロマエオサウルス類で、2005年に記載された。ゴンドワナに分布したウネンラギア類の中では、最も標本が完全で、最も時代が古いものとされる。というより、Makovicky et al. (2005)によるブイトレラプトルの研究によって、ゴンドワナのドロマエオサウルス類が単系群と認識され、それがウネンラギア亜科 Unenlagiinae と命名された。
 ホロタイプには全身のかなりの部分の骨が含まれているが、多くの骨が部分的に失われている。フィールド博物館など海外には復元骨格があるようだが、日本に来たことはないと思われる。

Turner et al. (2012) によると、ブイトレラプトルは次の形質の組み合わせと固有形質により識別される小型のドロマエオサウルス類である。これらのほとんどはMakovicky et al. (2005) と同じである。頭骨が長く、大腿骨の長さよりも25%大きい;歯は小さく、鋸歯がなく、歯冠と歯根の間がくびれていない;方形骨には大きな側方フランジlateral flangeと含気孔がある;後方の頸椎の椎体に腹方外側の稜がある、などである。また他のドロマエオサウルス類と区別される形質として、maxillary fenestra が大きい;前頭骨の縁から後眼窩骨突起までが連続的に移行している(トロオドン類と共有);歯骨に深い歯槽下溝subalveolar groove がある(トロオドン類と共有)、などを追加している。

頭骨はある程度の骨が見つかっているものの、欠損部分が多いので全体の形は推定で復元されている。顔が非常に細長いのは確かで、トロオドン類を通り越して翼竜のような印象もある。一方、歯のついた上顎骨と歯骨は保存されているので、ブイトレラプトルの歯について研究した論文が出ている。

ブイトレラプトルの歯は頭骨のわりに小さく、歯冠の高さが0.6 から 4.6 mmである。歯は後方にカーブし、扁平で、先が非常に尖っている。歯槽に保存された歯も分離した歯も、大きさが異なるだけでみな同じ形をしている。左の歯骨に保存された歯の一つは歯槽の縁が欠けていて、それをみると歯冠と歯根の間が連続的でくびれていない。この点はトロオドン類などと異なる。すべての歯において歯冠の前縁も後縁も少し丸みを帯びていて、鋸歯も稜縁もない。
 歯冠の外側(唇側)と内側(舌側)は非常によく似ていて、曲がりがないので唇側と舌側を区別することは困難である。重要な特徴として唇側と舌側の両面に縦のくぼみdepressionがあるため、歯冠の断面が8の字形になっている。さらに、両面に平行に並んだ縦の溝と稜がある。これらの溝と稜は一定のパターンをもつものではなく、数も一定しない。たとえば2本の溝がある場合は稜、溝、稜、溝、稜と並んでいる。

ドロマエオサウルス類の歯の特徴は、より多くの種類が知られるローラシアのドロマエオサウルス類について研究されてきたが、ゴンドワナのウネンラギア類(ブイトレラプトルとアウストロラプトル)は、ローラシアのドロマエオサウルス類とはかなり異なった歯の形態を示すことがわかってきた。Gianechini et al. (2011) は、ウネンラギア類の歯の特徴として1)歯の数が多い、2)歯のサイズが小さい、3)鋸歯も稜縁もない、4)歯冠の表面に縦の溝grooveがある、を挙げている。
1)歯の数が多い:ローラシアのドロマエオサウルス類では下顎の歯骨に11 から16本の歯があるが、ブイトレラプトルでは約25本と推定されている。アウストロラプトルも、少なくとも25本と考えられている。また多くのドロマエオサウルス類は9 から15本の上顎骨歯をもつが、アウストロラプトルは24本である。このような多数の歯はトロオドン類やオルニトミモサウリアのペレカニミムスなどにもみられる。
2)歯のサイズが小さい:歯の相対的な大きさは、上顎骨の最も大きい歯と、上顎骨の丈の高さ(前眼窩窓の前縁の位置で)の比率で表される。この比率はローラシアのドロマエオサウルス類では0.25-0.40 であるが、ブイトレラプトルでは0.18 である。系統解析の結果からするとウネンラギア類の小さい歯は、ローラシアのドロマエオサウルス類にみられる大きい歯が縮小したものと考えられるという。より広くマニラプトル形類をみると、トロオドン類やアヴィアラエ類が0.20より小さく、またテリジノサウルス類エルリコサウルスやアルヴァレスサウルス類シュヴウイアも小さいことから、広く分布する収斂と考えられる。
3)鋸歯も稜縁もない:ローラシアのドロマエオサウルス類では一般に歯の前縁と後縁に鋸歯があるが、ウネンラギア類では前縁にも後縁にも全く鋸歯がない。この鋸歯の分布についてはちょっと複雑である。
 ドロマエオサウルスでは前縁にも後縁にも同じくらいの大きさの鋸歯がある。ヴェロキラプトルとデイノニクスでは、前縁の鋸歯が後縁の鋸歯よりずっと小さい。サウロルニトレステスも同様だが、この種では前縁の鋸歯があるものとないものがみられる。ミクロラプトルの前上顎骨歯と前方の歯骨歯には鋸歯がない。シノルニトサウルスでは、前上顎骨歯、最初の上顎骨歯、前方の歯骨歯には全く鋸歯がなく、その後方の一部の歯では後縁だけに鋸歯がある。ドロマエオサウルス類では、一部の歯で前縁の鋸歯を失っているのが基本で、その後二次的に前縁の鋸歯を回復してきたと考えられているらしい。(それでドロマエオサウルス亜科が派生的となるようである。)その中にあって、完全に鋸歯がないことはウネンラギア類の共有派生形質と考えられるという。
4)歯冠の表面に縦の溝grooveがある:ウネンラギア類の特徴の一つは歯冠に縦の溝があることである。この溝は、系統的には離れているがスピノサウルス類やケラトサウルスにみられるものと若干似ている。El Anfiteatroという場所で発見された分離した歯、Endemas-Pv 15はウネンラギア類と比較されるマニラプトル形類とされている。この歯は鋸歯がなく、強く後方に曲がっており、断面が8の字形であり、またエナメルのひだfoldがある点で、ブイトレラプトルと似ている。ただし大きさがブイトレラプトルよりずっと大きく、19 mm もあることから、別のウネンラギア類と考えられる。他にもドロマエオサウルス類の可能性がある歯で、溝や稜のあるものがモロッコ、スペイン、フランスなどから報告されているが、これらは鋸歯があるという。

Gianechini et al. (2011) は、縦の溝のある歯はスピノサウルス類、ノアサウルス類、モササウルス類、翼竜など、魚食性の四足動物にみられることは興味深いといっている。ブイトレラプトルもアウストロラプトルも、豊富な魚類化石を含む河川堆積物の近くで発見されていることから、魚食性の可能性があると述べている。このスコミムスか偽歯鳥類のような長い吻を、水面下に突っ込んで魚類などを捕食したのだろうか。

これほど特殊化した動物が、ドロマエオサウルス類の中で基盤的な位置にくる理由は何だろう。Makovicky et al. (2005) によると肩帯、腰帯、後肢などに系統上重要な形質があるようだ。烏口骨は直角に曲がっているが、これはシノルニトサウルスと似ている。上腕骨は肩甲骨よりも30%長いが、これは鳥類と遼寧省のドロマエオサウルス類(ミクロラプトル類)にしかみられない。腸骨には顕著なsupra-acetabular crestがあり、これはウネンラギアやラホナヴィスと同様である。座骨の閉鎖突起obturator processの形は、ラホナヴィス、ミクロラプトル、シノルニトサウルスと似ている。中足骨はアルクトメタターサルで、尾椎の前関節突起はあまり長くない。これらはドロマエオサウルス類としては原始的な形質ということかもしれない。


参考文献
Gianechini, F.A., Makovicky, P.J., and Apesteguia, S. (2011). The teeth of the unenlagiine theropod Buitreraptor from the Cretaceous of Patagonia, Argentina, and the unusual dentition of the Gondwanan dromaeosaurids. Acta Palaeontologica Polonica 56 (2): 279-290.

Makovicky, P.J., Apesteguia, S., and Agnolin, F.L. (2005). The earliest dromaeosaurid theropod from South America. Nature 437: 1007-1011.

Alan H. Turner, Peter J. Makovicky, and Mark A. Norell (2012) A Review of Dromaeosaurid Systematics and Paravian Phylogeny. Bulletin of the American Museum of Natural History, Number 371:1-206.
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« フクイベナトル 「恐竜博2016... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。