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イベリア半島のスピノサウルス類(2)ヴァリボナヴェナトリクスはどこがスピノサウルス類なのか


ヴァリボナヴェナトリクスVallibonavenatrix cani は、前期白亜紀バレミアン(Arcillas de Morella Formation)にスペインのバレンシア州カステリョン県Castellónに生息したスピノサウルス類で、2020年に記載された。西ヨーロッパの他のスピノサウルス類がすべてバリオニクス亜科とされるのに対して、ヴァリボナヴェナトリクスは系統解析の結果スピノサウルス亜科となったことから、スピノサウルス類の初期進化に関連して注目される種類である。しかしその後のスピノサウルス類の研究では必ずしもスピノサウルス亜科とはいえず、系統的位置は不安定であるという結果も報告されている。

ヴァリボナヴェナトリクスのホロタイプ標本は中軸骨格と腰帯で、頸椎、胴椎、ほとんど完全な仙椎、尾椎、部分的な肋骨、不完全な血道弓、腸骨、座骨、恥骨らしい断片からなる。要するに、頭骨も前肢も後肢も全くないので、全身復元はあきらめた方がよい。ネット上にはスピノサウルス亜科というところを強調してか、背中に高めの帆をつけた絵もある。しかしこのような断片的な標本で、外見に特徴が表現できるかのようなイラストを描くのはやや気が引ける。
 腰のあたりに帆をつけたイラストの根拠はおそらく、胴椎または仙椎の神経棘とされる2つの断片である。このうち1つは末端が広がった台形をしており、イクチオヴェナトルの神経棘に似ているという。仙椎の上に高い神経棘があった可能性があるというわけである。

系統解析の結果、スピノサウルス類は“スピノサウルス亜科”と“バリオニクス亜科”の2つに分かれ、ヴァリボナヴェナトリクスはスピノサウルス、イリタトル、イクチオヴェナトルとともにスピノサウルス亜科に含まれた。一方バリオニクス亜科にはバリオニクス、スコミムス、シギルマッササウルスが含まれた。
 ヴァリボナヴェナトリクスがスピノサウルス類と共有する形質は、最後部の頸椎と最前部の胴椎によく発達した腹側のキールがある、中央の胴椎の神経棘の基部に含気性がある、中央の胴椎にaccessory centrodiapophyseal lamina がある、である。
 ヴァリボナヴェナトリクスでは座骨と腸骨の関節面にpeg and socket 構造があり、この特徴はイクチオヴェナトルと共通しており、バリオニクス、スコミムスや多くの獣脚類にはみられない。イクチオヴェナトルと似ていることで、スピノサウルス亜科に近づいたのかもしれない。ただし、このpeg and socket 構造はカルカロドントサウルス類にもみられるという点がちょっと気がかりである。全体としては胴椎の形質が重要なようである。


参考文献
Malafaia, E. et al. A new spinosaurid theropod (Dinosauria: Megalosauroidea) from the upper Barremian of Vallibona, Spain: Implications for spinosaurid diversity in the Early Cretaceous of the Iberian Peninsula. Cretac. Res. 106, 104221 (2020).
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