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リンヘヴェナトル


(未完成)

リンヘヴェナトルは、白亜紀後期カンパニアン(Wulansuhai Formation)に中国内モンゴル自治区のBayan Mandahuに生息した前肢の短いトロオドン類で、2011年に記載された。
 ホロタイプLHV0021は一部が関節した部分骨格で、頭蓋、下顎、6個の前方と中央の胴椎、右の肩甲骨と右の上腕骨、不完全な左右の座骨、左大腿骨、ほとんど完全な左足、その他の断片的な骨からなる。化石の保存状態は良くなく、ひどく風化していて、頭骨の骨の表面には浸食による多数の溝や稜があり、胴体の骨の関節端も浸食されている。それでも白亜紀後期の進化したトロオドン類の骨格としては、よく保存されている方だという。
 神経弓と椎体の癒合から恐らく成体と考えられ、大腿骨の長さが240 mm、推定体重23 kgと、比較的大きなトロオドン類であるという。頭骨の長さは220 mmと推定され、これはサウロルニトイデスのホロタイプと同じくらいであるという。
全身の部分骨格なのでそれなりに情報が得られたと思われるが、頭骨は完全につぶれていて上顎や下顎の形態情報は得られない。それでも保存のよい足がアルクトメタターサルであることと、分離した歯があったことで、専門家にとってはやりやすい方かもしれない。


リンヘヴェナトルは、後肢の第II指の特殊化した形態から、明らかにデイノニコサウリアに属する。またリンヘヴェナトルはいくつかの共有派生形質に基づいて、トロオドン類に分類される。鼻骨と涙骨が吻の上でlateral shelfを形成する、涙骨の下行突起の上にlateral flangeがある、涙骨の前方突起が長くのびて前眼窩窓全体の背側縁をなす、中足骨が非対称で、第II中足骨が短く細く、第IV中足骨が太い、である。
 トロオドン類の中で、リンヘヴェナトルは完全にアルクトメタターサルな中足骨をもつことと、典型的なトロオドン類の歯(カーブした低い歯冠、基部がくびれている、鉤状の大きな鋸歯)をもつ点で、シノヴェナトルやメイのような基盤的な種類よりも派生的である。
 系統解析の結果、リンヘヴェナトル、トロオドン、ザナバザル、サウロルニトイデスが派生的なトロオドン類のクレードを形成した。リンヘヴェナトルがトロオドンと似ている点として、三角筋稜の縁にある稜や、比較的中足骨ががっしりしていることがあげられるという。


トロオドン類の中でも、リンヘヴェナトルとトロオドンでは後肢の第II指のカギ爪がドロマエオサウルス類とよく似て、大きく発達している。つまり指骨II-1にはわずかにヒールがあり、指骨II-2は高度に短縮して大きなヒールがあり、末節骨は他の指よりも顕著に大きくなっている。これらの形態は基盤的なトロオドン類よりもドロマエオサウルス類に近づいてきている。また恐らくそれと関連して、リンヘヴェナトルとトロオドンの中足骨は基盤的なトロオドン類よりも短く太くなっている。これらの特徴からドロマエオサウルス類と派生的なトロオドン類は、捕食のための高度に特殊化したカギ爪を独立して進化させたと思われる。

これまで知られているトロオドン類は、近縁のドロマエオサウルス類やアヴィアラエよりは短い前肢をもっているが、トロオドン類の前肢は獣脚類一般の中では特に短いわけではない(上腕骨/大腿骨の比が0.52 から 0.65)。リンヘヴェナトルの上腕骨/大腿骨の比は0.4で、獣脚類の中でもかなり短い。前肢の短いドロマエオサウルス類アウストロラプトルでは0.46、コンプソグナトゥスでは0.44、ティラノサウルスでは0.29、アウカサウルスでは0.35である。
 派生的なトロオドン類では上腕骨と大腿骨の両方が保存された標本はほとんどないので、他の派生的なトロオドン類の前肢がリンヘヴェナトルのように短かったかどうかはわからない。ただしトロオドンの断片的な前腕と手の化石には、それを示唆するものがあるという。もしかすると派生的なトロオドン類には、前肢が短くなる進化傾向があったのかもしれないが、それを検証するためにはもっと多くのトロオドン類の四肢の標本が必要である。
 リンヘヴェナトルの前肢が短いことは、捕食にあまり前肢を用いなかったことを示唆する。しかしリンヘヴェナトルの上腕骨は、短いががっしりしていて、三角筋稜などの筋付着部が大きく発達していることから、何らかの機能を果たしていたことは確かであるという。著者らは捕食のほか、穴を掘る、よじのぼるなどを挙げているが、リンヘヴェナトルが前肢をどのように使ったかはわからない。ちなみにアウストロラプトルでは上腕骨の大きさのわりに三角筋稜の発達は悪いという。


参考文献
Xu X, Tan Q, Sullivan C, Han F, Xiao D (2011) A Short-Armed Troodontid Dinosaur from the Upper Cretaceous of Inner Mongolia and Its Implications for Troodontid Evolution. PLoS ONE 6(9): e22916. doi:10.1371/journal.pone.0022916
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