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肉食の系譜
アダサウルスの特徴と系統的位置
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アダサウルスは、白亜紀後期カンパニア期ないしマーストリヒト期(ネメグト層)にモンゴルに生息したドロマエオサウルス類で、Barsbold (1983) によって記載された。ホロタイプIGM 100/20 には頭骨の後半部、脊椎、肩帯、腰帯、後肢の骨が含まれる。パラタイプIGM 100/21 は2個の尾椎と完全な足を含む右後肢からなる。Barsbold (1983)の記載は不十分で、特徴としては後肢の第2指のカギ爪が小さいことしか記述していなかった。またドロマエオサウルス類の中でのアダサウルスの系統的位置ははっきりしていなかった。
アダサウルスの標本は、日本人研究者の久保田克博博士の研究によって再検討された(Kubota and Barsbold, 2006; 2007)。これによりバヤンシレ層から発掘された第3、第4標本(IGM 100/22, IGM 100/23)はアダサウルスではなく、新種のドロマエオサウルス類と考えられた。
Kubota and Barsbold (2006) は、肩甲烏口骨が癒合している点と遠位の足根骨が中足骨と癒合している点で、アダサウルスがヴェロキラプトルと似ていることを見いだした。また他のドロマエオサウルス類と識別できるアダサウルスの特徴として、前頭骨の正中線上に低い稜があること、大きな上角骨孔、腸骨の前寛骨臼突起の前縁に切れ込みがあるnotchedこと、足の第2指のカギ爪が縮小していることを挙げている。ただしこれらの研究はSVPのアブストラクト(学会発表要旨)があるのみで論文にはなっていない。
その後前述のTurner et al. (2012) は、大規模なドロマエオサウルス類の系統研究の中で、アダサウルスのホロタイプ標本を自分で詳細に観察し、多数の新しい形質データをとっている。
Turner et al. (2012) によると、アダサウルスは以下の形質の組み合わせと固有形質により識別される中型のドロマエオサウルス類である。頬骨の上顎骨突起が上下に拡がっている;涙骨の下方突起(腹側突起)が強く前方に曲がっている;大きな上角骨孔;方形骨の側面にある三角形の突起が背方にずれている;前方の仙椎だけにプレウロシール(側腔)がある;腸骨の前寛骨臼突起の前縁に切れ込みがある;足の第2指のカギ爪が縮小している。
ホロタイプの頭骨は、前半部分、つまり吻部が欠けている。また右側はよく保存されているが、左側は保存がよくない。方形頬骨あたりが欠けているので、方形骨がよく見えている。他のドロマエオサウルス類と同様に、方形骨の側面に大きな三角形の突起がある。この三角形の突起が、他のドロマエオサウルス類では中央あたりにあるが、アダサウルスでは背方にずれているという。涙骨の下方突起が強く前方にカーブしているのは、アダサウルスとアウストロラプトルだけに見られる特徴であるという。Kubota and Barsbold (2006)の挙げた前頭骨の低い稜については、Turner et al. (2012) は、前頭骨の後方部分はプレパレーションが不完全で薄い母岩の層で覆われているため確認できないといっている。
方形骨や下顎の孔は生体復元では見えないので、ヴェロキラプトルやツァーガンと描き分けるのであれば、涙骨のカーブが表現しやすいのではないだろうか。(それも普通には見えないが、色を付けたりして)
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アダサウルスの足の第2指のカギ爪は、他の指のカギ爪と同じくらい小さくなっている。「それでもドロマエオかよ」とトロオドンに突っ込まれそうなレベルである。もはや持ち上げなくてもいいような。。。
少し古い恐竜本には、ドロマエオサウルス亜科とヴェロキラプトル亜科の鋸歯の違いが説明してある。Currie (1995) によると、ヴェロキラプトル亜科の特徴は、上顎骨歯と歯骨歯の前縁の鋸歯が後縁の鋸歯よりも顕著に小さいこと、前上顎骨の2番目の歯が3番目と4番目の歯よりも顕著に大きいこと、であった。これはヴェロキラプトルの頭骨を思い浮かべれば比較的わかりやすいと思える。
しかし2001から2003年ごろの系統解析では、ドロマエオサウルス科の内部の系統関係についてほとんどコンセンサスが得られなかった。よってヴェロキラプトル亜科が本当に単系群であるのか、よくわからなかった。その後、Novas and Pol (2005) など、2005から2007年ごろの系統解析によって、ヴェロキラプトル亜科がクレードとして見いだされた。これにはヴェロキラプトル、デイノニクス、ツァーガンが含まれていた。しかしサウロルニトレステスの位置ははっきりせず、ヴェロキラプトル亜科に含まれたり含まれなかったりした。また、このころはアダサウルスはドロマエオサウルス亜科に含まれていた。
Turner et al. (2012) の大規模な系統解析では、ドロマエオサウルス科の中にウネンラギア亜科、ミクロラプトル亜科、ドロマエオサウルス亜科、ヴェロキラプトル亜科に相当するクレードが見いだされた。彼らはアダサウルスの標本を再検討した結果、102箇所もの形質状態を変更した。これによって、アダサウルスは従来のドロマエオサウルス亜科ではなく、ヴェロキラプトル亜科に分類し直された。
Turner et al. (2012) によると、ヴェロキラプトル亜科にはバンビラプトル、ツァーガン、サウロルニトレステス、デイノニクス、ヴェロキラプトル、アダサウルス、バラウルが含まれた。最後の4種は一つのクレードをなしている。
ではアダサウルスのどこがヴェロキラプトル亜科なのかというと、素人にわかりやすいものではないようだ。ヴェロキラプトル亜科は3つの共有派生形質で支持される。基底蝶形骨の後方の開口部が2つの小さな孔に分かれている、dorsal tympanic recessが深く後側方を向いた凹みである、すべての胴椎にプレウロシールがある、ということである。
デイノニクス、ヴェロキラプトル、アダサウルス、バラウルのクレードの共有派生形質は、第 IV 中足骨の骨幹の断面が幅広く扁平であることであるという。
バラウルを除くと、ヴェロキラプトルとアダサウルスは姉妹群をなした。肩甲烏口骨が癒合していること、遠位の足根骨が中足骨と癒合していること、距骨と踵骨が互いに癒合しているが脛骨とは癒合していないこと、の3つの形質で支持されるという。ただし、これらはいずれも骨同士の癒合に関する形質で、成長段階と関連している可能性もある。そこを明らかにするためには、アダサウルスの追加の標本も含めて更なる研究が必要であるという。
参考文献
Kubota, K., and R. Barsbold. (2006) Reexamination of Adasaurus mongoliensis (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous Nemegt Formation of Mongolia. Journal of Vertebrate Paleontology 26 (suppl. to 3): 88A.
Alan H. Turner, Peter J. Makovicky, and Mark A. Norell (2012) A Review of Dromaeosaurid Systematics and Paravian Phylogeny. Bulletin of the American Museum of Natural History, Number 371:1-206.
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