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マシアカサウルスの成長速度




アベリサウロイド(アベリサウルス上科のメンバー)は白亜紀後期のゴンドワナ地域で優勢な捕食者であり多様なグループであるが、多くの種類は化石が不完全なため、詳しい研究が進んでいない。アベリサウルス上科には大型のアベリサウルス科と小型のノアサウルス科が含まれるが、例えばノアサウルス類がどのように小型化したかなどの進化傾向についてもよくわかっていない。
 マダガスカルのMaevarano Formationから発見されたマシアカサウルスは、最もよく保存されたノアサウルス類であり、これまでに大きさの異なる複数の個体の分離した骨が多数見つかっている。これは骨の成長過程の研究に適している。そこで、Lee and O’Connor (2013) は大きさの異なる4本の大腿骨と3本の脛骨を選んで、骨幹中央部の切片を作成し、明視野および偏光光学顕微鏡で組織像を観察した。また個々の標本で成長線の周長を測定し、数理モデルを用いて成長曲線を再構築した。

他の多くの脊椎動物と同様に、マシアカサウルスも限定的成長determinate growthを示している。最も大きい脛骨(UA8685)の切片をみると、外側にexternal fundamental system (EFS) が保存されている。EFSは極端に緩慢な成長しかしない骨組織であり、骨の成長が完了したことを示す組織学的指標とみなされている。EFSの中に2本の成長線LAGがあるので、この個体は体の成長が止まってから少なくとも2年は生存していたことになるという。このことからマシアカサウルスは、(大型の獣脚類の幼体などではなく)比較的小型の状態で成長が止まっていた、小型の獣脚類であることが確認された。

偏光顕微鏡で見ると、マシアカサウルスの大腿骨と脛骨には、平行繊維骨parallel-fibered boneが多くみられる。現生の動物では平行繊維骨parallel-fibered boneは成長が遅い傾向がある。このことから、マシアカサウルスは成長過程を通じてゆっくり成長したと考えられる。成長線LAGの測定と成長曲線の解析から、平均的な個体は、大型犬と同じくらいの大きさに成長するのに8~10年かかったと考えられた。成長速度が最も高いのは3~4才であるが、この時期でさえ大腿骨と脛骨の骨幹中央の周長は1年に約7 mmしか増加していない。

著者らは以前、ワニ(ミシシッピアリゲーター)の骨について研究したことがあるので、今回8個体のアリゲーターの大腿骨の切片について、比較のためマシアカサウルスと同じ手法で解析してみた。その結果、アリゲーターはマシアカサウルスよりも40%遅く成長したことが示唆された。つまりマシアカサウルスの成長は、現生のワニよりは速かった。

しかし、マシアカサウルスの成長速度は、同じような大きさの他の獣脚類とは非常に異なっている。コエロフィシス、リムサウルス、コンコラプトル、ビロノサウルス、ヴェロキラプトルの長骨の組織は、主に繊維層板骨fibrolamellar boneからなっている。繊維層板骨fibrolamellar boneは一般に、平行繊維骨parallel-fibered boneよりも速く形成される骨組織である。さらにコエロフィシスとリムサウルスの成長の予備的な解析からは、最も大きな個体は4~6才であったことがわかっている。コンコラプトル、ビロノサウルス、ヴェロキラプトルについてはデータがないが、組織学的類似性から同じくらいと予想される。もしそうならば、マシアカサウルスの成長速度はこれらの小型獣脚類と比べて約40%遅かったことになる。

この大きな違いの理由は不明であるが、系統学的要因や生態学的要因が考えられる。Maevarano Formationの古生態学的研究からは、この地域が季節によって変動する、半乾燥気候であったとされている。少なくとも乾期には生物資源が不足するような厳しい環境に対する適応として、体の維持コストを下げるために低い成長速度が進化したのかもしれない、としている。


参考文献
Andrew H. Lee & Patrick M. O’Connor (2013) Bone histology confirms determinate growth and small body size in the noasaurid theropod Masiakasaurus knopfleri. Journal of Vertebrate Paleontology, 33:4, 865-876.
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