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肉食の系譜
スコルピオヴェナトル
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スコルピオヴェナトルは、白亜紀後期セノマン期からチューロン期にアルゼンチン・パタゴニアのネウケン州に生息したアベリサウルス類である。化石が発見されたウインクル層Huincul formationからは、他にカルカロドントサウルス類のマプサウルスや同じアベリサウルス類のイロケレシアも見つかっている。スコルピオヴェナトルの化石は、尾の先端などを除いてほとんど全身の骨格が保存されている。
他のアベリサウルス類と異なるスコルピオヴェナトルの固有の特徴は、(1)上顎骨の上方突起の前後の幅が一定である、(2)上顎骨の水平突起は丈が高く、背側縁と腹側縁がほぼ平行である、(3)上顎骨と頬骨の関節面が垂直である、(4)上顎骨に19本の歯をもつ、(5)涙骨(の腹側突起)は前方に突出し、よく発達した下眼窩突起をもつ、(6) 方形頬骨に顕著な後方の切れ込みnotchがある、(7) 歯骨の後腹側突起が2つに分岐して角骨の前端と結合している、 (8)角骨の前端は丈が高く、板状骨と前関節骨の間にはまる、であるという。(8)は内側の構造に関することだろうが図示されていないのでよくわからない。
頭蓋は、アベリサウルス類に典型的な稜や溝、結節で装飾されている。スコルピオヴェナトルの頭蓋はカルノタウルスと同様に前後に短く、アベリサウルスやマジュンガサウルスよりも短く丈が高い。特にスコルピオヴェナトルの上顎骨と涙骨は、他のアベリサウルス類よりも幅広い。涙骨は強くS字状で下眼窩突起は腹側に位置している。涙骨には鼻骨と結合する前方突起がよく発達しているが、これは他のアベリサウルス類にはみられない原始的な形質である。後眼窩骨の下眼窩突起は、ほとんど涙骨と接しそうになっている。後眼窩骨の背側縁は、エクリクシナトサウルスEkrixinatosaurusと同様に強く膨らみ装飾されており、イロケレシアの棚状の形態とは異なる。方形骨の形もイロケレシアとは異なっている。下顎の下顎窓mandibular fenestraは他のアベリサウルス類よりも小さい。
上顎骨の歯は19本あり、これは他のアベリサウルス類よりも多い。歯冠の全体的な形は他のアベリサウルス類と同様である。鋸歯に隣接してアーチ形のエナメルのしわがあり、カルカロドントサウルス類の歯と似ている。
頸椎には肥大したエピポフィシスがあるが、エピポフィシスにはカルノタウルス、ノアサウルス、アウカサウルスにみられる前方突起cranial processはない。尾椎にはアベリサウルス類に特徴的な、先端の広がった扇形の横突起がある。カルノタウルスとアウカサウルスでは横突起は斜め上方を向いているが、スコルピオヴェナトルでは横突起が水平に突き出している。
系統解析の結果、新しく南米のアベリサウルス類のグループとしてブラキロストラBrachyrostraを命名している。ブラキロストラBrachyrostraにはカルノタウルス、アウカサウルス、イロケレシア、エクリクシナトサウルス、スコルピオヴェナトルが含まれ、これらの種類には著しく装飾された、短い頭蓋や眼窩が周囲の骨で取り囲まれる傾向がみられるという。
アベリサウルス類の頭部にある角状の突起は、それぞれ位置や構成する骨が異なる。マジュンガサウルスでは前頭骨の1本の突起、カルノタウルスでは前頭骨の2本の角であるが、エクリクシナトサウルスとスコルピオヴェナトルでは後眼窩骨が背方に膨らんでいる。このことから、これらの角状の突起は相同ではなく、独立に生じたものと考えられる。
頭骨はカルノタウルスと同様で、マジュンガサウルスより短いということは、アウカサウルスよりも短いのだろうか。全部並べてみないとよくわからない気がする。アウカサウルスに続いて保存の良い全身骨格の発見であるが、どちらも詳細な記載はこれからのようで、今回の報告ではアウカサウルスとの比較が少ない。今後、研究が進むにつれてアベリサウルス類の形態について多くの知見が得られるのだろう。
参考文献
Canale, J. I., Scanferla, C. A., Agnolin, F. L., and Novas, F. E. (2009) New carnivorous dinosaur from the Late Cretaceous of NW Patagonia and the evolution of abelisaurid theropods. Naturwissenschaften 96, 409-414.
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