クリプトプス１

クリプトプスは、白亜紀前期アプト期からオーブ期に、ニジェールに生息した原始的なアベリサウルス類で、2008年に記載された。同時代の動物相にはスコミムスやニジェールサウルス、一緒に記載されたカルカロドントサウルス類エオカルカリアが含まれる。クリプトプスの化石は、上顎骨、保存のよい腰帯と仙骨、わずかな胴椎と肋骨のみが発見されている。上顎骨は他の骨から15 m離れた地点から見つかっているが同一個体と考えられており、全長6-7 mと推定されている。

　他のアベリサウルス類と異なるクリプトプスの固有の形質は、上顎骨の二次的な壁が前眼窩窩を覆い隠すように発達しており、その縁は波型で縦溝があることと、上顎骨表面の文様が短い線状の溝からなることであるという。

　上顎骨の表面には他のアベリサウルス類と同様に文様があるが、クリプトプスでは小さい孔や様々な方向を向いた短い線状の血管溝からなり、他のアベリサウルス類ほど発達していない。腹側の神経血管孔の列は腹側縁（歯槽のある縁）のすぐ上方にある。上顎骨は内側に曲がっていて、前上顎骨との関節面は４５°の斜面になっている。これはクリプトプスの吻が他のアベリサウルス類と同様に幅広かったことを示す。他の多くの獣脚類では、前上顎骨との関節面はもっと前方を向いている。
　他のアベリサウルス類と同様に鼻骨との関節面が側方から見えているが、クリプトプスではこの鼻骨との関節面が細長く、腹側で先細りになっている。より派生的な他のアベリサウルス類では鼻骨との関節面が腹側端で幅広くなっている。上顎骨の後方突起の近位部では、他のアベリサウルス類と同様に背側縁と腹側縁が平行に近い。後方突起の遠位部（後端）は欠けている。
　上顎骨を内側からみると、前眼窩窩の前縁に卵形の窪みの跡がある。他のアベリサウルス類にも同様の構造があり、promaxillary fenestraとされている。（アベリサウルス類にはmaxillary fenestraはない。）
　腹側縁には１１個の歯槽が保存されており、他のアベリサウルス類たとえばルゴプスと比較すると、全部で１７か１８個の歯槽があったと考えられる。萌出した歯はすべて折れているが、成長中の歯を観察すると歯冠は比較的扁平で、前縁と後縁の鋸歯が同時にみえるが、後縁の鋸歯がより顕著である。折れた歯の断面をみると、基部の長さと幅の比率は他のアベリサウルス類と同様であるという。

　仙椎以外の脊椎骨は、不完全な前方の胴椎が１個と、中央の胴椎が２個しかみつかっていないが、他のアベリサウルス類と比べて原始的な特徴を示すことがわかるという。例えばカルノタウルスやマジュンガサウルスのような派生的なアベリサウルス類では胴椎の神経棘突起が短い（丈が低い）が、クリプトプスでは神経棘突起がかなり細長い。一般の獣脚類と比べてもやや長いようにみえるが、シンラプトルくらいだろうか。
　腰帯は、ひとかたまりに完全に結合した状態で発見されたが、これはそれぞれの骨が（縫合線は残っているが）互いに癒合しているためと考えられた。ケラトサウリアの成体では腸骨、恥骨、座骨が互いに癒合する傾向がある。腰帯の骨にも多くの原始的な特徴がみられるという。クリプトプスでは腸骨のpreacetabular process が、postacetabular processの２倍以上丈が高い。またpreacetabular processの前縁がほとんど垂直になっている。カルノタウルスやマジュンガサウルスのような派生的なアベリサウルス類では、preacetabular process はpostacetabular processより少し丈が高い程度であり、preacetabular processの前縁は４５°傾いている。

　見つかっている部分は断片的なので、正確な復元は無理である。Project Explorationのトッド・マーシャルの復元図では、顔の大部分が角質で覆われていたという推測に基づいて、涙骨や後眼窩骨の部分を強調しているが、それが特徴ではない。正確な顔の長さもわからないし、他のアベリサウルス類にはないような独特の角があったかもしれない。前肢も、一般の獣脚類のような普通の前肢だったかもしれないし、カルノタウルスなどとは違った退化のしかたをしていたかもしれない。

参考文献
Sereno, P.C. and Brusatte, S.L. 2008. Basal abelisaurid and carcharodontosaurid theropods from the Lower Cretaceous Elrhaz Formation of Niger. Acta Palaeontologica Polonica 53 (1): 15-46.