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肉食の系譜
リンヘラプトル
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リンヘラプトルは、白亜紀後期カンパニア期 (Wulansuhai Formation) に中国内モンゴルのバヤン・マンダフBayan Mandahuに生息したドロマエオサウルス類で、2010年に記載された。非常に保存の良い、完全に近い全身骨格が関節状態で見つかっている。ドロマエオサウルス科の中ではツァーガンと最も近縁で、この2種が姉妹群をなすと考えられている。
他のドロマエオサウルス類と区別できるリンヘラプトルの固有形質は、上顎骨のmaxillary fenestraが外鼻孔とほぼ同じ大きさにまで拡大していること、頬骨の外側面にいくつかの大きな孔があることである。
またリンヘラプトルは、ツァーガン以外の他のドロマエオサウルス類とは以下の特徴で区別される。maxillary fenestra (mf)が大きく前方に位置している、涙骨(l)に側方フランジlateral flangeがなく、また比較的幅広い内側板medial laminaがある、方形頬骨(qj)の前方突起と上方突起の間の角度が狭い、頬骨(j)と鱗状骨(sq)が接して下側頭窓(itf)から後眼窩骨(po)を排除している、である。
リンヘラプトルはツァーガンとは、前眼窩窓の一部を遮る骨性の内壁がない、前眼窩窩の腹側縁にくっきりした縁がある、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度が小さい、などの特徴で異なっている。
リンヘラプトルの模式標本は、脊椎骨の神経椎体縫合が完全に閉じていることや脛足根骨の癒合から成体と考えられ、全長1.8 mと推定されたが、これは他のアジア産ドロマエオサウルス類とほぼ同様の大きさである。リンヘラプトルの頭骨はツァーガンよりも丈が低い(細長い)。しかしヴェロキラプトルのいくつかの標本にみられるように、頭骨のプロポーションは保存状態によってかなりの変異があるので、注意が必要であるという。
ドロマエオサウルス科の中でもリンヘラプトルとツァーガンの共有派生形質と思われる特徴は、大きなmaxillary fenestraが前方にあり、前眼窩窩の前縁に達していることである。ヴェロキラプトルを含めて他のドロマエオサウルス類では、maxillary fenestraは前眼窩窩の前縁よりもかなり後方にある。ただし、ツァーガンのmaxillary fenestraは比較的丸いのに対して、リンヘラプトルのmaxillary fenestraはより細長くスリット状である。ツァーガンとは異なり、小さなpromaxillary fenestraが側面から見えていてmaxillary fenestraの腹側に位置している。2種のヴェロキラプトルでは、promaxillary fenestraはより大きくもっと背側に位置している。ヴェロキラプトルともツァーガンとも異なり、リンヘラプトルでは前眼窩窩の腹側縁が鋭い縁を形成している。多くの獣脚類と同様にリンヘラプトルの前眼窩窓は全面的に空いている。ヴェロキラプトルとツァーガンでは、前眼窩窓の前方部分に小さな骨性の内壁がある。
T字形の涙骨はツァーガンと同様に、下方突起を覆う側方フランジlateral flangeがなく、また比較的幅広い内側板medial laminaをもつ。がっしりした頬骨の側面に、数個の比較的大きな孔がある。ツァーガンとのみ共有する特徴として、頬骨の後眼窩骨突起が鱗状骨と接して、下側頭窓から後眼窩骨を排除している。リンヘラプトルでは、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度は90度よりやや大きいくらいであるが、ツァーガンでは約135である。ツァーガンと同様に、方形頬骨の前方突起と上方突起の間の角度は90度より小さい。方形頬骨は方形骨孔quadrate foramenの前方及び側方の縁をなすが、この方形骨孔が非常に大きく発達する点ではリンヘラプトルはヴェロキラプトルと似ている。
ところが、最近になって雲行きが怪しくなってきた。2012年にアメリカ自然史博物館から、ドロマエオサウルス類の系統分類についての包括的な総説(Turner et al. 2012)が出版されたが、この中でリンヘラプトルは有効な種として認められていないのである。
Turner et al. (2012) によると、リンヘラプトルはツァーガンの異名に過ぎないという。
前述のようにリンヘラプトルの記載論文(Xu et al. 2010)では、リンヘラプトルとツァーガンが共有する4つの形質を挙げており、ツァーガンとは異なる形質(11個)がリンヘラプトルの特徴となっている。Turner et al. (2012) は、これらの特徴を一つ一つ検討した上で、別の種類とするほどの違いは認められない、と結論している。
Xu et al. (2010) は、ツァーガンでは前眼窩窓の前方部分に骨の内壁があるがリンヘラプトルにはないとしている。しかしリンヘラプトルの頭骨は、この骨の内壁があるかないかを論じるほど十分には剖出されておらず、CTスキャンもされていない。よって結論できないという。
Xu et al. (2010) は、ツァーガンよりもリンヘラプトルの方が前眼窩窩の腹側縁が鋭い縁をなしてくっきりしていると述べている。しかしTurner et al. (2012)が実際に両方の標本を観察した結果、前眼窩窩の腹側縁の形状にはほとんど違いはなかった。
Xu et al. (2010) によると、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度がリンヘラプトルでは約90度で、ツァーガン(約135度)よりも小さいという。しかしTurner et al. (2012)が測定した結果、リンヘラプトルでは95度で、ツァーガンでは100度であった。これは実は前頭骨突起と頬骨突起の間の角度というよりも、後眼窩骨の前縁の凹み方の問題である。またこの程度の違いは、ヴェロキラプトルの個体間にみられる変異の範囲内である。よってこの特徴は分類基準には不適当であるという。
またリンヘラプトルとツァーガンで鱗状骨の方形頬骨突起quadratojugal process of the squamosal や方形骨の側方フランジlateral flange of the quadrateの大きさが異なるとされたことについても、頭骨を同じ大きさに合わせて標準化してみるとリンヘラプトルとツァーガンの間で差はないという。
ツァーガンでは方形骨がより後方に傾いている、リンヘラプトルの方が耳後頭突起paroccipital processesがより側方を向いているといった違いについては、これらはツァーガンの模式標本の方が縦につぶれているという保存状態によるアーティファクトであり、実際の形質ではないと指摘している。
Xu et al. (2010) によると、リンヘラプトルでは軸椎に含気孔があるが、ツァーガンにはない。しかしドロマエオサウルス類の脊椎骨の含気性には変異があり、ヴェロキラプトルでは標本によって軸椎や胴椎に含気孔があるものとないものがある。よって新しい種類とする根拠にはならない。
以上のような考察からTurner et al. (2012)は、リンヘラプトルは有効な分類名ではなく、ツァーガンと同じ種であると結論している。
それにしても、アメリカ自然史博物館のNorell博士は最初のリンヘラプトルの論文(Xu et al. 2010)にも共著で名前が入っているのであるが(このときはツァーガンの標本を貸しただけなのかもしれないが)、2年で見解が変わったということになる。Turner et al. (2012) では31種のドロマエオサウルス類を再検討した結果、26種が有効と認められた。ミクロラプトル・グイがなくなるなど、結構、目が離せない状況である。
参考文献
XING XU, JONAH N. CHOINIERE, MICHAEL PITTMAN, QINGWEI TAN, DONG XIAO, ZHIQUAN LI, LIN TAN, JAMES M. CLARK, MARK A. NORELL, DAVID W. E. HONE and CORWIN SULLIVAN (2010) A new dromaeosaurid (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous Wulansuhai Formation of Inner Mongolia, China. Zootaxa 2403: 1-9.
Alan H. Turner, Peter J. Makovicky, and Mark A. Norell (2012) A Review of Dromaeosaurid Systematics and Paravian Phylogeny. Bulletin of the American Museum of Natural History, Number 371:1-206.
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ティアンユーラプトル
ティアンユーラプトルは、白亜紀前期に中国遼寧省に生息した中型のドロマエオサウルス類で、2009年に記載された。遼寧省の熱河層群からは、これまでに5種類のドロマエオサウルス類(シノルニトサウルス2種、ミクロラプトル2種、グラキリラプトル)が見つかっていた。ティアンユーラプトルは6番目のドロマエオサウルス類であるが、他の遼寧省のドロマエオサウルス類(ミクロラプトル類)とは異なり、前肢が短く、叉骨も小さい。
他のドロマエオサウルス類と異なる固有の形質は、中央の尾椎の長さが胴椎の長さの2倍以上ある、小さく極度に細い叉骨、後肢が長く胴椎の約3倍の長さ、であるという。
系統解析の結果、ティアンユーラプトルはローラシアのドロマエオサウルス類の基盤的なメンバーと位置づけられた。ティアンユーラプトルは、他のローラシアのドロマエオサウルス類にはみられず、ゴンドワナのドロマエオサウルス類にみられる特徴も持っている。たとえば顕著に長い腸骨の前寛骨臼突起preacetabular processなどである。
これまで知られている遼寧省のドロマエオサウルス類はいくつかの形態学的特徴を共有するので、単系のミクロラプトル類Microraptorinaeをなすとされる。ティアンユーラプトルは、ミクロラプトル類の特徴のうちいくつか(上顎骨の外側面に小孔がある、前肢の指骨-2が顕著に短縮している、恥骨結合の先端がスプーン状spatulate)を示すが、他の多くの特徴(烏口骨の大きな卵円型の孔、前肢の末端の一つ手前の指骨が短い、恥骨の中程に側方突起lateral projectionがあるなど)は示さない。このことから、ティアンユーラプトルは最も基盤的なミクロラプトル類、つまりミクロラプトル類の祖先に近いものとも考えられる。あるいは、他のすべてのローラシアのドロマエオサウルス類を含むグループの基盤的メンバーかもしれない。
ティアンユーラプトルは、後肢の下肢(ひざ下)が比較的長いという点では他のドロマエオサウルス類よりも遼寧省のミクロラプトル類と似ている。脛足根骨/大腿骨の比率は、ティアンユーラプトルとミクロラプトル類では1.30以上であるが、ティアンユーラプトルとほぼ同じ大きさのヴェロキラプトルでは1.10である。ところが前肢の長さについては、ティアンユーラプトルは遼寧省のミクロラプトル類とは全く異なっている。前肢/後肢の比率は、ティアンユーラプトルでは0.53であるが、ミクロラプトル類では0.80以上である。また、ヴェロキラプトルでは0.75である。
ミクロラプトル類は、長い前肢と非対称の羽毛をもつことから滑空など何らかの航空力学的能力をもっていたと考えられている。前肢の短いティアンユーラプトルにはそのような能力はなかったと思われるが、そのことは烏口骨が幅広いことや叉骨が小さいことからも支持される。ドロマエオサウルス類における前肢の著しい縮小は、もっとずっと大型の南米のアウストロラプトルでも独立して生じたと考えられる。
参考文献
Xiaoting Zheng, Xing Xu, Hailu You, Qi Zhao and Zhiming Dong (2010) A short-armed dromaeosaurid from the Jehol Group of China with implications for early dromaeosaurid evolution. Proc. R. Soc. B 277, 211-217.
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シノルニトサウルス1
肩帯の構造が始祖鳥に似ており、肩甲骨と烏口骨が90度以下の角度をなし、またほとんど肩甲骨によって形成される肩の関節面が側方を向いているので、鳥が羽ばたくように前肢を上下に動かすことができるようになっている。ただし飛翔ができたわけではないので、自由度が大きくなった前肢を捕食に役立てたか、あるいは斜面走行説のように樹に駆け上る助けにしたのであろうか。
他のドロマエオサウルス類と異なるシノルニトサウルスの特徴は、前眼窩窩(antorbital fossa)の前方部分に装飾のような多数の孔があいていること、歯骨の後端が分岐していること、前上顎歯に鋸歯がないこと、烏口骨にsupracoracoid fenestraという穴があること、手の第3指の第一指骨の長さが第二指骨の長さの2倍以上あること、などである。ドロマエオサウルス科の中では吻が細長いが、歯はそれなりに大きく鋭い。後肢のカギ爪も大きい方らしいので、小型ながら獰猛な捕食者という印象がある。
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ドロマエオサウルス1
復元頭骨をみるとドロマエオサウルスの顔は、ベロキラプトルほど細長くはなく、デイノニクスのように三角でもなく、やや短かめで角張った感じである。
この絵は資料をみなかったため多少ずんぐりしたが、ようやく羽毛恐竜の登場である。ここでは、地上性のハンターの道を選んだため、樹上性の祖先で発達しかけた風切羽は退化し、保温のための羽毛だけで覆われていたという設定である。また、派手なディスプレイ用の飾り羽などは狩りの邪魔になるような気がする。
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