アニメにはまったく不案内だが、仇分の街を歩いていると観光客の団体を引き連れた現地ガイドが、ここは宮崎駿監督のアニメ「千と千尋の神隠し」のモデルとなった場所と説明している。
宮崎監督自身はそうとは明かしていないものの、いまや仇分は観光地化し、軒先にぶら下げられたちょうちんに灯りが灯るころは狭い坂道に人があふれ、立ち止まって写真を撮るから身動きできない状況となる。
アニメの影響のすさまじさを、まざまざと見せつけられた感じだ。
もともとは、9軒しか民家がなかったさびしい山村地帯。1893年に基隆河の鉄道橋工事の時に渓流から砂金が発見され、ゴールドラッシュに。
数十年は金鉱の街としてにぎわったものの、採掘量の減少とともに衰退。1971年には完全に閉山となった。
1989年に映画「非常城市」のロケ地となって再び注目をあび、そして「千と千尋の神隠し」。
時の流れが止まった廃れた山村にまた、当時にもましての賑わいが戻った。
日本人と日本文化の良き一面を認めてくれた台湾の人々。自分たちのアイデンティティを守ろうとして次の支配者によって踏みにじられたその悲しみを描いた映画「非常城市」は、そっくりそのまま「千と千尋の神隠し」の少女の成長物語と深いところでつながって、それが台湾の人々の心の奥深くに響くものとなっているのかもしれない。