tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

忘れ雪(だいぶ前の出来事のように)

2007-04-05 20:21:39 | プチ放浪 山道編
空中に浮かんだヘリが前傾したと思ったら、凄いスピードで飛行を始めた。あいにく雪の天候だったが、飛行中の機内から見える景色は最高だった。機体がバンクしたり座席に押し付けられるような加速感を感じたりで、わずかな時間にもかかわらずヘリでの飛行を嫌と言うほど堪能することができた。飛行途中、眼下に白根湯釜が見えた。白い雪の山々の中にエメラルドグリーンの美しい火口湖が浮かびあがっていた。ゆっくり景色を眺める暇もなく、渋峠ロッジの横にヘリコプターは着陸した。山小屋らしい情緒のある木作りの洒落たロッジだ。到着した渋峠は、あまり周囲に視界を遮るものがないため峠と言うより山の頂上の様な感じを受ける。近くの県境にある横手山2305m以外、峠より格段に高い山が存在しない。広々とした峠だった。ぼくらは、ヘリを降りたところで後続の4人を待った。すぐに引き返したヘリで、後続のイズミさん達はやってきた。どの顔にもプチ冒険を楽しんで満足した笑顔が浮かんでいる。聞いてみたら、全員がヘリコプターへの搭乗ははじめての体験だったのだ。
渋峠からリフト1本に乗れば、さらに志賀高原の横手山山頂に登る事ができる。しかし、小雪のちらつく今日のこの天気だ。北アルプスの山々は横手山の山頂からとても見えそうもない。そこで、ぼくらはこのまま草津へ降りることにした。すっかり山男気取りのイズミさんを先頭に、渋峠ロッジからバックカントリーのスタート地点まで約10分ほどハイクアップする。少しだが緩やかな登りになっている。標高が高いせいだろう、雪の質量共にトップシーズンに近く快適だ。バーンは締まった上に新雪が乗っている。ハイクしながらのウーミングアップ。雪が融ければ国道となる。標高2172m、日本の国道における最高地点である。ここがバックカントリースキーの出発点となる。前方下に中間地点の芳ヶ平(よしがだいら)ヒュッテがかろうじて見える。滑走ルートはいたる所に取れるが、迷いやすいコースなので、標識がきっちり整備されている。コース前半は林間の緩斜面のようだ。新雪に先に滑ったスキーヤー達のシュプールが見えている。そして、動物の足跡があちこちにあった。みんなが嬉しそうな顔をしている。お互いに目が合うだけで,自然と微笑がこぼれてしまう。幸せな時間、そんな時間が静かに過ぎて行った。細い緩斜面を抜けると、このツアーコースの目玉、通称「ダマシ平」の上部だ。 その昔、ツアースキーヤーが悪天候でルートを見失った所だ。
「いけねぇ。月の方向に出ちゃったよ!!!!!!!!!!!!」
みんなの写真を撮るため途中まで先に降りてデジカメを構えてると、コスギくんが「私をスキーに連れてって」に出てくるセリフでみんなを笑わせた。
コスギくんにくっついて、マリコさんがすべってくる。やや頼りないすべり。急斜面でも、なんとか降りてこれるといった初中級の滑りだ。コスギくんがさっきからマンツーマンでコーチしている。田中さんがコースのところどころで、ビデオカメラでみんなを撮ってくれた。コースは最高だった。ぼくら以外にも、続々とツアースキーヤーが滑って行く。芳ヶ平までは休みを多くとりながら滑って約1時間だった。
ツアーコース前半は、広い斜面で立ち木もなく滑っていて気持ちが良かった。天気が快晴なら、きっと雄大な自然を満喫できるのであろう。バックカントリー特有のクラストやパウダーにはまりながら滑るのが楽しかった。なんてったってゲレンデでじゃまなお子ちゃまボーダーがここにはいない。アイスバーンに降り積もったパウダースノーで、ターンのたびに舞い立つ雪煙に鳥肌が立った。久しぶりのスキー天国だった。
途中、ヘリで来た別グループの7人組がこれだけロープやら旗など標識があるにもかかわらず、一つ向こうの沢へ降りていくのを見かけた。ぼくらはみんなで彼らを大声で呼び戻し、芳ヶ平へのルートを教えてあげた。コスギくんがコースアウトしかけた彼らに気が付いたから良かったけど、見落としていたら大事になっていたかもしれない。ヘリスキーの手軽さから、安易にバックカントリースキーに踏み入る恐さを思い知った。ヒイヒイ言いながら沢を登ってきた20代前半の男女。大学の卒業旅行のグループだろうか。見ると身軽でなんの携行食も持っていない。これも何かの縁なので、チョコを分けてあげると大いに感謝された。若者たちよ、少しは山の恐さがわかったのかな。
比較的急な斜面を滑りきると、芳ヶ平ヒュッテまで緩やかな斜面が続く。大雪原をトラバースして芳ヶ平に滑り込むとヒュッテのカメラ嫌い犬たち「バード」、「フロール」と「ラメイジュ」が迎えてくれた。人なつっこい3頭の犬たちと遊びながら、自分達が滑ってきたルートを一望に見る。此処に来た者にしか見ることができない景色があった。冬登山の魅力とは、この景色なのだろう。
まだ昼には1時間ほどあったが、昼食時に混むのを避けてヒュッテに入って昼食休憩。山小屋ながら室内もなかなかいい感じで、へたなペンション顔負けだ。薪ストーブが静かに燃え、ガラスのスピーカーからはジャズが流れている。昼食はヒュッテの人気メニュー「おまかせパスタ」。その時々の食材にて作るパスタだ。別の日に訪れても、決して同じ物は出て来ないと言う。しかも旨い。食後に出てきた紅茶はダージリンだったが、これもなかなかいけた。ぼくたちのメンバーは、夜は徹底的に深酒するもののスキーをしている間はビールなどの酒を飲まない。スキーと言うスポーツがどんなスポーツなのかを熟知している、自分が言うのもなんだが感心な連中だ。
昼食の時に、今晩泊まるホテルにサントリーからビールなどの支援品が届いていることを思い出してみんなに聞いてみた。そしたら、サントリーに接触してくれたのはマリコさんだった。数年前に彼女が通っているスポーツクラブの沖縄ダイビングツアーで、一緒になったメンバーの一人がサントリーに勤務するロマンスグレーの部長さんだったらしい。たまたま、スポーツクラブを訪れた際にダイビングプールでその部長さんを見かけたので、スポンサー募集のCDを渡すと同時に連絡先としてホテルの住所を教えたとのことだ。恐らく今回の飲み物の差し入れは、その部長とやらの個人的な好意からのものかもしれないが、こうして実際に支援してくれる企業が現れたのは嬉しい。ぼくらは、サントリーに感謝するとともに、今晩の打ち上げを盛大にやることにした。
休憩時間をゆったりと取って最後の林間コースを滑る。芳ヶ平からの下りは、トレースがしっかりあり迷いようがない。登山道に沿ったルートで極端に狭いが、結構飛ばせるコースだった。狭い上に途中にわずかな登りと歩きがあるので、スノーボードでは滑るのが難しいのだろう。ボードを脱いで降りてくる羽目になるかもしれないので、スノーボーダーがいないのだろう。ぼくらのメンバーは、どんなにゆるい斜面だろうが、狭い林間コースだろうがショートターン、あるいは、ウエーデルンで降りてくる。まるで数多くターンすればするほど、ヘリコプター代が回収できるがごとくにだ。登山道そのものを下りてくるような狭いコースで、ぼくらはしばしジェットコースターのスリルを味わい、最後は車道を滑って天狗山のゲレンデに帰着した。スキークロスコースのようで、面白いコースだった。そしてパトロールに立ち寄り、下山の報告。これを怠ると、知らないうちに遭難したとして下界では大騒ぎとなってしまう。忘れてはならない。休憩をかなり入れて所要時間約3時間。半日にも満たない時間だが、たっぷりと遊んだ充実感があった。無事に帰着したぼくらは、宿にいったん帰り、アウトドアテーブルなど発表会の道具をゲレンデに運び入れて会場準備に取り掛かることにした。