彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国の国営紙:「サイゴンの昨日、カブールの今日、台北の明日」と—アフガン情勢を巡って

2021-08-21 09:25:00 | 滞在記

 中国のアジア支配において、中国と対抗するインドの包囲網の地政学的に重要なパーツの国としてミャンマーとアフガニスタンがあった。この両国がこの2021年8月までに中国の影響が格段に強くなる国となった。残るは東南アジアのタイやマレーシア、ベトナムなど。特に中国の一帯一路政策において、ミャンマーとアフガニスタンは中国と国境を接し、地政学的にも要衝の国。アフガニスタンと国境を接するパキスタンはインドとの対立関係があり親中国の国であり、イランは中国やロシアと準軍事的同盟関係があるとも言われるくらい反米・親中国の国。

 この8月15日にアフガニスタンの首都カブールがタリバン勢力によって陥落占領され、新国家樹立が宣言されることにより、インドや中国の西に位置する中東アジアの大国であるイラン・アフガニスタン・パキスタンの三国が反米親中国の国家となった。

 2016年にアメリカでトランプ政権が成立し、アフガニスタンからの米軍の段階的撤退が開始された。それまでEU諸国(英国・フランス・ドイツ・オランダなど)の軍隊や米国の軍隊がアフガニスタンに駐留していたが、米国の段階的撤退方針により、他の国々も撤退をすすめ始めた。このためタリバーン勢力が攻勢を強め、2018年にはアフガニスタン国土の46%はタリバーンの勢力下へと変貌して来ていた。そんな流れの中、2019年12月には日本人の中村哲さん襲撃事件も起きていた。

 2021年9月までに米国は撤退を完了する方針だったが、それを待たずして、8月に入りタリバーン勢力は各州の州都を陥落させ支配下に治め、8月10日には首都カブールはタリバーン勢力に包囲される。戦乱の中、多くの避難民が全土に溢れた。

 8月15日、タリバーン勢力はアフガニスタンの首都カブールに進行した。アフガニスタンの政府軍の兵士たちはタリバーン軍の侵攻前に全軍逃亡し、大統領は飛行機で国外に逃れた。このような状況下、首都カブールの空港に数千人のアフガンの人々が国外に逃れるために押し寄せた。米軍の大型輸送飛行機に乗り込めて国外に脱出した人も数千人にのぼった。

 中国のインターネット報道記事や動画報道を見ていると衝撃的な映像が流されていた。離陸し飛び立った米軍の大型輸送機にしがみついていた7人のアフガン国民が空中から地面に落下していく映像だった。

 この映像は、中国国内にとどまらず世界に発信され拡散していった。今日、Yahoo Japanのネット記事を見ていると、この飛行機から落下した少年のことが掲載されていた。「タリバンが怖い。国外で人生を変えたい—少年は飛行機にしがみついた。16歳以下のサッカー代表選手だった少年(ザキ・アンワリさん)の夢は断たれた」と‥。

 現在、ここ首都カブール空港は、米軍5000人あまりが残留し人々の国外脱出作戦を進めるために、タリバーン軍と対峙している。「せめて子どもだけでも」と、赤ちゃんや小さな子どもを壁の上に立つ米兵に託す動画もSNS上で拡散している。米軍が退避の対象にしているのは米国人の他、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者や家族らで、これまでに7千人を退避させ、さらに手続きを終えた6千人あまりが出発を待っている状況という。

 首都カブール市内では、タリバーンの侵攻を前にして、商店などは"反イスラム的"とも言われかねない、女性のウエディング姿の壁画などを消していた。市中にタリバーン軍の兵士たちが侵攻してきた。

 このカブール陥落で、カブール空港のようす、特に飛行機から7人の人間が落下する映像は衝撃的だった。今年1月に米国のトランプ前大統領の支持者たちが米国議会を襲撃した時の衝撃的な映像に続き、米国の権威の喪失的な印象を強く世界に焼き付ける映像でもあった。特に中国国内ではこの2つは何度も何度も繰り返し報道されていたようだ。

 8月16日は、日本の大手新聞は休刊日だった。このためこのアフガニスタン情勢は17日に掲載。8月17日付朝日新聞には、「タリバン勝利宣言—アフガン政権崩壊、大統領国外脱出」「攻勢10日 首都占拠—米国では撤退賛成7割、敗北バイデン政権」「アフガン市民 不安と怒り—20年間の積み上げた夢一瞬で」「アフガン混乱置き去り—米軍機へ同乗求め数千人―空港映像"失敗"の象徴」などの見出し記事が掲載されていた。

 8月19日付朝日新聞には「米軍撤退 台湾に余波—中国紙など"アフガンから教訓を"」「タリバン融和姿勢強調—女性の人権"尊重" 敵対勢力"政権に"」「軍事限界 バイデンは学んだ—現地の安定に腐心、支持した"対テロ戦争"泥沼化」「抗議の市民に発砲 女性キャスター交代」「欧米諸国 割れる対応—米静観 EU協議 独援助停止」などの見出し記事が掲載されていた。

 8月に入り、タリバーンが各州都や首都への大攻勢を展開し始める数日前の7月28日、タリバーン幹部たちは中国に招かれて、中国天津で中国の王毅外交部長(外相)と会談をしていた。このタリバーンの代表団は、バラダル師が率いていた。

 8月15日のカブール陥落によるアフガニスタン政府崩壊後、中国の耿爽国連大使は国連で米国のこれまでのアフガニスタン政策を非難した。また、中国の華春瑩外交部報道局長は16日、アフガニスタン情勢について「各党派、民族と団結し、国情に合った政治的枠組みを確立することを望む」と述べた。タリバーンによる政権掌握を事実上容認した。イランの大統領は、タリバーン政権の樹立を歓迎すると発表。ロシアも歓迎の意向かと思われる。

 8月18日付、日本の「夕刊フジ」紙は、「アフガン崩壊 中国暗躍」「タリバンのアフガン制圧、中国にとって大収穫」の見出し記事を掲載していた。

 今日8月21日、中国のインターネット記事には、「バイデン惨敗—世界は中国が第一へと」「中国への対抗失敗—バイデン緊急会議招集」「米国は恥辱の時を迎えた」「今日のアフガン 明日の台湾」などの見出し記事が列挙されていた。

 中国共産党系新聞「環球時報」は17日付で、「米軍の撤退でタリバンがアフガニスタンの首都カブールを陥落させたのは、ベトナム戦争の終盤に米国が同名の南ベトナムを放棄し、サイゴンが陥落したことを思い出させる」とし、「サイゴンの昨日、カブールの今日、台北の明日」と表現した。

 さらに、「米国がアフガン政権を棄てたのはアジアの一部地域、特に台湾側に大きな衝撃を与え、蔡英文民進党政権を震え上がらせただろう」とし、「米軍の撤退でアフガニスタン情勢が急激に変わったのは、台湾の運命を暗示する前兆かもしれない。米国は危機状況でアフガンのように台湾を見捨てるだろう」と主張した。また、中国の国営メディアは一斉に、「台湾はアフガニスタンの経験から教訓を得るべきだ」と報道した。これらの報道に合わせるように、台湾海峡周辺では中国軍による大規模な軍事訓練を行い、台湾を威嚇した。

 8月21日付朝日新聞には、「国旗掲げアフガン市民デモ―タリバン発砲死傷者」「米軍撤退 バイデン氏苦境—民主党内でも批判噴出、支持率 就任以来最低」「タリバン幹部 中国のTVで"アフガン女性 自由を享受"と主張「中国 "崩れる米国"に自信」などの見出し記事が掲載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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