彦四郎の中国生活

中国滞在記

習近平氏と中国共産党大会で力説された「中国式現代化」―それは何を意味するのか、世界への影響は‥

2022-11-08 07:59:05 | 滞在記

 世界の人口は、この2022年11月に80億人に達した。このうち、中国が約14億人と世界人口の約18%を占める。そして、世界第二位の経済規模と世界第二位の軍事力をもつ中国。この10月16日から1週間あまりにわたって開催された中国共産党第20回大会において、これまでの2期10年の任期の憲法規定を2018年に変更し、習近平中国国家主席は第3期目の国家主席及び中国共産党総書記に満場一致で選出された。それとともに中国共産党の最高指導部25人の政治局委員はほぼ全員が習近平国家主席の側近などで占められることともなった。「習氏1強」体制の完成である。そして、この現代世界での他の国々の政治リーダーの追随を許さない、この世界の歴史上でも、他の歴史上の人物の追随を許さないだけの、最も大きな権力をもつこととなった。「80億分1の男」に、この世界の明暗は、少なくともこの10年間余りは握られる続けることともなった。

 中国には、「中華人民共和国憲法」があるが、この憲法は中国においては最重要なものではない。憲法で定められているあるゆる事項について、その時々の問題については中国共産党が判断・指導するとこの憲法には明記されている。つまり、憲法の上位に中国共産党があり、全ては中国共産党の判断次第であるということだ。このことからもして、中国という国家機構の中で、最も重要な「法」は「中国共産党規約」。

 さて、今回の共産党大会で注目すべき点が3つあった。一つ目は、大会の冒頭に述べられた習近平国家主席の演説内容。二つ目は共産党規約の改正内容(中国共産党の憲法"党規約"の改正問題)。三つ目は、共産党大会閉幕直後に発表される中国共産党のトップ人事(25人の政治局員と7人のチャイナセブン)。

 今回の党規約の改正問題で特に注目されたことは、次の三つだった。①[台湾問題等]今までの規約では、「祖国統一を完成する」だけだったが、➡今回の改正で、明確に「台湾」という文言が表現されるかどうか。「台湾」という表現がされれば、台湾への武力侵攻という選択肢を放棄せず、中国の支配下への動きを加速化させるという意味合いが強くなる。

 ②[習近平氏への忠誠等]今までの規約では、「1982年に定められた規約に"個人崇拝禁止条項"があり、習近平氏への具体的な記述はなかったが、➡今回の改正で、習近平氏への「核心的地位」「指導的地位」が明記され、「個人崇拝禁止条項」が撤廃されるかどうか。

 ③[毛沢東超え等]今までの規約では、「習近平による"新時代の中国の特色ある社会主義思想」となっているが、➡改正により、「習近平思想」という言葉に短縮され表現されるかどうか。「習近平思想」と表現されれば、「毛沢東思想」に並ぶこととなる。そして、「人民の領袖(りょうしゅう)」などの言葉が入るかどうかも注目された。また、1980年代に当時の最高権力者の鄧小平氏によって規約から撤廃された「中国共産党主席」が復活するのかどうかも注目された。かって毛沢東氏は「党主席(※党総書記ではない)」の地位にあり、この「党主席」は終身制(死去するか、自ら後継者を指名するまでその地位が確保される。)であった。

 今回の最高指導部のチャイナセブンや25人の政治局員の人事において、習近平氏の次の時代(2027年の第21回大会以降)に向けた後継者らしき人物はほぼ入っていなかった。そして、習近平氏にとって政策や意見の異なるとされた胡春華氏(これまで政治局員で副首相)は、200人いる中央委員に格下げ、これまでのチャイナセブンの一人だった汪洋氏は、中央委員からさえも除外された。完全なる習近平氏を頂点とした1強権力機構の完成だった。今回の共産党大会で、前共産党総書記(前中国国家主席)の胡錦濤氏が、退席させられる場面もあった。(その真相はいまだ不明?)

 「習氏本人は少なくとも82歳になる2035年まで続けるつもりでいる」(ジャーナリストの近藤大介氏)、「習氏は4期目も狙っている。4期目も総書記を勤めるため、何か功績を作る必要がある。経済が期待できないため、この5年以内に台湾問題で新たに動く懸念がある」(ABC[朝日]放送、前中国総局長)との指摘なども‥。

 共産党大会閉幕後の10月下旬、中国共産党の革命の聖地の一つとされる陝西省の「延安(えんあん)」に、新チャイナセブンは向かった。この延安は、1937年から47年までの10年間、中国共産党の本部が置かれた地だ。また、習近平氏の父である習仲勲氏ゆかりの地でもある。(習仲勲氏らが1930年代に構築した革命拠点地)

 習近平氏が6人を伴って延安の革命本部があった建物に入る。6人はまるで臣下のようだと報道もされた。「君主と臣下」の関係とも‥。いよいよ、誰に異論を言われることもなく、習氏のやりたかった国家建設の方向が進められることとなりそうだ。「共同富裕」など、本来の社会主義革命なるものの方向へ。(「高い経済発展」などは二の次であり、「共同富裕」のために、民間企業への規制の強化を行うなど、1978年から続いていた改革開放路線、西側との協調路線からの変更。) 「初心忘れることなく」を改めて国内外に示すために、この革命の聖地・延安への訪問をしたのだと思われる。

 10月17日付朝日新聞には、「習氏"中国式現代化"強調—欧米と異なる発展追求—共産党大会開幕、中台統一"武力放棄せず"」「習氏"台湾"強硬論—前回(2017年党大会)語らなかった"武力"明言」などの見出し記事。10月24日付同紙には、「粛清(しゅくせい)経て、君主と"君臣関係"成立」の見出し記事。10月27日付同紙には、「中国共産党規約 主席制度復活せず」の見出し記事。10月28日付同紙には、「1強独裁を生む"中華帝国"の歴史」の見出し記事。11月7日付同紙には、「習氏1強体制の完成—中国独自モデルで"強国"を追及」の見出し記事。

 今回の中国共産党大会において、党の憲法にあたる党規約改正では、毛沢東と並び立つ「党主席の復活」や「領袖」の称号を習近平氏が得ることは見送られた。党指導部及び中央委員のほとんどを、人事的に臣下的な側近や部下などに任命できたことで、党規約面での「党主席」「領袖」などは無理に入れ込む必要は今回はないと習氏が最終判断をしたものと思われる。つまり、「実(じつ)を取れればいい」との判断だ。(※今回の党規約の改正では、約9600万人の中国共産党員への「習近平氏への忠誠」という文言は明記されることとはなった。)

 習近平氏にとって今回の大会で重要なことは何だったのか。それは長期的な目標を示した3万2千字余りの政治報告(大会冒頭の演説)から読み取れる。日本の新聞やテレビ等のマスコミ報道では、習氏が台湾統一について「武力行使の放棄を約束しない」と宣言したことや、「ゼロコロナ政策の堅持」などが大きな注目を集めた。ただし、台湾への言及は全体の2%程度であり、習氏の最大力点はそこにはない。

 最も時間を割いて説明したのは、「中国式現代化」という新たな道のりだった。つまり、「中国共産党が指導する社会主義現代化」であり、今後、目指すべき国家観を表すイデオロギーだ。それには、「富の集中を防ぐ"共同富裕"」「物質的な豊かさばかりを追わない」などの思想や施策などが基底にある。その実現のために、習氏に権力を最大集中させ、習氏のイデオロギーや指示に従わせるという体制の完成だった。別の言い方をすれば、明王朝や清王朝時代の皇帝的な権力掌握実態とも言えないこともない。「中国式現代化」をすすめるための基盤となるのが、この皇帝的な権力を掌握した習近平氏1強政治体制の確立かと思われる。

 中国5000年の歴史を俯瞰すると、この中国の歴史では約400人余りの皇帝や各地の王がいたとされている。中国史では一般に、紀元前221年に秦国の王であった政(王)が、中国を統一し始皇帝(皇帝)と号してから、1912年の辛亥革命によって清王朝が滅亡するまでの約2050年間に、約200人(196人)の皇帝が存在した。(※それ以外は、「王」の称号を用いていた。)

 2017年8月に、『習近平と永楽帝』山本秀也著(新潮新書)という書籍が出版された。その本を購入し中国に持って行き読んだ。この本の表紙帯には、「二人の皇帝から読みとく漢民族王朝」という文字。この本のあらすじ(内容)を簡潔に示す裏表紙の書籍説明は次のようなものだった。

 漢民族の最期の帝国であった明の3代目・永楽帝と習近平には、意外なほど共通点がある。権門出身という血統のよさ、権力掌握前の苦節、正統性を証明するため、政権創設者の範を取りつつ、前任者を超える政治実績を示すことを迫られた立ち位置、「法治」を掲げた苛烈な政敵排除や国内統制、政権の威光を高めるための対外拡張とアジア秩序の構築への意欲—。歴史を踏まえると見えてくる、現代中国の核心に迫る。

■この本は、現在、私の中国のアパートの書棚に置いてある。この書籍を一読した当時は、この本の内容に納得することはあっても、「習近平=皇帝」とは余り現実的には思ってはいなかった。なぜなら、2期10年の「中国共産党総書記・中国国家主席」の任期が存在していたからだ。だが、翌年の2018年にこの任期を撤廃、そして今回の共産党大会で3期目に入り、さらに後継者をおかずして4期目をも目指そうとの意欲も垣間見えてきている。つまり、この本で書かれていることが現実味を帯びてきていることだ。

 『文藝春秋』(11月特別号)は、この習近平氏と中国共産党についての特集号が組まれていた。①「習近平の仮面を剥ぐ—愛憎渦巻くファミリーの歴史」(城山英己・北海道大学大学大学院教授)、②「中南海の25人―お友達人事録」(李昊・神戸大学大学院講師)、③「反エリート政策で経済は失速」(西村豪太・東洋経済新聞社)、④「あなたの知らない中国共産党」(西村晋・文化学園大学准教授)、⑤「"親中日本人"の言い分を聞いてみた」(安田峰俊・ルポライター)などの記事が掲載されていた。

 特に①で、城山氏は、「私はこの10年間、ずっと次のことを考えてきた。"習近平はなぜ開明的な父親でなく、毛沢東を真似る政治を行うのか"、‥」と語る。このことは、私自身もずっと考え続けてきたことだった。城山氏の文章記事全体を読んで、少しこのことについて分かりかけてきたように思った。つまり、「習氏における権力保持(身)」と「"中国の夢"実現へのイデオロギー」、この二つがキーワードとなるのかと思う。習近平氏は将来的に毛沢東氏を超える人となるかも知れない。

 

 

 

 

 

 


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