彦四郎の中国生活

中国滞在記

衝撃の米ポンペオ国務長官"中国共産党と習近平総書記個人への怒り"の演説―歴史的宣言になるかも

2020-08-01 15:18:34 | 滞在記

 アメリカが7月21日、米国ヒューストンの中国領事館の閉鎖を命じたかと思えば、中国は24日、中国成都のアメリカ領事館の閉鎖を命じた。退去期限はそれぞれ72時間以内だった。これほど激しい米中対立の攻防は、1979年に正式に国交正常化を果たして41年で、初の事態である。私が勤務する閩江大学外国語学部英語学科のアメリカ人教員たちは今、私と同じく母国滞在にてONLINE授業を行ってきただろうが、米中対立が激化する中、中国の大学に戻れるかどうかも心配になる状況となってきている。

 さらにアメリカは、南シナ海に中国が建設した人工島や基地を空爆するというシナリオも選択肢の一つとして立案しているとの報道もある。

 こんな状況下、7月23日に米国・カリフォルニアで行ったマイク・ポンペオ国務長官のスピーチ・演説は3つの理由で米中冷戦を本格化を決定づける内容であった。つまりトランプ政権内の対中論争に終止符を打つものでもあった。歴史に残る(※将来、教科書に掲載されるような)演説、宣言になるかもしれない?!とも言われる内容だった。内容の3つのポイントとは。

 一つ目に、トランプ政権下には、中国とどう対峙するかについて2つの勢力が存在した。一つは、貿易不均衡や雇用を是正することに主眼を置く、いわば「通商強硬派」。トランプ大統領自身がその代表格で、長女イヴァンカの夫・クシュナー大統領上級顧問などかなりの多くの幹部たちがこの派に属していた。もう一つのグループは、中国という台頭する共産党一党支配の国が許せない「軍事強硬派」。政権から外されたバノン元大統領首席戦略兼上級顧問やボルトン前大統領安保担当補佐官などがこのグループに属する。そして、現職のペンス副大統領やポンペオ国務長官もこのグループに属する。

 トランプ政権下においては、その時々で、この2つのグループが頭をそれぞれがもたげつつも、全体的にはバランスを保ちつつ、中国との関係は推移してきた。ところが、今年3月から本格的にアメリカを襲い始めた新型コロナウイルス(※7月下旬段階で約450万人の感染数、約15万人の死者数)は、この両グループの力関係に、決定的な作用を及ぼした。中国に対してより強硬な「軍事強硬派」が「通商強硬派」を圧倒したのである。

 トランプ的な「通商強硬派」の方針のままでは、来たる11月3日(あと100日間後)の大統領選挙で敗北してしまうという共和党の危機感の中、トランプ大統領自身もそのことは重々承知しているので、「にわか軍事強硬派」に方針を変えてきている。

 今回のポンペオ演説が「米中冷戦」を決定づけた理由の二つ目は、中国という国家に加えて、9100万中国共産党員のトップに君臨する習近平総書記個人を攻撃したことである。これまでアメリカが中国をいくら批判しても、習近平総書記個人は非難してこなかった。これまで、トランプ政権幹部によるこれまでで最も過激な中国批判と言えば、2018年10月のペンス副大統領の演説だったが、あの強烈なスピーチの中でさえ、習近平総書記個人は批判していない。ところが、今回のポンペオ演説はその「一線」を越えた。ポンペオ国務長官は語気を強め、次のように述べた。

 「習近平総書記は破綻した全体主義思想の信奉者であるということに、我々は心を留め置かねばならない」「われわれが許さない限り、習総書記は中国国内外で、永遠に暴君でいられる運命ではないのだ」「ニクソン大統領はかって、世界を中国共産党に開放した時、フランケンシュタインを作り出してしまうかもしれないと恐れた。だが、今存在しているのが、まさにそれだ」「われわれはまた、中国共産党とは完全に異なり、ダイナミックで自由を愛する中国人に関わり、力を与えていかなければならない」

 「もし、今、われわれが行動を起こさなければ、最終的に中国共産党は、われわれの自由を侵食し、われわれの社会が懸命に築きあげてきたルールーに基づいた秩序をひっくり返すだろう。今 われわれが膝を屈したら、孫たちは中国共産党の慈悲の傘下に下るかもしれない。それほど、中国共産党の行動は自由世界にとっては喫緊の挑戦だということだ」「中国政府の行動は我々の国民の繁栄を脅かしている。中国を普通の国として扱うことはできない」「習近平総書記は中国共産(全体)主義に基づく覇権の野望を長年抱き続けている。中国共産(全体)主義から自由を守ることは私たちの時代の使命だ」「‥‥‥‥」「‥‥‥‥」「‥‥‥‥」。

 そして、三つ目には、単にトランプ政権のことだけではなく、「アメリカの問題」として対中国問題を提起していることだ。ポンペオ国務長官は、「どの党の誰が今後の大統領に就こうとも、これからのアメリカは習近平政権と正面から対決することとなる」というニアンスで演説していることだ。この対中国対応の変化・転換は米国では民主党政権となっても基本的に終わらないだろう。また、中国人民(国民)と中国共産党とを分けて演説していることもその特徴だ。

 このポンペオ演説ははリチャード・ニクソン図書館で行われた。1972年のニクソン・毛沢東会談での米中国交回復の始まりから48年目の今年、アメリカは中国共産党(中国・中国人民ではなく)との宣戦を布告したに等しいのが今回のポンペオ・スピーチだった。一方の中国共産党は「戦狼」戦略を5月の全人代で確認・採択し、アメリカとの対決姿勢を鮮明にし始め中国国民にも反米感情の高まりの宣伝を強化してきている。

   朝日新聞にはこのポンペオ演説に関して、「米、対中"関与政策"岐路に―"失敗"と国務長官"決別宣言"―変わらぬ"政治体制不信感"」「民主"幻想なき共存"模索 トランプ氏は実利を追求」という見出し記事を掲載。

 このポンペオ演説を念頭においてか、習近平総書記(国家主席)は、7月28日、北京での座談会を主宰し、「いかなる国や人物も、中華民族が偉大な復興を実現する歴史的な歩みを阻むことはできない」と強調し、中国共産党の一党支配を批判して攻勢をかけるトランプ米政権を牽制(けんせい)した。10月に北京で党第19期中央委員会第5回総会(5中総会)を開くことを決定。2021年~25年までの中期方針と35年までの長期方針の策定が討議される。

 

 

 


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