彦四郎の中国生活

中国滞在記

台湾総統選❺福島香織氏「習近平指導部が受け入れるべき現実」記事―香港・周庭氏を北大が招聘

2020-01-18 15:30:30 | 滞在記

 台湾総統選挙結果が明らかになってから およそ1週間あまりが経過した。この間ほぼ毎日 「台湾総統選」関係の中国のインターネット記事も閲覧している。ほぼ100くらいの中国インターネット台湾関連記事を閲覧しただろうか。関連記事はとても多く、溢れかえっているという感すらある。しかし、1つの記事以外は、韓氏・蔡氏の獲得得票数などは書かれていなかった。つまり、ほとんどの中国国民は選挙結果については「蔡氏が当選した」ことしか書かれていない記事しか見ていないと思われる。しかも、選挙に蔡氏が勝ったのは、「邪悪な不正選挙」によるものだったという内容も多い。

 記事の内容は、ほぼ これでもかこれでもかと、「蔡氏の再選は、台湾の人々にとって今後さらなる困難・困窮・厄災など」をもたらすとも報じる内容。

 今朝もそのような中国のインターネット記事を閲覧していたら、「日本知名学府騒乱港分子周庭为研究員 遭网友群嘲」という見出し記事があった。香港の民主化運動のシンボル(女神)的存在として、日本のテレビ報道番組でもたびたびその発言や映像が出ていた周庭(アグネス・チョウ)氏である。彼女は日本語にもけっこう堪能だ。彼女は香港民主活動家の黄氏とともに、中国では「香港騒乱暴力分子活動」を引き起こしている極悪人扱いの報道がされている。

 その周氏が日本の北海道大学の研究員として招聘されたという内容の記事だった。もちろん、このことにたいして北海道大学を厳しく批判する記事内容だった。「北海道大学は暴力を支持するのか。香港警察に逮捕拘束されたことのある暴力分子の者を招聘するとは」と批判。これは1月17日付の北海道新聞の「北大・香港民主活動家 周庭氏を研究員として招聘」に対する中国での反応だ。(北海道大学公共政策大学院の特別研究員としての招聘。大学側が決定したのは昨年の11月のこと。)

 北海道大学といえば、昨年の9月に中国当局によって身柄を拘束され、2カ月後の11月中旬頃に解放された北海道大学法学部教授の岩谷氏が所属する大学だ。私の娘もかってこの大学の教育学部の学生だった。娘が在学の頃、京都に帰省して一冊の「北海道大学入学案内要項」の冊子を差し出し、「ここに私の写真が写っているねん。でも、法学部の案内ページに。」と。

 その北大(北海道大学)の法学部教授・岩谷氏所属の大学に周庭氏が研究員として招聘されていたとは驚きだった。中国政府サイドから大学に対して抗議をされたりする可能性が高いことは自明のことだからだ。それでも、あえて、北大はそれに踏み切ったことになる。北大の中国政府に対する抗議の現れとみることもできる。

            ※上記左端写真:福島香織氏、左から2枚目:周庭氏に取材時の福島氏

 かって産経新聞社の北京特派員(支局長)で、現在は中国関連の(特に政治経済社会)記事を多く書き、十数冊の書籍も執筆している福島香織氏の1月9日付(台湾総統選2日前)のインターネット記事(yahoo japan)を紹介したい。この記事はA4版5ページほどの記事だったが、以下はその記事の最終章に書かれた部分だ。「蔡英文圧勝の可能性と習近平が受け入れるべき現実」と題された記事で、最終章は次の通り。

 ◆蔡英文政権2期目突入の大きな意味

 さて、今回の総統選でもし民進党・蔡英文政権が勝利し2期目に突入するとしたら、その意味は歴史的なものになるかもしれない。

 1つには、習近平は香港への対応だけでなく、台湾への対応も失敗し、中台統一の機運をほぼ永久的に失うかもしれないからだ。この事態は、「習近平の失態」として党内で問題になるかもしれない。1年前までは蔡英文再選の目などなかったのだ。

 人民を豊かにするという目標を掲げるも経済成長が急減速していくなかで、中国共産党一党独裁の正当性を維持するために台湾統一は必須であった。それが不可能になれば、共産党の執政党としての正当性は根底から揺らぐ。台湾総統選挙で蔡英文が勝利すれば、それは習近平の敗北である。

 さらに、歴史的に国民党推しだった米国が初めて民進党推しに転じての選挙であり、米台の安全保障面での緊密化は加速していくだろう。中国の金銭外交によって国際社会での孤立化が急速に進んだ蔡英文政権だったが、米国との急接近は台湾の国際社会における地位を大きく押し上げることになる。

 さらに言えば、蔡英文政権の後を頼清徳政権が引き継ぎ、通算16年の長期民進党政権時代が誕生する可能性も出てきた。それだけの時代があれば、台湾アイデンティティは、中華アイデンティティと異なる形で確立でき、また官僚や軍部に根強く残る国民党利権、しがらみも浄化できるかもしれない。東シナ海に、中国を名乗らず、脱中華を果たした成熟した民主主義の自由な華人国家が誕生することになれば、それは近い将来に予想される国際社会の再編を占う重要な鍵となるだろう。

 かなり私的な期待のこもつた見立てではあるが、今も続く香港の若者の命がけの対中抵抗運動と、米中対立先鋭化という国際社会の大きな動きの中で、台湾は国家としての承認を得られる二度目のチャンスに恵まれるかもしれない。(※福島香織氏の文章は以上)

 ◆この福島香織氏の文章について、「中国共産党評価」に関しては私の意見とかなり異なる部分もある。しかし、今回の台湾総統選挙の意義については、賛同する部分も多い。

 ◆習近平氏は、長く中国福建省で、廈門(アモイ)市の幹部や福州市の幹部、福建省の幹部などの生活を長く送っている。そして、現在の妻との新婚生活もここで過ごしている。福建省は台湾海峡(※私が暮らす福州市から台湾の台北市まではは約130km。この距離は、京都市から私の故郷に近くの福井県敦賀市までの車での走行距離と同じ。)で台湾と面し、香港までもわりと近い。

 このこともあり、台湾と中国の統一(中台統一)には、強い思いを持っている人だ。「中国国家主席の最長任期期間(10年)や年齢制限」を一昨年秋に撤廃して、習近平氏の権力基盤を盤石化した。その撤廃動機の大きなもののなかには、この中台統一への悲願があるように思う。その統一悲願は、できれば中国共産党設立100周年にあたる2022年までにという思いもあっただろう。毛沢東氏も鄧小平氏も成し遂げられなかった「中台統一」を自分の手でという思いはとても強いかと思う。しかし、ここ数年間の、台湾・蔡政権に対するものすごい圧力は逆に裏目と出ているようだ。かえって台湾や香港の人々への「嫌中感」を増大したように思えるのだが。方針の転換も必要かと思う。

◆かって、中国の鄧小平氏は、中日間の尖閣諸島の問題を問われ、「今の我々には知恵がありません。今は放っておきましょう。でも2、3世代すぎたら、賢い人が現れるかもしれない」という趣旨のことを述べた。なかなかの知恵と聡明さを含んだ言葉である。自分がトップの時に、早めに解決したいと思うのは人の常かもしれない。でも、ある程度、人間の歴史を考えてみたら、カッカした時は互いに冷却期間を置くという知恵は とりわけ国家指導者には求められるものだとは思う。

 習近平氏をはじめとする中国政府指導部は、今後、さらなる台湾・蔡英文政権への圧力路線を強化していく方針のようだが、カッカしたこの方針・対応のままでは「武力侵攻」以外の選択肢が狭まって来る可能性が高い。そうなれば、どんな展開になるか 今のところ予想はちよっと困難だ。知恵と聡明さが求められていると思う。これがないと、その政権は ある時を転機にポキンと弱体化していくのも世の常だ。

◆以上で、台湾総統選挙❶〜❺を終わります。

 

 


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