彦四郎の中国生活

中国滞在記

台湾総統選挙❹「NEES WEEK(日本語版)」今週号、「台湾人意識」で読み解く総裁選と中台の未来

2020-01-18 09:32:15 | 滞在記

 昨日17日、京都市内の丸善書店にて、今週号の「NEWS WEEK(日本語版)」のある記事が目に留まり立ち読みをした。"「台湾人意識」で読み解く総裁選と中台の未来"と題された1ページ記事だった。この記事の内容は、私のブログの前号「台湾総統選挙❸」で書いたものをさらに深く取材・執筆している とても優れたものだった。執筆者は江懐哲(台湾アジア交流基金研究員)。

 この記事の全文を以下紹介したい。

 1月11日投開票の台湾総統選は、本稿執筆時点で、現職の蔡英文(民進党)が再選を果たす情勢だ。1年前は不人気に苦しんでいたが、メディア戦略の強化や対立候補である韓国瑜(国民党)の失態、香港で続くデモなどの要因により巻き返しに成功した。

 早くも、今回の総統選の結果が今後の中台関係に及ぼす影響が論じられている。しかし、中台関係の未来を見通す上では、1回の選挙結果よりも「台湾人意識」をめぐる世代間格差の拡大に目を配ったほうがよさそうだ。

 有力経済紙「天下雑誌」の世論調査によれば、自分を台湾人だと思うか、中国人だと思うか、両方だと思うかという問いに対して、20〜29歳の82.4%は、自らを台湾人とだけ思っていると答えた。この割合は、40〜49歳、50〜59歳の年齢層では全て50%後半だった。中国との将来の関係については、20〜29歳の49.4%、30〜39歳の33.5%が(中国との平和が保てるのであれば)独立を望むと回答した。

 それだけではない。2018年に国立政治大学(台北)の選挙研究センターが実施した世論調査によれば、中国が武力により台湾を併合した場合に戦うつもりがあるかという問いに対し、20〜29歳の71.6%が「イエス」と回答している。

 台湾が正式に独立を宣言し、それに対して中国が武力行使で応じた場合に戦うかという問いに対しても、この年齢層の64.5%が「イエス」と答えている。この割合は全世代の平均を7.8ポイント(%)上回る。

  ―中国の戦略にも影響― 同じ世論調査のほかの質問項目を見ると、若者たちが台湾の民主主義的制度を高く評価していることがよくわかる。このような台湾世論の新しい潮流に、台湾の主要政党と中国政府はどのように対応しているのか。

 蔡率いる民進党は台湾人意識の形成を後押しし、若者の支持を獲得している。昨年7月には、14年の大規模な学生運動「太陽花(ヒマワリ)革命」のリーダーだった林飛帆が民進党の副秘書長(副幹事長)に就任。総裁選と同日の立法委員(国会議員)選挙にも、若い新人立候補者が続々と立候補した。

 民進党の若い候補者の多くは、中国が台湾の民主主義を脅かしていると公然と語り、国防の強化を訴えてきた。民進党は、若い有権者の意識が変わり始めていることの恩恵を受けられそうだ。一方、今回の選挙で韓を押し立てた国民党は、変化に乗り遅れている。立法委員選挙の立候補者の平均年齢は民進党より高く、親中派とみられている人物も少なくない。中国寄りの姿勢は有権者の反発を買い、韓の選挙戦に悪影響を及ぼした可能性もある。

 若者の意識の変化は、台湾政治の構造を少しずつ変えていくはずだ。それは中台関係にも大きな影響を及ぼす。中国政府も変化を無視するわけにはいかなくなる。中国は、国民党以外の台湾政党とも対話し、台湾の人々の心をつかむことに本腰を入れざるを得なくなりそうだ。

 中国にとって、中台統一への台湾の人々の支持を高めることはますます難しくなる。武力に訴えるほかないと感じても不思議はない。しかし、それは最も有効な選択肢とは言い難い。戦争になった場合に中国が勝つ保証もない。中国政府はこの点を見誤らないほうがいい。  (※記事全文は以上)

 ◆この1週間あまり、中国のインターネット記事を閲覧し、読者のコメントなどを見ていると「武力侵攻すべき」との声が高まってきているなあという感じもする。これらのコメントを中国政府が容認しているということは、台湾併合の選択肢として「武力行使」の声も政府内に高まってきているか、また指導部自身も「将来的にも台湾総統選での勝利の困難さ」から、武力行使選択の方に針に揺れ始めていることかもしれない。

※上記写真左端:林飛帆氏、右端写真:頼氏と蔡氏

 上記の記事で名前の挙がってる「林飛帆」氏(民進党副幹事長)は31歳。民進党には副幹事長(副秘書長)が3人いる。それぞれ、行政、組織、広報といった業務を担当していて、林氏は主に「世論・国際・青年・インターネットの各部」を管掌する「広報」を担当している。(林氏は、台湾の「国立曁南国際大学」や「国立成功大学」を卒業後、「国立台湾大学」大学院やイギリスの「ロンドン・スクール・オブ・エコノミク政府専攻」の大学院課程を修了している。また、2年ほど前に結婚している。

 日本の雑誌「東洋経済」誌の原稿依頼により、台湾人ジャーナリストの楊虎豪氏が林飛帆氏にインタビューした記事が、Yahoo Japanに今年の1月17日付で掲載されていた。A4版7ページにわたる記事だった。記事項目の見出しは、1・学生運動の旗手はなぜ民進党幹部になったのか 2・今回の総統選・立法院選挙おいて、どんな役割を果たしたのか 3・議会選挙は有権者のバランス感覚が働いた 4・今回の選挙で、民進党は立法院の過半数を維持できたが、比例区での得票数は国民党とそれほど差がなかったが、この結果をどう考えるのか 5・国民党が再起する可能性はあるのか 6・国民党が敗北した理由は何か 7・民進党の4年間の成果は何か、また未解決の課題は何か 8・待ったなしの年金制度改革 9・ヒマワリ運動から6年が経過したが、台湾は良い方向へ進んでいるか 10・「一国二制度」は受け入れられない 11・日本との交流強化について などに関するインタビュー記事だ。

 記事を読んでいて、31歳と若いがとてもしっかりと現実を見つめながらインタビューに答えていることが分かる記事内容だった。民進党内では蔡英文氏に続くと目されているのが頼氏。二人とも年齢が20歳も30歳も離れているが、民進党には若くて優秀な人材が多く集まってきているのだろうなあという印象も受けた。

◆この「東洋経済」の記事の中のインタビュー記事で、今回の台湾総統選と立法院選の選挙結果を詳しく分析している現実感覚には感心した。実は、今回の台湾総統選挙では、民進党蔡英文氏が約60%近い820万票を獲得しているのだが、同日に実施された台湾立法院選挙(国会議員)での比例選挙獲得数では民進党と国民党の票獲得数は僅差だ。民進党の比例での獲得票数は481万票しかなかった。一方の国民党は比例で472万票を獲得している。

 これは、台湾の人々のより多くが、「台湾を守り、主権を広げるのはどちらか」という選択では蔡英文氏に投票し、中台関係の現実におきていることを考慮して、比例では国民党に投票した、つまり、バランスをも考えて投票する人も多数にのぼったことを表している。この現実も踏まえながら、今後どのようなことが民進党や蔡英文総統に求められ、課題の実現をしていくのかということに関しても、林飛帆氏の受け答えはしっかりしていた印象の記事だった。

 


コメントを投稿