(以下、日系ビジネスONLINEから転載)
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「フィリピン人家政婦? 今だって日本で雇えますよ」
富裕層向け家事代行サービス「シェヴ」柳基善CEO(最高経営責任者)に聞く
広野 彩子
バックナンバー2013年10月4日(金)
安倍政権は成長戦略の中で、ベビーシッターやハウスキーパーなどの経費負担を軽減する策を検討すると打ち出している。実際、働く親にとって最も重い労働の1つは家事だ。家事代行サービスを利用する家庭は増えてきている。子供への英語教育や家事の実力などの側面から、外国人ベビーシッターやハウスキーパー、とりわけフィリピン人によるサービスにも関心が集まっている。
日本人は国内では法律上、フィリピンなどの外国人を直接、海外から連れてきて雇うことはできないが、実際には、国内で「外国人家政婦」を雇っている人々も存在しているという。主に富裕層や在日外国人向けにフィリピン人を含む外国人を派遣している家事代行会社シェヴ(本社・東京都港区青山)の柳基善CEO(最高経営責任者)に、家事代行サービスに対するニーズや、家事代行サービス市場の実態などについて聞いた。
(聞き手は広野彩子)
御社では、派遣するスタッフの中にフィリピン人女性が大勢いると伺いました。
柳:そうです。ベビーシッターや家事代行を担うスタッフら250人のうち、100人以上がフィリピン人をはじめとする外国人です。金融機関などの外国人駐在員のご家庭だけでなく、日本人の富裕層や一般のご家庭にスタッフを派遣しています。
一部の企業の外国人駐在員や駐日大使館職員は、「家事使用人」として外国人を雇えるそうですね。しかも企業関係者の場合は払うべき報酬や条件に制約があるけれど、駐日大使館職員の場合はそうした制約もなく、2人まで雇えるという話も聞きました。
柳基善(よう・きすん)
1959年大分県生まれ。慶応義塾大学卒。外資系金融機関HSBCの東京支店及びロンドン本店勤務の後に独立、2004年に家事・保育サービスの会社シェヴを創業。(写真:陶山勉、以下同)
柳:駐日大使館職員と、在留資格で「投資・経営」「法律・会計業務」に携わる会社の外国人のトップは、いわば自分たちが雇用主、私どもが「スポンサー」と呼ぶ立場になってフルタイムの外国人スタッフを雇えます。そうした人は各国を転々をされているケースが多く、前任地、例えば香港やシンガポールに駐在していて、そこで雇っていた人を連れてくるケースなども多いようですね。
昨年、いわゆる出入国管理法が改正された流れの中で、外国人企業経営者の場合は家事使用人の最低月収が月額20万円という規定も設けられました。投資・経営の企業関係者が雇うケースに関しては、リーマンショック以降減少しているという話も聞いています。
外国からの「家事使用人」が約1270人働いている
会社関係の外国人で「スポンサー」になれる人は、日本語が話せず、かつ12歳以下のお子さんがいるご家庭です。ちなみに駐日大使館職員にはそうした制約はありません。「家事使用人」として、全国で1270人ぐらいが入国しています。うちフィリピン人が約1000人と突出して多いですね。人気があるのです。
一方、当社の場合はそうした方たちではなく、永住権のあるフィリピン人の方たちをご紹介しています。フィリピン人は現在、全国に20万人住んでいます。うち女性が15万人以上と多く、彼女たちは1都3県だけで6万人以上います。そうした人の中で現在、日本の男性と結婚されていたり、過去に結婚していて以前の夫との子どもと日本に引き続き住んでおられたりする方に、家事代行の仕事をされる方が結構いらっしゃるということです。
例えばTPP(環太平洋経済連携協定)で移民受け入れをできるようにし、共働き家庭にとってフィリピン人など外国人スタッフを雇いやすい状況になったら、現在よりも利用しやすくなる可能性もあるのでしょうか。
柳:弊社の定期サービスの家事代行は3時間9000円ですが、日本人もフィリピン人も一緒です。大体月平均で、4~5万円程度使っておられるご家庭が多いです。月に5、6回利用する感じでしょうか。ある「家事代行にいくらぐらいなら使っていいか」を聞いた調査では、「月に1万2000円~1万3000円ぐらいしか使いたくない」という人が多いそうです。平均してみてみると、やはり料金がネックです。料金という意味で弊社の最大の競合は、実は、冒頭に紹介した大使館や外資系企業などの「スポンサー」なんです。
どういうことですか?
柳:大使館勤務の外国人や外資系企業の経営者などがスポンサーになって雇いたい外国人のビザを取得し、家事使用人として直接雇います。しかしフルタイムで雇っても実際には週に1度程度でいいとなる場合もあるし、スポンサーが突然帰国してしまうこともある。
すると、雇われた方は困ってしまいますので、生活するためほかの働き先を見つけざるを得ない。そこで、本人に対するビザ発行の条件になっている投資・経営関係や大使館関係の雇い主を見つけるのは、恐らく難しいでしょう。スポンサーから口コミで日本の富裕層などを紹介してもらうパターンもある。すると、水面下で雇ってもらうことになる。この場合は仲介業者が入らない直接契約なので3時間4500円などで雇われたりするんですよ。当社の半分です。
最近は減ってきましたが、弊社も過去に大勢、そうした外国人の方から「働かせてほしい」という相談がきました。当然、弊社の場合、彼女たちを受け入れてしまうと違法になるので、お断りしていましたが。
そう言えば実態をよく知る法曹関係者の方から、「大使館関係者が2人雇うことにしてビザを取得させ、実際は1人しか使わず、もう1人は日本人のために働いている」などという話も聞きました。
柳:例えば雇い主が子供を通わせているインターナショナルスクールでの口コミで知り、日本人家庭が格安でフィリピン人を雇うというようなケースもあります。麻布近辺だと、外国人向けの高級スーパーの掲示板に仕事探しの案内が貼ってあることもありましたよ。コネがない人は、ああしたところで探すんでしょう。それも、実際は法律違反ですけれど。
一般人より割安に外国人を雇っている富裕層
しかし、富裕層が雇う方が、なぜ日本の一般人が国内市場で雇うよりも料金が安いんですか。
柳:海外の人は、世界的な相場観で考えるから、料金に敏感なのです。それでも人気のある人は世界で引っ張りだこですよ。日本人の場合、料金は高くても結構そのまま受け入れてしまいますが、外国人は料金が高いとまず承諾しないで交渉してきます。その分、契約した後はあまり細かいことは言いませんが。スタッフを一度気に入ると、我々のような会社を通さず、抱え込みたいという声はよくありますが、当社ではスタッフのそうした行為は禁止しています。
3時間9000円と4500円では大違いです。つまり日本では、経済的にかなり余裕のある人の方が、一般料金よりはるかに安く家政婦を雇っていることも多いと。
家事代行は、フィリピン人の方が優秀?
柳:それでも日本市場でなら、弊社の3時間9000円という料金設定は、富裕層向けをうたう割には安い方ではないですか。日本の家事代行会社の中には、家事手伝いの延長のような感じで人を派遣しているところもあって、課題はサービスの質の向上です。同じ料金なのに個人によるスキルの差も大きいですから。当社では、スキルにばらつきが出ないよう、教育研修を徹底しています。プロの家政婦は、家庭の主婦とは違うのです。日本人のスタッフは50歳以上の方が多いですが、「自分のおうちと同じようにお掃除しないでくださいね」と言っています。
家事代行に関して、日本人に比べ、フィリピン人スタッフの方が優秀だという話も聞きます。なぜですか。
柳:きっと、外国人富裕層のお宅で働いた経験がある方が多いからでしょう。外国人のお宅って、平均的な日本人のお宅と違ってごちゃごちゃモノがないんですね。いつお客さんが来てもいい感じで緊張感があり、とにかく見せ方がとてもうまい。クッションの置き方、ベッドメークのやり方などにも作法や特徴がある。当社も、そうした外国人のお客様から教えていただくことが多いです。既に家政婦経験のあるフィリピン人スタッフは過去にそれを見て体験的に学んでいるため、センスがいい。あと、喜んでもらうことを幸せに感じる国民性もあるかもしれません。
日本では、子供の英語教育目的などで外国人スタッフに興味を持つ人々は増えている一方で、全体を見渡せば家事代行サービスは、よその人に家の中を見られたくないなど心理的なハードルも大きいのではないでしょうか。
柳:そこは業界全体の悩みです。トレンド総研による、子供がいる30歳~69歳の既婚女性に対する調査では、家事代行サービスを含む家政婦を使ったことのある人は5%に過ぎません。一方、野村総合研究所のデータを見ると、一度でもサービスを使った人は70%近くが「ぜひ利用したいと思う」か「まあ利用したいと思う」と答えているんですね。最初の心理的ハードルは高いんですが、一度利用すると良さが分かるということです。
柳:また、日本人でこの仕事をしたいという人があまり多くないのも頭が痛いです。採用が難しい。でもフィリピン人は、人のお世話をしたいという国民性もあってか、希望する方が多いのですよ。お客様側でも日本人同士だと気を遣うので、プライバシーの問題などから若いフィリピン人を敢えて希望される人もいます。
家事代行費用を控除するなど、支援を
ところで、家事代行サービスの市場規模はどれくらいですか。
柳:ダスキン、おそうじ本舗、カジタク、ベアーズなどが家事代行サービスの大手ですが、新興業者もたくさん出ています。市場規模は様々な試算がありますが、大体1500億円~2000億円ぐらいと言われています。正直言って、まだまだ市場は「未開拓」ですよ。供給側が、人材やサービスの質も含めて信頼されるような体制を整えきれていないのが大きいと思っています。
外資系金融機関関係者など外国人顧客も多く、英語で対応できるスタッフがいる
料金の問題は大きいですね。例えば当社の紹介を通じて、フルタイムスタッフとの間で当社を通さない直接契約した場合でも、大体月20万~25万円はかかります。ほとんど、一般的な共働きの稼ぎの1人分をそのまま使ってしまうような金額で、高いです。一部の外国人に対して認めているような条件付きの移民受け入れなどがすぐには無理でも、例えばフルタイムの共働きで小さいお子さんがいる場合などに限って、家事代行・ベビーシッター費用を所得から控除するなどで、実質の月々の負担が10万~15万円ぐらいに抑えられる制度があればもう少しサービスが利用しやすくなるのではないかと思います。
今、共働き家庭の保育については「認可保育所を増やしましょう」とか、一時的に子供を預けられる「保育ママを増やしましょう」とか、基本的には預けに行く施設型のことばかりを中心に議論されています。でも家事代行も含めた在宅保育の方が、今後は伸びるのではないでしょうか。
家事は家事代行に時々頼み、子供は毎日、大きな荷物を抱えて保育園まで預けに行き、病気になった時は病児保育サービスに預けて…と日々使い分けるより、いっそ在宅でまとめて1人に任せられる方が楽です。その方が、仕事に育児に家事にと毎日、頑張っているお母さんたちのためになるんじゃないでしょうか。こうしたサービスはどうしても高級なイメージがつきまとうのですが、家事負担が重くて大変な共働き家庭を中心に、ニーズはかなりあるのではないかと思いますね。
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「フィリピン人家政婦? 今だって日本で雇えますよ」
富裕層向け家事代行サービス「シェヴ」柳基善CEO(最高経営責任者)に聞く
広野 彩子
バックナンバー2013年10月4日(金)
安倍政権は成長戦略の中で、ベビーシッターやハウスキーパーなどの経費負担を軽減する策を検討すると打ち出している。実際、働く親にとって最も重い労働の1つは家事だ。家事代行サービスを利用する家庭は増えてきている。子供への英語教育や家事の実力などの側面から、外国人ベビーシッターやハウスキーパー、とりわけフィリピン人によるサービスにも関心が集まっている。
日本人は国内では法律上、フィリピンなどの外国人を直接、海外から連れてきて雇うことはできないが、実際には、国内で「外国人家政婦」を雇っている人々も存在しているという。主に富裕層や在日外国人向けにフィリピン人を含む外国人を派遣している家事代行会社シェヴ(本社・東京都港区青山)の柳基善CEO(最高経営責任者)に、家事代行サービスに対するニーズや、家事代行サービス市場の実態などについて聞いた。
(聞き手は広野彩子)
御社では、派遣するスタッフの中にフィリピン人女性が大勢いると伺いました。
柳:そうです。ベビーシッターや家事代行を担うスタッフら250人のうち、100人以上がフィリピン人をはじめとする外国人です。金融機関などの外国人駐在員のご家庭だけでなく、日本人の富裕層や一般のご家庭にスタッフを派遣しています。
一部の企業の外国人駐在員や駐日大使館職員は、「家事使用人」として外国人を雇えるそうですね。しかも企業関係者の場合は払うべき報酬や条件に制約があるけれど、駐日大使館職員の場合はそうした制約もなく、2人まで雇えるという話も聞きました。
柳基善(よう・きすん)
1959年大分県生まれ。慶応義塾大学卒。外資系金融機関HSBCの東京支店及びロンドン本店勤務の後に独立、2004年に家事・保育サービスの会社シェヴを創業。(写真:陶山勉、以下同)
柳:駐日大使館職員と、在留資格で「投資・経営」「法律・会計業務」に携わる会社の外国人のトップは、いわば自分たちが雇用主、私どもが「スポンサー」と呼ぶ立場になってフルタイムの外国人スタッフを雇えます。そうした人は各国を転々をされているケースが多く、前任地、例えば香港やシンガポールに駐在していて、そこで雇っていた人を連れてくるケースなども多いようですね。
昨年、いわゆる出入国管理法が改正された流れの中で、外国人企業経営者の場合は家事使用人の最低月収が月額20万円という規定も設けられました。投資・経営の企業関係者が雇うケースに関しては、リーマンショック以降減少しているという話も聞いています。
外国からの「家事使用人」が約1270人働いている
会社関係の外国人で「スポンサー」になれる人は、日本語が話せず、かつ12歳以下のお子さんがいるご家庭です。ちなみに駐日大使館職員にはそうした制約はありません。「家事使用人」として、全国で1270人ぐらいが入国しています。うちフィリピン人が約1000人と突出して多いですね。人気があるのです。
一方、当社の場合はそうした方たちではなく、永住権のあるフィリピン人の方たちをご紹介しています。フィリピン人は現在、全国に20万人住んでいます。うち女性が15万人以上と多く、彼女たちは1都3県だけで6万人以上います。そうした人の中で現在、日本の男性と結婚されていたり、過去に結婚していて以前の夫との子どもと日本に引き続き住んでおられたりする方に、家事代行の仕事をされる方が結構いらっしゃるということです。
例えばTPP(環太平洋経済連携協定)で移民受け入れをできるようにし、共働き家庭にとってフィリピン人など外国人スタッフを雇いやすい状況になったら、現在よりも利用しやすくなる可能性もあるのでしょうか。
柳:弊社の定期サービスの家事代行は3時間9000円ですが、日本人もフィリピン人も一緒です。大体月平均で、4~5万円程度使っておられるご家庭が多いです。月に5、6回利用する感じでしょうか。ある「家事代行にいくらぐらいなら使っていいか」を聞いた調査では、「月に1万2000円~1万3000円ぐらいしか使いたくない」という人が多いそうです。平均してみてみると、やはり料金がネックです。料金という意味で弊社の最大の競合は、実は、冒頭に紹介した大使館や外資系企業などの「スポンサー」なんです。
どういうことですか?
柳:大使館勤務の外国人や外資系企業の経営者などがスポンサーになって雇いたい外国人のビザを取得し、家事使用人として直接雇います。しかしフルタイムで雇っても実際には週に1度程度でいいとなる場合もあるし、スポンサーが突然帰国してしまうこともある。
すると、雇われた方は困ってしまいますので、生活するためほかの働き先を見つけざるを得ない。そこで、本人に対するビザ発行の条件になっている投資・経営関係や大使館関係の雇い主を見つけるのは、恐らく難しいでしょう。スポンサーから口コミで日本の富裕層などを紹介してもらうパターンもある。すると、水面下で雇ってもらうことになる。この場合は仲介業者が入らない直接契約なので3時間4500円などで雇われたりするんですよ。当社の半分です。
最近は減ってきましたが、弊社も過去に大勢、そうした外国人の方から「働かせてほしい」という相談がきました。当然、弊社の場合、彼女たちを受け入れてしまうと違法になるので、お断りしていましたが。
そう言えば実態をよく知る法曹関係者の方から、「大使館関係者が2人雇うことにしてビザを取得させ、実際は1人しか使わず、もう1人は日本人のために働いている」などという話も聞きました。
柳:例えば雇い主が子供を通わせているインターナショナルスクールでの口コミで知り、日本人家庭が格安でフィリピン人を雇うというようなケースもあります。麻布近辺だと、外国人向けの高級スーパーの掲示板に仕事探しの案内が貼ってあることもありましたよ。コネがない人は、ああしたところで探すんでしょう。それも、実際は法律違反ですけれど。
一般人より割安に外国人を雇っている富裕層
しかし、富裕層が雇う方が、なぜ日本の一般人が国内市場で雇うよりも料金が安いんですか。
柳:海外の人は、世界的な相場観で考えるから、料金に敏感なのです。それでも人気のある人は世界で引っ張りだこですよ。日本人の場合、料金は高くても結構そのまま受け入れてしまいますが、外国人は料金が高いとまず承諾しないで交渉してきます。その分、契約した後はあまり細かいことは言いませんが。スタッフを一度気に入ると、我々のような会社を通さず、抱え込みたいという声はよくありますが、当社ではスタッフのそうした行為は禁止しています。
3時間9000円と4500円では大違いです。つまり日本では、経済的にかなり余裕のある人の方が、一般料金よりはるかに安く家政婦を雇っていることも多いと。
家事代行は、フィリピン人の方が優秀?
柳:それでも日本市場でなら、弊社の3時間9000円という料金設定は、富裕層向けをうたう割には安い方ではないですか。日本の家事代行会社の中には、家事手伝いの延長のような感じで人を派遣しているところもあって、課題はサービスの質の向上です。同じ料金なのに個人によるスキルの差も大きいですから。当社では、スキルにばらつきが出ないよう、教育研修を徹底しています。プロの家政婦は、家庭の主婦とは違うのです。日本人のスタッフは50歳以上の方が多いですが、「自分のおうちと同じようにお掃除しないでくださいね」と言っています。
家事代行に関して、日本人に比べ、フィリピン人スタッフの方が優秀だという話も聞きます。なぜですか。
柳:きっと、外国人富裕層のお宅で働いた経験がある方が多いからでしょう。外国人のお宅って、平均的な日本人のお宅と違ってごちゃごちゃモノがないんですね。いつお客さんが来てもいい感じで緊張感があり、とにかく見せ方がとてもうまい。クッションの置き方、ベッドメークのやり方などにも作法や特徴がある。当社も、そうした外国人のお客様から教えていただくことが多いです。既に家政婦経験のあるフィリピン人スタッフは過去にそれを見て体験的に学んでいるため、センスがいい。あと、喜んでもらうことを幸せに感じる国民性もあるかもしれません。
日本では、子供の英語教育目的などで外国人スタッフに興味を持つ人々は増えている一方で、全体を見渡せば家事代行サービスは、よその人に家の中を見られたくないなど心理的なハードルも大きいのではないでしょうか。
柳:そこは業界全体の悩みです。トレンド総研による、子供がいる30歳~69歳の既婚女性に対する調査では、家事代行サービスを含む家政婦を使ったことのある人は5%に過ぎません。一方、野村総合研究所のデータを見ると、一度でもサービスを使った人は70%近くが「ぜひ利用したいと思う」か「まあ利用したいと思う」と答えているんですね。最初の心理的ハードルは高いんですが、一度利用すると良さが分かるということです。
柳:また、日本人でこの仕事をしたいという人があまり多くないのも頭が痛いです。採用が難しい。でもフィリピン人は、人のお世話をしたいという国民性もあってか、希望する方が多いのですよ。お客様側でも日本人同士だと気を遣うので、プライバシーの問題などから若いフィリピン人を敢えて希望される人もいます。
家事代行費用を控除するなど、支援を
ところで、家事代行サービスの市場規模はどれくらいですか。
柳:ダスキン、おそうじ本舗、カジタク、ベアーズなどが家事代行サービスの大手ですが、新興業者もたくさん出ています。市場規模は様々な試算がありますが、大体1500億円~2000億円ぐらいと言われています。正直言って、まだまだ市場は「未開拓」ですよ。供給側が、人材やサービスの質も含めて信頼されるような体制を整えきれていないのが大きいと思っています。
外資系金融機関関係者など外国人顧客も多く、英語で対応できるスタッフがいる
料金の問題は大きいですね。例えば当社の紹介を通じて、フルタイムスタッフとの間で当社を通さない直接契約した場合でも、大体月20万~25万円はかかります。ほとんど、一般的な共働きの稼ぎの1人分をそのまま使ってしまうような金額で、高いです。一部の外国人に対して認めているような条件付きの移民受け入れなどがすぐには無理でも、例えばフルタイムの共働きで小さいお子さんがいる場合などに限って、家事代行・ベビーシッター費用を所得から控除するなどで、実質の月々の負担が10万~15万円ぐらいに抑えられる制度があればもう少しサービスが利用しやすくなるのではないかと思います。
今、共働き家庭の保育については「認可保育所を増やしましょう」とか、一時的に子供を預けられる「保育ママを増やしましょう」とか、基本的には預けに行く施設型のことばかりを中心に議論されています。でも家事代行も含めた在宅保育の方が、今後は伸びるのではないでしょうか。
家事は家事代行に時々頼み、子供は毎日、大きな荷物を抱えて保育園まで預けに行き、病気になった時は病児保育サービスに預けて…と日々使い分けるより、いっそ在宅でまとめて1人に任せられる方が楽です。その方が、仕事に育児に家事にと毎日、頑張っているお母さんたちのためになるんじゃないでしょうか。こうしたサービスはどうしても高級なイメージがつきまとうのですが、家事負担が重くて大変な共働き家庭を中心に、ニーズはかなりあるのではないかと思いますね。