梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記番外・上諏訪探訪記

2005年07月27日 | 芝居
本日は「移動日」でございました。松本から各々の自宅へと帰るだけですので、どういう行程になってもよし。そこで今日は、この巡業中に常磐熱海温泉へ御一緒させて頂いた先輩と、再び連れ立ちまして、上諏訪にございます諏訪大社上社本宮と、上諏訪温泉を訪れました。
諏訪の地は、私が八月の勉強会で出演する『本朝廿四孝』の舞台となっている土地でございます。私が勤めます武田勝頼が、花道を引っ込む時の義太夫は「塩尻さして急ぎゆく」。仕事の上とはいえ、折角近くまで来られたのですし、御一緒の先輩も、やはり勉強会でこの芝居に出演されますので、ゆかりの地にまつられた諏訪大社に参詣し、勉強会の成功祈願をするのが目的でございます。
午前九時五十五分松本発の「あずさ」に乗って上諏訪駅へ。三十分ほどで到着です。駅前の観光案内所で、地図をもらい、市営バス「かりんちゃんバス」に乗って諏訪大社を目指します。「かりんちゃんバス」は車体にカリンの実をキャラクター化したマスコットが描かれた可愛いもの。カリンは諏訪市のシンボルだそうで、よくみると街路樹としてもあちこちで植えられておりました。
さて二十分ほどで到着した諏訪大社上社。下諏訪市には下社がございます。山を背にした境内は広々としており、杉やあすなろの巨木がいくつも聳えたっておりました。苔むした木肌からは、風格と申しましょうか、揺るぎない存在感がひしひしと感じられます。こうした木々にしても、あるいは石塔、灯篭にしても、長い歴史をくぐり抜けることで、はじめて深い味わいが出るものですね。私達俳優も一緒です!
さて、蝉の声に包まれながら回廊をめぐり、本殿へ参拝。玉砂利が敷き詰められた空間はますます神聖さを深めます。勉強会の成功、技芸上達、そして常に気を緩めずに役に向かい合っていけるように祈願。ちとあれこれ頼み過ぎですかね。最後は社務所でお札と肌守を頂きました。勉強会の公演中は、鏡台にお札をおまつりし、肌守を身につけて舞台に出ることといたしましょう。
大社を辞して再び駅前に戻るのですが、バスの時刻が丁度よいのがなく、タクシーを使うことに。電話で配車をお願いし、来るまでの間は、参道のお土産物やさんで「おやき」と心太をいただきました。熱々のおやきには、お店特製の青唐辛子味噌をつけて頂きましたが、これがぴりからでなかなかおいしい。心太も酢醤油と辛子で頂きましたが、御存知のように前の晩(というか今日の朝まで)遊びほうけた体が、辛さと酸っぱさで、しゃきっとする思いでした。

タクシーで駅前の温泉街へと参ります。立ち寄り湯が可能な宿を探し、「信州・上諏訪温泉 ぬのはん」さんへお邪魔いたしました。入浴料は一人千円。泉質はアルカリ泉で、ぬめりはそれほどないのですが、肌触りは滑らかなお湯でございました。ちょっと熱めの露天風呂で半身浴。うっすらと汗をかいてくると、風がとても気持ちよく感じられます。のんびり体をほぐしながら浸かっていると、幸せな気分になりました。
湯上がり後は近くの蕎麦屋「八洲(やしま)」で、諏訪の地ビール、焼酎の蕎麦湯割りなど頂きながら蕎麦をたぐりました。食べながら話しながらのうちに気がつけば帰りの電車の時間がせまっておりました。午後二時二十分の「スーパーあずさ」で新宿まで。車中では先輩も私も、心地よい夢の世界に入り込んでおりました。
四時半過ぎに新宿に到着、先輩と別れ、私はそのまま「湘南新宿ライン」で実家へ帰りました。明日は横須賀公演なので、実家からのほうが通いが楽なのです。

今日の小旅行、芝居ゆかりの土地での成功祈願に立ち寄り温泉。楽しくも充実した素敵な一日となりました。思えばこの巡業中には、盛岡街歩き、出雲サイクリングをはじめ、たくさんの名所旧跡、温泉を訪ねることができました。今回の公演日程が、とても余裕のあるスケジュールとなっていたおかげなのですが、巡業というものが、いつもこのようなものとは限りません。一日二回公演ばかりだったり、「移動日」「休演日」が全然ないことも多いのです。毎年毎年日程は変わるもので、たまたま今回が、素敵に自由のきく行程となったというわけでございます。
今後しばらく巡業に出ることはないのですが、いつかまた、今回みたいな楽しい旅ができればな、と思います。
では、これから千穐楽まで、残り三日の『巡業日記』、最後までおつき合い下さいませ。