梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

風待月稽古場便り・参

2007年05月31日 | 芝居
本日は『妹背山婦女庭訓』の<舞台稽古>と『侠客春雨傘』の<舞台にて総ざらい>でした。
『妹背山』は明日も<初日通り舞台稽古>がございますので、今日は衣裳のみというスタイル。不思議なもので化粧をしないとあまり重ね着が暑く感じられません。やはり白塗りは皮膚呼吸を妨げているのかしら…。
5年ぶりの「吉野川」が、やっぱり大変でした。数多くの出道具のや立ち木の位置からはじまり、芝居中の鶯笛、障子の開閉、師匠の拵えがえに<浪衣>を着ての川の中の作業。兄弟子弟弟子はもちろんのこと、山城屋(藤十郎)さん、高麗屋(幸四郎)さんのお弟子さんと一緒の団体仕事もございます。1時間50分近い大作は、裏の仕事も楽ではございません!

『春雨傘』は、高麗屋(染五郎)さんのご長男、齋(いつき)さんの<初お目見え>。手を引かれて歩く姿がモウ可愛い~。師匠はお大尽役に扮し、お祝いの舞台にご一緒いたします。助六や御所の五郎蔵といった<男伊達物>のエッセンスを凝縮したようなひと幕。お楽しみに。

…久しぶりに全身マッサージをうけ、あまりの気持ちよさに寝てしまいました。女形を集中して演じるようになり、使う筋肉も変わってきたようで、いつもと異なる部分の凝りを指摘されました。

風待月稽古場便り・貳

2007年05月30日 | 芝居
本日は『妹背山』の<総ざらい>でした。
総ざらいは、衣裳や小道具以外はほぼ本番通りに進行するのがもっぱらで、ツケ打ちも入りますし柝も刻まれるわけですが、効果音も同様に用いられます。
「吉野川」の幕開きに、オキの浄瑠璃の合間に鶯の鳴き声が入りますが、これは弟子が“鶯笛”を吹いて聞かせるのです。今回は私が担当させて頂くことになりました。初めて吹くので緊張いたしますが、今日の総ざらいでの<初鶯>、なんとか無事に吹くことができました。間合いや音色にまだまだ勉強しなくてはならない点がございますが、今月は舞台稽古が2回ありますので、しっかりお稽古させて頂いた上、初日を迎えたいと思います。

さて、今日のお稽古に先立ちまして、早稲田大学小野記念講堂にて、『第70回 逍遥祭』の企画として《父中村歌右衛門の淀君》と題した講演が催され、師匠梅玉が講師として演壇にお立ちになりました。
私も同行させて頂きまして、舞台袖から拝聴いたしましたが、坪内逍遥氏作の『沓手鳥孤城落月』や『桐一葉』で淀君役を度々演じてこられた大旦那、6世中村歌右衛門の、淀君役に対する姿勢や舞台姿にはじまり、歌舞伎の諸役全般に通じていた<心>や<芸>の大きさを、おそばにいらした立場から1時間ほどお話しになり、浅学若輩の身としては大変ためになることばかりでした。お客様の質問コーナーも、面白うございましたよ。

演劇博物館にもお邪魔することができ、初めて足を踏み入れた<早稲田大学>で、楽しいひとときを過ごせました。学生の皆さんのエネルギー、活気がものすごくて、私てっきりイベント期間中なのだと思っていましたら、講演会担当の方から「毎日こんなですよ」と言われてビックリした次第…。
ちなみにハンカチ王子には会えませんデシタ。

風待月稽古場便り・壱

2007年05月29日 | 芝居
2日間の充電を経て、歌舞伎座6月大歌舞伎の稽古が始まりました。
今日は『妹背山婦女庭訓』の<附立>。今回は「小松原」「花渡し」「吉野川」の3幕構成で、いわば<半通し>でございます。蘇我対藤原の政権争いの陰ではかなく散ってゆく若き男女の悲恋、そして親たちの苦悩がよりわかりやすくなるのではないでしょうか。
私が演じます「小松原」の腰元は、出番も短く、とりたてて仕事もないのですが、早春の野辺に姫君のお供で遊山に来たわけですので、少しでもそういう気分が出せればと思います。そこにいる<だけ>のお役でも、おしつけがましくない“風情”がある役者になりたいのです。

「花渡し」をはさんで、大曲「吉野川」となりますが、ここでは師匠演じます久我之助の用事を色々と。この場に携わりますのは平成14年正月公演以来です。割合裏の仕事が多い演目でございまして、おいおいお話しさせて頂きたいと思いますが、今日は兄弟子と打ち合わせをしながら、師匠の演技を拝見いたしました。

午後3時の<顔寄せ>で手締めをし、今日の仕事は終了。それから渋谷に向かいまして、シアターコクーンでの『藪原検校』を拝見してまいりました。
井上ひさしさんの傑作戯曲を蜷川幸雄さんが演出。『天保十二年のシェイクスピア』以来の企画です。親の因果で盲目に生まれついた杉の市(古田新太さん)が、悪事の限りを尽くして金と権力をつかみ取る、その栄光と転落を描いた痛快一代記。小学生の頃、新潮文庫で戯曲は読んでいたのですが、あらためて舞台で観ることで、主人公が背負う、ハンデを負った者の哀しみ、力強い<生>への執着、あるいは健常者中心に動く社会の残酷さが迫ってまいりました。
古田さんはじめ、段田安則さん、壤晴彦さん六平直政さんといった個性的な男優陣の魅力があふれる芝居でした.


帳面付けと話し合い

2007年05月28日 | 芝居
お休み2日目は勉強会の事務作業を集中的に行いました。午後6時からは出演者のほぼ全員が集まっての全体会議。改めて今回の公演に向けての連絡事項と取り決めを行いました。
本チラシ、ポスターも完成し、いよいよ宣伝活動も本格始動です。私も、日頃お邪魔しているお店にポスターを掲示して頂くべく、連絡をとり始めました。有難いことにどちらも快くご協力下さり、より多くの方々に合同公演のお知らせができそうです。
一般販売も間近となりましたが、チケットに関しましてのお問い合わせは、このブログ(コメント欄やウェブメール)でも受け付けております。ポスターを飾って頂いたり、チラシを置いて頂ける場所も募集しておりますので、もしご協力頂けますのなら、是非是非ご連絡下さいませ!

内輪話になるかもしれませんが、例年の2部制ですと4日間で8回公演でしたが、今回は5日間で12回公演となりまして、これまで以上に宣伝活動、販売を頑張らねばなりません。お一人でも多くの方々に私たちの修行の成果をご覧頂きたいと存じますので、皆様のご協力をひとえにお願い申し上げます。

さて明日から始まる歌舞伎座6月大歌舞伎のお稽古。私は昼の部『妹背山婦女庭訓』の「小松原の場」で<腰元>で出演させて頂きます。「小松原」は研修生時代に1回観ただけですので、馴染みの少ない芝居です。お稽古場で、諸先輩方から教わりながら。時代物らしい格を大事に演じたいと思います。
稽古場便り、お楽しみに!

ミッキミッキミッキミッキ…

2007年05月27日 | 芝居
歌舞伎座6月公演のお稽古が、29日からとなりまして、今日明日は久しぶりの連休となりました!
そこでお休み1日目に行ってきたのが…。
ディズニーシー!!
ディズニー大好きの家内とともに、3年ぶりに訪れたのですが、いや~楽しい楽しい! 携帯の電源を切りっぱなしにして、芝居のことは完全忘却。気分転換憂さ晴らし、心の洗濯リフレッシュ、心の底から夢の国を満喫いたしました。

今回はできる限りショーを見ることにし、<レジェンド・オブ・ミシカ>、<ビックバンドビート>、<ミスティックリズム>を鑑賞。残念だったのは強風のため一番の楽しみだった<ブラヴィッシーモ!>が中止になったことですが、スタンダードジャズナンバーに合わせてディズニーの仲間たちが踊る<ビックバンドビート>のノリノリ感、本水本火に宙乗りと、見せ場盛りだくさんの<ミスティックリズム>は大変面白かったですね。
アトラクションでは<タワー・オブ・テラー>はもちろんのこと、<レイジングスピリッツ>、<ストームライダー>、<インディージョーンズ・アドベンチャー>など。絶叫マシン大好きな私には、垂直落下の<タワー・オブ・テラー>くらいがちょうどいい具合。あとはちょっと物足りない気がいたしますが、その分ストーリー性やビジュアルの面白さはやっぱりディズニーのすごさですね。

昼過ぎから午後10時の閉園まで居続けて大満足の1日でした。

《余談》
1、ここで売られているメイプルシロップ味のチュロスはオススメです。サックリしていてあったかくて、食べ応え十分です。
2、<海底2万マイル>の船内に流れるナレーション、あれ江守徹さんですよね…?

俳優祭!!

2007年05月26日 | 芝居
大盛況の<俳優祭>、無事に終了いたしました!
お陰様で、師匠が担当いたしました2階吹き抜けの画廊コーナーは、昼夜ともに売り切れ完売!! 大変な人気で、幕間時間終了前に全ての作品を売り切ることができました。お買い頂いた皆様に改めて御礼申し上げます。
私が踊らせて頂いた<山鹿灯籠踊り>も無事勤めおおせました。みんなとイキを合わせながらの踊りでしたが、緊張しすぎず気も抜けず、いいコンディションで取り組めました。お客様の反応も予想以上に良く、大いに安心、そして伸び伸びと演じることができてよかったです。
『白雪姫』如何でしたか? 豪華配役による名演はさることながら、終盤の<北千住観音>の演技、当事者ながら素晴らしかったと思います。名題下の面々が5月興行の合間をぬって稽古いたしました見せ場。面白くもまた本格の芸披露となったと思います。

毎回思うことですが、ご来場頂いた皆様のお気持ち、お力添えがあってこそ成り立つ1日だけの公演。単にお客様と役者の交流という以上の、大きな成果がある催しでございます。私も売り子として、大きな声を張り上げてしまいましたので、少々声枯れ気味ですが、皆様から大きな力を頂きました。この場をかりて御礼申し上げますとともに、末永く歌舞伎をご愛顧下さいますよう、お願い申し上げたてまつります。
…このブログをご覧頂いている方とも、直接お目にかかることができました。イメージダウンしていなければよいのですが。今日の私が本当の私ですので、その点ご了承頂きたく存じます。
楽しい1日を、本当に有り難うございました!

雨の中、千穐楽

2007年05月25日 | 芝居
<團菊祭 5月大歌舞伎>無事千穐楽を迎えることができました。
『勧進帳』の後見と『女暫』の女奴で、長時間じっと控えるのも今日でおしまい! 季節といい陽気といい、舞台が大変暑うございましたので、なんにもしていなくても、じっとりと汗が浮かんでくる毎日(ことに雨の日の蒸し暑さといったら!)でしたが、それから解放されたと思うと、なんとも嬉しい気分です。

…あいかわらず後見の難しさを感じておりますが、夏の勉強会では再び『勧進帳』の富樫の後見をさせて頂きますので、それまでにはもう少しステップアップしたいなと思います。
女形2役では台詞を頂きましたが、その役<らしく>喋ることができたかどうか。自分ではなんともわかりかねますので、ご意見ご感想など、お聴かせ頂けたらと存じます。

『め組の喧嘩』。今日は千穐楽バージョンでしたね。ご覧になった方、お楽しみ頂けましたか?

<俳優祭>お稽古2日目

2007年05月24日 | 芝居
今日の終演後は『白雪姫』の舞台稽古。
ご存知の童話を歌舞伎風に書き換え、俳優祭向きに見せ所、笑い所満載のこの作品は今回で4演目。初演の白雪姫は6世歌右衛門の大旦那でございます。
この度の上演では、師匠が7人の童(さすがに小人は演じられませんね)のひとりにご出演。私どもは普段の興行と同じように、弟子としての用事を勤めます。…限られた時間の中での稽古でしたので、今日の舞台上でまとめてゆこうという感じ。おかげで本番ではけして見ることができないような爆笑の展開もまま見られ、大変面白いお稽古となりました。もちろん芝居としての整理はきちんとつきましたのでご安心を!

俳優祭でのお芝居は、なにかしらハプニングがおこったり、アドリブや楽屋落ちなど、お客さまも思わずニンマリの場面が盛りだくさんですが、実は私たち出演者も、それを楽しみにしていたり…。
ともあれ26日、運良くチケットを手にした皆様とお会いできますのを楽しみに…。

<俳優祭>お稽古1日目

2007年05月23日 | 芝居
あと5分で日付が変わります。ただいま<俳優祭>のお稽古を終えて帰宅いたしました。
本日は『郷土巡旅情面影(くにめぐりたびのおもかげ)』の舞台稽古。石川県小松市の子供たちが素演奏をお聴かせする、上の巻「勧進帳」は後日のお稽古となりましたので、中・下の巻「山鹿灯籠踊」「阿波踊り」のふたつを、終演後の歌舞伎座の舞台でおこないました。
2演目とも、今日のお稽古で初めて出演者全員がそろうという状態。各地で歌舞伎公演が行われているためとは申せ、全員でのお稽古が舞台稽古1回のみというのはちょっと不安もございました。しかし、監修でいらっしゃる大和屋(三津五郎)さんはじめ、坂東流のお師匠さん方が懇切丁寧に指導して下さいましたので、なんとか無事に通して演じることができました。
歌舞伎座の広い舞台で、私たち名題下の面々が踊らせて頂けるありがたさを、ひしと感じましたが、感激しっぱなしでもいけません。皆と合わせること、行儀よく踊ること。気をつけなくてはいけないことは沢山ございます。楽しく真面目に踊れたらいいと思っております。
灯籠踊りは、その名の通り灯籠を頭に載せて踊るのですが、今回ご当地山鹿から、本物をお借りして使用することになりました。踊りやすいように紙でできているのですが、その細工の素晴らしいこと! 手間ひまのかかった立派な工芸品です。ご覧になる方はちょっと注目してみて下さいね。

「阿波踊り」も楽しい演出、振り付けがなされ、お囃子方の生演奏が迫力満点です。俳優祭のオープニングを飾る3段返し、是非是非お楽しみに!

ここにいるワケ

2007年05月22日 | 芝居
『め組の喧嘩』第2場「八ッ山下の場」で見られるのが<だんまり>。
善悪、敵味方が暗中で探り合うさまを、様式的な演技でみせるのが<だんまり>ですが、お家の重宝がからんだり、主な登場人物が<実ハ◯◯>という正体を隠していたり、衣裳のぶっかえり・引き抜き、六方での引っ込みなどの演出が見られる、古風な<時代だんまり>に対し、この芝居や『四谷怪談』の「隠亡堀」、『十六夜清心』の「稲瀬川川下」で見られるのは<世話だんまり>と申しておりまして、見た目の派手さはないものの、下座の使い方にしても演者の動きにしてもどこか“粋”でございますし、後のストーリーに密接に関わる展開がみられたりいたします。

「八ッ山下」のだんまりでは、相撲取り四ツ車、四ツ車に意趣返しをしようとするめ組の辰五郎を軸に、尾花屋女房おくら、夜回りの杢蔵、そして炊出し喜三郎、計5人が暗闇で探り合うわけですが、ここに炊出し喜三郎が登場するのを不思議に思う方もいらっしゃるようですね。なにしろこの喜三郎、次の出番はこの芝居の最後の最後、神明社内の喧嘩場に止めに入るだけ。筋の展開には関係のないこの<だんまり>に、わざわざ出てくるその意味は? と思われるのはもっともなことでございます。
しかしながら、実はここに喜三郎が出てくるのは大きな意味があるのです。このだんまりの終盤に、辰五郎が莨入れを落としてしまい、それを喜三郎が拾うという芝居があります。続く2幕目「神明社芝居前」の後に、現行の台本では上演されませんが、「炊出し喜三郎内の場」というのがございまして、ここで喜三郎が、訪ねてきた辰五郎に、くだんの莨入れを見せ、八ッ山下で四ツ車を襲ったのが辰五郎であることを、この莨入れから知ったということを語り、ひいては辰五郎が相撲を相手に大喧嘩を目論んでいるいことを見破り意見するという芝居があるのです。
このように、<だんまり>で起こった出来事が、さらに展開したり、謎解きのように解決することを、<だんまりほどき>と呼んでおりますが、この「喜三郎内の場」では、騒ぎを大きくしてはならないという自分の意見を受けながらも、なおも男の意地を捨てられない辰五郎に、喜三郎も最後は得心、骨は俺が拾ってやると、別れの盃を交わすことになるのです。

…というわけで、「浜松町辰五郎内の場」は、辰五郎が喜三郎の家から帰ってくるところから始まるという設定です。もちろん台詞には書かれておりますが、この場に至るまでどんな物語があったのか、わかっていると興趣もますます深まるのではないでしょうか。
ちなみに、この芝居は竹柴其水の作ですが、「喜三郎内の場」は、師匠である河竹黙阿弥が筆を執ったといわれております。

ぼそりひと言

2007年05月21日 | 芝居
<團菊祭>もあと4日となりました。
思いのほか忙しい毎日となり、勉強会の事務作業などもありまして、ブログの更新が少々怠け気味になってしまい、申し訳なく思っております。これから<俳優祭>の稽古も入るので、ますます無沙汰をしてしまうかもしれませんので、あらかじめお断り申し上げます。

来月も歌舞伎座。ついに7ヶ月目となります。師匠は昼の部のみ、『妹背山婦女庭訓』『侠客春雨傘』に出演なさいますが、さて私はどうなりますでしょうか…。

髪の毛も芝居する?

2007年05月20日 | 芝居
先月の歌舞伎座でのこと。楽屋棟3階の流し場で、床山さんがなにやら作業中でした。
見ると、1人前のスパゲティくらいの太さの毛の束を水に浸けて洗っているようでした。何をなさっているのか伺いましたら、
「毛にしみ込んだ鬢付け油を落としてるんです」
とのこと。
鬘を結い上げるためには、土台に植え付けられた毛全体に<鬢付け油>をなじませなくてはなりません。<鬢(びん)><髷(まげ)><髱(たぼ)>など、各部分を美しく形作り、舞台での動きにも崩れにくくなるというわけですが、では何故その油を落としてしまうの? と思ったのですが……。
実はこの洗った毛、今月の『め組の喧嘩』の鳶の面々の<髷>に使われているんです。正確に言えば、髷から前面に伸びる<刷毛先>にかけて、つまり皆様が<チョンマゲ>と呼んでいる部分ですね。
この刷毛先の部分に油がしみ込んでいないと、毛同士のまとまりが弱くなるわけで、自然と毛先がばらけてまいります。『め組の喧嘩』で大勢出てくる鳶たちは、みな喧嘩の真っ最中。つまり、争っているうちに髪が乱れてしまったことを表現するための工夫ということだったのです。たしかに普段のように刷毛先まで油で固めてしまっては、いつまでも<お行儀よい>ままで、臨場感、雰囲気が変わってしまいますよね。…鬘が<表情>を変える。細かいことかもしれませんが、しかし大切な知恵だと思います。

熱湯につけ、石鹸などで揉みながら油を落とすそうですが、そんな手間ひまかかった作業のおかげで、め組役の人々が、舞台でますます格好良く見えるのかもしれませんね!

三社祭の夜

2007年05月19日 | 芝居
劇場からの帰り道、三社祭の賑わい残る浅草を家内とともに散歩してきました。
いつもは8時にもなれば閑散とする通りにも、法被姿の兄ィ連や出店目当ての子供たちが行き交い結構な人出。浅草寺境内に入りますと、石段に座り込んで焼きそばやらたこ焼きをパクついたり、ビール片手に談笑する人たちでごったがえし、いかにもこの土地らしい祭の夜の情景ではございました。
浅草神社境内には一之宮から三之宮までの神輿が据えられておりました。間近に拝見しますと、その迫力はもちろんのこと、細かいところまで手の入った細工や彫り物の美しさが目を惹きます。一体どれくらいの重さがあるのでしょうか…。

たちのぼる匂いに心奪われて、屋台でたこ焼きと焼きそばを食べてしまいました。もちろん家でも晩ご飯はとりましたが…。

下手から見る『勧進帳』

2007年05月18日 | 芝居
今回、初めて『勧進帳』の義経の後見をさせて頂いておりますが、これまで数度勤めさせて頂いた富樫の後見とはかわり、舞台の<下手>から芝居を見守ることになり、とても新鮮な感じがいたしております。
富樫の後見は上手にたった1人ですが、下手には私の他に、弁慶の<シン後見><ツケ後見>のお2人、計3人が待機しております。このことが私にとっては大変心強うございまして、ひとりポツネンと1時間近くを過ごす富樫の後見にくらべまして、じっと控えているのは同じでも、周りに誰かがいるという状況はとても安心できるのです(気を抜いているわけではありませんよ)。
それに、弁慶の後見のお仕事ぶりが間近に拝見できるのも嬉しいところ。小道具の用意の仕方や多々ある用事のこなし方、キッカケや段取りなど、見ているだけでも勉強になります。いつか弁慶の後見も経験してみたいなあ…。

義経が背負っている<笈(おい)>と、手に持つ<金剛杖>は、弁慶の主要な演技に関わるものですので、管轄的には弁慶の持ち道具となります。開演前に、成田屋(團十郎)さんの楽屋からお借りするかたちをとっています。笈は布張りですが、地紋が<牡丹唐草>で、市川家ゆかりの文様になっていることも、今回初めて知りました。金剛杖には、これまで使用されてきた方々の白粉がうっすらとしみ込み、無数の小さな傷やすり減り具合が、長年使い込まれてきたことを偲ばせます。手にしますと、たんに小道具とはいえない、使い手の想いがこめられた歴史の重みをひしと感じます。

富樫の後見の時は、お笛の音がよく聞こえましたが、今回は大皷(おおかわ)の音が体に響きます。お唄の迫力もすごいもので、こんなところにも、居場所が変わったことを実感するときがございます。