梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記7・盛岡麺尽くしの巻

2005年07月05日 | 芝居
今日は公演はございません。六日の公演地が岩手県宮古。そこへの移動の都合により、盛岡が今日、明日の宿泊地となりましたので、東京から盛岡へ行くだけ、いわゆる『移動日』となりました。
あらかじめ夕方に盛岡に着く新幹線の切符が渡されましたが、せっかく盛岡でお休みなので、観光をしようと思い立ち、午前十一時二分の東北新幹線「はやて」に乗車変更、午後一時三十三分には盛岡に着きました。二日間の宿となる『メトロポリタン盛岡 本館』にチェックイン、ひと休みしてからいざ盛岡観光へと向かいます。あいにくの小雨が残念といえば残念。
まずは前々から食べてみたかった<じゃじゃめん>を求めてその名もズバリ『盛岡じゃじゃめん』さんへ。うどんのような太くて白い麺に、ごま風味の肉味噌を乗せ、千切りのきゅうりを添えたものが出されます。これにお好みで、おろしニンニク、ラー油、お酢などを加えて頂くのですが、コクのある味噌の風味、モチモチの麺、なかなかのお味。東京でもよく見る、ジャージャー麺とは明らかに違う風味で、どこか家庭の味がいたしました。変わっているのは、食べ終わったあとのお皿に、玉子を溶き、麺のゆで汁を注いで肉味噌を再び少量溶き、刻んだ葱を乗せてスープにしてくれることで、これを<鶏卵湯(チーランタン)>と呼ぶのだそうです。こちらもあっさりしていながら旨味は十分。満腹になってしめて五百円也とは、お得ではございませんか?
食後は腹ごなしに、紺屋町、肴町周辺を散策です。昔ながらの家並みも散見できるこの界隈、地元の名物や工芸のお店が多いです。ふらりと立ち寄った『南部鉄器 鎌定』で、素敵な鍋敷きを発見、衝動買いしてしまいました。梅の花の模様なんですが、ちょっと現代的なデザインでモダンです。
それから南部絞の『草紫堂』で、草木染めの着物や布製小物を見たり、南部煎餅の老舗『白沢せんべい店』で、ごま味やニンニク味、盛岡冷麺味まであるバラエティー豊かな煎餅をバラ売りで買ったりしました。
町並み探訪のあとは、是非とも訪れたかった『三ツ石神社』へ。ここの境内には三つの巨石が鎮座ましまし、かつてこの地を荒らしていた鬼が、神様によってこの石に縛り付けられ、二度と悪行をしないという誓いに、岩に手形を捺した、という伝説が残っております。「岩」に「手」形、というところから、「岩手」の地名が興ったともいわれており、この土地にとっては大切な神社なのです。
故事因縁、伝説大好きな私。この巨石を拝まんと足を進めましたが、うっかり道を間違えたようでなかなかたどり着けませんでした。ようやく案内の看板を見つけ、やれひと安心と角を曲がると驚きました。想像以上の大きさの岩が、さながら地面を突き破ったかのように屹立しているのです。鬼を今も縛っているのでしょうか、周囲を鎖でめぐらし、注連を垂らした三つの岩は、まさしく奇石、なんとも異様、岩から漂う<気>と申しましょうか、なにか神聖な空気に圧倒されてしまいました。
肝心の手形は、はっきりそれと判別はできませんでしたが、本当に珍しいものを目にすることができてよかったです。
それから近くにある『報恩寺』で、五百羅漢を拝見する予定だったのですが、お堂が開いているのは四時までとのこと、三十分遅れで見られず悔しい思いをいたしました。
あとはのんびりホテルまで徒歩。帰ったのは五時半ですから、ほぼ三時間歩いたことになります。さすがに疲れました。
が、そうもいっていられません! 六時の待ち合わせで、わんこそばの『東家(あずまや)』で、はじめてのわんこそばに挑戦です! 以前体験した仲間の話を聞いて、是非ともチャレンジしたいと思っておりましたら、ある幹部俳優さんが、私を含め、一座の名題下さんを七人御招待下さったのです。この場をお借りして御礼申し上げます。
席につくと、まず薬味が並べられます。鶏そぼろ、ナメコおろし、海苔、トロロ、もちろん定番の刻み葱、ワサビなども。変わっているのはマグロのお刺身。これはまあ、口直しの意味もあるのでしょう。それからルールの説明。限界になったらお椀のふたを閉じること、ただし一本でも麺が残っていると終了とはみなさないこと、ふたを閉じるまではどんどん麺は追加されること…。
私、始まるまでは百杯くらいは簡単と思っておりました。仲間にも「百は軽いね」なんて言っていたのですが、ところがところが! 四十五杯くらいにはもうお腹が張ってきて、六十杯には満腹感、七十四杯でギブアップとなってしまいました。それまでの大言壮語はどこへやら、全く情けない結末でございます。かわりに私の弟弟子が、百七十四杯を平らげ、見事一番になってくれました。
早くに脱落したので、あとは皆が闘っている様子をじっくり見ておりましたが、従業員の方の鮮やかな「椀さばき」には感心しました。大きいお盆に二十杯ほど乗せて来ては、差し出される椀に麺を移し、空いたお椀はごっちゃにならないように各人のブロックごとに積み上げる。この一連の動きがまさに流れるようで、一種職人技とも言えるでしょう。「どんどん」「じゃんじゃん」「はいもう一杯」「頑張ってください~」といった掛け声も、独特のリズムと節回しで面白かったです。

とまあこんなわけで、今お腹いっぱいの状態でこの文章を書いております。今日の栄養は<じゃじゃ麺>と<わんこそば>だけで補給されましたが、いくら麺好きでも、これでいいのかという気がしないでもないです。
でも明日は、<盛岡冷麺>を必ず食べるつもりでいるのですから…。