梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

松風月稽古場便り <ほ>

2006年05月31日 | 芝居
本日は『荒川の佐吉』の<初日通り舞台稽古>、『藤戸』の<総ざらい>、そして『暗闇の丑松』の<舞台稽古>でした。
『荒川の佐吉』は本番通り衣裳もカツラもつけての稽古。二十人近い群衆は、見た目がひと色にならぬよう、変化をつけた衣裳が用意されますが、自分がどんな着物になるかは今日初めてわかります。羽織に着流しとか、半纏をひっかけたもの、あるいは袖無し羽織に投げ頭巾の物売り風など、立役の格好もさまざまです。さて私はというと、紺の股引、腹掛けに、やはり紺の<寸胴(ずんどう、長袖のシャツ状のように腕をぴっちり包む)>という、いわば職人のこしらえ。こうなりますと、カツラも役柄に合わせて、刷毛先(髷の先端)をちょっと右に曲げて、<いなせ>という形に変わります。小道具としてきていた普通の草履も、ちょいと粋な麻裏草履に変えてもらいました。

肝心の演技はと申せば、やはり広い舞台に場所を移すと、勝手もかわるもの。並び方や出るキッカケ、逃げる速さなどに、今まで気がつかなかった問題が次々とでまして、何度かやり直しとなりました。すべて主演でいらっしゃる松嶋屋(仁左衛門)さんがご覧になってご注意をしてくださるのですが、「こういう気持ちで動くのだから、こうならなくてはいけない」と、私どもの役の気持ちも含めたご指示を下さるのが大変ありがたかったです。一言で騒ぐといっても、起こっている事態に応じて、怖がっているのか、興味本位の野次馬なのか、それが演じている方にはっきり判っていないと、演技が与える印象にメリハリが出ないのですね。目から鱗の思いでした。

一方の『暗闇の丑松』は単なる<舞台稽古>ということで、これは必要に応じて進行を中断して、その都度演技や装置、効果に手直しが入るということです。今日は出演者は<衣裳のみ着用>というかたちとなりました。
成駒屋(福助)さん演ずるお米の亡骸を戸板に乗せて運ぶ役。この前の『藤十郎の恋』では、なるべく早く運ぶようにとのことでしたが、今回はあせらずに、ゆっくりゆっくり運ぶようにとの高麗屋(幸四郎)さんのご指示がございました。つとめて沈んだ気分を出すようにしなくてはなりませんが、これはもう、何かをする、というものでなく、何もしないで表現しないといけないのでしょう。難しいですが…。

『荒川の佐吉』も『暗闇の丑松』も、新歌舞伎ということもあり、音響や効果、照明も細かな作業がございますし、舞台装置も古典演目に比べれば、リアルで具象的なものになります。そのぶん稽古では、演じる役者の注文による変更、手直しが相次ぎますので、かかる時間も長くなります。それでも、大道具さん、小道具さん、照明さん音響さんがフル活動で、迅速的確な対応をしてくださるおかげで、ほぼ一回の舞台稽古で初日を迎えられますのは、見逃してはいけない大事なことだと思います。

さあ、明日は『藤戸』に『二人夕霧』の<初日通り舞台稽古>。後見に徹して、ばりばり働きますよ!

松風月稽古場便り <に>

2006年05月30日 | 芝居
『荒川の佐吉』『二人夕霧』『暗闇の丑松』の<総ざらい>と、『藤戸』の<附立て>でした。
『荒川の佐吉』の群衆演技での、昨日お話ししました三人の後発隊、あれが演出の変更によりなくなりまして、みんないっぺんに逃げてゆくことになりました。どちらにいたしましても、騒然とした感じをしっかり出せるよう、いろいろ工夫することにかわりはございませんが、大勢のみんなと一緒になって、ちょっと気は楽になったかな、との思いも…。

二回目の<附立て>である『藤戸』では、後見の仕事も把握できましたが、目下出入りのキッカケや、大勢の登場人物がいる中で、どこを通って用事をしにいくかを検討中です。後見としての基本的な動きにのっとるのは当然ながら、こと新作にも等しい作品ですので、こちらのほうで一から考える部分もあるのでございます。先輩方や振り付けでいらっしゃる藤間の御宗家にもお伺いして、いちばん無駄のない動きをできるよう心がけます。今回は<裃後見>ですので、なりが大きい分動きも目立ちやすくなるので要注意! なのです。

ようやく晴れ間が続くようになりましたね。楽屋も冷房なしでは過ごしにくくなってきました。陽気のよい日に一日中劇場にいるのはさびしいものですよ。

松風月稽古場便り <は>

2006年05月29日 | 芝居
本日の私のお稽古は『荒川の佐吉』『藤戸』『二人夕霧』『暗闇の丑松』の<附立>でした。
『荒川の佐吉』第一場では、群衆の動きがだいぶ整理されました。おかげで皆々<それらしい>芝居ができ、だんだんと雰囲気作りのお役に立てるようになってきたのではと思います。捨て台詞も、自分ひとりでは喋れません。隣にいる人との会話で臨場感を出すのが大切で、結局は<協調性>なのですね…。
権六と佐吉の喧嘩が済むといったん我々は引っ込みますが、約十分後、今度は澤瀉屋(段四郎)さん演ずる成川郷右衛門が、松嶋屋(芦燕)さん演ずる鐘馗の仁兵衛を斬った騒ぎから逃げ出してくるという出番がございます。下手から駆け出して、上手にひっこむだけなのですが、先発隊と後発隊に分かれておりまして、私は後発隊。たった三人だけなのですが、なかなか緊張いたします。というのも、先発隊は大勢で「喧嘩だ喧嘩だ」と叫びながら、舞台を横切ってゆくというもので、とにかくガヤガヤと逃げればよいのですが、後発隊はもう一歩突っ込んで、<斬られた現場を見てしまった驚き・斬った郷右衛門がこっちへ来る恐怖>みたいなものを表現しなくてはならないそうで、演技の仕方も捨て台詞も当然ながら先発隊とは変わってくるわけですが、さあどんな台詞を言ったものか。ただの説明にならずに、動転した感じ、大慌ての気持ちを伝えるには…。試行錯誤が続きそうです。張り切りすぎて分をわきまえぬふるまいをしては台無しですから、他の二人とともに気をつけて演じたいです。

『藤戸』『二人夕霧』はともに藤間の御宗家の振り付けです。ことに『藤戸』は、同名のお能を下敷きに、播磨屋(吉右衛門)さん自ら構成なすった作品で、平成十年に広島の厳島神社で初演されたものです。前半は、我が子が戦の犠牲となった老母の悲しみを、後半は、その死した息子の怨念が化身した悪龍が、剣でも弓矢でもない、人々の<祈りの力>で成仏するまでを描き、現代にも共通の<戦争の悲惨さ、その非人間性>が訴えられます。
厳島神社での公演は、野外の特設舞台でございましたが、今回は歌舞伎座での上演に合わせて、装置、演出など、いろいろと前回とは変わったものになるそうです。大劇場での初演となるこの度の上演、どうぞお楽しみに! 師匠は、老女の切々とした訴えを受け止める、佐々木盛綱をお勤めになります。
師匠二度目の上演である『二人夕霧』では、後見の段取りを確認しながら稽古を拝見いたしました。

『暗闇の丑松』もだいぶ固まってまいりまして、どの演目も明日からは仕上げの段階です。今回は稽古期間が長いので、落ち着いて芝居に取り組めますし、師匠の小道具の確認や、弟子同士の仕事の分担なども、きちんと確認できるので有り難いです。

松風月稽古場便り <ろ>

2006年05月28日 | 芝居
今日は『荒川の佐吉』『暗闇の丑松』の<附立て>でした。
『暗闇の丑松』は、昨日よりもぐっと細かい、丁寧な稽古となりました。昨日でおおかた決まった演技の流れを、どんどん固めるように、段取り、動き、音響など効果のきっかけなどが整理されてゆきます。私のお役については、とくに変わったところはございませんでしたが、お米の死骸を運ぶところ、土間から出てきて、一段高い屋体に上がる段取りは稽古場ではなんともわかりません。舞台稽古でやっと判明、というところでしょうか。

『荒川の佐吉』では、私は序幕第一場に出る<見物の男>でございます。大勢の同じ役とともに、松嶋屋(仁左衛門)さん演ずる佐吉と、紀伊国屋(由次郎)さん演ずるあごの権六との喧嘩をとりまくわけですが、喧嘩の様子に合わせての捨て台詞を考えたり、周りの人とのやりとりを作ったりと、ある程度は自分たちで工夫できるお役です。
初めてのお役ゆえ、参考までと、五年前の上演時のビデオを拝見してはいたのですが、今回は演出がいろいろと変わるようで、私達の出入りの段取りも今日の稽古で新たに決まりました。そんなわけで、同じ見物人役ともども、手探り状態にはなりましたが、明日はもう少しこなれるでしょう。
今回の上演は、チラシにも表記されておりますことですが、普段四幕七場の構成を、真山青果さんの原作通りの四幕八場の場割りで上演いたします。いつも上演されない場面(序幕第二場)が久々に出ますので、お楽しみに。

両演目とも、決められた<型>がある芝居ではございませんので、主演なさる方のご意向、お考えが演出に反映されます。私どもの勤めるようなお役にも、様々なダメだし、ご指導を頂けるので、緊張もいたしますけれど、有り難く承り、自分の中の<引き出し>もフル活用で日々工夫をいたしてまいります!

兄弟子の梅蔵さんは『双蝶々曲輪日記 角力場』・『暗闇の丑松』に、梅二郎さんは『荒川の佐吉』・『二人夕霧』に、弟弟子の梅秋は『昇龍哀別瀬戸内 藤戸』・『二人夕霧』に出演いたします。梅丸は、今月は舞台出演はございません。

明日からは師匠のお出になる演目のお稽古も始まります。



松風月稽古場便り <い>

2006年05月27日 | 芝居
今日は<六月大歌舞伎>稽古初日。歌舞伎座客席ロビーにて『暗闇の丑松』からでした。
私は二幕第三場に出てくる<若い者>というお役です。成駒屋(福助)さんがなさるお米が自害した後、その亡骸を戸板に乗せて運ぶ役です。初めてのお役なのですが、なんだか前にやったようなことがあるような…と思ったら、本年一月の『藤十郎の恋』で、やはり萬屋(時蔵)さん演ずるお梶の死体を運ぶ役をいたしておりました。<死体運び>なんていう、そうそうないシチュエーションを、二度も演ずるのは珍しいのではないかな…。
『暗闇の丑松』での出番を終えてから渋谷へ移動。今日も藤間宗家で師匠のお稽古です。演目は『二人夕霧』。平成十五年四月以来の再演です。書棚からひっぱりだしてきた、その時の台本を片手にお稽古を拝見しながら、師匠の動きの段取りなどを書き込んだりいたします。このお芝居でも、黒衣の後見をいたしますので、色々と把握しておかなくてはならないことはいっぱいです。三年前もやはり後見をさせて頂きましたが、このお芝居、<出道具>と申している、舞台にあらかじめセットしておく小道具が大変多く、幕が開く前の準備が大変なんです。一つ間違えば師匠を始め皆様の演技にご迷惑をおかけしてしまいますので、このお芝居、普段はボーッとしている私が、いささか興奮気味になる演目の一つではございます。

明日からは、私のもう一つの出番『荒川の佐吉』のお稽古も始まります。今月は、新歌舞伎二つを勉強させて頂くことになりました。またひと味違ったお話をできればと思います。

あちこちで用事

2006年05月26日 | 芝居
勉強会の準備のための<全体会議(予定が合わない人以外の、参加者全員が出席する)>、藤間宗家での『藤戸』のお稽古と、あいかわらず休む間もなく頑張っております。今日は二つのスケジュールが半ばかち合ってしまったので、随分バタバタしてしまいました。
会議では、事務的な連絡事項や報告などが中心ですが、各出演者取り扱い分のチケットの引き渡しもございました。これから出演者一同の本格的な宣伝活動がはじまるというわけですね。
六月、七月は地方公演も多々あり、勉強会の参加者が各地に分散してしまいます。さらには東京だけでも三カ所で芝居が開きますし、各人の出番もバラバラです。というわけで、一つの演目を稽古するにしても、やれ彼がいない誰が来られないということになり、フルメンバーでの稽古はまず不可能です。代演をたてたり部分部分のみの<抜き稽古>にしたり、色々な対策をたてながら、集まれるだけの人数でやってゆきます。稽古する場所にしても、国立劇場の研修室を借りるのか、歌舞伎座地下の稽古場を使用するのか、それとも指導の先生の楽屋をお邪魔するのか。下座や竹本などの音曲の音源は誰が用意するのか、再生機材は…と、細かなこともきちんと決めてゆかねば、円滑なお稽古はできません。同じ演目に出るもの同士の、しっかりとした連携と、情報の把握が大変重要になりますので、そうした意味でも、本番まで定期的に今日のような会議がもたれます。実行委員的な役を負った者は数名おります(私も一員です)が、全員がきちんと責任をもたなくてはならないのは、どのお仕事でもおなじことですよね。

『藤戸』では、師匠演じます佐々木高綱の後見を、私が勤めさせて頂くことになりました。先月は自分の出番の都合で、全然師匠の用事をすることができませんでしたので、六月はその分も! というわけではございませんが、常々戒められております、目立たない、邪魔にならない後見になれるよう、しっかり勉強させて頂きます。

夜は家内と銀座で買い物をして、<KIHACHI CHINA>で久しぶりに一緒の夕食をとりました。とってもお得なコースがあって、お腹いっぱいです。もたれずに寝られるかな…?

めでたく打ち出しです!

2006年05月25日 | 芝居
團菊祭もとうとう終わりました。賑やかだった楽屋ともお別れです。
ネタばれになっては失礼と思い、これまで書きませんでしたが、『藤娘』での、成田屋(海老蔵)さんの藤の精が花道を引っ込む幕切れや、『黒手組曲輪達引』での、<矢ガモ>の着ぐるみ、下座囃子による「恋のダウンロード」の演奏、<人間カーリング>ネタなど、様々なおかしみの趣向、いかがだったでしょうか。
また『黒手組~』では、大詰の「仕返しの場」が、従来の演出を改めての、立ち回り主体の派手で美しい見せ場となりました。舞台装置も三浦屋の屋根上という設定に変更し、十余名のカラミは、剣術指南鳥居新左衛門の弟子ということで、『幡随院長兵衛』でも見られる、刺し子の道着に縞の袴を<高股立ち>に端折った姿。女郎の打掛や仲之町の垣根、天水桶など、廓にちなんだ小道具を得物に、華やかな立ち回りが繰り広げられました。ちょうど私が出番を終えて楽屋に戻り、化粧を落としている間だったのですが、お客様の盛り上がっている様子は、楽屋モニターから聞こえる拍手の大きさで十分察せられました。

来月も引き続いての歌舞伎座ですが、師匠の楽屋が変わるので、荷物の移動や整理をしました。帰宅は十一時近くでしたでしょうか。明日は勉強会の会議が国立劇場で、『藤戸』のお稽古が渋谷の藤間宗家稽古場でございます。いずれも午後からですので、朝はゆっくり寝坊ができればよいのですが…。

千穐楽をひかえて

2006年05月24日 | 芝居
昨晩は、終演後に仲間と浅草の焼肉屋『本とさ屋』にお邪魔しまして、日付が変わるまで食べたり喋ったり(こちらがメインかな)しておりました。更新ができませんで失礼をいたしました。仲間と別れてから、試みに自宅まで歩いて帰ってみようと思いまして、酔い覚ましと腹ごなしもかね、言問通りを経由して、浅草通りをテクテク。二十五分ほどで帰宅しましたが、これは近いのだか遠いのだか。ちょっと疲れる距離ではありました。

さて本日は勉強会での『修禅寺物語』の最後のお稽古日でした。やはり紀伊国屋(田之助)さんのお部屋をお借りしましての<読み合わせ>。今日は全三場を通して。ただ、なにぶんにもダブルキャストですから、各場交代で読むかたちとなりました(源頼家役は私一人しかいないので、通し役でした)。
今月最後のお稽古ですし、研修中から馴染んだ演目ですので、今日は台本を見ずに台詞を言ってみようと思い、実行してみましたが、いやはや、いざ台本を閉じてしまうと、不安になるものです。二三カ所語句を飛ばしてしまうところもありましたし、間違えずに言うことばかりに気を取られて、感情表現が不十分になったところもあり大反省です。もっともっと台本を読み込んで、声に出しながら頭に叩き込まなくてはなりません。

…明日で團菊祭も終わりです。演じるお役は初物尽くし、菊五郎劇団フルメンバーと久々一緒の楽屋生活。大変勉強になり、また考えさせられたひと月でした。来月も引き続き歌舞伎座ですが、常に新しい出会いや刺激があるのが、このお仕事をさせて頂く上での一番の楽しさ、面白さでございましょう。
勉強会の本チラシができたので、市川左字郎さん尾上辰巳さんが、ご自身のブログで紹介なさっていらっしゃいます。みんなで作り、みんなで勉強する会ですから、宣伝も一生懸命です! 合同公演を盛況なものにするためにも、インターネットを発信源とした<場>を持っている私たちも、できる限りの広報活動をいたします。

仕事でひと月地方に行っていた家内も明日帰京です。私に都合の良いものばかりが散らばった部屋を片付けねば…。

観に来て下さいね!

2006年05月22日 | 芝居
今日は久しぶりに皮膚科へ行き、現在の状態をみて頂きました。
五日ほど前から、ステロイド剤は使用しておりませんが、かゆみや荒れもほとんどなくなりました。今は洗顔後にヒルロイドの乳液を薄く塗るだけで大丈夫です。先生も、ステロイド剤を使用しなくても症状がひどくならないのなら、まずは安心してよいのではとおっしゃっておりました。とはいえ今後も化粧後洗顔後のケアは慎重にすることに変わりはございません。来月には念のためにパッチテストもして頂く予定です。

さて、夏の勉強会の本チラシがついに完成しました! 柔らかな色彩の、素敵なデザインです。いずれチラシは国立劇場内の各所に置かれることになりますし、同じデザインのポスター(サイズが大きくなる)は、駅構内をはじめ、出演者が行きつけている飲み屋などにも飾られることでございましょう。
改めてPRさせて頂きますけれど、いつにもまして若手が活躍する場が与えられた配役、新歌舞伎・舞踊・義太夫世話物という、オーソドックスながら大変わかりやすく見所の多い狂言立ては、いかにも勉強会といった趣きの、正攻法のプログラムです。また、舞踊の三演目は、振付でいらっしゃる藤間勘祖師のご意向で、上中下の<三段返し>の形式となり、各曲ごとの舞台転換に工夫がこらされるそうでございます。

私は今回、入場券担当となりまして、席割りやお客様からの注文受付など、事務全般をさせて頂くことになりました。お二人の先輩が主任でございますので、私はあれやこれやと指示を受けながら立ち働いているだけですが、入場券は金券同然ですから責任も大きゅうございますし、ご迷惑をかけぬよう気をつけながら仕事をしてまいりたいです。これもひとつの勉強だと思いますし、いずれは先輩方から引き継いでゆかなくてはならないことなのでしょう。

皆様、くどうはございますけれども、第十二回『稚魚の会・歌舞伎会 合同公演』をよろしくお願い申し上げます!

芝居を止めてご挨拶

2006年05月21日 | 芝居
花道から颯爽と本舞台にやってきた外郎売り。工藤祐経、小林朝比奈、舞鶴、梶原親子らが居並ぶ中、舞台中央で大磯の虎と化粧坂の少将を左右にしたがえキッと見得。ひとくさりの台詞のやり取りが終わると、おもむろに柝が<チョン、チョン>と二つ入って<東西ぶれ>の声。大きな拍手の中、外郎売りと工藤祐経の二人が並んで深々とお辞儀―。
今月の『外郎売』での、<劇中口上>の光景です。

それまで役を演じていた俳優が、あるキッカケで演技を中断、今回でいえば成田屋(團十郎)さん、音羽屋(菊五郎)さんという、演じる以前のお立場に戻ってお客様にご挨拶申し上げるというこの演出、歌舞伎独特のものなのではないでしょうか。一幕に独立した『口上』でもそうですが、「一座、高こうはござりまするが…」と口火を切るのが恒例です。この演目では、口上をおっしゃる方のみお辞儀をいたしますが、その場にいる全ての出演者(音曲の演奏家さんも)が、口上をいういわないに関わらず、お辞儀して控える場合もございます。

今月の『外郎売』での<劇中口上>では、成田屋さんご自身が、病気を克服して復帰できた喜びやお客様への御礼をおっしゃり、続いて音羽屋さんが、三年ぶりの開催となる團菊祭で、成田屋さんがご復帰なさったことをお祝いなさっております。
もともとこの『外郎売』では、昭和五十五年の復活時から、<劇中口上>をもうけており、この狂言の由来や復活の経緯をご説明する内容をおっしゃるのだそうです。今回はそれプラス、ご復帰のご挨拶となっているわけですね。
今月は、おめでたいことこのうえない雰囲気の中、お客さまの盛大な拍手に包まれ、大変な盛り上がりとなっております。

昨日のことで恐縮ですが、この<劇中口上>中に地震がございました。私は座りっぱなしの役なので、座っている土手がユラユラと揺れるのがすぐに気がつきました。それから一間遅れて客席もすこしザワザワ。でもたいした揺れではなかったですし、なにしろ舞台上ではお目出度い口上が続いているわけですから、じきに静かになりまして、何事もなく終わりました。大きな地震がありますと、天井につられた書き割りが、ぐらぐらガチャガチャ揺れるのが見えて大変怖いんですけど、そういったこともないくらい、軽い地震だったので安心しました。

ただ、一階席前列のお客様がお一人、揺れると同時に走るように逃げ出して、客席から出て行ってしまい、とうとう一幕中帰っていらっしゃいませんでしたが、あの方は『権三と助十』はご覧になったのかしらん…?

浪花の風は熱かった…!!

2006年05月20日 | 芝居
本日、ル テアトル銀座にて、<平成若衆歌舞伎>東京公演『大坂男伊達流行(おおさかおとこだてばやり)』の夜の部を拝見してまいりました!
時は元禄。商家の跡取り息子達を中心とする<天神組>と、裏店生まれの若者らが集まっての<雁金組>の、二つの男伊達グループが町を二分する大坂が舞台。お互い意地を張り合い、いがみ合うなか、ふとしたきっかけで<天神組>のリーダーの妹と、<雁金組>のひとりが恋に堕ちてしまうことからはじまる悲劇。そこに、なにやらいわくありげな女侠客がからんだり、見るものを不幸にするという絵双紙の因縁がからみ、熱く激しく、そして悲しい物語がアップテンポで展開します。
約二時間半の舞台は色模様、殺し場、大立ち回りなど、見せ場盛りだくさんで飽きさせません。主演でいらっしゃる松嶋屋(愛之助)さんはじめ<平成若衆歌舞伎>の皆さんが、<上方>のにおい、空気を色濃く醸し出しながら演じていらっしゃり、大坂に散る若者達の青春が、ストレートに伝わってまいりました。舞台装置や群衆演出、音楽などにも様々な工夫が見られ、一観客として楽しく拝見すると同時に、一歌舞伎俳優として、同期といっても良いくらいの仲間達の奮闘に、改めて我が身を振り返り、負けてはおられぬと心を引き締めました。
明日がもう千穐楽ということで、もっともっと上演してほしいものと思うのですが、お時間に余裕のある方は、見逃しては絶対に損です! 是非是非明日のラストステージをご覧下さいませ。

「歌舞伎」というものを、様々な角度から捉える、幅広い試みが増えていることは、この世界にとりましては。とても大切なことと愚考いたします。そうした試みに、実際参加するにせよ、外側から拝見するにせよ、自身にとってなにがしかの勉強になることは確かでございますし、長き修行の過程での大切な経験として、血となり肉となると信じております。ただ大切なのは、日々の舞台を<地に足をつけて>勤めること、そこで身につけたことを新しい試みに応用し、新たな経験は普段の芝居に還元すること。新旧相互の舞台が別々なものにならず、よい意味で影響し合えればと思っております。
生意気な言いようになってしまいました。お昼にあった地震ぐらいで、舞台でうろたえていてはダメということですな…。

久々外食です

2006年05月19日 | 芝居
今夜はこれから、後輩とご飯を食べに行きます。
雨が激しくなってきましたね。相変わらず寒いくらいの気候で参ります。楽屋でも、風邪をひいた人がチラホラです。皆様どうぞご自愛のほど…。

活字にとらわれず

2006年05月18日 | 芝居
今日は第三場「もとの夜叉王住家」のお稽古でしたので、私は出番はございませんでした。
この場では、かつらの手負いになっての長台詞や、夜叉王の名台詞など、聞かせる台詞が多うございます。ラストを盛り上げるためにも、ここはしっかりとお客様に聞かせなくてはならないところで、紀伊国屋(田之助)さんも、よりいっそう細かなご指導をしてくださいました。…例えばかつらの長台詞は、瀕死の状態でいうわけですので、台本どおりの文章をそのまま喋らなくてもよく、例えば、台本には『この面(おもて)をつけてお身替わりと、早速(さそく)の分別…』とあるのを、「こ、この、この面をつけて…」というふうに、息も絶え絶えな有様を、言い回しで表現するという具合に、演者の考え、工夫で、いろいろとアレンジをしたほうが、より<伝わる>台詞になるのだそうです。万事原本、台本どおりに喋らなくてはならないという考え方も一方にはあるわけですが、今回の勉強会での上演では、監修である紀伊国屋さんのご意向もあり、<許される範囲内で>各自工夫をとりいれてまいります。ということは、自ずとA班、B班で変わってくるところも出てまいりますので、そういった点を見比べる、聴き比べる面白さもございましょう。

とりあえず<読み合わせ>は一通り終わりました。次は二十四日にもう一度お稽古をして頂きます。どんな稽古になるかはわかりませんが、だんだんと我々の緊張もほぐれてまいりましたので、しばらくの自習期間を経たうえで、もう少し進歩した台詞を言えるようにしたいものです!

                   ☆

さて、五月公演もあと一週間。そろそろ来月の準備もはじめなくてはなりません。師匠三年ぶりの『二人夕霧』は使う小道具が多かったり早拵えがあったり、歌舞伎座初上演の『昇龍哀別瀬戸内 藤戸』などは全くの未見ですので想像もつかず。月末はバタバタすることと思いますが、いつもと変わらず、楽しみながら仕事をできるよう、今から心の準備をしておきましょう!

愛を語るのは…。

2006年05月17日 | 芝居
今日は第二場「桂川のほとり」のお稽古です。
ここでの頼家は、前場で激昂した気持ちも大分静まり、伊豆の秋の夜の風情に心を和ませ、かつらとのつかの間の恋に安らぎを見いだしております。台詞回しも当然変わってくるわけですが、落ち着いて言う台詞に、役が求める品や大きさを表現するのが難しかったです。かえって、怒っているとか悲嘆にくれているとかしているほうが、感情も込めやすいものですが、普通の台詞に<それらしい>雰囲気を出すにはまだまだ経験不足、人間的な修行が必要ですね。
まだしも後半で、北条一族の使者、金窪兵衛との緊迫したやり取りの方が、私としましてはやりやすかったのですが、これとても単なる喧嘩にならぬよう、興奮している中にも将軍の余裕が出せるよう気をつけたいものです。

今日の稽古では、紀伊国屋さんが、ご自身ご所持の『修禅寺物語』のブロマイドをいろいろとお見せ下さいました。市川猿翁さんの夜叉王、先代段四郎さんの下田五郎などですが、役作りの参考にとの有り難いお心遣いで、我々一同しばし見入りました。また、紀伊国屋さんが実際お出になった『修禅寺物語』の舞台での思い出、面白エピソードもお話し下さり、なるほどと頷くやら笑うやら。一昨日の稽古初日から、紀伊国屋さんが四方山話や雑談などを交えて、穏やかな雰囲気でお稽古を進めて下さるので、私ども受講者が、皆々余計な緊張や萎縮をせずにいられるのは、本当に感謝しなくてはならないことでございます。

本来私と対決することになる金窪役の後輩が、出番の都合でお稽古に出られず、しかも来月は地方公演に行ってしまうので、合わせることができないのが残念でもあり不安でもございますが、七月中のお稽古でお互い頑張ってゆく覚悟です。私がでるB班は、この金窪役をはじめ、後輩が多数出るのですが、皆とても一生懸命、そしてしっかりやっているので、負けないように気をつけます!

明日は第三場ですが、私はもう死んでおりますから出番はなし。とはいえお稽古には立ち会わせて頂きます。

やっぱりドキドキでした!

2006年05月16日 | 芝居
『修禅寺物語』お稽古二日目。昨日お伝えした通り、今日からは私たちが台詞をしゃべります。
今日は、第一場「夜叉王の住家」をA班B班それぞれ読み合わせました。ただ、出番の都合や、地方公演に出演中のためにお稽古に参加できない出演者もおりますので、いない人の役は、もう片方の班の役者がかわりに勤めます。A班の頼家役の人が来ることができませんので、私は二回も頼家の台詞を声に出すことができました。

紀伊国屋さんは一人一人の台詞を聞きながら、語句の言い違えやイントネーションの間違いをご注意なさったり、緩急のつけかたや声の調子の高低、あるいはどんな気持ちで喋ればよいのかなど、事細かにダメ出しをして下さいます。とくに相手の台詞をどう受けたうえで自分が喋るか、これは芝居全体のメリハリにもつながる大切なことですから、息を吸う間(ま)などをご自身で実演して教えて下さいました。登場人物全員が、言葉のキャッチボールをすることの難しさを、改めて感じました。
私の演じます源頼家は、なにしろ一番偉い役ですし、こと第一場では始終怒りの感情を出していますので、命令口調の台詞も多く、相手の意向もおかまいなしに上からかぶせるような喋り方が必要です。どちらかといえば<受け>より<攻め>の立場ですので、あまり相手の出方を伺って喋ることはございませんが、それだけに、私がしっかり場の緊張感を作らなければなりません。これからの課題でございます。また怒りの感情を出しすぎては品もなくなりますし、いたずらに早口でまくしたててもいけませんので、あくまで冷静な視点も忘れずに勤めたいところです。私はただでさえ台詞が早くなってしまうクセがございますので、十分気をつけます。

なんだか素人臭くなってしまいますけれど、頼家の台詞、喋っていて気持ちがよくなるものばかりですね! …自分が気持ちよくなるんじゃなくて、お客様を気持ちよくさせなくてはならないのですけれど…。
明日は第二場「桂川のほとり」です。